夢中になると忘れるもの
歓迎なんて言っても、特にそれほど準備するものもない。
しいて言うなら、食事をちょっと豪勢にしようとか、お客様のいる間は、使用人は一緒に食事をしないとか、そんな些細なことを決めるだけだ。
セフィーはお客の前に出さない。まだ不安定なのだ、たまに部屋の隅で体を抱えて、震えている時がある。セフィー曰く、本能を抑えてるので、近づかないでほしいとの事だ。
力になりたいけど…彼女が望んで、この屋敷にいるのは知っている。なら彼女が自分で乗り越えるべきことだと思う。
同郷が訪問してくる時の衣装についていろいろ言われたけど…別に私はただの町長であり、一人の女性だ。そんなおめかししても仕方ない。なのでいつものワンピースでいいよ、っていったら割と簡単に引き下がってくれた。
正直、今のところ色恋沙汰にあまり興味はないんだよね…皆といれば、私は生涯独り身でも問題ないね。
幸せの魔法の原理を知ってしまったので…最近は元の世界の物を、魔法で再現できないか考えている。
今作ろうとしているのは、自動二輪車だ。私はスピード狂の素質があるのかもしれない…セフィーのスピードを体感してから、なんかうずうず、するんだよね。滾るぜ!ってやつだよ!
「マオ様…これだけじゃあ、ちょっとわからないかな…」
「だよね…形はわかるんだけど…どうやって動いてるんだろうね?」
フーコちゃんとあれでもないこれでもない、と悪戦苦闘している。
「まずは自動でタイヤが回るシステムを作ってみようか…」
「風魔法…ですか?」
「それだと力が弱いかな…力強さと速さを出すには火魔法のバーストかなぁ…」
「爆発させて…回す?」
「例えば…」
土魔法で簡単な筒とその中に筒の空洞に隙間がちょっとできるくらいの棒を差し込み…その棒に半円で出来た部品を繋ぐ。
「この筒の中で爆発が起きると…棒が筒から出て、この半円の部品がクルって回る」
「確かに回りますが…これでは車輪になりませんよ?」
「肝はそこじゃなくてね…半円の部品が回ることによって…棒がまた筒に戻っていくでしょ?」
「戻りますね…それがなにか?」
「また爆発させて戻る。これの繰り返しで、自動で押し出す装置ができる…なら後はこれを車軸に繋げば?」
「車軸が…折れる?」
「まっすぐな車軸ならね」
粘土状の棒を作り、中心から左右の部分を均等に波打つように曲げる。
「こうすれば…押し引きで回らない?」
「おぉ…っ!…多少回転は必要ですが…これなら!」
「ただ…精密な部品が必要なのと、強度のある金属、緩衝材代わりになる素材…色々問題だらけだよね…爆発は魔法陣と魔石をくっつければいいんだけど…」
いっそ爆発の衝撃を収束させて…ジェットエンジンってのも…
ひとまず誰でもわかるような、自転車を作成してみて…そこから始めるべきかな…
すっかり研究室になってしまっている、フーコちゃんの自室で、新しい乗り物について、二人でアイデアを出し合うのだった。
魔法の研究というより…力学とか機械科学の研究だよねコレ…
まあしかし…未知に挑戦することはとても楽しい。色々失敗して、反省して、次に生かすために…また試行錯誤する。
研究自体がとても楽しい。これは下手すると、時間も忘れて籠っちゃうよね。
具体的に言うと…30日ほど?ルイさんとルルさんに怒られて、フーコちゃんと共に研究禁止令が発動された…二人とも髪はぼさぼさで、目の下はクマで真っ黒に。服は油でドロドロ、少し痩せたかな?
ちゃんとご飯は食べていた。夕食だけは…ね?
ルイさんとルルさんにお風呂に連れていかれ、綺麗になったら、散髪。そしてルイさんとルルさんとセフィーにがっちり抱きかかえられて眠った…
フーコちゃんはニーアさんの自室で寝るそうだ。フーコちゃんの自室は当面出入り禁止らしい。
もうちょっとで四輪自転車試作第12号ができたのに!!
魔法どこ行ったんだよ…って話だよね…もうすぐ同郷の二人が来るので…おとなしくしておこう。
研究に没頭している間に、仕事が溜まっていたので、ササッと処理する。
終わったらフーコちゃんと失敗作の処分をしに行く。
最初の頃は全部木で作っていたので、全部焼却処分にしておいた。やっと型枠が決まってとうとう鉄を使う段階で怒られたので悔しい。
今日はこのままフーコちゃんと町でぶらぶらする。獣人さんの所に行って甘いものを食べる。
すると、狐耳の獣人さんが私達と相席する。
「マオ様、今朝シン様が獣人国を発たれました。3日後の朝方、首都に到着するでしょう。そして6日後にミカヅキ卿と共にご訪問されるかと…」
あくまで予定ですが…と艶やかに笑う狐耳の獣人さん
「わざわざありがとうございます。楽しみにお待ちしております、とお伝えください」
「ええ…承りました」
それだけ言うと狐耳の獣人さんは去っていった。
「マオ様…大丈夫?」フーコちゃんが心配そうに私を見ている。
「大丈夫だよ?フーコちゃん」
ほんのちょっとの期待しているだけだ。その分ちょっと緊張しているかな?不安はあるけど…まあ準備はしておこう!心のほうのね?
夜、街の明かりが消えたころに、こっそりソフィーに乗って、空の旅をする。
「ん~風が気持ちいい…」
研究でこもりっぱなしだったので、気分転換に付き合ってもらってる。
空はいいよ…遮るものがなく…とても自由だ。私の光魔法がもうちょっと上達したら、セフィーと一緒に空を飛ぶのもいいかもしれない。
そう言えばこの世界は、空の高さには限界があるのかな?なんて上を見ると…
光り輝く灯篭が、数百個ほど空を飛んでいる。上空にある船に付き従うように、出たり消えたりしている。
「わあ~!とても綺麗…」
星のきらめきと、灯篭の淡い光が織りなす、光のコントラストがとても美しく、そして幻想的だった…
「あれが飛空艇か~」
灯篭の光で少し陰っているあれが飛空艇だろう。確か水魔法を空で展開させて、風で帆を張って進むんだっけか…そのため船底には大量の魔石が詰められている。
「ちょっとだけ見に行ってもいいかな?セフィー?」
「キュル!」
そして上空に向かって飛んでいくセフィー。よく見ると砲門が備え付けられている。セフィーが攻撃された時の為、いつでも時間が止められるように、魔力感覚の魔法を紡いでおく。
「結構水の厚さが分厚いんだね」
船底から5mほどの所から水になっていた。どうやって空に水を維持してるんだろう?魔法陣で水の固定を付与している?いや…通ったところの水が落ちてないことから、回っているのかな?
好奇心で、上から見てみたくなった。なので…
「セフィーこの水を突き破って、この船の上まで出れる?」
「クルル…キュルゥ…」
「攻撃されないように、突き破ったら、一回時間を止めて対応するから、心配しないで?」
「キュルゥ!」
セフィーは一旦下に下降し、勢いをつけて水に飛び込む。私は息を止めて…バッシャーンとセフィーが水に突っ込む。
ざばぁーん!と水から抜けたした瞬間、即座に時間を止める。
なるほど…上から見ると船の後方から、縦方向に循環してるんだ。船底部の水は動いてないように見えたけど…これなら水も下に落ちないし、水を固定するという無駄な魔力も、省けるわけか…要は水のキャタピラだ。
ふと船の甲板を見てみると、灯篭をいじってる人がいた。灯篭を知っているという事は…あの人が一人目のシンさん?
ドキドキしながら、私の体を甲板に降ろし…
お兄さん…だよね…?忘れたことはないあの顔…少し大人びてるけど…間違いなく私の知ってるお兄さんが…目の前にいた。
周りの幻想的な風景が、歪んで…泣いてる?体は動かないのに…
私はすぐにお兄さんの元に、駆け寄るために…時間を動かす…そして彼の胸で大泣きしてしまう。
優しく頭を撫でてくれる、暖かい手を感じながら…これはきっと奇跡という名の運命だと…乙女心にそう思ってしまっていた。
いつもお読みいただき有難うございます。




