教会の孤児院
僕とシャルとミーシャとサーニャの4人で北に向かう。
目指すはミーシャの育った孤児院だ。
ミーシャは別にいいよ、と言ったけど…どうせ首都に行く通り道なのだから、ちょっと寄って行ってもいいと思って行くことに決めた。
なぜ首都に行くかというと、僕は首都で家を買いたい。田舎でのんびりもいいかもしれないが…いろいろと不自由しない首都で暮らすことにした。
まだまだお金は要るけど…それは後々溜めて行けばいい。僕たちの実力ならそう時間はかからないだろう。
というわけで北にあるミーシャの育った孤児院がある町に向かい、その後首都までにある町を、転々としながら旅をすることにした。
途中の町の奴隷商で、サーニャのお目当ての情報がないか調べるためにも、一日は町に滞在する予定だ。
今回はちょうど、その町まで行く行商さんがいたので、護衛という形で乗せて行ってもらうことにした。
「銀の冒険者様に護衛を頼めるなんて、私もついていますな」
馬車の中ですこし商人さんが僕に話しかける。
「いえいえ…僕らもちょうど向かうところだったので、ありがたい限りです」
馬車が5台ほど走るうちの一台は僕らが乗る人用の馬車だ。馬車の前と後ろに座るところがある。
商人さんの横に僕が座り、向かい側に女性三名を座っている。
そんなことはしないと思うが…商人さんが僕のパーティーに手を出したら叩き出して、御者の横に座らせるつもりである…
「して…この先の町に何か御用があるのですか?特に目立ったものはありませんが…」
商人さんの言うことはもっともだ、孤児院があるとはいえ特に目立ったもののない小さな町だ。
駆けだし冒険者の町、ケインの町に比べれば、四分の一くらいの大きさの町だ。
「ちょっと孤児院に用がありまして…特に長期滞在はする予定はないので…まあ気まぐれみたいなもんですよ」
「そうですか…もしまた縁があれば、護衛をお願いしたいですねぇ」
「こちらこそ」
実はこの馬車は、数回も魔物に襲われている。通常そんなことはないそうなのだが…
商人さんいわく異常だそうだ。そもそも護衛なんて、保険のようなもので、活躍することは少ないそうだ。
僕が魔物を引き寄せてる?そんなはずはないと思うが…
夜通し戦闘することが多かったので、女性三人はぐっすりと寝ている。さすがに僕も寝てしまうと、緊急時に対応できないので寝れないが…
一応真眼でこの辺り一面の警戒はしている。そして真眼で次の町が見える。
四角く1mほどの外壁を囲った小さな村だ。孤児院は多分あの小さな教会みたいなところかな?外に子供たちが数名見える。見たところぜんぶ人種族のようだ。
ケインの町からでて6日ほどだろうか?ようやく次の町に到着した。
「ではご縁があればまた…」
商人さんは補給だけ済ませ、次の護衛を乗せ、町から旅立っていった。よっぽど急いでいるんだろうか?
「とりあえず宿よね!こっちにあるわよー?」
ミーシャが案内してくれる。宿の部屋を3部屋取る、ミーシャ、シャルとサーニャ、そして僕で3部屋だ。
サーニャは命令でシャルとミーシャに危害を与えないように縛っているので安心だ。まあそうでなくともこの二人は仲がいい。さすがに3人だと部屋が狭いので、ミーシャに1部屋割り当てた。
宿をとったら孤児院に向かうことにした。まだ日が真上にある。孤児院で話を聞いて挨拶したら、今日は宿で休もう…ほかの3人は自由行動でもいい。
そこには小さな…ホントに一般の民家と変わらないくらいの、小さな教会があった。この世界の宗教は普及していないのだろうか?
「シスター!帰ってきたよ!」
「あらあら‥ミーシャおかえりなさい…」
抱き合って挨拶する二人。
「そちらは?」
「私の大切な人達!」
あらあら、とこちらに挨拶してくれる。
「ここの孤児院の責任者のミラでございます。どうぞお見知りおきを…」
「ツバサと申します。ミラさん」と頭を下げる。
「シャルだよ!」と手を上げるシャル。
「サーニャ」ボーと前だけ向いて答えるサーニャ。
「ここではなんですから応接間にどうぞ」
そう促されて、ミラさんの後ろに付いて行く。
中に入ると縦半分は奥行きのある小さな礼拝堂だ。その横半分の奥側にソファーが置いてある応接間兼台所だろうか?下半分は孤児たちが寝泊まりする部屋といった感じだ。
「ミーシャを連れて帰ってくれてありがとうございます。卒業した孤児にもう一回会えることは稀なので…嬉しい限りです…」
頭をさげてミラさんがお礼をしてくれる。
「いえいえ。ミーシャは僕の大切な人ですから…僕こそミーシャを育てていただき、ありがとうございました」
「ふふ…いい人に巡り合えたのね…これも神のご加護かしら」
「ええ…ホントにね…それにしても孤児の数がだいぶ減ってるわね…孤児自体が減ってるのかしら?」
「実は…この孤児院は閉鎖することになったの…だからもう受け入れてないの…」
「ええ!?無くなっちゃうの…?」と悲しそうにミラさんに聞くミーシャ。
「済んでしまったことはいいの…それよりわざわざ、こんな小さな村の孤児院に来た理由を、聞いてもいいかしら?」
と僕をまっすぐ見据えるミラさん。お見通しか…
「実はミーシャの種族についてなんですが…」
僕の能力を隠しつつ、ミーシャが魔人種の血を受け継いでることを話した。
この世界ではほかの種族が、愛し合って子供を生すことは、稀だそうだ。魔人種は魔力量で差別されたりする、魔力の少ない人種族なんて、ありえない話だろう。獣人種は力のないものを差別する。
そういう特性故、あまり他種族での恋愛はない…はずなんだけど…
「…知らなくてもいい事って、この世にたくさんあると思いますわ……それでもミーシャ?あなたは聞きたいかしら…?」
「……」
黙るミーシャ。僕としてはミーシャが聞きたくないならいい。ミーシャはミーシャだ。僕の大切な女の子だ。
「いい話ではないわ…だから私は、この話をする必要がないと思ってる…どうする?」
最後通知だろう…ミラさんが静かに聞いてくる…
「聞くよ…シスターミラ…私の母と父のことを教えて…」
「…最初に言っておくわね…あなたの父親はわかりません…そして母親も生きているかわからない…」
とある奴隷の魔人種族の少女がいました。彼女はありふれた村の口減らしのために売られた奴隷でした。毎日娼婦として、いろんな人に買われました。
そして彼女はとうとう誰の子かもわからない子を身ごもりました。しかしもう彼女は心が壊れており、なんとかミーシャを出産したものの、子育てができる状態ではありませんでした。
奴隷商は困りました、子供ができる行為は禁止いていたはずなのに…心が壊れた人形のような彼女は買った男の言う通りに動くだけの人形だったのです。
奴隷を妊娠させるなんて奴隷商としては失格です。なので乳母を雇い、遠く離れた地へと、おいやり孤児院に預けました。最東端の孤児院に…
「そしてその雇われた乳母が私です…ミーシャと名付けたのも私です。私はここのシスターとして雇っていただき、孤児達とともに自分の息子も育てていました…」
「そっか…」
ミーシャは特に何も感じないように納得した。
「じゃあミラさんが、私のお母さんじゃない…なーんだ…緊張して損した…」
「ミーシャはそれでいいのですか…?」
「ツバサは私が奴隷の子で父親は誰かわかんないけど…それでもいい?」
そう僕に話を振るミーシャ。
「もちろん!ミーシャが僕でいいなら‥僕はミーシャのすべてを受け入れるよ?」
「ありがと!私はそれで平気だよ?お母さん!」
ふふふ~と嬉しそうに笑うミーシャ
「ミーシャ……ごめんね…私の愛する娘…」
ミーシャに抱き着いて泣くミラさん。
しばらくミーシャがミラさんを慰めるのだった…
ミラさんが落ち着いて、ミーシャが孤児院がつぶれる話を聞いた。
この孤児院は首都から遠く、教会の物資を届けるのにとてもコストがかかる。なので孤児は首都周辺で引き取り、ここは、今住んでる孤児の子たちが育ったら取り壊されるそうだ。
宿に帰り、みんなで夕食にした。そして僕はこの世界のことについて聞く。
「この世界は宗教って廃れてるの?」
僕は疑問だった。普通宗教ってのは一度普及すると、割と長く続くものだし…異世界だと一大勢力だったり、裏で悪いことをしてるイメージだ。
「大昔だとそれはもう町に必ずひとつ大きな教会があったそうだけど…最近だと神様は軽視されがちよね」
とミーシャが教えてくれる。
「見えない神より、明日の飯」とサーニャ
「魔人種族の国なんて神を従える為の召喚の儀式とかやってるし…最初は神様を召喚して謝罪する為、だったらしいけど…今唯一教会があるのは人種族の国だけよ…」
「じゃあどうにもならないか…できればミーシャの育った孤児院を何とかしてあげたいな…と思ったけど…」
「ツバサは何でも救おうとし過ぎよ?別に故郷がなくても、私の居場所はここにある。それで充分よ」
「んじゃあ気が向いたらまた帰って来よう。ミラさんは息子さんとこの町で住むみたいだし」
ミラさんは孤児院がつぶれた後、この町で過ごすらしい。息子さんもこの町で農夫として働いてるそうだ。
「そうね…たまには会いに来たいわね」
「僕の家ができたら、雇ってもいいしね!」
「どんな豪邸を建てるつもりよ…」
呆れるように僕を見るミーシャ。夢も家もでっかく!目標は高く!だよ?
その後、各自部屋に戻る。
僕は最近練習している魔力操作を始める。これがとても難しい…自分の魔力を感じる、この最初の段階で躓いている…
水の入った桶を前に唸っていると、シャルが僕の部屋に入ってくる。
「ツバサ!なにしてるの~?」
と後ろから抱き着かれる。
「魔法を使いたくて…魔力っていう力がわからないんだよね…」
水に手を入れながら考える…うーんステータスで見たから…魔力はあるはずなんだけどな…
「シャルが手伝ってあげるよ!」
そう言ってシャルは抱き着いたまま僕の胸に手を当てる。
「シャルがほじょして、ツバサの魔力をうごかすね?」
めを閉じてーとシャルが言うので目を閉じる。
「ツバサの魔力を…まず右手にあつめるよ?かんじてね?」
シャルの手からなにかが流れてくる…これがシャルの魔力…あったかくて心地よい…
そしてそれが右手に動いていくのを感じる…ん…確かに僕の中で何かが動いてる感じがする?
「んじゃあ水にとかすよー?」
水がまるで僕の一部になったように感じる…とても微かで消えそうな感じだけど…集中する…
「言葉をつむいで?いめーじするんだよ?」
イメージ…水が僕の手になるように…
「水よ…我が一部として…成れ…!」
「ウォーターハンド!」
「ツバサ、めを開けて~?」
言われて目を開けると
「ちっさいなぁ…」
子供の手のようなものが水面から生えてる。僕のイメージ通りに握ったり開いたりできる。
でも魔法だ!ちょっとうれしくなる
「ありがとうシャル!なんとなくわかったよ」
「どういたしまして!じゃあツバサ…きすしてもいい?」
と恥ずかしそうにシャルが言う。
「いいよ…」
寝る前に、いつもシャルがせがんでくる。いつまでたっても慣れないんだよね…
シャルと軽いキスをすると、シャルは満足して部屋に帰って行った。
明日は冒険者ギルドに行ってクエストを受ける。ミーシャの故郷に少しでも貢献しておきたいからだ。
後は奴隷商だけど…こんな小さな村にもあるのだろうか…?
そしてベットに入り眠る。寝てるときに宿のドアが開いた気がしたが…眠気には勝てない…ので…
いつもお読みいただきありがとうございます。




