春日虎綱
前回の話で、北条家の里見家に対する方針を追加しました。
後、早川が実虎より年上と書いてましたが全然年下でした申し訳ございません。m(_ _)m
しっかりと修正しておきました
---天文22年(1553年) 越後国 春日山城---
年が明けて天文22年になった4月、雪解けを迎えた春日山城には武田家からの使者である春日虎綱がやって来ていた。
虎綱は初めて会う実虎の風格に気圧されそうになるが、腹に力を入れて何とか真っ直ぐ目を見て話をした。
「お初にお目にかかります、某は武田家家臣春日虎綱と申す者にございます。今回は越後上杉家と不可侵条約を結びたく参上した次第です」
「ほう、不可侵条約とな。それは信濃のことだな?」
「はい。我ら武田家は越後上杉家と争うつもりはなく、北信濃には手を出さない事を条件に南信濃を武田家の領土として認めて頂きたく存じますが如何でしょうか?」
「つまり我ら上杉と盟友北条家を同時に相手取りたくないという訳だな。しかしその話をするのならばお主らが争っていた村上家とするべきでは?」
「我らの認識ではこの問題は越後上杉家と話をするべきと思っていたのですが、違いましたかな?」
虎綱は表情を変えることなくそう言い放つと、この虎綱の対応に実虎は思わず心の中で唸った。
というのも、武田が来るより前に村上家から使者がやってきて、救援要請をしてきていたのだ。
しかし実虎はタダでは頷かず、以前から越後に対して軍事行動を起こしてきた事と長尾房長の反乱時に攻め込もうとしていた事を指摘し、従属を条件に援軍を出すと言った。
すると使者は苦い顔をしていたが、村上家は家臣の相次ぐ離反に余程耐えかねていたのかその条件を了承し上杉家に従属していた。
なおこの事はまだ公にはしておらず、表向きは村上家が上杉家に救援要請をして、それに応じたという風になっていたのだが、虎綱の口振りからすると武田は既にこの事を知っていることになる。
(武田家の忍びは優秀だと聞く…情報が漏れたか。だが、この俺を前にしてその話は既に知っていると平然と言ってくるとは大した男だ)
「そうか、だが砥石城は返してもらおう。あの城は村上家にとっても重要な城なのだ、砥石城を返還するという条件付きならば飲もう」
「既に砥石城周辺の者は武田に臣従しており、今更取り返したところで素直に従うとは思えませんが…」
「従わぬなら滅ぼすまで。我は逆らう者に温情をかけてやるほど優しくはない」
「これは民に優しき仁君と噂の実虎殿とは思えぬ発言ですな。そのような事をすれば越後の民も怯えることにはなりませぬか?」
虎綱は一切引くことなく実虎対して物を言う。
武田家としても砥石城は今後の布石の為にも確保しておきたい城であり、晴信の為にも虎綱は絶対に譲れない覚悟を持って対峙していた。
「ふっ、流石甲斐の虎が信頼して我のもとに送り出した者だけある。そうだな…ではそなたが我の元に来ると言うならば砥石城は諦めても良い」
「ご冗談はよしてくだされ。私は晴信様に忠誠を誓った身、越後の龍と称される実虎殿にそのように言って頂けたのは光栄の極みでございますが、お断りさせて頂きます」
「さすがに断られるか。ならば、なおさらお主のような男をむざむざ返す訳にはいかんな」
「私はどのような覚悟も出来ておりますが、この場でもしもの事があった場合、晴信様は黙ってはいないでしょう。そうなれば泥沼の戦いになると思われますが、能登や越中、加賀に目を向けている実虎様なら賢明な判断をして頂けると信じております」
覚悟を持って挑んでいる、敵の大将にも関わらず信じていると実虎相手に正面切って言い放った虎綱。
そんな虎綱を実虎は心底気に入った。
「はっはっはっ!春日虎綱よ、我はお主を気に入った!そなたに免じて砥石城は諦めるとしよう。晴信殿には条件を飲むと伝えてくれ」
「本当でございますか!?実虎殿のご決断感謝致します!必ずや御屋形様にお伝えしましょう!」
「だが、我はまだお主を諦めた訳では無いぞ?我は何時でもそなたが我の元に来るのを待っているからな」
虎綱は実虎言葉に苦笑いを浮かべると、急ぎ晴信の元に帰って行った。
「実虎様、砥石城を取り戻さなくて良かったので?」
「確かに砥石城は惜しい。だが我には上洛も控えている上、能登の様子が少々きな臭いとの報告が入っている。村上を緩衝地帯として一先ず争わなくてもいいと判断した。村上には適当に支援をして置けば良い」
「そうでございましたか。では高梨殿に村上家の支援をするよう伝えておきまする」
「うむ、それと今回の上洛は後奈良天皇と将軍義輝様に拝謁するのを目的としておる故、多くの兵は連れていかぬ。加賀の本願寺と越前の朝倉家には通行の許可を貰っておるから襲われるようなことはないだろう」
「承知致しました」
こうして武田との条約を結んだ実虎は上洛に向けて準備を始める。
越後を出て甲斐に戻った虎綱は晴信に締結に至った事を報告していた。
「御屋形様、無事条約を結ぶに至りました」
「ようやってくれた虎綱!これで一先ずの危機は脱した。して、上杉実虎とはどのような男であった?」
「一言で言えば御屋形様と同じ人の上に立つべき御方とお見受け致しました。越後の民も皆口を揃えて実虎殿の事を慕っており、街も活気に溢れて善き政を敷いておりました」
「戦に強いだけではなく政も大切にし民に慕われておるか。英傑の器を持った人物だな」
「はい、それに不思議な魅力を持った印象を受けましたな。人を引き寄せるというよりは、かの御仁に付いて行けば絶対に大丈夫と思わせるような…そういった物を感じました」
「ははは!虎綱にそこまで言わせる人物とは、ますます会ってみたくなった。まあ何はともあれよくやってくれた。今日はもう休むといい」
「はっ!」
虎綱が部屋を出たあと、晴信は三ツ者の棟梁である富田郷左衛門を読んだ。
「郷左衛門、我ら武田の次なる目標は美濃及び飛騨だ。そなたには美濃の斎藤高政に接触を図ってもらいたい」
「斎藤家の嫡男でございますか?」
「どうやら当主の利政は嫡男である高政を疎んじて次男や三男を寵愛しているらしい。上手く利用出来れば美濃を取れるやもしれん」
「承知致しました。では早速接触してみます」
「よろしく頼む」
富田郷左衛門は音もなく部屋から消えると、晴信は一人考えに耽るのだった。
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