初めてのお酒
帰り道は、盗賊の襲撃はほぼなく、のんびりと首都に向けて帰って行った。
馬車の中で、猫族の獣人が、かわるがわる僕の前でしゃがみ込み、膝に頭を乗せて、顔を擦り付けていた。
ついつい頭をなでなでしたり、頬や顎のあたりを撫でてしまうのは仕方ないよね…可愛いなぁ~
横にはもちろん、シャルとミーシャが座っている。
20日ほどかけて、首都に到着する。この後、メイド達と合流し、魔女王の元へ向かう。
冒険者ギルドに行く前に…先にカペラさんの所に向かう。
「ツバサ様…ご無事で…」とドアが開くなり、スピカが抱き着いてくる。
頭を撫でてやり、続いて横にいたメイド達も、抱きしめてあげる。
「予想より時間がかかっちゃってね…待たせてごめんね?」
「ツバサの所のメイドさんはとっても頑張ってくれたわ…?返すのが惜しいくらいに…」とカペラさん
「お役に立てたようで何よりです…代わりというわけではないのですが…この子たちをカペラさんの所で雇っていただけないでしょうか?」
獣人の三名を紹介する。最初はいろいろ教えるのが大変そうなので、その費用として、金貨10枚ほど渡す。
「構わないけど…その子達は…ツバサを慕ってるんじゃないの?」とカペラさんが言う。
確かに可愛いし…僕の傍に置いておきたい気持ちもあるが…
「多分助けてもたっらという、一時の感情だと思うんです。落ち着くためにも、僕は離れたほうがいいと思いまして…」
「そう…分かったわ。その辺は私に任せてもらうね。さあ上がって、夫が君と話がってるのよね」
「ではお邪魔しますね」
前に案内されたリビングに、少しやせ気味の男性が座っていた。
「やぁ。ミカヅキ卿。君のおかげでやっと一段落したよ」
「いえいえ。ファルネウス卿のお役に立てたのなら幸いですよ」
彼はシールズ・ファルネウス卿。この国の公爵様だ。貴族として一番上の爵位と言えばわかるだろうか?
僕はあまり興味はないが…
「私の妻も、妹と少し暮らせて楽しそうだったし、それにいいメイドを持ってるね。彼女たちはまだ未熟だが、光るものがあって実にいいね」
「お気に召したなら幸いです。そして、彼女たちの事を、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いします。旦那様」」」
「ん?獣人か。猫族は割と奔放なのだけどね。まあ君の頼みなら断らないさ」
「ありがとうございます。ファルネウス卿はその…魔人種族なのにそう言う差別はしないのですね?」
魔人族は魔力量の低いものを下に見る。なのに人種族を娶っているのだ。
「はは…そうだね。カペラは一目惚れだよ。魔力なんて見る暇もないくらいにね。カペラを娶る為に、たかが一人の伯爵が、公爵まで上り詰めたのさ」
「ふふふ…そこまで想われて、実際成し遂げたんだから…夫は私にとって、この世界で最高の、愛する人よ?」
突如いちゃつくファルネウス夫妻。
「魔力の有無なんてどうでもいいよ。種族なんて括りすら。みんな同じ人じゃないか。そこになぜ、優劣をつけたがるのか…理解できないね」
「すごいですね。ファルネウス卿は…そして敵も多そうですね」と僕は苦笑いする。
「そんなのは策を練り、情報を集め、すべて叩き潰すさ」
「敵にならないことを祈るばかりですよ…」
策を弄する敵は苦手だ…
「今晩くらいはゆっくりして行くといいよ。君のメイドさんが家事をしてくれていたおかげで、このくらいの人数なら部屋もある。君の為にいいワインも手に入れたし、今日はゆっくり話そうじゃないか」
にこやかに笑うファルネウス卿。
「そうですね。ご相伴にあずかりますね」
その後、みんなで美味しい夕食を食べる。初めてお酒を飲んだけど、とてもフルーティーで飲みやすく、そして泥酔した…朝起きると、メイド達とスピカが全員裸で、僕のベットで一緒に寝ていた。
覚えてないのでセーフかな…?
これが二日酔いなのだろうか?頭が痛くて、フラフラしていると、シャルが回復魔法で治してくれた。その手があったのか…
どうりて、シャルとミーシャだけ全く酔わず、水のように飲んでたわけだ…回復魔法で酔いを治していたんだな…
カペラさん達と別れ、冒険者ギルドに行き、残りの報酬を受け取っておく。お金は収納スキルで入れてある。あまり重い物も、大きいものも入れれないが、便利だなあ…いいスキルを手に入れたよ。
収納スキルで小物や衣服、生き物は入らないが、食材にすると入るので、基本僕が全部持ち歩いている。それでも中で時間が止まっているわけではなく。腐る者は腐る。何を入れているか、何を取り出したか、それは全てメモするようにしている。何を収納したか覚えてないと、取り出せないからだ…
割と便利なようで、不便なこのスキルを使い、ほぼ手ぶらで、旅の準備を終える。
「最後に魔女王様に会うんだっけ?」とミーシャ
「そうだね。スピカの心が治るかもしれないしね。可能性があるなら行っておきたいんだよ」
「ありがとう…ございます…ツバサ様…」スピカが僕の手を握ってそう言う。
「可愛い嫁の為なら、世界すら敵に回してみせるよ?ボクはね」
とスピカの頭を撫でてあげる。
しかし…魔女の王か…名前からあんまりいいイメージはないけど…敵対しなければいいけど…
アミが馬車の準備を終え、御者席に座る。僕たちは馬車に乗り込み、魔人国の首都を後にした。
どうせまた馬鹿みたいに、盗賊に襲われると思い、御者を雇うのはやめた…有能なメイドがいて助かるよ…
馬車で数時間ほど走ると…街道に奇妙な物があるのを、真眼で確認する。
「壁?しかも鉄の?いくら何でも大掛かりすぎる」
さらに周辺を確認すると、曲刀を持った盗賊と、木に隠れて詳細は見えないが…あと4人ほど待ち伏せしているようだ。
「この盗賊は…なるほど…」
「ご主人様!?壁が…」アミが驚きつつ馬車を止める。
「とーぞく?」「いつものやつかしら?」
「いや…もっと厄介な…」
そうして全員馬車を降り、周辺を警戒する。すると…
「ひゃっは~、上玉の女が5人もいるじゃねえか~、すべておいていくなら命だけは取らねえぞ?」
そんなテンプレな盗賊が現れる。真眼で見ていて知っていたことだが…
ミカド シンジ
???♂
??歳
体力 3/3
筋力 20/20
??? 563500/682500
スキル ≪超神速再生≫≪創造・具現化≫
多分一人目の転生者だろう…僕は盗賊を害虫だとは思っているが…まさしく虫のようなステータスだった…一番下のステータスはよくわからないが…魔力のような物だろうか…まさにイレギュラーな存在だ…
「貴方が、御門さん…死ぬために旅をしているという一人目さんですか?なぜそんな定番テンプレな盗賊を…」
「…見通す目を持ってるってのは、本当のようだな」
真眼の事を知っている?誰にも話していないはずだ…
思考する僕に、御門さんは近づいて来て、アミとミカとナギがそれを遮るように立ち、盗賊から僕を守ろうとしてくれている。
「お前ら。俺の邪魔をする奴をどけろ」
ダダダッとメイドの前に獣人が4人現れる。敵対するのか?
「戦うのですか?僕は容赦しませんよ?」
僕は剣を抜く。敵対するなら蹂躙するまでである。
「おれは弱い一般人を巻き込むのは嫌なんだよ。用があるのはお前だよミカヅキ卿。ちょっとツラァ貸せや?ぼこぼこにしてやるからよぉ」
そう言ってとても悪そうな顔をする。ちょっと楽しそうな…そんな顔だ…
なんとなく、察した。
「アミ、ミカ、ナギ下がって」
メイドを下がらせ、相対する。するとミカドさんも獣人達を下がらせる。
「いい女を侍らせてんな?俺が勝ったらくれるか?」
虫の分際で…っと‥冷静に冷静に…
「じゃあ僕が勝ったら、後ろの可愛い獣人さんたちはもらえるんですか?」
「いいぞ」
「なっ!?彼女達はあなたを慕ってるのでは?」
即答された…なんなんだこの人は…苛立つ…
「だからどうした?どうすんの?交渉はせいり…」
最後まで言わせはしない。真眼の能力なのか、身体能力の方なのかわからないが、僕は戦闘状態で集中すると、周りが止まったように見える。厳密にいうと止まっているわけでなく、少しづつ動いているのだが…その中で僕だけが普通に動ける。なので…
言い切る前に、心臓に向けて剣を刺す。嫁に危害を加えようとするなら殺すまでである。
しかし彼のステータスは一向に減らない。つまり死んではいない…はずなのだが…
倒れたまま一向に動かない…え?
「そんな…シン?」と狐族の少女が信じられないという顔で見ている。
「え?この程度で死なないですよね?」
ステータス的には死んでいないはずだ。
「では…私はシンの魂を追うのでこれにて…」
そう言って、獣人達が自らの武器を、首に当て、自殺しようとしている。
「なっ!?やめろぉ!」
その武器が首に刺さる前に、金色のたらいが、獣人たちの頭に降ってくる。まるでコントのように…
全然笑えない。
「…あのなぁ…俺が死んだら、次の男を探せよ?一緒に死にますとか重すぎるわ…」
そう言って何事もなかったかのように起き上がるミカド。これだけ想われて…
もう少しで彼女たちは死ぬとこだったんだぞ!?
「ふざけないでください!!何がしたいんですかあなたは!?」
「あわよくば、獣人を、愛され上手なお前になすり…んんっ!お前を愛してもらおうと思ってな。獣人は強い人を、好きになるみたいだしな」
「彼女達を愛する気はないんですか?」
応えてあげる気はないのか?彼にとっては彼女たちはただの荷物なのか?
「人じゃなければ…愛せるんだがな…んで?俺が本気で戦うと周りが全部死ぬわけだがいいのか?嫁が全部死ぬぞ?ここでやるのか?」
なるほど…では移動しよう。ここでは話せないこともあるだろう。
ミカドの腕を掴む。
「じゃあ、ステージ移動ですね」
ブン投げる。なるべく遠くへ。
「ミーシャ、シャルこっちは任せたよ」
そう言って僕はブン投げた彼を、真眼で追い、そこに向かって飛んでいく。
ボコボコにしてやれば、少しは彼もマシになるのでは?と思い…
圧倒的な力の差を見せつけるため。本気で彼を打ちのめすと心に決めて…




