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毘沙門天の化身  作者: 藤宮 猛
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動き出す陰謀

 ---天文19年(1550年) 富山城 柿崎景家---


 先日行われた新川での合戦は我らの大勝利であった。

 実虎様率いる5000の兵が富山城に集められた約2万の軍勢を釣り出すことに成功し、新川の鉄砲水を用いた戦術にて相手を翻弄。

 その間に我ら別働隊がガラ空きとなった富山城を制圧した後、実虎様の軍勢を追った神保家の背後を強襲し、天候にも味方され勝利した。

 その後は取り逃してしまった神保長職を追撃したところ、降っても命は無いと思ったのか甲冑を脱ぎ捨てると雨で増水した神通川に飛び込み消息を絶ってしまった。

 まさか飛び込むとは思っていなかったので一瞬判断が遅れ慌てて弓矢を撃つように指示をするが既に姿が見えなくなっていた。

 そんな長職の家臣達は主の後に続く事が出来ずにいたようで我らに捕縛されたのだった。

 しかし川が完全には増水していなかった為、万が一運良く長職があの状況で生きていたら厄介な事になると思い、家臣に長職の捜索を命じた私は富山城にて報告を待つことにした。

 後日、雨が止み川の流れも落ち着いた頃に長職を見つけたとの報告が入った。


「景家様!神保長職らしき遺体を見つけたとのこと!」


「なに!?長職が見つかったのか!直ぐに向かう!」


 私は確認の為に長職の家臣を連れて向かうと、そこには1人の水死体がいた。

 だが、その遺体には数本矢が刺さった状態であった。


「おい貴様、これは神保長職で間違いないか?」


「…はい。この御方こそ我が主神保長職様でございます…うぅっ」


「そうか。しかし何故矢が刺さっているのだ?お前達、発見した時にはこの状態だったのか?」


「はい、我らが見つけた時には既に矢傷を受けていました。他の者にも確認しましたが誰もやっていないと…」


 どうやら長職は木か何かに引っかかった状態で死んでいるのを発見したようだ。

 逃げられた時我らは矢を使っていないのに何故矢傷を受けているのだ…?

 とりあえず私は実虎様にこの事を伝えることにしよう。

 しかし、こんな呆気なく長職が死ぬなど誰が予想できようか。

 それに合戦に合わせるように雨が降り出したりしたのもそうだ。

 実虎様の手助けをするかのように運のいい事が続くなんて…まさに天に愛されている御方だな。

 実虎様は熱心に毘沙門天を敬われているが…まさかな…。


 ---富山城 上杉実虎---


 神保長職が死んだか…。

 確か神通川は新川よりは流れが穏やかだったらしいな。

 多分一か八か増水し切る前の川に飛び込んで助かろうと思ったのだろうが、あいにく運がなかったようだ。

 だが矢傷を受けていたというのがわからん。

 柿崎らは矢を使う前に逃げられたと申しているし、一体誰が…。

 そんな水死体となって見つかった長職は、神保家臣達がどうか弔わせて欲しいと懇願してきた為、許可を出し長職は神保家の菩提寺に送られた。

 その後、残った神保家の城に降伏するようにと使者を送った所、なんとその使者が帰ってくることは無かった。


「使者に送った者達はなぜ帰ってこない!」


「わかりませぬ…もしや斬られたのでは…?」


「なんだと…?捕らえた者を呼べ!」


 俺は捕らえた神保家の者を呼びつけるとどういう事なのかと問い詰めた。


「貴様ら神保家はどうやら徹底的に滅ぼされたいようだな」


「お、お待ちくだされ!いくら当主が討たれたとは言え降伏の使者を切るなどそんな事は致しませぬ!!」


「ならばなぜ使者は帰ってこない!当主を殺された腹いせに追い返す所か斬っているとなれば、今こちらにいる長職の妻と嫡男がどうなるか分かっているのか!」


 富山城を占拠した際に密かに逃げ出していた長職の妻と子を捕らえていた。

 今後の越中の統治に役に立つと思い、今は母子ともに丁重に扱っていたのだ。


「実虎様!それだけはどうかご勘弁を!!某の命に懸けて降伏するように説得致します!ですからどうか小法師様(長職嫡男)とお通様(長職の妻)の命だけは!!!」


 頭を必死に下げて懇願している人物は神保家の重臣小島職鎮(こじまもとしげ)だった。

 彼は神保家再興に手を尽くし長職の腹心だった男だ。


「そうか。では職鎮、そなたに降伏の使者を任せる。もし失敗すれば命はないぞ」


「ははぁ!必ず、必ずや降伏させてみせまする!!」


 こうして俺は職鎮を使者に任命すると早速向かわせたが、俺の中では1つの懸念が生じていた。

 残った城はどれも一向宗のいる加賀に近い場所にあり、長職の死を聞いた一向宗の者達が神保の兵を抑え城を占拠しているかもしれないというものだった。

 もしそうなら職鎮の身も危ないと思い、段蔵に職鎮の護衛をするようにと命じておいた。

 そして数日後、段蔵達に護られながら職鎮が帰ってきた。


「何があった?」


「実虎様…申し訳ございません…我らの城が一向宗に…」


「やはりか、実は我もそれを疑っていたのだ。杞憂に終わればよかったのだが…しかし、よくぞ帰ってきた職鎮。段蔵もご苦労だったな」


 おそらく一向宗は長職が死ぬ事を想定していたのかもしれない。

 長職がもし死んだら速やかに城を占拠して勢力の拡大をと考えていたのだな。

 とすれば長職は向こう岸に辿り着いていたのか?

 辿り着いたが一向宗の者にやられたと考えるのが自然だ。

 門徒達が暴走したというのも考えられるが、おそらく指揮官が居るに違いない。

 もしや…最初からこれが狙いだったのか?


 ---尾山御坊 七里頼周(しちりよりちか)---


「ほう、上手く神保の城を占拠出来たか」


 どうやら思惑通りに事が運んだようだな。

 神保では上杉に勝てないと踏んで、援軍を出すふりをして城を占拠する。

 長職は再起を図ろうとしたみたいだが、我らの手の者が殺害したようだ。

 全く哀れな男だ…せっかく神保家を再興したというのにこんな結末を迎えるとはな…。

 それにしても予想以上に上杉は強いみたいだ。

 釣られる方も馬鹿だと思うが、釣った敵を自然を利用して戦い、その間に別働隊を動かし城を取る。

 あの数相手に兵を分けるというのも、おそらく実虎の強さあってこそのものだろう…。


「七里殿、神保の城を占拠するように指示したのはお主か?」


「これはこれは玄任殿、あなたも加賀に戻っていらしたのですな。長旅ご苦労様でございます」


「世辞など要らん。援軍である我らが城を占拠するなどどういう了見なのだ?」


 はぁ…口うるさい坊主が帰ってきたわ…。

 この男は杉浦玄任(すぎうらげんにん)という本願寺の坊官だ。

 私とこの玄任が加賀の差配を任されているのだが、この男がいるせいで自分の思うように行動ができん。


「了見も何も、此度の援軍については私に一任されているはずです。神保家からもぜひ力をお借りしたいとの申し出があったので、上杉から神保家の城を守るようにしているだけにございます」


「その神保家の家臣を差し置いて好き勝手していると聞いたが?」


「どうやら神保家の多くの者は長職様と共に上杉と戦ったそうで、残った城にいる方達が少ないそうです。そうなれば自然と意見が我等の方に寄るのも仕方が無いでしょう?」


「それを何とかするのがお主の務めであろう!全く、貴殿のような者がいるから我ら本願寺の評判が落ちるのだ」


 うるさいのぉ、評判も何も既に我ら坊主は腐り切っておるだろうに。

 貴様がどれだけ真面目に教えを説こうが、坊官であることをいい事に好き勝手する輩は数多くいる。

 今更私が何をしようと変わることは無いわ!


「七里殿、今一度下の者達には厳しく言っておいてくだされ。よいですな?」


「承知致した。もう一度厳しく言っておきましょう」


 ちっ、目障りな男だ。

 この男さえいなければ私は加賀の支配者になれるのに!

 …まあよい、本願寺の支配圏が広がれば法主様も認めてくださるはずだ。

 相手は消耗しているのだから焦る必要もないし、畠山の連中にも私の協力者がいる。

 ようやく運が回ってきたようだ…。

今回もお読みいただきありがとうございます!


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