生きるという事
獣人の奴隷ちゃん目線です
「んじゃあ…ついてこい」
そういうと、新しいご主人様は森に入っていきました。やっぱり処分されるのでしょうか?
とはいえ奴隷である私は、ご主人様についていくしか、選択肢はありません。さっきご主人様がおっしゃってたことで、久々に私の中にある心が動いた気がしました。
お母さんお父さんに会いたいし、もし国に帰れれば…私はもう一回生きることができるのではないかと…
森で人種族につかまり、奴隷になり、もうこのまま死んでいくんだと悟りました。ならば辛いことがずっと続くより、死ぬ方がましではないか?と思いました。心を閉ざし、死を望む毎日になりました。生きていても、つらいことしかないのです。
ここが獣人種の国なら、奴隷といえそんなことはないのでしょうが、ここは人種族の国、冒険者でもない限り、獣人種は差別されます。耳を切られ、尻尾も切られ、慰め者にされて、見せしめにされて、苦しみながら殺される。
同じ奴隷の人種族がそう言ってました。だから私はここで殺されるように願いました。耳やしっぽが落とされるのは獣人族にとっては屈辱でしかないのですから…
「この辺でいいかな…?」
結構森深くまで歩き、ご主人様が止まりました。もう日も暮れてしまいました。
「俺は飯は食わないけど、とりあえず簡単な飯は作るか…」
そういうと、ご主人様は手からいろんなものを出していきます。魔法?スープのようなものを作っていました。
「魔物の肉も食えるそうだからな、とりあえず体力をつける程度は食っておけ」
「は…い」
そういわれスープみたいなものを渡され食べます。久々の温かい食事でした…
「お…い…しい?」
「生物は作れないが、化学調味料くらいは作れたからな飯食ったら準備しろよ」
準備?確か…ご主人様は言った。『お前次第』と…
「んじゃあ…今から日が出るまで『生き延びろ』」
「え…?」
「俺は寝るぞ、お前ひとりでこの夜の森を生き延びろ。それができたらお前の望み通り、国に連れ帰るのを手伝ってやる」
ご主人様はそういうと、一振りの剣を渡してくる。刃渡りは40㎝ほどで白い鞘の片刃の剣だった。
「一晩生き残ったらいろいろ聞いてやる。その刀は俺からの一つのお節介だ。んじゃあまあせいぜい頑張れ」
そういってご主人様は闇に溶けていった。
私は獣人種でも、狼族や猫族のように戦闘向きではない…狐族の私は、内政や、後方支援などが得意で、前に出る種族ではないのです。なので力もなく、策敵能力もありません。猫族のように素早く動けるわけでもないのです。
でもそんなのはいい訳で…このまま死ぬの?私は死にたい?でももし望むならば…私は生きたい?この辛い生活から抜け出せるなら?そう自問自答する。
幸い久々の食事で少しは動ける。武器もある。このままただ、魔物に食われて終わるくらいなら…
最後の最後に生きてみよう。できる限りやって死んだならそれでもいい。どうせ処分される身だったのだから…
夜の森は魔物が活発になり、昼には単体で偵察しているだけのワイルドウルフが、夜に複数体で狩りを行ったり、運が悪いと群れの頭であるシルバーウルフがいたりする。
そんなたかが12歳程度の戦闘能力の乏しい狐族の獣人が生き残れる環境ではない。
そんな情報を冷静に分析し、生き残れる可能性は、絶望的。そんなことは奇跡だ。何度考えてもそう言う結果になる。
「それ…で…もっ!」
最後にあがいて、戦って、前向きに死のうと!
わずか数パーセントの生き残りを目指して私は覚悟を決めたのだった。
鞘から剣を抜き構える。両手でぎゅっと握り離さないようにする。
ご主人様は言ったこの剣はお節介だと。
ならばもし私が生き残れる道があるとしたら、この剣を使いこなすことだ。
剣術などわからないが、とりあえず振ってみる。
ブン! ブン!
とても軽い、私の身長に合わせてあるのか、とても取り回しが楽だ。
突き、振り下ろし、振り上げ、敵を想定しながら剣を振り回す。
狐族である私に有利な事があるとすれば、予測である。反応速度、頭の回転の速さ、視野の広さが狐族の特徴である。
力と反射速度、身体能力は劣る。だから予測しろ。あらゆる出来事、敵の襲い掛かってくるルート、数、動き、すべてを些細な情報から予測する。
ガサガサと周りから音が聞こえてくる。予測する。方向は後ろ1正面に2右に1左に2。最低でも6体。
同時に攻撃されるのはまずい。なので後ろに突っ込む。
「ガルルァ!!」
いきなり近づかれて驚いたのか、一匹のワイルドウルフが飛び出して、私にのしかかろうとしてくる。
突くと抜くまでに後ろから刺される!なので足に向かって切り付ける。
「てぇいっ!」
前足を横に切りつけることで、切れなくても相手のバランスを崩せば、包囲網から脱出できると踏んだのだが…
ザクッ!
っと前足どころか、直線上にあった胴体まで断ち切られ、ワイルドドックが絶命する。
「…はい?」
いくら狐族が力と身体能力がないとはいえ、人族、特に異世界転生してきたシンよりは、力も身体能力も上なのだ。
シンの具現化した剣は、当たればワイルドウルフ程度、難なく切り刻めるのだ。
大きすぎるお節介だったが、シンは剣を当てられないので、かまれてから殺す。これを彼女がやれば一晩も持つはずがない。そう考えてシンは到底彼女は生き残れないと思っていた。
そして彼女は生き残れる道を模索する。絶望的だった状態が、この剣の性能で生き残れる算段が立ったのだ。
(もしかしてご主人様は…最初から私を助けるために?)
そんなことはないのだが…
彼女は瞳にしっかりと光を取り戻し、この夜を生き延びるために剣をふるい続けるのだった。
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