蒲原の戦い
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時は少し遡り、上田城の戦いが起こる前
---天文17年(1548年) 会津若松城 蘆名盛氏---
「この度はお目通りが叶いましたこと恐悦至極に存じます」
この日我が城に来客が来ていた。
越後長尾家の長尾景康殿と景房殿である。
「それで、越後長尾家のお二人が蘆名家に何用ですかな?」
「越後にて弟の景虎が家督を継いだことはご存じでしょうか?奴は我らを差し置いて当主となり好き勝手しておるのです」
「その事なら儂の元にも届いている。しかし、それが我らに何の関係が?」
「蘆名家の兵をお貸しいただきたく存じます。我らが越後を景虎の元から取り戻すことができた際には越後の一部を蘆名家に差し上げましょう」
これはこれは、まさか兵を貸すだけで越後の一部が手に入るならばこれほど美味しい話は無い。
それにこの者らがしくじったとしても、切り捨ててしまえば問題は無かろうて。
「そういうことでしたか。確かに我々は以前から越後には目をつけておりました。それに今越後は荒れていると聞いておりますし、そなたらの越後を思う心に感激いたした。兵をお貸しいたしましょう」
「蘆名殿…感謝いたします!このご恩は忘れませぬ!!」
ふふふ…どうやら運が回ってきたようだな。
景虎は戦にめっぽう強いとの噂だが、大軍の前ではどうしようもないであろう。
---古志郡 長尾景虎---
進軍中の俺達の元に、平田舜範率いる蘆名軍が越後と蘆名領の境目にある雷城と神戸城を攻撃し占拠したとの報を受けた。
その蘆名勢は我々を迎え撃つために平野部にて待ち構えているという。
「やはり野戦を選んできたか」
「相手は鶴翼の陣で待ち構えているそうです」
兵数的にはこちらが劣っている、長期戦になってしまえばこちらの不利は確実だな。
しかし平野部となると奇襲などの策は気付かれやすい、ここは本陣狙いの一点突破か?
「定満、お主ならどのような策を取る?」
「そうですなぁ、景康殿らが相手方にいるのならばこれを利用させてもらいましょう。かの二人が裏切るという偽の情報を流すのです。さすれば少なからず敵軍は動揺するはず」
「その隙を突いて一気に敵本陣を落とすという訳か」
「そうでございます。しかし兵を借りているだけとなればどれほどの効果があるか…」
確かに効果は薄いかもしれんが、その少ない隙を突いてやればいいのだ。
「それでいこう定満。我ならば少しの隙で充分だ」
俺は忍び衆の何人かを蘆名軍に潜り込ませ合図を出したら偽の情報を流す様にするよう命令をし、しばらく進軍を続けると決戦の地である蒲原郡の平野部に到着した。
見たところ敵軍は1万超える兵がいると思われ、対するこちらは先の戦いで損害が出たため5000ほどの兵しかいなかった。
「どうやら蘆名軍は本気でこの地を足掛かりに越後を攻めようとしておるようですな」
「そんなこと我がさせぬ。実乃、各部隊に合図をしたら偃月の陣に移行しろと伝えろ」
「偃月の陣でございますか?それはさすがに危ないのでは?」
「我には毘沙門天の加護が付いている。心配は無用だ」
「…かしこまりました。ならば景虎様のことは私が命を懸けて守りましょう」
「苦労を掛ける」
こうして兵数不利の中、蒲原郡での戦いが始まった。
戦が始まると同時に敵の両翼が進軍を開始する。
俺はそれを見て少しずつ本陣のある中央を前に出させると、両翼がある程度戦闘をしたタイミングで合図を出した。
その直後、俺は馬回りの者達と共に一気に馬を走らせ、それに伴い味方部隊も後に続くように動いた。
すると敵軍は偃月の陣を取ることを予想していなかったようで慌てて本陣を厚くするように動き始めたが、同じタイミングで流した偽の情報によって思っていたより敵軍に動揺が走ったのを感じた。
「越後の勇士よ時は来た!今こそ敵本陣目掛けて駆ける時ぞ!!我らには毘沙門天の加護が宿っている!!!」
俺の声が戦場に響き渡ると味方全体から「おおおおお!!!」という咆哮が敵軍を飲み込んだ。
その勢いに飲まれた敵は完全に恐慌状態に陥ってしまい、敵将が必死に味方を鼓舞するが逃げ出してしまう者達も少なくなかった。
俺は動きの鈍った敵陣を一気に突破すると敵本陣に対して猛攻撃を開始した。
何とか立ち直った敵兵が後方から来ているが、後方に位置するように配置した柿崎景家と斎藤定信、朝信親子が食い止めてくれていた。
敵本陣ではこちらの勢いを食い止められないと判断した平田舜範が神戸城へ撤退を始めていた。
大将が撤退を始めたことで他の部隊も撤退を開始しており、蒲原平野での戦いは越後勢の勝利に終わった。
その後蘆名勢は雷城を捨て神戸城に籠城をしたようで、雷城に最低限の守備兵を向かわせるとそのまま撤退した蘆名勢が籠る神戸城を包囲した。
「城兵の数は?」
「敵の大半が散り散りに逃げたようですが、雷城の城兵も含めると1300程の兵がいるようです」
「よし、ひとまず和議の使者を送れ。越後からの撤退と景康兄上達の身柄を渡すことを条件にな」
攻め落とす事もできるが、そうなるとこちらの被害も相当出てしまうため、出来ればこれ以上戦わずに済ませたかった。
使者を送ってから数刻後、使者が帰ってきて蘆名勢は和議に応じるとのことだったので詳細を詰めるため平田舜範との会談に臨んだ。
「平田殿、この度は和議に応じてくださり感謝いたします」
「こちらこそ穏便に済ませて頂くことに感謝いたします」
「それで和議の条件ですが、最初にお伝えした通りでよろしかったですかな?」
「問題ございません。それとこちらからも条件があるのですが、蘆名家と長尾家で不可侵条約を結びたいと思っているのですがいかがでしょう」
不可侵条約か、これは結んでもいいかもしれない。
越後の統一がもうすぐ終わるし、越後統一がなった時俺は次の目標を越中と能登に定めている。
その時に邪魔をされないのは正直ありがたい。
それに伊達家の養子を迎える時に蘆名とは敵対し、それ以降断絶していた関係を見直すいい機会だ。
「承知いたした。その申し出をお受けいたしましょう」
「感謝いたします。ではそのように」
こうして蘆名家と和議を結び越後からの撤退を見届けた後、身柄を拘束した兄上達と再会した。
「さてお二人共、覚悟は出来ていますな?」
「景虎…済まなかった、お主のことを見誤っていた…」
「言い遺す言葉はそれでよろしいですか?」
「ま、待ってくれ!お前に忠誠を誓う!今後一切このようなことはしないと誓おう!だから命だけは!」
「我らは血を分けた兄弟であろう…?」
「我を裏切り他国の人間をこの越後に差し向けた者に慈悲を与えろと?虫が良すぎるとは思いませぬか」
俺はこの二人を許す気などなかった。
単純に裏切るだけならまだしも、他国の人間をこの越後に差し向けせっかく統一しかけた所に水を差したのだ。
兄だからとはいえ、越後の主として許す訳にはいかなかった。
「兄上…いや、長尾景康に景房よ、せめてもの慈悲として武士らしく切腹を許そう」
俺は二人に冷めた目でそう告げると、二人から「その目が気に食わなかった」とか「側室の子の分際で!」など罵詈雑言を投げかけられた。
俺は思わず脇差を抜きそうになったが、実乃が止めてくれたおかげで一応冷静になることができた。
その後、二人は切腹し蘆名家による越後侵攻は防ぐことができたことに加え、この勝利により越後国内で敵対していた勢力も次々に降伏をしてきたことで念願の越後統一を成し遂げたのだった。
この蒲原の戦いを経験した蘆名軍の兵は、先頭に立って戦場を駆ける俺を見て龍が戦場を駆けていたと語ったらしい。
この話と俺が5000の兵で1万を超す蘆名軍に勝利したこと、それに越後統一をも成し遂げたことが他国にも広まり、長尾景虎は『越後の龍』と称されるようになった。
春日山戻ってきて数日経ったある日の夜、俺は兄上が少し話をしようとの事で部屋に来ていた。
「景虎、念願の越後統一を成し遂げてくれて感謝する」
「ありがとうございます。兄上が春日山を守ってくれていたからこそこれだけ早く成し遂げられたのです。感謝致します」
「しかし、景康達のことは済まなかった。私がもっとしっかり見張っていれば…」
「城を抜け出してあの様な手を使うなど誰にも予測できませんから気にしないでくだされ。実の兄に切腹を命じるなど、父が聞いたらなんと言うのでしょうな…
」
「心配するな、お主は当主として正しい事をした。そなたがそれを罪だと思うのなら私も共に償おう」
「兄上…感謝致します」
「うむ…っ!ゴホッゴホッ!」
「大丈夫ですか!兄上!」
「あぁ…どうやら当主の頃に無理をしていたのが祟ったようだ。なに、安静にしていればすぐに良くなる」
「ならば良いのですが…」
「心配を掛けたな。では今日の所はもう休むとしよう」
「はい、ゆっくり休んで下され兄上」
兄上は近頃体調を崩しがちになられている。
元々身体は強くない方だったが、当主の頃に相当無理をしていたのだろう…。
今度医者を呼び寄せて診てもらうことにしよう。
やっと越後統一まで書けました!
なかなか進むペースが遅いですが、ブクマ&高評価大変嬉しい限りでございます!




