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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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母の願い

 ---天文5年(1536年) 越後国 春日山城 長尾虎千代--‐


 夢から目を覚ますと、隣で母が手を握って見守ってくれていた。


「虎千代、目が覚めたのですね。気分はどうですか?」


「母上、ずっと見守ってくださっていたのですね。おかげさまで気分は良いようです。」


 俺がそう答えると母は嬉しそうに「よかった」と微笑んでくれた。

 そして侍女を呼び寄せると俺に食事を用意するように伝え、母は父に快復したことを報告しに部屋を出た。


「本当に治ったのだな…あれだけ苦しかったのが嘘のように体が軽い。」


 自分を襲っていた病魔の気配が消え、今はかなり調子が良かった。

 それに何かに守られているような感覚があり、毘沙門天様の加護が自分についてるのだと実感できた。

 しばらくしたら母が戻ってきたようだ。


「為景様はお忙しいようで、様子を見に行く暇などないと言っておられました…。」


 戻ってきた母は悲しそうな顔をしながらそう言った。

 だが父はどうでもいい息子の事なんていちいち気にするような人でもないから俺は何とも思わない。

 父である長尾為景は、越後守護代である越後長尾家の当主である。

 戦乱吹き荒れる越後国内において旧越後守護の上杉房能を自刃に追い込むと、養子であった上杉定実を越後守護に就任させ傀儡とし、その後も反抗する勢力を鎮圧しつつ実質的な越後国の支配者として統治している。

 下剋上を果たした人物として有名な他、謀将としても名高い故に内外共に多くの敵を抱えており、いまだに反乱の種は燻り続けている。

 そんな父は自分のことを疎んじており、気にかけたり様子を見に来たりなんてことは滅多にしない。

  それどころか以前、廊下ですれ違いざまに目が合っただけでいわれのない暴言を投げられてしまったくらいだ


「いいのです母上。今の越後は落ち着かない情勢でしょうし、こうやって母がそばにいてくださるだけで某はうれしゅうございます。」


 俺は母に笑顔でそう言うと、優しく俺を抱きしめながら「ごめんなさい」と小さくつぶやくのだった。

 そうこうしているうちに食事が運ばれてきて、それを食べ終わると母は「何かあればすぐに呼ぶのですよ」と声をかけて部屋を出た。


 一人になった俺はこれからどうするべきかを考えることにした。

 まず、同化した魂が覚えているのは自分が近い内に城下にある林泉寺に預けられるということ。

 その何年後かに越後国内において、()()()()()()自分は越後長尾家の当主となる。

 何が起こるのか気になるところだが、書物のようにして見ることが出来る未来の知識は一部分が黒く塗り潰されていてよく分からない。

 うーん、やはり完全に未来が分かる訳ではないのか…。

 しかも、この未来の知識は()()()()()()()()()()しか分からないようで、文句を言う訳では無いがもう少し他国の出来事なんかも分かると有難かった。

 しかも書物の最後に書かれている自分の死について、1578年に死ぬということはわかるのだが肝心の死因については黒く塗りつぶされていて読めない。

 戦で死ぬのか病にかかって死ぬのかわからないが、戦で死ぬなら警戒しすぎるくらいで、病で死ぬなら日頃から健康に気を使っていくってところかな。


何はともあれ未来に何が起こるかある程度分かるというのはかなり有利なことだ。

現時点では林泉寺に預けられるのを避けることはできないのでおとなしく自分の武や智を磨くことに専念しよう。



 ---天文5年(1536年) 越後国 春日山城 虎御前---


 神様…私の願いを聞き届けてくださったのですね…。

 医師に診てもらっても助かる見込みは無いと言われていたけれど、虎千代が再び私の元に帰ってきてくれるなんて。

 その後も調子が良さそうな様子で私は胸を撫で下ろしました。

 しかし為景様は虎千代が命の危機を脱したのに、様子を見に来ては下さいませんでした。


 為景様は私の事は気にかけてくださいますが、虎千代の事はよく思っておられないご様子…。

 以前為景様にその事についてお聞きした際、虎千代の目が怖いと仰っておいででした。

 全てを見透かされているような底知れぬ何かを感じ取ってしまって、胸を鷲掴みにされる感覚に陥る…と。

 それ以来近付こうともされないご様子で、当の虎千代は私に気を遣い笑顔で気にしてないと言ってくれますが、そんな気遣いを幼い息子にさせてしまっている不甲斐なさで自分が嫌になってしまいます。


 虎千代は天が私に与えてくださった大切な宝物。

 母がしてあげられる事はほんの些細なことかもしれませんが、あの子が健やかに成長してくれるまで何があってもあの子を守ってあげようと思います。


 神様、どうか虎千代の未来が幸せなものになりますように。


第2話をお読みいただきましてありがとうございます!


未来の知識の見え方ですが、ページごとに【出来事】 詳細

といった感じで見えています。

例えば

【1560年 桶狭間の戦い】 

2万5千人もの大軍で尾張に侵攻してきた今川義元に対し、織田信長は桶狭間の地で義元本陣を奇襲。見事今川義元を討ち取る。

みたいな感じです

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