僕が勝てない異常な彼
シンさんにボコボコにされた後、僕は狐族のココちゃんの元に向かった。行けと言われたからだ…シンさんにはもう逆らえる気がしないや…
「君が…ココ?」
「はい。私が狐族のココになります。ツバサさん」
「なるほど…君が僕をここまで誘導したわけだ。僕にできることがあったら、何でも協力するけど…その前に…」
シャルに抱えられ、部屋を出て行こうとしているサーニャに、僕は謝らなければ。
「サーニャ。ごめん…気付いてあげられなくて…そして無責任なことして、放り出しちゃって…サーニャの力の事は知ってたんだ…僕は…」
「ん。ツバサ…私こそごめん。ちゃんと言っとけば良かった。お互いさま」
そのまま容赦なく、シャルたちに連れていかれるサーニャ。彼女たちは先に、馬車に戻ってもらったんだけど…サーニャは行ってよかったのか?
「っと‥待たせたかな…話を聞かせて?」
「はい。ツバサさんは、シンの力を、どこまで見通せたんですか?」
「一応…一通りは?」
「シンの死ねない理由も…見えましたか?」
「うん…多分これだね。紙とペンはある?」
「こちらに」
と机の下から、あらかじめ用意していたのか、洋紙と羽ペンとインクを取り出す。
「僕に見えるのは、その人の体力…これは体の健康値だね。数値が0になると死ぬし、病気やけがで減っていく。そして次に身体能力、これは力であったり、速さであったり、そう言うものの合計だね。あとはその人が宿している魔力。そしてスキル…これはいわば特殊な力だね。例えばサーニャだと神獣化というスキルがあった。あとは種族、名前、性別かな。これが僕の見えてる全てだ」
そう言いながら、シンさんのステータスを書いていく。
ミカド シンジ
???♂
??歳
体力 3/3
筋力 20/20
??? 563500/682500
スキル ≪超神速再生≫≪創造・具現化≫
「これがシンさんのステータス。つまりこの数値のことだね。一応比較するために、ココのステータスも書くね」
ココ
獣人種族♀
12歳
体力 540/540
筋力 400/400
魔力 12/12
スキル≪並列思考≫
「数値が分かれているのはなんです?」
「右が最大値で、左が現在の状態。体力は怪我や、傷を負ってると減っていく。筋力は、単純に疲れているか、けがや病気で弱ってても減るね。ココちゃんのスキルは並列思考。これは二つの事を、同時に考えられる力だね」
「なるほど…だとすると、シンは異常ですね…しかし…」
「確かに異常だよ。僕もこんなのは初めて見た。でも多分死ねないのは…このスキルの所為だね」
僕は≪超神速再生≫を指さす。
「まさに再生だったよ。粉々にしても、一瞬で元に戻る。治ったのではなく、元に戻っただけ」
「確かにこれは厄介ですね…しかし…光明は見えた気がします。ありがとうございます」
「どうしてもって言うなら…僕が吸い尽くして、スキルを捨ててくるけど…それだとシンさんは死ぬからね…」
「ツバサさんにこれ以上は望みませんよ、シンの死を探すのは、私たちの役目ですので」
「そっか…ん?これはコーヒー?」
元の世界で見たコーヒーサーバに黒い液体が入っていた。
「シンが作った飲み物ですが…飲みます?」
「ぜひ頂くよ。ミルクだけほしいな」
とても香りのいい、久々のコーヒーだった。美味しいコーヒーを飲みながら、シンさんがこの世界で、どう生きていたのか、そんなことをいろいろ聞いた。
彼は…死を求めながらも…邪魔だ邪魔だと言いつつも…彼女たちを好きなんだと思う…でもこのままだと…彼女たちは彼より先に確実に死ぬ。自分は若い姿のままで、いつまでも死ねずに。それは…耐えられないなぁ…
「ふふ…割と君たちも、愛されてるね」
そう獣人達に言って、僕たちは、彼女の想い人と合流することにした。
馬車に戻ると、とても楽しそうな声が聞こえる。僕でもそんな楽しませることはできないだろう。そう思えるほどに…
馬車の中をうかがうと、案の定楽しそうに笑う妻たちがいた。ほんの数十分で妻達が…
「僕の嫁が数十分で寝取られてる件」嫉妬と恨みを込めて呟いた。
「人聞きの悪いこと言うな…そんなつもりは毛頭ない。俺は楽しみ、楽しんでもらいたいだけさ」
楽しそうな顔をして、そう言い放つシンさん。
「ツバサ様!すごいんですよ!この楽しくなる魔法!」
スピカも楽しそうに…あれ?
「スピカ…まさか…心が…」
「あっ…そういえば…」
たどたどしい喋り方が治って…よかった…
「スピカ…よかった…」とスピカを抱きしめる。
「シンはすごいね!スピカを治しちゃった。シャルでも治せない心を」
「私たちもつい時間を忘れて、楽しんじゃってたわね…」
本当…この人にはもう…一生頭が上がらないな…
「俺は人を幸せにする魔法は使えない、それはこれからツバサ、お前が使うものだからだ。ただ…楽しくなる程度の魔法は使えるんだよ。しっかりその子たちと、外にいるメイド、どうしたらそいつらが幸せになるか、想像して、想い浮かべろよ?」
もちろん…僕は絶対に、僕を想ってくれている、この子たちを幸せにして見せる…
「はい…ありがとうございます。シンさん…」
「俺はただ、俺が楽しいからやっただけだ。他意はないぞ?」
そんなことを、惚けた顔で言うシンさん。この恩は絶対にどこかで返してやるからな!そう心に誓ったのだった。
その後、シンさん達とは別れた、なぜか彼らだけ、通行規制を食らっているそうだ。
もう用事はないが、二人目の転生者の彼女に一応会っておこうと思い、魔女王の町へ向かうことにした。
スピカは彼から貰ったトランプで、シャルたちと遊んでいる。よっぽど楽しかったんだろうな。娯楽の少ないこの世界では、珍しい物なんだろう。
僕もリバーシーとか、将棋くらいなら…将棋は駒を作るのが大変だから…無理か…まあ元の世界に有った、簡単な娯楽なら、管理者さんの許容範囲だろう…帰ったら妻たちと遊ぼうかな?なんて考える。
そしてそこから10日ほどかけ、ようやく目的の町に着く…町?むしろ都市?こんな辺境に首都並みの街があった。
「内政チートか?でもその割には…この世界の街並みのままだな…」
チートを使うなら、コンクリートと鉄骨で基礎を作ったり、ツーバイフォー工法で作る家だったりするはずだが…。普通のレンガ造りの家だ。
そして…町の入り口からも見えるあの…城が…魔女王の屋敷なのだろうか?
痛い子なのかな…帰ろっかな?
なんて思うが…覚悟を決めて屋敷に行くことにする。
一応粗相がないように、メイド以外はドレスと、僕はシンさんに作ってもらった服に着替えてある。
十数分後に、馬車が止まる。一つ深呼吸をして…馬車のドアを開け、外に出ると…
大きな鉄扉が目の前に、そして赤いカーペットが、屋敷の入り口まで伸びており、その脇にメイド達がずらりと並んで、お辞儀をしていた。
王城でもこんなことはなかったよ!?
そして城を見上げ、引き攣った顔で、鉄扉から城に入る僕を、迎えに来てくれる魔女王。
「ようこそ。ツバサ・ミカヅキ様。この町の町長をしている、マオと申します。以後お見知りおきを」
綺麗ドレスの裾を掴み、丁寧にお辞儀する魔女王。言わせてもらおう…
お前のような町長がいるかっ!!!




