私の死にたがりのご主人様
ココちゃん視点です。結構頻繁にほかの人の視点を書くと思います。
ご主人様から御貸しいただいた剣のおかげで、ウルフ程度は楽に倒せるようになってきました。
しかし長い奴隷生活で落ち切った体力だけは…何ともなりませんでした。
もうすぐ夜が終わる…月がもうすぐ沈む。それまでは…なんとか生き延びなければなりません。
死にたくない!行きたい!こう思うのはもう2年ぶりくらいかもしれません。
なので私は生きるために…何でもすることにしました。体力がもう持たない私は、戦いを避ける策をとる。
20匹ほど倒したウルフを一塊にしてそこに紛れて隠れる。ウルフの嗅覚をだませるので、効果はあったようです。ウルフ達も多少の知性はあるようで、同族を殺した私を探して走り回っています。
このままいけば…何とか日が昇るまでは生き延びられそうです…
そう思ったのもつかの間、ウルフ達が一目散に逃げていきます。なんだろう?嫌な予感がする…
「グルアアアァァァァっ!!」
「っ!?」
あれは…シルバーベア…このあたりにはいるはずがない、ウルフが避けて通るような上位魔物です。
あれは勝てない…いくらこの剣の性能が良くても…体格差が違いすぎる。
シルバーベアは狼の死骸に近づき、食料として食べようとしているようでした。
私はとっさにウルフの死骸から飛び出る。
逃走を図っていたウルフの数体が、私を見つけ飛び掛かってきます。
すぐさま剣を振りウルフを切り絶命させますが…
音に気付いたシルバーベアがこちらに振り返る…
「グルルゥ…」
目が合う…一目散に逃げても逃げ切れないでしょう。目線を切った瞬間殺される…。
なら…せめて一太刀でも入れて死んでやろう…そう思い剣を構えます。
「ハァ…ハァ…」
「グルァ!」
雄たけびをあげ、こちらに攻撃をしたのでしょう。
攻撃は全く見えませんでしたが…とっさに体を丸めジャンプしました。
ありえない衝撃とともに吹き飛ばされました。棒立ちだったのなら死んでいたのでしょう…しかしもう意識はもうろうとしていました…
それでも生を諦めて、死ぬつもりはありません…すべての力を振り絞って立ち上がります…
「私は…死ぬ…わ…けに…は…生…きる…んだ…っ!」
そう己を奮い立たせ、生き延びるために立ちます…
四足歩行だったシルバーベアは、2足歩行になって立ち上がる…私にとどめを刺すために……
そして爪を振りかざす…しかし…
シルバーベアの攻撃は私には届きませんでした…前を見てみると…ご主人様が血だらけになっています…
「ご…しゅ…じん…さ…ま…?」
「お疲れさま。約束は守るから、今は寝てろ」
そうご主人様は言いました…ご主人様が血だらけになって混乱しているのもありましたが…私はそれより生き延びた達成感と、ご主人様の声に安心してしまい…そのまま意識を手放すことにしました…
目が覚めると部屋のベットに寝かされていることに気付きました。そしてご主人様が声をかけてくれます。
「おはよう」
「お…はよ…う…ございま…す…っ!」
「調子はどうだ?一応結構傷を負ってたから薬は塗っておいたし、どこか痛いところとかないか?」
「いえ…大丈夫です…」
「そっか、んじゃあちょっと話でもしようか」
寝起きで意識が朦朧として、声がうまく出ません…ご主人様からお水をいただき、はしたなくも一気に飲み干してしまいます。それに傷薬を塗っていただいたようで…どうりて傷の痛みがないわけです…
「まず自己紹介からかな、昨日はどうせ死ぬと思ってたからなんも聞いてもないし、教えてもなかったからな。俺の名前はシン、人種族でとある事情で俺が死ぬ方法を探している」
「私は、ココです、ご主人様。獣人種狐族です。死ぬ方法を探す…ですか?」
「そうだね。百聞は一見に如かずってかちょっと待ってろ…」
そういってご主人様はテーブルに置いてある剣を取り出し…胸にさしました!?!?
「っ!?ご主人様っ!?」
ご主人様すぐに剣を胸から抜き刀についた血を布でふきます。
「失礼しますっ!」
気が動転します。この人が死んだら私も首が締まって死んでしまいます。せっかく生き延びたのに…
手で出血を止めようとしましたが…もう血は出てなく…傷もありませんでした…どういう事でしょうか?
ご主人様は私の頭をやさしくなでてくれます。ちょっと気持ちよかったですが…それどころではありません…正直放心しておりました…
水の入った桶を渡され、血の付いた手を洗うように言われます。
「俺は2日後に冒険者ギルドの試験がある。それが終わって3日後に身分書が発行されるわけだが…つまりあと5日はこの町に滞在することになる」
「冒険者とは…ご主人様なら余裕でしょうね」
「獣人種が差別されるこの町は居心地が悪いとは思うけどそれは我慢してくれ」
「もちろんかまいません」
「身分書は、俺がいろいろこの世界の情報を得るために必要だからほしいが、もしココに不具合があればすぐ出ていく予定だから気にせず言ってくれ」
「ご主人様に、ご迷惑のかかることはおかけしませんっ!」
「約束は守りたいタイプだからな…獣人族の国、ココの故郷に連れ帰るまではちゃんと責任はとるし、別に俺は時間だけはあるから、俺のことは後回しでもいいからな」
「故郷に…帰れるの…ですね…」
故郷に帰れる…それはまさに夢のようなことであり…私があきらめていたものでした…どうせ死ぬと思っていたこの命です。最後にこの人にかけてもいいのでは?と思うようになっていました。
「お前の力で勝ち取った権利だ。おれは別に偽善者ではない。ほぼ死ぬと思ってたし、生き残ってるココを見て驚いたくらいだ」
このご主人様は私を救ったつもりはないといいます…私に機会を与えたのはこの人なのに…この優しさにちょっとは甘えてもいいのではないかと思ってしまいます。
「ご主人様のお力がなければ死んで…ましたけど…ありがとう…ございます…」
自分一人なら最初の襲撃で死んでいただろう…不器用で遠回りなこの人の優しさを私は信じてみようと思います…たとえ裏切られてもそれは本望だといえるくらいには…
泣きじゃくる私を愛おしそうに撫で続けてくれるご主人様を…
私が落ち着くとご主人様は部屋から出て行かれました。泣いて目が晴れてしまった私はお水を布に浸し顔を拭き、ご主人様の帰りを待ちます。
しばらくするとご主人様は食事を持って帰ってきました。
「飯もらってきたぞ」
「すいません、ご主人様に取ってきてもらうとか申し訳なくて…」
「いやそれはいいんだが…あれだな…ご主人様ってのはやめようか」
「えっ!?私はもう捨てられるのですか!?」
そんなはずはないと思いつつも、捨てられるかもと考えると…また泣きそうになります…
「いや…約束は守るって…どうせこの町を出たら奴隷は解消するぞ?」
「…え?」
「俺は別に、奴隷なんかほしいわけじゃないって言ったよな。この町の獣人差別で問題があっても、ココは俺の奴隷だっていいわけができるだろ?まあバレないのが一番いいが…この町を出たら西に向かう、そしたらもう獣人国の領土だ、そうなれば奴隷じゃなくても大丈夫ってわけだ」
「それはそれでなんか寂しいですが…ご主人様がそうおっしゃるなら…」
正直この人がご主人様なら…私は奴隷でもいいと思っていた。私のあきらめた夢をかなえてくれるそんな人なのだから…
「ご主人様はやめろって…俺の名前はシンだ。そう呼べ」
「ではシン様と…」
「様づけはやめてほしいが…とりあえず飯でも食おう…」
「はいっ!」
シン様…呼び捨てはまだ恐れ多いですが…いつかはそう呼べると言いなぁとおもいつつ…
食事を食べ終わるとご主人…シン様は私にお湯ときれいな布を渡してくれます。
そういえば奴隷になって体を拭くとか1か月に一回でしかも冷水でした…
「ご…シン様はもう寝るのですか?」
「ゆっくり体拭いて、好きに寝てくれればいいぞ。今日は生き延びろとか言わないしな」
「ははは…ではそうさせていただきますね」
ご主人様は不思議な力で、自分の寝床を出しすぐに寝てしまいました。
私は衣服を全部脱ぎ、布をお湯に浸し体を拭いていきます。
ご主人様寝てますよね…私は裸のままご主人様の顔を見ます…いくら寝ていても男性の前で裸になるのはちょっと恥ずかしかったりしますが…
久々に体をきれいに拭き、すっきりしたところで、ご主人様が渡してくれた寝間着に着替え、空いてる宿のベットに寝ころびます。
ベットに寝ころぶとか…なんて贅沢なんでしょうか…しかしまだ起きたばかりであんまり眠くありません…
眠くもなくベットでゴロゴロします…ちょっとだけ興味本位で…ちょっとだけシン様の寝顔を見ていようかと思いました。ひ…暇なので!
シン様は結構ギラギラとして、切羽詰まっている表情を常にしています。幼さがちょっと残る顔なのに…
どういう人生を送れば…あんなにすべてをあきらめたような死んだ目になるのでしょうか…
寝てる姿は結構かわいいですよね…
ぼーっとシン様の寝顔を見てると、いつの間にか夜も深くなっていて肌寒くなってきました。
人肌恋しさに、ちょっとだけシン様のベットに入ってしまいます。夜這いではありません!ちょっとだけ…でもシン様の体温と、このベットのフカフカさに負けて…
私が眠るまで数十秒かからなかった。
そして翌朝…
ココは目が覚めるとシン様がいなくなっていたことに狼狽する。
あっ…!まさか私が夜這いしたと思われて、呆れられちゃったの…?
また泣きそうになりますが、そんなはずはないと自分に言い聞かせます…しかし不覚でした…まさかあんなにすぐ寝入ってしまうとは…なぜかとても心地よかったのです…
そんなことを考えつつ呆けていると宿のドアが開きます。この部屋に入ってくるのはシン様しかいないはずなので…
「お…おはようご…じゃいま…す…シン様…」
「おはようココ」
昨日のことが恥ずかしくて俯いてしまいます…
「なんかあったのか?」
「いえ…その…何でもありません…」
「その服じゃ恥ずかしいか…ちょっと待ってろ…」
服は昨日寝間着にシン様にもらったものを着ていますが別に全然恥ずかしくはありません…
「そういうわけではないのですが…」
シン様は私に服を渡してくれます。こんな上等な服どこから出ているのでしょうか?
「まあとりあえず今日は町に出るから、耳としっぽは隠しておけ。宿は夕食しか出ないからご飯も食べに行かないとな」
「いえ…そんな贅沢するわけには…」
「ココはガリガリだからなぁ…もうちょっとにくつけたほうがいいぞ?」
「にく…ですか…?」
奴隷は基本1日1食もあればいい方です。私は役立たずでしたから、3日にパンが1個もらえる程度でしたので。体力もそんなにありません…
「せっかくかわいい顔してるんだから、もうちょっと栄養とって健康になればもっと魅力が出ると思うぞ?」
「かわいいっ…ですか…シン様がそうおっしゃるなら…」
かわいい…そういわれると私の体温がちょっと上がってしまった気がします。シン様に魅力的に感じてもらえるなら、何でもいいのかもしれません。
「獣人の国でココが幸せになるためにも、俺ができることならなるべく協力する。がりがりで両親の前に出ても、心配されるだろうし。獣人国まで長い旅になりそうだ、町にいる間に英気を養っておくぞ」
「はいっ!」
シン様と宿を出て冒険者ギルドに行きます。
私はお外でシン様を待ちます。この町は獣種族は差別されます。見つかってしまうとシン様にご迷惑をおかけするので、私はフードを深くかぶり、尻尾をズボンの中に隠します。
シン様を待っていると…人種族の男性が数名で声をかけてきました。
「お嬢さん誰か待ってるの?俺たちと食事でもしない?」
「すいません。もう彼がもうすぐ帰ってくると思いますのでお誘いには乗れません」
「そういわずに、ちょっとだけだから…」
私はシン様から預かってる剣を抜き、
「すいません…彼に怒られるので…」
そういい殺気を出します。一晩とはいえ修羅場を切り抜けてきた私にとって、この人たちは脅威に感じませんでした。
「そそ…そっか…彼に怒られるなら仕方ない…ね…また気が向いたら誘ってね…ははは…」
そういい彼らは去っていきました。
そんなやり取りをしている間にシン様が返ってきました。
「お待たせ」
「いえ全然待ってませんよ?」
そしてシン様と、とりとめのない会話をしながら、食事をとりました。
驚いたのはシン様が18歳だという事です。どう見ても同い年くらいだと思っていましたからびっくりしました。そのことを言ったら…
「童顔で悪かったな…」
なんて拗ねてるシン様がちょっとかわいく思ってしまいました。
そして宿に帰り、シン様はこの世界について聞きたいといいます。
この世界?と疑問に思ってましたがいろいろ話を聞くと納得しました。
シン様はこの世界で生を受けたわけではないという。
そんな話は今まで聞いたことがありません。
そしてシン様は向こうの世界?で死んだそうです。そしてこの世界で自分の死を冒涜されたとおっしゃいました。だからなるべく早く死んで元の状態に帰りたいといいます。
私はそのおかげでシン様と出会えましたから、とても複雑な心境です…ですが…私の気持ちは言っておく必要があると思いました。
「…私はシン様に死んでほしいとは思いません…」
むしろ生きてほしいです。この世界でシン様も幸せに生きてほしいです。できれば私もそのそばにいられれば…
「ココの気持ちはうれしいよ。でも俺は…納得して死んだんだ…それを歪められたくない。もしそれが神による奇跡だとしても」
「それでもっ!!」
「…これは俺の問題だ。でもココを獣人国まで送り届けるまでは死なないつもりだか安心していいぞ」
シン様の意志は固いようです…
「はい…納得はしませんが…いまは考えないことにします…」
「それでいいよ。自分のことだけ考えてればいいから、獣人国に帰ったら自由に生きるといい」
「…はい…」
私は考えます。ずるいとは思いますが…獣人の国に…私の故郷にたどり着かない限り…シン様は死なないで済むのでは…と…
そんなことを考えますが、すぐに忘れることにしました。私だけの都合でシン様を縛るわけには行けないと…。
そしてシン様は、食後また私にお湯ときれいな布を渡し、今夜はベットを2つだして…
「んじゃあ俺は先に寝るけど…ココは俺なんかのベットにはいらずに、そのベットで寝ろよ?」
「…一緒じゃダメなんですか…?」
ダメとは思いつつもちょっとだけ甘えてしまう。
「だめだ。嫁入り前の可愛い女の子が、人族とはいえ異性と一緒に寝たらだめだよ。部屋は分けられないけど…もっと自分を大切にしろよ?」
この人は自分の目標以外は今のところ興味がないのだろう…
「抱き枕を抱いて寝ればさみしさも和らぐとは思うから、これで我慢してくれ」
この抱き枕をシン様と思い我慢することにしましょう。
「んじゃあおやすみ…」
「おやすみなさいませ…」
いつかシン様も前向きに生きれるように願って…
お読みいただき有難うございます。




