年が明けて
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---天文20年(1551年) 富山城 上杉実虎---
越中で年明けを迎え天文20年となった。
あれから戦線は膠着状態になり、打開策を見い出せずにいた。
何度か攻め落とそうとするが向こうの士気の高さと加賀から送られてくる潤沢な武器や兵力のせいで落としきるまでには行かなかった。
さらに今まで静観していた能登畠山家からの横槍が入り、なんと当主が亡くなった神保領は能登畠山家が責任を持って統治すると畠山家の重臣である温井総貞の家臣が告げてきた。
俺は加賀の一向宗に占拠されており取り戻す必要があると主張したが、そのような事実は確認出来ないの一点張りでまともに話を聞いて貰えなかった。
しかしこの畠山家の介入に関してはあるかもしれないとは思っていたのだ。
というのも、能登畠山家では家臣の権力争いが起きていたようで、畠山家臣筆頭である温井総貞と遊佐続光が互いにぶつかっていた。
この内乱は激しい戦いになったらしく、七尾城の一部が焼失する程だったという。
その内乱の末、温井総貞が勝利し能登畠山家の実権は総貞が握ることになり、遊佐続光はその権力を大きく落とす結果となった。
噂では本来介入しないことになっていた加賀の坊官らしき人物が目撃されたとの話もあり、裏で総貞と加賀勢が繋がっていることを懸念していたが、この結果から見てその話は真実に違いないだろう。
こうなる事を危惧して城を早めに落とし切りたかったのだが、これ以上の介入は出来なくなってしまい、その上雪でまともに行軍ができない季節になっていた為この富山城にて雪解けを待つことになった。
そして春になったある日、とある一報が届いた。
「義続殿が隠居して、家督を嫡男の義綱殿に譲ったか」
「どうやら此度の内乱を招いた責任を取るための当主交代のようで、今後は重臣七名による合議制にて運営していくとの事でございます」
重臣七名による合議制での採決か…。
こうなると畠山家は傀儡にされ、家臣達は己の権力を高める事に躍起になるだろうな。
ふむ…ここは義続親子と繋ぎを付けておくとするか。
「段蔵、義続殿にこの文を届けよ。もしもの時はこの越後の龍が力を貸すと」
「はっ」
とまあ、越中能登に関して出来ることは今のところこのくらいか。
すぐに事が起こる訳もないだろうし、一先ず領内に戻って腰を落ち着けるとするか。
その後、富山城に斎藤朝信を置き康胤に越中のことを任せると越後に戻った。
春日山城に着くと留守を任せていた猿千代や政景が出迎えてくれた。
「実虎様!ご無事で何よりでございます!」
「猿千代、少し見ない間に逞しくなったな。政景も苦労を掛けた」
「いえ、実虎様不在の越後を守るのが私達の役目でございますれば、実虎様もお変わりがないようで安心いたしました」
「うむ、それより何か変わったことはなかったか?」
「はい、何事もなく平穏な日々を越後は送れております。猿千代様も立派に当主を務めあげられておりした」
「そうか!ならば今度猿千代の元服を済ませようと思うのだが政景はどう思う?」
「それは素晴らしいかと。長尾家当主としての自覚も備わってきていると思われます」
「もしや、某もようやく元服出来るのでございますか!?」
「うむ、政景からのお墨付きも貰っておるようだしな」
よし、そうと決まれば早速元服の儀の準備に取り掛かるとしよう。
そして数日後、元服の儀を執り行う日となった。
「長尾猿千代、そなたは今日より景実と名乗るがよい。しっかりと長尾家を盛り立て我が上杉家を支えてくれ」
「ははぁ!粉骨砕身努めさせていただく所存でございます!」
こうして猿千代は名前を長尾景実と名乗ることになり、後見人だった政景はそのまま長尾家の一門衆筆頭として景実の補佐を任せることにした。
その日の夜、春日山では夜遅くまで多くの者が宴を楽しむ中、政景が俺に話があるとのことで俺の自室にやってきていた。
「突然すみませぬ実虎様。今宵はお話したき儀がございまして」
「叔父上、今宵は無礼講です。それで話したいこととは?」
「我が父、長尾房長に叛意あり」
「…詳しく聞かせてくだされ」
「あぁ、実は実虎が上杉家の家督を継いだ頃から様子がおかしかったのだ。城から出る事も無くなり、自室に篭もってしまってな」
言われてみれば房長殿だけがあの坂戸城での一件以来見かけていない。
俺が当主になった時も挨拶に来たのは叔父上だけで、房長殿は体調が優れないとか言っていたな。
「そして最近、何やら父がどこかに文を送っているとの話を聞いて直接父を問い質したんだ。その時父はもう一度反旗を翻すつもりだと。文のやり取りをしていた相手までは教えてもらえなかったがな」
「そうですか…知らせてくれて感謝いたします。しかしよかったのですか?」
叔父上には父と共に再び反旗を翻すという選択も出来たはずだ。
なにせ前の戦いでは俺相手に充分立ち回れていたし、上田衆の力は嫌という程見せつけられた。
「…私はずっと曖昧な立場に立ち続けた父が嫌いだった。服従するふりをして主家が不利になれば裏切り、気に食わない相手なら国のことを考えずに行動する。そんな父が実虎の尽力によってようやく纏まりつつあるこの越後に再び戦火をもたらすような事に協力する気など起こらん。それに、実虎は大切な越後長尾家と猿千代を私に任せてくれた。一度背いているのにも関わらずだ。正直甘すぎる判断だと言わざる負えないが…そこは義兄上に似たのだろう、それだけでも誠心誠意お仕えする理由にもなろう?」
「猿千代を叔父上に任せたのは兄上からの要望でもあったのですが、実を言いますとあの時叔父上を切ろうと思っていました。しかし多くの者が助命嘆願にやって来て、その上越後の為だと言った叔父上の目には嘘がなかった。その越後に対する思いを信じたのでございます。これでも私は勘が鋭いので嘘を付いているかどうかはわかるのですよ」
「ははは、どうやら実虎には嘘が通じないようだ。とりあえず、父上に関しては私に任せてくれないか?必ず止めてみせる…が、最悪の場合覚悟はしているつもりだ」
「承知いたしました、この件は叔父上にお任せいたします。こちらでも文の行先など調べておきましょう」
しかし翌日、坂戸城にて長尾房長が反旗を翻したとの報告が入った。
「くそっ、私が同調しないとわかって早急に動いたか!」
「政景、こうなっては致し方ない。討伐軍を派遣する」
「ならば私にお命じくだされ。我が家の始末は私がつけます」
「よかろう、4000の兵を預ける。それと同時に景実の初陣も済ませようと思うからしっかり見てやってくれ」
「承知いたしました」
こうして政景率いる軍勢は坂戸城に向けて出立した。
俺は念のため北条高広に2000の兵を預け後詰部隊として送り出した。
---坂戸城 長尾政景---
「景実様、あなた様は本陣にてどっしりと構えておいてください」
「なぜだ叔父上!私も実虎様のように先頭に立って軍を率いて戦いたい!」
「なりませぬ。本来大将とは先頭に立って戦う者にあらず。本陣にてどっしりと構え戦いは家臣に任せるもの。まして初陣なのですぞ?万が一あなた様の身に何かあれば大変なことになるのです」
やはりこう言いだすと思った…景実は実虎に強い憧れを抱いている。
以前も実虎のような武士になりたいと何度聞いたことか。
「そうならないためにそなたがいるのだろう?それに実虎様は初陣にて華々しい戦果を挙げたと聞いた。私も越後長尾家の当主として相応しい戦果を挙げたいのだ!」
「…景実様、我が父が率いる上田衆は精強にございます。多くの者が私に付いて来てくれているとはいえ残った上田衆が父に付き従っております。そんな上田衆は実虎様でさえ苦戦を強いられた相手なのですぞ?いかに私といえど景実様を守りながら戦うことは難しいと存じます。それに大将が敗れることがあればたちまち軍は崩壊してしまうのです、我らが思う存分戦うためにも大将が後方にいてもらわなければなりませぬ」
「そう…であるか」
「景実様、あなた様はまだ元服したばかりでございます。今はまだ実虎様のような力は無くとも、これから研鑽を積み様々な経験をすることでいくらでも強き大将になる事はできましょう。その為にはまずこの戦を生き抜く事が大切でございます。それとも、景実様が陣頭に立って戦わねばならぬ程、我らは頼りないでしょうか?」
「そ、そんなことはない!」
「でしたら、我々が景実様の初陣を勝利で飾るためにも本陣にて勝鬨が聞こえてくるのをお待ちくだされ」
「…わかった、叔父上の申す通りにいたそう。私の初陣を勝利で彩ってくれ」
「仰せのままに」
ようやく納得してくれたか。
正直言って景実に実虎のような強さはないが、実虎が特別なだけで決して景実が頼りない訳では無い。
同じ年頃の若武者と比べても頭1つ抜け出ているぐらいの実力はある。
それに、実虎から景実の事を頼まれた上、実虎があの様な大将だからもし万が一の事があった時、代わりとなるのは景実だ。
そのような者をこんな戦で失う事があってはならない。
可愛い甥の為にもこの戦には勝たねばならんな。
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