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時間

作者: 奄美なみ

眠らなければいけない時間なのに、なかなか眠れない。そんな時もある。いつものように月を見上げ、また眠れないよと呟く。


ワインを注ぎ、これが良い睡眠導入剤になるなんて迷信を信じ続ける自分を嘲笑いながら一口。格別だ。眠らなければいけない時間など、本当はない。ただ自分の作ったルールには絶対に背いてはいけないもうひとつのルールがあって、それに添えないときにだけ、ワインを体に取り込む。やってしまった。また朝が来る。眠らなければ。そう考え続けると、どんどんと眠りから遠ざかるのは知っている。今晩は、夜更かしをしてしまってもいいかもしれない。


山の中に佇む木造の建物に、私以外の人間はいない。遠吠えが聞こえる。明日は起きたらしなければいけないことが山積みのはずなのに、体はまだ眠りにつきたくないようだ。たまには散歩をしてみてもいいかもしれない。この山にはオオカミが出るので、初心者にはおすすめしないが。たまにはいいだろう。そう思ってカウチから立ち上がろうとするが、アルコールが邪魔をする。このまま眠れそうな気もする。勿体ないような気もして、森の中ひとり葛藤している。そういえば、オオカミたちは葛藤などするのだろうか。もしかすると、しているのかもしれない。自分を食べようか、食べまいか、毎晩葛藤しながら家の近くを徘徊しているのかもしれないと考えると、面白くて笑えてくる。


頭がぼんやりとしてきて、だんだんと音楽が聴きたくなってくる。レコードをかけよう。今日はBeyond the seaで眠ろう、長らく海には行ってない。海から見える景色がどんなものだったか、忘れかけている自分がいる。


レコードをかけて眠るのは素晴らしい気分になれる。大昔の貴族のような、少し昔の庶民のような、不思議な感覚に陥ることのできる、最高の媚薬だ。ゆっくりと音楽が流れ、時間を忘れようとする。こうすれば、残りのワインを飲み干す頃には良い夢を見ているだろう。

ベッドサイドに置かれた飲みかけのワインとレコードは埃っぽくて、そろそろ片づけをしないといけないとは思いつつ、毎日やることに追われているので、なかなか片づけは進まない。そういえば、あの身体も片付けなければならないのだが、私一人では到底片付けられる代物ではない。近々街へ出て、誰かに声をかけて助けてもらおう。買い出しにいったのも、数年前になる。もしかしたら、もっと時間は進んでいるのかもしれない。この森での時間の流れはとても遅い気がする。何故だろう。きっと、朝も来ないのではないか、なんて想像をしながら、ゆっくりと息を吸う。吸えただろうか、自分にはわからない。


ワインは減らない。

音楽は鳴っていない。頭のなかでは音楽はレコードからながれている。ベッドにも横たわっている。

しかしその身体は、まだあの地下室にある。


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