白い狼
延々と歩き続け、ようやく首都の外壁が遠くに見える。
「次の情報があればいいんだけどなぁ…」
なければ予定通り魔人種族の国に行く予定だ。死の魔法とかあればいいんだが…
物理で死なないなら、ファンタジーに賭けるしかない。
リリアを背中におぶって歩き、首都に入る。リリアは基本日中は寝ている。
なぜかというと、リリアは夜、俺のベットに入って、何かしようとしやがる。なので野営の準備をやめ、いつも通りベットだけだして寝ることにした。
リリアは強制的に、夜の魔物を、監視、警戒しなくてはいけなくなる。
俺はもちろん寝る。朝起きると魔物の死骸が散らばってて、リリアが眠そうに、たき火の前で座ってる。
俺はそれをおぶってやり、後ろから首筋に牙を立てて勝手に血を吸う。吸われながら俺は歩く。
そんな感じでひたすら歩き続けた。蝙蝠なんだから夜は得意だろ?夜行性だし、と言うと別にそうでもないらしい。人という型枠に少し獣が入ってるのが獣人みたいだ。獣が人に進化したわけではないらしい。
久々に人がいっぱいいるところに来た気がするな。とりあえず宿でリリアを寝かすか…
そんなことを考えていると、灰色の髪をした獣人が俺を見つけて止まる。
「お前…ココは?」
いきなりそう言われる、というか誰だ?ココ?
「ココならどっかで幸せに生きてんだろ?俺はもう関係ない」
「関係ない…ココを…かえせぇぇぇ!」
バッ!と一瞬で目前まで飛びかかってきてシンの顔面をこぶしで撃つ。
シンはリリアを背中から落とし…顔がはじけ飛ぶ
「痛い……シン?」リリアが目を覚ます。
すぐに顔が再生し、リリアに皮袋を渡す。金と魔物の素材と書状が入った物だ。
「ぐるるるるぅ!!」
一旦後ろに飛びのき、まるで獣のように唸り声を上げる獣人。
厄介事である…
「リリアこれを持って冒険者ギルドに行け。その金で宿をとっておけ。俺がいない間、腹を空かせるなよ?すぐ帰るから待ってろ」
俺の身分証も投げて渡し、獣人と相対する。毛が深くなっていく獣人。
こいつの狙いは俺だ。
そう言おうとする前に、目の前の獣人と魔物の中間のような者に腕を肩から食いちぎられる。
俺は颯爽と首都から出るため踵を返す。
「町中だぞ…ったく…おっと…」
迫ってくる、魔物になりつつある獣人が俺を後ろから体当たりしてくる。ぎりぎりで避ける。
「すまん。どいてくれ。あとで弁償する…」
町中のいろんな者を壊しながら、首都を駆けてく。
「な!?魔物が街から!?」
衛兵が槍を構えるが
「すまんが邪魔だ」
衛兵を木製のハンマーで横に叩きつけ吹き飛ばす、吹き飛ばすとハンマーを手放し、具現化を消す。飛んだ先にクッションを具現化しておく。これで死なんだろう。
首都を出たらすぐ、森に入っていく。ああいう類の魔物は、森でこそ本領を発揮するが…
「俺が見た時は獣人だったからな…リリアのような能力なのか?」
人をベースとした獣人が完全に獣になることはあり得ない。
ならそういう類の能力なのだろう。発動条件は分からないし、元に戻る確証もない…
「誰だよ…厄介事を寄越したバカは…」
そして森の奥に入ると、俺は止まる。そして駆けてきた完全に魔物なった獣人に後ろからのしかかられ、首筋を噛まれる。
「俺を喰ってりゃ満足する?」
仰向けになって、魔物と目を合わせる。俺の首筋を噛み切る。
「お前泣いてんのか?」
魔物の目から涙のような滴がずっと溢れている。頭を撫でるとサラサラと毛並みが気持ちいい。
俺は首筋を噛まれながら、ぼーっと頭を撫でていた。
「じゃれてる訳じゃ無さそうだしな…それになんか力を吸われてる感覚があるな」
リリアの時のような、体が怠くなる感じがある。
やはり同じ能力?獣人はみんな持ってるのか?
「っと‥思考放棄してる場合じゃないなっと!」
巴投げの要領で、魔物を投げ飛ばす。
真っ白な狼がそこにいた。とても神秘的な狼が。大きさはそんなに大きくない。1.5mほどだ。
「戦って服従させればいいのか?」
俺は樹脂でできた棍棒を具現化で作り出す。両手で握り構える。
狼は俺との間合いを測るように、横に歩く。そして飛びかかる、動き出ししか見てない俺は、動いた瞬間避けた……はずなのに、牙が頬を掠る。
「ちっ!?」
避けた先の木を足場にし、そのまま俺に迫る。棍棒を振り上げ、迎撃しようとするが、そこにはもういない。速すぎるのだ。
動き出すともう止まらなかった、俺の目には狼の移動する線がかろうじて見える程度で、あっという間に切り刻まれていく。
俺の目にはもう姿を捉えられなかった。だが…
「見えない?なら絨毯爆撃しかないだろ?」
周りに生成していた可燃ガスを一気に爆発させる。そして上空に具現化していた棍棒が辺り一面隙間なく落ちてくる。
ドドドドッドーン!と爆発し棍棒が落ちてくる。俺ごと潰す範囲爆撃攻撃だ。
もちろん間抜けだが俺にも棍棒が降り注ぐ。
俺は、棍棒に押し潰され、地に伏せた状態から起き上がる。
「がるるぅ‥」
土煙が晴れると、倒れて動けなくなっていた狼がいた。
爆発は避けたというのか…焼けた跡が一切ない…棍棒で追い打ちして無かったら、逃げ切られたのかもな…
「ありえない速さだな…さてどうするか?」
とりあえずワイヤーで首を縛って、重りをくくりつけておく。300キロほどあるのでさすがに動けないだろう。
「リリアもそうだが…空腹がトリガーになってるのか?」
俺を喰い尽くすように齧り付いてたからな…血は出るんだが…多分肉体自体は、俺を離れると消える。
肉を食ってるのに腹が満たされない。そんな感じだろう。だから夜、俺を襲う魔物はずっと俺を喰ってる。満たされない腹を満たすために。
俺の爆発の余波なのか、周りに魔物の死体があったので全部集め、捌いていく。
猪型の魔物10体、重量にすれば300キロほどの肉が取れた。
生肉を焼いただけじゃなぁ…と肉に手を当て、下ごしらえの終わった肉を創造する。
あとは…水を生成し桶に入れ、たき火を起こし、串に肉を差していく。
金網を作り、肉を焼いていく。
俺の具現化能力は、いつからかは知らないが、ベースの物があれば、それを作り変えて、別の物を作り出せるようになっていた。
例えば木から紙を造ったり、鉄の塊を武器にしたり。そしてベースがあるものは、消せない。多分俺が死んでも消えないだろう。
「さて…勝負は俺の勝ちだからな。俺の言う事を聞けよ?とにかく喰え。腹いっぱいになるまでな」
と大皿に乗せた大量の肉と水の入った桶を置く。俺はいらない。喰い終わる間に、リリアの時のようなチョーカーを作るのに集中する。
バックルの付いた黒いチョーカーだ。
額に書いた汗を拭い。まだ貪り食ってる。狼の所に行き、背中を撫でる。
動物はいいよな…触ってると落ち着く。人より心が純粋なのだろう。とても癒される。
こいつは元は獣人だっけか…まあフサフサの毛並みに免じて許してやろう。
しばらくして喰い終わったのか、水をペロペロ舐めて…俺に腹を見せて服従のポーズをとる。
まったく面倒かけやがって…腹を撫でてやり、しばらく毛並みを堪能することにした…
ひとしきり満足すると、俺に鼻先を擦りつけてくる狼。
さてと…
「ココって言ってたよな?あいつは狐族の集落で幸せに暮らしているはずだが…?」
「クルル…キュゥン」
「っと‥先にこいつをつけないとか‥」
狼のままだと喋れないのか?首にチョーカーを付けてやる。
すると徐々に、最初見たときの獣人の女の子に戻る。
素っ裸なので服を具現化して渡してやる。
「え…?戻った?」
「いいから服を着ろ。話はそれからだ」
「うん…」
いそいそと服を着て、俺の隣に座る。
「まずは自己紹介か?俺はシンとある目的があって旅をしている」
「獣人種狼族のサーニャ」
「狼族はみんなお前のように変身するのか?」
「しない…と思う…私以外生き残りはほぼいない…」
「そっか…悪いことを聞いたな」
「いい」
特別な固体という事か?まああんまり気にしても仕方ないか…
「んで…ココの件だ。俺は確かにココを狐族の集落に送り届けた。そこであいつは暮らしてるはずだぞ?」
「うん…行ったけどいなかった。聞いたら首都にいるって」
「まじか…」
「私はココをずっと探してた。奴隷になったけど、いいご主人様に出会えて、人種族の首都でココの情報を見つけて、奴隷から解放してくれた。そしてそれからずっと走ってきた」
「人種族の首都からここまで?」
どんだけの距離走ってきたんだ?
「人種族の端の町で、シンとココの話を聞いた。見つけたと思ったら、一緒にいたのはココじゃなかった」
「まああいつは置いてきたしな…」
「何でココといないの?その子はなに?って混乱と怒りがこみあげてたら…」
「獣化したってか…走ってきたって飯はどうした?」
「途中に出会った魔物をたまに食べてた」
はぁ…どんだけココに会いたかったんだよ…
「獣になったら、シンへの憎悪だけが残って…ごめん」
「いいぞ…毛並みを堪能させてもらったしな…」
「えっち‥」
「お前もノリノリだっただろうが…」
お腹撫でて撫でて!ってなってただろうが!?
「気持ちよくってつい…じゃなくて…獣になったら私が私じゃなくなる。あれは獣の本能」
「いいんじゃねえか?本能のままに生きるのが獣人だろ?」
「むぅ…だから…あれは私じゃない…」
「はいはい‥ココに会いたいんだろ?あいつの目的は…多分俺だ。俺とくれば会えるかもしれんぞ?」
「じゃあ連れてって」
「いいぞ…もう色々諦めつつあるからな…」
こいつら獣人は眩しすぎるんだよな…羨ましいよ…
「シン…ありがとう」
「獣人はもう慣れっこだ。ココに会ってから感謝しろ」
いつもお読みいただき有難うございます。




