平井城落城
今回文章の書き方を変えてみました。
前の書き方と比べてどっちが良いか教えていただけると幸いです。
--- 天文21年(1552年) 上野国平井城 ---
上野国にある平井城では関東管領上杉憲政とその家臣達が軍議を開いており、現在この平井城は北条家の猛攻を受け、落城するのは時間の問題であった。
何故居城である平井城を攻められる事態になったかと言うと、天文14年(1546年)に北条家の河越城での決戦にて、10万もの大軍を用意したにも関わらず北条家による乾坤一擲の奇襲作戦によって大敗を喫してしまったのだ。
これが後世に伝わる日本三大奇襲の一つ「河越夜戦」で、この大敗を期に北条家の勢いに押される形となり、遂には居城の平井城を攻められるまで追い込まれていた。
「憲政様…ここは平井城を捨てて横瀬殿や長尾殿(足利長尾氏)の元に行きましょう」
「そんなもの分かっとる!くそっ!北条如き相手にこの儂が逃げることになるなど…こうなってしまったのも貴様らが不甲斐ないからじゃ!!!」
「…申し訳ございませぬ」
「まあよい。そうと決まればさっさと逃げるぞ!お主らは死んでも儂を守るのじゃ!!関東管領である儂さえ生きていれば良いのじゃからな!!」
「ははっ。では龍若丸様をお連れしてきます」
「待て。龍若丸…奴には囮になってもらう。この城に置いていけ」
この言葉にさすがの家臣達も驚きを隠せなかった。
なんせ龍若丸は憲政の嫡男であり、山内上杉家を継ぐ立場にある大切な跡取りだった。
その嫡男を囮に置いて逃げると言うのだから反論せずにはいられなかった。
「は?いや、しかし…」
「儂が生きていなければ意味が無いであろう!!それに幼い龍若丸を抱えて逃げるなど出来る訳が無い!儂の子として生まれた以上儂の役に立ってもらう!」
「し、しかし!それはあまりにも…」
「なんじゃ貴様…この儂に意見をするというのか?ならばお主には龍若丸を守るという大切な役目を任せる。せいぜい龍若丸の為にその命を使うのじゃ」
「そ、そんな…」
「では行くぞ!他の者は儂について参れ!!」
憲政は反論してきた家臣にそう吐き捨てると自身はそそくさと平井城から逃げてしまった。
取り残された家臣は自分が捨て駒にされた事に怒りが湧いてきた。
すると城に残っていたのであろう者が「龍若丸様を北条家に差し出せば命は助けてもらえるのでは?」と呟いたのを聞き、主に対しての怒りもあって北条家に寝返ることに決めると、彼は龍若丸を押えるため部屋に向かった。
部屋に着いた男は龍若丸を取り押さえ猿轡をし縄で縛り上げた。
「んー!!!」
「悪く思わないでくだされ龍若丸様。これも全てあなたのお父上が悪いのですぞ」
こうして泣き叫ぶ龍若丸を抱えて北条に対して降伏をすると、北条軍の大将である北条幻庵の元に連れられた。
「これはこれは龍若丸様、お父上に見捨てられ家臣に裏切られるとはなんと可哀想な…」
「……」
「…もはや声を出す気力すら無くしたか。そこの者よ、良くぞ龍若丸を連れてきてくれたな」
「ははっ!」
「それで確か我ら北条家に降りたいとの事じゃったな。だが、お断り致す」
「はっ?え、なぜでございますか!?」
「なぜ?貴様は主の幼い息子を縛り上げ自分の命惜しさに敵方へ売り渡したのじゃぞ?そのような不忠者は要らん。儂の気が変わらぬ内にどこへなりとも行くがよい」
幻庵は冷ややかな目を向けながらそう言い放った。
そして兵士に男を叩き出すように命令すると、男は両脇を抱えられ引き摺られるように陣幕から追い出された。
「そ、そんな!もう一度お考え直しを!!お待ちくだされ幻庵様!!」
追い出された男は自分のやった事を今更ながら後悔し絶望した。
あの時龍若丸様を連れて逃げていれば…、あの時北条の軍勢に突撃し武士らしく散ることが出来ていたら…。
そんなたらればを何度も何度も繰り返すが、全て後の祭りであることは紛れも無い事実として突き付けられていた。
男はこうなったらどうにでもなってしまえとばかりに刀を抜き放つと、陣幕の中に居るであろう北条幻庵を斬り殺してしまおうと考え、その陣幕を守る兵が邪魔だったので守備兵目掛けて刀を振り下ろした。
まさかの出来事に兵は咄嗟に動くことが出来ず、男が振り下ろした刀によって切られるかと思われた…が、男の刀が届くことはなく背中から血を流しながら倒れたのだった。
すると騒ぎを聞き付け幻庵が出てくると、男を切ったであろう者が膝をつき頭を垂れる。
「ふむ、騒がしいと思ったらこの者暴れよったか。しかし良くやったな小太郎」
「…いえ、これも幻庵様の策があってこそにございます」
小太郎と呼ばれた者の名は風魔小太郎。
北条家に仕え、忍びの集団である風魔一族を率いる頭領である。
風魔一族は北条家の諜報活動を一手に担っており、その優秀さから周辺国からも恐れられる存在だ。
北条家躍進の裏にはこの風魔一族の暗躍があったからこそであった。
「なに、お主がこの男を上手く寝返るように誘導してくれたから激しい抵抗を受けることなく龍若丸を捕らえることが出来たのじゃ」
「そのように評価していただき、身に余る光栄でございます。しかし、実は平井城に他国の者も忍び込んでいたようで、特に邪魔などはして来なかったので放置したのですがよろしかったでしょうか?」
「何もしてこなかったなら放っておけ。しかし他国の者か…武田か、今川か、それとも越後上杉か…。まあよい、ご苦労だったな小太郎。しばし休息を取った後、逃げた憲政を追うのじゃ」
「御意」
こうして憲政が城を捨て逃げたとの報が伝わると、抵抗を続けていた国人衆も北条家に降伏し、上野国での支配圏を大きく伸ばす結果となった。
一方逃げた憲政達は今なお抵抗を続けている横瀬氏と長尾氏の元へ逃げようとしたが…。
「なに!?敵の攻勢が激しくて余裕が無いだと!!」
「ここに来て北条家が攻勢を強めたようでして、お迎えできる状況ではないと…」
「なんということだ…そうだ、沼田家はどうじゃ!?」
「沼田家は先日北条家に降ったようで…」
頼りにしていた横瀬、長尾両氏に頼れず領地も近く親交のあった沼田家すらも北条家に降ったという状況に、憲政含め家臣達は頭を抱えた。
佐竹家や里見家を頼ろうにも北条家の領土を通るか遠回りして行くしかなく、充分な食料すらない現状では諦めるしか無かった。
そんな時、一人の家臣がこの状況で唯一頼れそうな人物の名を挙げた。
「憲政様、越後の上杉実虎殿を頼ってはいかがでしょうか?」
「越後か…この国を離れるのは口惜しいが、そうも言っていられない状況なのは確かじゃ。よし!皆の者、越後へ向かうぞ!」
「しかし、上杉殿は越中や能登方面に目が向いていると聞きます。我らを受け入れてくださるでしょうか?」
「なに、この関東管領上杉憲政が直々に赴けば嫌とは言わんはず。越後の龍の力を借りて憎き北条家から関東を取り戻すのじゃ!」
こうして一行は上野国を脱して越後に向かうことになる。
---越後国 春日山城---
「そうか、報告ご苦労だった。下がって良いぞ」
春日山城の自室で報告を受けた実虎は、どうやってこの厄介事を回避するべきかを考えていた。
『関東管領上杉憲政が越後上杉家の力を借りるため逃げてくる』
彼の持っている歴史の知識では、自分はこの関東管領を助けるため何度も関東に出兵することになり、その結果関東から動くことが出来ず時代の流れに乗り遅れてしまうのだ。
この歴史を知っているからこそ、この厄介事には首を突っ込む気は一切無かったのだが、関東管領本人が来るとなっては下手な理由では納得しないだろう。
しかし、実虎が断りたい理由はもう一つあった。
それが、嫡男である龍若丸を平井城に置き去りにした事だった。
まだ幼い嫡男を自分の命を優先し置き去りにした行為が実虎には許せなかった。
そんな行動の結果、龍若丸は家臣の裏切りもあって北条家に拘束され、小田原にて処刑されるだろうとの事だ。
幼い子供を連れてでは逃げられないかもしれないと言うのも分かるが、置いていかれた龍若丸の事を思うととてもじゃないが協力する気にはなれなかった。
そして数日後、実虎の元に上杉憲政が到着したとの報告が入ることになる
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