馬車を奪還
シャルとミーシャの話を聞くと、どうやら僕の馬車は、誘拐の逃走手段として盗まれたそうだ…
衛兵が無能すぎる…
僕の馬車は不動産屋に掛け合ってかなり改造を施している。町の馬車より軽く頑丈にしてもらって、揺れも少なく、馬もいい馬を買ってもらっている。
それが逆に徒になったのか…壊されてなければいいが…
皆私服のまま夕食をとる。家に帰ったあと、休みなのに、料理させるのも悪いと思ったので、家の近くのレストランで夕食をとることにした。
奴隷は断られたが、金の力で黙らせ、個室を用意してもらった。
「僕は明日、馬車を取り返しに行く」
一通り食べ終わった後、みんなに言っておく。
「シャルもいくよ?」
「ツバサ一人で行くの?」
今回はさっと行ってさっと帰りたいんだよな…
「んー…できれば午前中には終わらせたいんだけど…結構遠いから…御者要員にナギだけ連れていくよ」
「え?自分でよろしいのですか?」
「ナギの指導役は僕だし…一人にさせるのも可哀想だし…」
まあ馬車は乗り捨てられてるみたいだし…さっさと回収して帰るだけだ。
「まあ午後には帰れるように走るから、安心して、いつも通り待っててよ」
「むー‥ツバサが言うなら…」
「気を付けてよね…」
家に帰ると、お風呂を入れるために頑張る。まだいい方法が見つかってないので手動だ。
「きょうはツバサもいっしょに入る?」
でっかい桶を持って往復する僕に、シャルは聞いてくる。
「んー?シャルとミーシャだけならいいけど…メイドに申し訳ないし…やめとくよ」
「メイドの皆もツバサなら、いいとおもうよ?」
「はは‥まだ数日しか一緒にいないのに、そんな訳ないよ」
そうして僕はお風呂を入れて、魔法の練習をする。
闇魔法の方は何とか使えそうになった…
朝身支度をして、ナギと一緒に出掛ける。
シャルとミーシャはまだ寝ている。闇魔法の感覚上昇をこっそり使ったんだけど…やりすぎたかもしれない…僕が物足りなくて無理させたかなぁ…
シャルとミーシャはアミとミカに任せて、馬車の奪還に向かうのだが…冒険者ギルドで、救出クエストが、発行されているみたいなので、借りている馬車に乗り、先に冒険者ギルドに向かうことにした。
やたらと人が多く、慌ただしい雰囲気の冒険者ギルドに入る。
「誘拐の件でクエストが発行されたと聞いたのですが…?」
と獣人の受付嬢さんに聞く。
「はい。先日攫われた、第三王女の救出作戦ですね」
「第三王女…」
割と大物が…というか昨日の王城の騒ぎはこれか…
「現在救出隊が結成されておりますが、王女を開放する条件として、地下牢にとらわれている、仲間の開放を求められておりまして…王族と騎士団の間でもめておりまして、動けない状況です…」
この国の王族はそれほど権力を持っていない。三権立法ほどしっかしと、諫め合う形ではないものの、各自が独立して、各々を牽制し合う形で保っている。
国の財政を回す政治屋、治安を守る騎士団、法を決め裁くのが王族だ。
権力的には、王族が上だが…今回の条件は騎士団的にはとても許せるものではない。まだ金銭のほうがマシである。
「僕は独自に動いていいですかね…馬車がとられちゃって…クエスト受注できます?」
「それは困りますが…身分証お預かりしますね…」
僕の身分証をもって奥に消えていく受付嬢さん。
馬車さえ取り戻せば…あとはほかの人が動いてくれるだろう…厄介ごとには巻き込まれたくないものだ…
「お待たせしました…ツバサ様は金の冒険者の資格有りとのことでしたので、今回より金になります」
金の身分証を渡される…
「シャル様とミーシャ様も金をお渡ししたいのですが…」
「あー‥今日は僕ソロなので、また後日、来るように言っておきますね」
「よろしくお願いします。クエストの単独行動は許可されましたが…あまり刺激して、王女が死ぬようなことがあれば、大問題となりますので、重々承知くださいね」
「もちろん自重しますよ」
冒険者ギルドを出て、町に出る前に馬車を返しておく。
「ここからは徒歩ですか?ご主人様」
「まあ帰りに馬車を持って帰らないといけないからな…だが徒歩じゃないよ?」
街道を出てしばらくして、ナギの前でしゃがむ。
「ご主人様?」
「背中に乗ってくれ」
「はぁ…」
ナギを背中におんぶして…
「振り落とされないように、ギュッと全力でしがみついといて」
ギューッと力を籠めるナギ
「んじゃあいくぞっ!」
ドンッ!という音と共に、僕は駆ける。
馬車の位置は確認済みだ。まっすぐそこに行き、さっさと持って帰る。
数十分ほど走り、大きな丘のある場所に出る、この先の洞窟のようなところに隠れ家があるみたいだな…
そして馬車の近くまで来るが…
「見張りがいるのか…」
馬車の周りに、三人ほどが巡回するように歩いていた。
「救いなのは、馬車は意外と丁寧に扱われてることだな…馬も元気そうだ」
馬は馬車につながれたままだが、わりと元気そうに見える。
ナギはずっと僕の背中にひっついたままだ。離してくれない…目を回してるのか?
「ナギ。馬車を奪還したらすぐ街道まで馬車を走らせてくれ。いけるな?」
「はい。ご主人様は?」
「後で追いつく。最悪の場合王女様を救わないといけないからな…」
「光を遮り…闇と成れ…潜伏」
闇魔法で僕たちを見えにくくする。周りの景色に同化する魔法だ。よく見れば若干景色が揺らいでるので見えないこともないが…そこにいるという認識がなければ大丈夫なはずだ。
一人づつ口をふさぎ、首を絞め落としていく。
馬車に潜伏の魔法をかけ、ナギに街道に逃げてもらうようにする。
僕の背中を名残惜しそうに撫でて、馬車に乗る。
「頼んだよナギ。街道に出て、しばらくしたら魔法は解けるから、そのまま家まで向かうんだ」
「ご主人様…お気をつけて」
「無理はしないさ…」
さて…馬車が無くなったのに気づかれるとやばいよなぁ…
街道に出る前は見張りなんていなくて、拾って帰るだけだと思ったのに…もしかして…また移動しようとしてた?
だとするとまずいか…僕のせいで王族が死んだなんてなると、家にいられなくなるよな…
移動する気なら、ここに人質ごと連れてきそうだな…ちょっと待ってみるか…
むやみに隠れ家に突っ込むと間違いなくばれるし…
お昼に帰れそうにないよなぁ…
しばらくボーッと真眼で動向を確認しながら待ってると…5人くらいの男が洞窟から出てくる。
「うわぁ…これはひどいな…」
あの金髪の12歳くらいの少女が王女なのか?
顔が痣だらけになっており、手足は切り裂かれて血まみれで、口から血が足れ、目が虚ろになっていた…
そんな少女の髪を掴み、引きずりながら歩いていた。
そもそも最初から殺す気だったのか…条件が達成次第、用済みってか…
リーダーだけ生きてればいいかな?あの身なりのいい男だろう。
そう決めると僕は目にもとまらぬ速さで、王女を掴んでいた男を素手で殴る。
ボッ!という空気音と共にその男の上半身が消し飛ぶ。
「なっ!?」という男が驚いている一瞬に。
周りの男を殴って消し飛ばし、王女を抱きかかえ、ローキックでリーダの男の片足を蹴り潰しておく。
「逃げれないように両足潰しておくか…」
残った片足を太ももから踏みつぶしておく。出血多量で死んだら死んだときだろ。
ぎゃあああああ‥という叫び声は無視し、王女の状態を確認する。
まずい‥このままじゃ死ぬな…
応急措置として、能力操作で体力を譲渡しておく…しかし徐々に減っていく。
「怪我を治さないとジリ貧だな…ちょっと多めに渡して走るか…」
多めに譲渡しておく。少し肌に赤みが増したようだ。胸に抱きかかえ、真眼でナギの位置を確認、ちょっと抑えめに駆けていく。
「シャルに治療してもらって、冒険者ギルドに引き渡すとするか…」
途中ナギと合流し、馬車に王女を寝かそうと思ったが、離してくれなかった…
そりゃ怖かったよね…痛かっただろう…
落ち着いて…もう大丈夫だからと頭を撫でながら慰め続けた。
家に着くや否や、シャルを呼ぶ。
「シャル!!治療を頼む!」
ダダダダダッという音と共にシャルが走ってくる。
「ツバサケガしたの!?」
「いや‥この子を頼む…」
「これはひどい…ハイヒール!」
少女の体が光に包まれる。数分して怪我はきれいに無くなった。体力の減少もなくなった。
しかし目は虚ろのままだった…
「シャル…」
「体ならシャルは治せるけど…心と魂はシャルじゃ治せないの…」
「十分さ、ありがとう。シャル」
しかしずっと僕を離してくれない…どうしたもんか…
「とりあえず体を洗って服を着替えさすか…背丈的にナギの服を借りるか」
風呂場に行き、水を溜めていく。少女は僕の背中に張り付いたままだ…
お湯を沸かし、あとはシャルに任せようとしたのだが…
「いやああああああああああっ!?」
僕から離れた瞬間、頭を抱えて叫び出してしまった…
「ツバサ…この子の心を治すために…頑張ってくれる?」
「もちろんだよ…出来る限りやるさ」
少女の服を脱がせ、僕は服を着たまま。風呂場に入り体を洗ってやる。その後風呂に浸からせる…
きれいな服に着替えさせ、ナギに頼んでいたスープを食べさせる。
このまま冒険者ギルドに連れていくべきなのか?とはいえこのままでは…
少し逡巡するが…一回ギルドに行くことに決めた。
ナギに御者をお願いし、冒険者ギルドに向かう。
少女をおんぶし、ギルドに入る。
「ツバサ様?その少女は…まさか?スピカ王女…?」
真眼で見た名前だ…正確にはスピカ・ディスノミア。
「実はですね…僕の馬車を取りにいたっところで鉢合わせまして…誘拐した人たちは…」
受付に置いてあった地図を指さして。
「この辺りに転がしてあります。そして問題なのが…」
僕はスピカから少し離れる。
「いやああああああああああっ!?」
冒険者ギルドに悲鳴が響き渡る。何事かと周りの冒険者がこっちを見てくる。
「大丈夫だよ?…ずいぶん酷い目にあってまして…僕の仲間の回復魔法で、体に傷はないんですが…心が…」
スピカを胸に抱き、落ち着かせる。
「そうですか…それではどうします?誘拐した者はこちらで対応しますが」
「僕の家で療養させたいんですが…その辺何とかなりませんか?」
「わかりました…話はつけて置きましょう。ツバサ様の家の場所だけお教えください。あと報酬の件は直接お伺いください」
「…わかりました…」
王族の訪問が確定してしまった…ちなみに来いとか言われたら、無視する予定だ。
王族の対応が遅くて、スピカは死ぬところだった…というか僕が行かなければ死んでいた、偉そうに僕に指示する権利はない。
これはスピカを助けるときに覚悟はしていたので…まあいっかと思いつつ家に帰ることにした。
ずっとスピカは僕から離れなかったが…一晩経つと、抱っこやおんぶじゃなくても手を繋いでいれば落ち着いてくれるようになった。
もう少し立てば少しお話し出来るようになるかな?
午前中ナギと料理研究をしていると、家の玄関からノックする音が聞こえた。
玄関に行くと、綺麗な黒いドレスを着た女性と、その後ろに6名くらいの甲冑を着た騎士がいた。
(王じゃなくて王妃のほうが来たのか…)
「スピカ!」
僕を無視してスピカを見かけるなり、すぐ抱きかかえて連れて帰ろうとする。
母親なら大丈夫かな?とおもったんだけど…
「っ!?いやっ!いやああああ!?」
と僕の方に走って来て、ぽすっと胸に収まる。
「はぁ…で?何か用ですか?」
いい王族ではなく、悪い方なのか?
「いくらお望みなのですか?私はスピカの為にならいくらでも金銭を積みましょう」
見当違いもいいところだ…
「冒険者ギルドから何も聞いてないんですか?僕は彼女を助けたい、心も治してあげたいとは思っていますが…あなたがそうでないなら、発狂する彼女を、勝手に連れて帰ってください」
スピカが僕の胸で震えている。
「…金ではないなら何ですか?権力ですか?貴族位でも欲しいのですか?」
「話になりませんね。じゃあ報酬として彼女、スピカを僕にください。これでいいですか?」
「なっ!?…すいません…私としたことが…そういうつもりではなかったのです…」
僕も彼女の意図を若干感づいてはいる。心配だった、そしてもう、誰も信用できなかったのだろう…
「いえ‥なんとなく察しました。ご心配だったのでしょうね。とりあえず家に上がりますか?」
「今日は娘の顔を見に来ただけですので…また後日ちゃんとした機会を作りますね」
そういって彼女たちは引き返していった。
後日書状が届き、5日後、城に来訪するようにという旨が書かれていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。




