贅沢な船旅
朝テントを回収し、馬車を出発させる。今日の御者はアミがやっている。
しばらく進み、お昼を過ぎたころに、目的地の町に着いた。
町の3分の2は、飛空艇の発着場になっていて、住居はほぼなく、宿屋や、特産品売り場など、普通の町とは違った作りになっていた。
馬車に乗ったまま、飛空艇の発着場に向かい、首都のギルドでもらった紹介状を、受付のお兄さんに渡す。
「確認しました。飛空艇の出発は明日の朝方になります。馬車も乗せますか?」
「乗せてもいいんですか?」
乗せれるなら乗せたい…向こうでも移動は馬車だ。
「ミカヅキ卿は最上級でお取り扱いしろとのことですので、馬車3台までは乗せられます」
「3台も…では1台だけお願いします」
「では、明日馬車で、こちらにお越しください」
「はい。では明日」
そして馬車を厩舎に預けにいく。宿も取ってくれているので、そちらに向かう。
そういえば…飛空艇内で襲われたりしないよな…それで飛空艇が落ちるとかあったら嫌だな…
「皆、先に観光しておいで、夕方には宿に帰るようにね」
「ツバサはいっしょにいかないの?」
と僕の腕にしがみついてくるシャル
「ちょっと聞きたいことがあったのを忘れててね。終わったら合流するよ」
「わかった!すぐきてね!」
そうして彼女たちと別れ、発着場に戻る。
乗ってくる客を、少しでも知っておいた方が良さそうだと思ったからだ。
「飛空艇の出発は明日ですよ?ミカヅキ卿」
獣人の女性が僕に話しかけてくる。
「えっと…どちら様でしょうか?」
「首都のギルド職員の親戚ですよ。ミカヅキ卿の、この町での準備をお願いされましてね」
狐族は、みんな家族のようなつながりがあるのか?
「明日の飛空艇は、ミカヅキ卿以外は、すべて乗組員です。乗客はいませんよ?」
「え?僕なにか言いましたっけ?」
「そんな顔をしてらっしゃったので…」
どんな顔だよ…
「それに…これ以上予定が狂うと、あの子の計画に支障が出ますしね…」
そんなことをボソッと口にする。
「何の策に、僕を嵌めたいか知りませんが…敵対するなら叩き潰すだけです」
「もちろん敵対の意志などございません。ミカヅキ卿には、安全に魔人国へ到着して頂きたいだけですよ?こちらの盗賊の件は、魔人国領までは、手を出せないようにしておりますので、ご安心くださいね」
「解決はしてくれないんですね…」
「何分根が深くて…それは後日、とある冒険者に、お願いすることに致しますので…」
「僕じゃないですよね?」
「もちろん違います…」
すると狐族の獣人さんの肩に、黒いインコのような鳥が止まる。
「あらあら‥では私はこれにて失礼しますね…」
「可愛らしい鳥ですね」
「ええ…私の一族の愛する、小鳥ですよ」
とにっこりと笑い、狐族の獣人さんは、その場を後にした。
その後僕は、嫁とメイドと合流し、のんびり町を回り、宿で休んだ。
自分の家以外で、こづくりするつもりはないので…ちょっとだけイチャイチャして寝た、とだけ言っておこう。
翌日、馬車で発着場に向かう。馬車は別室らしいので、乗組員の男性に引き渡した。
僕たちが乗り込むとすぐ町を出発した。
本当に僕たちだけなんだな…乗客…
部屋を案内してもらい、確認するとすぐ甲板にでる。
するとそこはもう空の上で…
「おぉ…これが飛空艇…イメージとちょっと違うけど…すごいなー」
空の上にある海を、航行している感じだった。
「まさか人生で、飛空艇に乗れる日が来るとはねー」
「こんなおっきいものが、空を飛んでるよ!すごいねー!」
「ちょっと…怖い…です…けどね…」
何もしゃべらないけど、メイド3人も目を輝かせて、外の風景を見ている。
「喜んでもらえたなら、狐さんたちの策にはまった甲斐もあるね」
そう一人で呟いた。
船内にいろんな施設があるらしく、みんなでふらふら歩く。
レストランや、大きな水遊び場、大きな浴場に劇場なんかもあった。
豪華客船に、自分たちだけが乗ってるという、異常な状況だ。なんか落ち着かない…
プールみたいなところで、みんなで泳いで遊んだり、ドレスを着て、レストランで食事したり、劇場でお芝居を見て、感動して皆泣いてたり、浴場は貸し切りなので、みんなで一緒に入ったりと、とても有意義な船旅を過ごしていた。
「いやぁ…これは新婚旅行に相応しいよね~」
お昼ぐらいに、僕はプールサイドの横にある大きなベットで横になりながらつぶやく。
ベットと言っても、透明なビニールのような物で出来ているものだ。中は水なのか、ブヨブヨしている。
後々聞くと、中はスライムの体液らしい。感触が気持ちいい。
「これは豪華すぎるわよ…私は嬉しいけどね」
「ツバサがいれば、シャルはどこでもいいよ?」
「そう…です…ね…」
僕の横で水着を着て、寝転んでる嫁がそう言ってくれる。貸し切りとは言え、僕以外に乗組員もいるわけだ。妻の裸を見てもいいのは、僕だけである。
「そう言えば…飛空艇は魔物に襲われたりしないのかな?」
「ない…とは言い切れないけど、ほとんどないわよ?この高さまで来る魔物自体が少ないのと、来たところで、すぐ迎撃されるからね」
そう言えば砲門も付いてたな…この飛空艇。
「特にこの飛空艇は、人種族の技術の粋を集めて造られた、特別船らしいわよ?普通の飛空艇にここまで豪華なものはないとか聞いたわ」
「ミーシャは物知りだなぁ…」
「ツバサに教えてあげたくて、私なりに色々調べてるのよ?」
「いい妻を持って、僕は幸せだよ…」
「ふふふ…ありがとう」
ふと景色を見ると、飛空艇の横から数キロ先の天気が、大荒れになっていた、バケツをひっくり返したような雨に、雷が降り注ぐ、風が強いのか、雨は横に飛んでいるように見える。
「あれなんだろ?あそこだけめっちゃ雨降ってるね」
「あそこは、大陸のちゅうしんなんだよ?」
そうシャルが教えてくれる。
「ほう?大陸の中心には、なにがあるの?」
「それはわからないよ?でもこの世界の水は、全てあそこから流れているんだって~」
「へぇ~シャルは物知りだな~」
「えへへ~ミーシャだけじゃないんだよ!」
「僕もちゃんといろいろ勉強しないとね…」
嫁に甘えてばっかじゃだめだな…
「ん?あれなんだろう…?」
大陸の中心から、なにか豆粒のような黒い物が見える。すかさず心眼で確認する。
「げ…こっちに向かって飛んできてる!?」
「どうし…ましたか…ツバサ様?」
「ミカ!アミ!ナギ!スピカを連れて、船室に退避!ミーシャ、シャル、僕と装備を整えて、甲板に集合!!」
「「「はい!!」」」
「どうしたのよ?」
「はーい!」
「トラブルだよ…この貸し切り豪華客船のツケか?でっかい魔物がこっちに向かってきてる」
「ええ!?」
装備を整え、3人で甲板に出る。乗務員にも連絡したので、戦闘準備は万全だ。
しばらくすると、魔物の全貌を視認できるようになる。
「おおきいねー!」
「今回はまずいかもね…あれはちょっと…」
「僕がでっかいのをもらうから、その近くを飛んでる奴は任せるよ…船を守って」
体長500mほどあるクジラのような魔物だ。真っ黒でこの船くらいなら一飲みで飲めそうなほど巨体だ。
その周りに5mほど鷲のような魔物が飛んでいる。
真眼で見たステータスなんだけど…クジラの方が…
スタライーター
魔物 性別無し
体力 15000/15000
筋力 10000/10000
魔力 4000/4000
スキル≪収納≫≪消化≫≪飛行≫
鷲のほうが…
レッドアーレンド
魔物 性別無し
体力 1500/1500
筋力 340/340
魔力 200/200
スキル≪飛行≫≪隠密≫
収納ってことは、あの腹の中に収納できるのか?収納スキルは是が非でも欲しいな…
「んじゃあ鳥の方は任せたよ!僕はでっかいのを落としてくる!」
「いってらっしゃーい!」
「気を付けるのよ?」
僕は飛空艇から飛び降りる、バシャーンと海の中に落ち、そのまま下に泳いで、海を抜け、地面まで落ちていく。
「飛空艇に近づけるわけにもいかないからなぁ…」
そのままスタライーターに向かって駆けて行く。
ちょうど真下のあたりに着くと、剣をまっすぐ構え、勢いよく飛ぶ。
スタライーターの腹に飛んでいき、そのまま剣を突き刺し、勢いのまま突き抜ける。
ズドンッ!と人間砲弾が、スタライーターの腹を突き破る。
「クオオオオオオオン!!」とスタライーターが叫ぶ。
「腹を突き刺したくらいじゃ死なないか…とりあえず…落とすか…」
突き抜けた後、そのまま背中に乗り、尻尾の方に向かって走る。
尻尾をガシッと掴み、そのまま飛び降り、腕力に物を言わせ、背負い投げする。
大きな巨体が、徐々に浮き上がり、そして…
ズガーーン!と背中から叩きつけられる。
「あとは能力操作で…」
スキルごと吸い取っていると、最後の足掻きなのか、氷山のような塊が僕めがけて飛んでくる。
「酸素濃度調整…集約…発火…フレアエクスプロージョン!!」
ドォーーーン!と氷山と相殺し、氷が砕けていく。
火はイメージしやすいので、闇魔法に比べたら楽だった。
そして間もなくすべて吸い終わり、カラカラの干物のようなものができた。
どうせこんな大きい物持って帰れないし…このまま捨てておくか…
飛空艇の方を見ると、飛空艇の上に大きな雷雲ができていた。
「ミーシャの大魔法か…じゃあ安心だな…」
ミーシャの編み出した、広範囲殲滅魔法、雷雲を作り出し、鉄杭を打ち込んだ相手に、雷雲から電撃が飛び続けると言うものだ。乗務員に鉄杭と、それを打ち出す道具を用意させてたので、すぐ終わるだろう。
僕はとりあえず、今吸い取ったスキルをちょっとだけ試す。
この魔物を収納できる?しかしスキルは発動しなかった。
つぎは落ちていた石を試す。念じれば収納出来た?取り出すように念じる。若干溶けた石が出てくる…
消化が邪魔だな…あそこにいるレッドアーレンドに消化を付与して殺すか…
そうと決まればすぐさま地面をけり、飛空艇まで飛びあがる。
途中にいたレッドアーレンドを捕まえて、飛空艇に戻る。
「ツバサ!?魔物連れてきて…どうすんの!?」
「まあまあ…」
消化のスキルを、付与できたのを確認して、剣で首を刎ねる。
「これでよし…ミーシャあとどれくらいで倒し切れる?」
「あと数分もすれば…鉄杭は刺し終ってるから…ちょっとツバサ…魔力を私にまわしてちょうだい…魔石のストックが切れちゃって…」
「わかった」
そう言ってミーシャの背中に手を当てる。自分の魔力をミーシャに流す。ある程度流したら、自分の魔力の接続を切って、ミーシャの中に置いてくる感じで…
「ありがとう。ツバサ」
「お安い御用さ」
そして数分後、すべての魔物が空から消えて、戦闘は終了するのだった。




