死なないということは生きていないということ
「ふあぁぁ…」
いつも通り日の出よりちょっと前に目が覚める。日の出とともにその方向に歩いていく日々だったのでその癖だ。
そしてボロボロに壊れたベットから降り、噛みついてるウルフを刺殺して、服を着替える。
「あの奴隷ちゃんは生きてるのかな?」
十中八九死んでると思いつつも、もし奇跡的に生きてるなら…約束を反故にするわけにもいかない。
自分の具現化したものが、どこにあるのかはなんとなくわかるので、その方向に歩いていく。
500mほど歩いたところで奴隷ちゃんを見つけた。周りはウルフの死体が大量に転がっていた。
まさか本当に生き延びてるとは…『生きる』いう思いはとてつもないな…。
そう感慨深く思っていると…。
「ハァ…ハァ…」
「グルルゥっ!」
どうやら熊(仮)に絡まれてるようだ。俺もこの辺ではウルフしか見かけなかったので、熊(仮)に襲われるとは運がない
しかし…もう日が昇る。つまり奴隷ちゃんは生き延びたのだ。
「グルガァァ!」
熊(仮)が右前脚を横に振り、奴隷ちゃんを吹き飛ばす。
「くぅ…っ!」
ガードはしていたようだが、体重差は覆らないようだ。
日の出を確認し、俺は走り出す。
熊(仮)も奴隷ちゃんに向かって走り出し、とどめを刺しに行く。
「私は…死ぬ…わけに…は…生き…るん…だっ!」
そう言いながら、フラフラと奴隷ちゃんは立ち上がる
立ち上がったところで熊(仮)は動きを止め二足歩行になる。そして容赦なく爪をたてようとするが…
間に合った!
立ち止まったところでなんとか奴隷ちゃんの前に出ることができる。
ザクッ!!
と俺に爪が刺さる。さすがに今回は左腕でガードしているが…
「ごし…ゅじ…んさ…ま…」
「おつかれさん。約束は守るから、今は寝てろ」
そして奴隷ちゃんは意識を手放した。
そして俺は熊(仮)を殺すために…。手のひらを上に向け具現化する。
すると数十本の槍が降ってくる。槍に貫通させるイメージを注ぎ込んで上方に具現化したのだ。
ドドドドドッ!と槍が降ってくる。熊(仮)に、ドスッドスドスと鈍い音を立てて刺さっていき…
「まあ2、3本俺に刺さってるから恰好はつかないな」
熊は絶命する。俺は自分に刺さってる槍をズルリッと抜き、具現化を解除する。
そして奴隷ちゃんを背中に抱え、町に帰るのだった。
町に帰り衛兵さんに挨拶をして、門をスル―。
獣人は差別されるという事なので、ローブを着せて隠しながら衛兵さんおすすめの宿に向かう。
途中道具屋さんで傷薬をかっておいた。奴隷ちゃんが結構傷を負ってるためそれを治すために。
宿のおかみさんには、衛兵さんのツテだと伝えると、快く宿を貸してくれた。
とりあえず10日分借りるという事で一部屋夕食付で銀貨10枚払っておく。割り引いてくれるといったがそれは悪いので断っておいた。その代わり…勝手に部屋に訪問してくるのはやめてもらうことにした。背中に背負ってるのが獣人だとばれると、面倒くさいからな…
「ギルドには明日、犬歯を持っていけばいいか…今日は部屋でのんびりしておこう」
奴隷ちゃんのこともあるしな。
奴隷ちゃんをベットに寝かせて、部屋にある椅子に座り具現化能力の実験をすることにした。
拳銃は外見だけなら作れるのだが、構造や弾の発射される原理などがわからないため使い物にならない。
布とか衣服は作れるが、動物の皮や絹のような生物の一部を使うようなものはできないっぽい。なので合成繊維っぽいものでできたものしか作れないが。想像できる限りならどんな衣服でも作れそうだ。
生活用品はキャンプで使うような簡単なガスボンベやライターなどを作れることからたぶんガスそのものも作れると思う。これを使えばいろいろできそうではある。
電化製品も作れないこともないが、そもそも電気が供給されない文明なのであんまり意味はなさそうだ。
という感じで一応いろいろと実験しているといつの間にか日も傾き夕方になっていた。
「ん…っ」
奴隷ちゃんもどうやら目が覚めたようだ。
「おはよう」
「お…はよ…う…ございま…す…っ!」
寝起きで意識がもうろうとしていたが、完全に覚醒したようだ。
「調子はどうだ?一応結構傷を負ってたから薬は塗っておいたし、どこか痛いところとかないか?」
「いえ…大丈夫です…」
「そっか、んじゃあちょっと話でもしようか」
そしてまず彼女のことについていろいろ聞くことにした。
水をコップに入れて渡し、それを飲み干し、のどが潤ったからか、しゃべれるようにはなったようだ。
「まず自己紹介からかな、昨日はどうせ死ぬと思ってたからなんも聞いてもないし、教えてもなかったからな。俺の名前はシン、人種族でとある事情で俺が死ぬ方法を探している」
「私は…ココです…ご主人様。獣人種狐族です。死ぬ方法を探す…ですか?」
「そうだ。百聞は一見に如かずってかちょっと待ってろ…」
そういい俺は、テーブルに置いてあった刀を手に取り胸にさす。
「っ!?ご主人様っ!?」
そして刀を胸から抜く、あら不思議傷がどこにもない。血は出るけどね
「失礼しますっ!」
そういうとココは顔色を青くして、刃が刺さっていたところを撫でる。
「こういう事なんだよ…俺は死ねない…死ねないという事は生きていない様なものなんだよ」
心配そうに俺の胸を撫で手が血だらけになっているココの狐耳を撫で安心させて、彼女を引き離す。
「まあ俺のことは俺がどうにかするとして、今後の方針を言っておく」
桶に具現化で水を入れ、ココに血がついた手を洗うように指示し、話を続ける。
「俺は2日後に冒険者ギルドの試験がある。それが終わって3日後に身分書が発行されるわけだが…つまりあと5日はこの町に滞在することになる」
合格すればの話だがな…
「冒険者とは…ご主人様なら余裕でしょうね」
「獣人種が差別されるこの町は居心地が悪いとは思うけどそれは我慢してくれ」
「もちろんかまいません」
「身分書は、俺がこの世界の情報を得るために必要だからほしいが、もしココに不具合があればすぐ出ていく予定だから気にせず言ってくれ」
「ご主人様にご迷惑のかかることはおかけしませんっ!」
「約束は守りたいタイプだからな…獣人族の国、ココの故郷に連れ帰るまではちゃんと責任はとるし、別に俺は時間だけはあるから、俺のことは後回しでもいいからな」
「…故郷に…帰れるの…ですね…」
涙目になりながら、生き延びた実感をいまさら感じたのか、そうつぶやく
「お前の力で勝ち取った権利だ。おれは別に偽善者ではない。ほぼ死ぬと思ってたし、生き残ってるココを見て驚いたくらいだ」
そう微笑みながら彼女を見た。
「ご主人様のお力がなければ、死んで…ましたけど…ありがとう…ございます…」
ありがとうございます、そう何度も言いながら彼女は泣き崩れてしまった。
「うああああぁぁぁぁっ!」
慰めるように泣き止むまで頭を撫で続けた。
夕食に食堂に降り、部屋で食べるからと二人分の食事を受け取る。
「おにいさん、女の子泣かせていったい何やってるんだい?約束だから部屋にはいかないけど、あんまりうるさいと困るねぇ」
ため息交じりにそう言う宿のおかみさん。防音とかそう言うのが全くないんだな…
「すいません…今後おとなしくしておりますので…あとお湯とかってもらえたりしますか?」
「銅貨1枚で桶一杯だよ」
「じゃあ桶一杯分ください」
そういい銀貨1枚渡す。銅貨99枚帰ってくる。小銭邪魔だなぁ…
銅貨を皮袋に入れ、食事が終わったら取りに行くと言っておく。
階段を上がり、食事の乗ったトレーを二つ持って部屋に帰る。
「飯もらってきたぞ」
「すいません、ご主人様に取ってきてもらうとか申し訳なくて…」
「いやそれはいいんだが…あれだな…ご主人様ってのはやめようか」
「えっ!?私はもう捨てられるのですか!?」
うるんだ瞳で、こちらを上目使いで見つめてくる。
「いや…約束は守るって…どうせこの町を出たら奴隷は解消するぞ?」
「…え?」
「俺は別に、奴隷なんかほしいわけじゃないって言ったよな。この町の獣人差別で問題があっても、ココは俺の奴隷だっていいわけができるだろ?まあバレないのが一番いいが…この町を出たら西に向かう、そうしたらもう獣人国の領土だ、そうなれば奴隷じゃなくても大丈夫ってわけだ」
「それはそれでなんか寂しいですが…ご主人様がそうおっしゃるなら…」
「ご主人様はやめろって…俺の名前はシンだ。そう呼べ」
「ではシン様と…」
「様づけはやめてほしいが…とりあえず飯でも食おう…」
「はいっ!」
衛兵さんのおすすめもあって割とおいしい夕食を食べ空になった食器を持ち食堂に降りてお湯をもらいに行く。俺は別に食わないでもいいが、ココが俺に遠慮して食べなくなるので食べておいた。
お湯をもらい部屋に帰る、お湯と布をココに渡し、俺は寝る準備をする。俺はこの世界に来てからは早寝早起きなのだから。
(正直もう眠い…)
「ご…シン様はもう寝るのですか?」
「ゆっくり体拭いて、好きに寝てくれればいいぞ。今日は生き延びろとか言わないしな」
「ははは…ではそうさせていただきますね。」
いつものようにベットを具現化し、ジャージに着替えて寝る。
ご主人様がベットを床で~とかいうテンプレはやらないのだ。不毛だからな…
そして眠りにつく…この世界にきて初めて魔物にボロボロにされない寝床であった…
お読みいただき有難うございます。




