死にたい少女
首都から歩いて2か月ほどたった。特に必要と感じなかったので馬は借りてない。
町の前に衛兵が数名立っていた。ここが目的地か?
「冒険者だ。ギルドの依頼で調査に来た」
身分書を見せ、衛兵に話しかける。
「…並の冒険者が解決できるクエストじゃないぞ…せめて金じゃないと受けれないはずだ」
「書状を預かってる」
書状を衛兵に渡す。書状を受け取り読む衛兵。
「…なっ!?‥失礼した。生半可な冒険者だと無駄に死体が増えるだけだからな…ギルドマスターの書状をもらうほどの冒険者なら安心できる」
「そうか…しかし町には何もないんだろ?」
「どこまで知ってる?…その話は一部にしか知られてないはずだが…」
「そんなのどうでもいい…何処なんだ?死の森とやらは」
「全部知ってるわけか…向こうに数時間歩けばつくが…一人で行くのか?」
そういって指さす衛兵
「一人でいい。もし帰ってこなかってもほっといてくれ。助けはいらない」
「わかった…健闘を祈る」
そして俺は森に入っていった。
数時間歩くと、異様な光景が目の前に広がる。
ある境目より向こう側の木が枯れている。それだけではなく、全く生物の気配がしないのだ。
特に躊躇せず足を踏み入れる。すると
「具現化したときのような生命力を吸われる感じがするな…」
体がだるくなる感じだろうか。これは…
「とりあえず中心に向かうか…もしかしたら逝けるかもしれん」
木が枯れて始めているところを見ながら中心に向けて歩いていく。 すると洞窟のようなところがあった。
そこまで大きくなく、俺が屈んで何とか入れる程度の大きさだった。
若干意識が遠のく感じがするが…まだ死ねない…んー?命が消えるというより、体力が削られている感じだ。
洞窟暗かったので、たいまつを具現化して火をつける。すると…
「っ!?な…に?」
そんな女性の声がした。
人か…?漆黒の髪の毛が喋ったのだ。しかし獣耳が見える…あれは…
「獣人か?…蝙蝠?」
そうあの耳は確か蝙蝠だ。するとこの獣人は…
「あなたは…私に…近づいても…死なないの?」とたどたどしく喋りだす。
「そうみたいだな…死なないかぁ…」体が怠い感じはあるのだが…これは別みたいだな…
そうだ!この子は蝙蝠ってことはもしかしてチスイか?
「俺の血でも飲むか?」
首を振る獣人。しゃがんでいるのだろうが…髪が長すぎて姿が見えない。
ホラーは案外苦手なんだが…
「腹減ってないのか?それとも飲まないタイプの蝙蝠なのか?」
「わたしは…しにたい…の…わたしが…いると…みんなしんじゃう‥だから…」
「俺と一緒だな…理由はちょっと違うが…」
「わたしを…ころして…くれる?」
「お断りだが…話くらい聞かせろ」
彼女は獣人種蝙蝠族、あんまりいない種族だそうだ、血だけを吸うわけでもなく、普通に食事する。吸血鬼とかではなく、普通に獣人なのだ。だが12歳になった日から、彼女の周りで体調不良を訴える獣人が増えた。
そして彼女はその日から、空腹感が無くなった。その力は日に日に強くなり…2年たつころには周りが死に至るまでになったようだ。
ほかの蝙蝠族でこんなことになったことはなかった。自分の異質さを呪い、自殺しようにもあらゆるものが朽ちていく。なので洞窟にこもり、いつか死ぬ時を延々と待っていた。
ふむ…俺の具現化で抑えられるか?もしくは腹いっぱい食えば収まるか?
まず腹いっぱいの方を試そうかな。
「よし。お前を殺してやる。ついてこい」
「うん…」
とりあえず洞窟から出る。
出たところで向かい合って座る。
俺は腕を差し出し。
「俺の血を精一杯腹に入るだけだけ入れろ」
「え…?」
「早くしろ…心配すんな俺は死なない…遠慮はするな。精いっぱい吸え」
え?え?と戸惑いながら俺の腕にかぶりつく。牙を立てられ、すごい勢いで血が吸われてるのを感じる。
フラッと貧血を感じるがすぐ治る…チッ!
しかしめっちゃ吸うな…この子が腹いっぱいになれば収まるんじゃね?
どれくらい吸ってたんだろうか…ここに来たときは日が真上にあったのに…もう日が暮れてるといえばいいだろうか…
「プハァ…」
とやっと終わったようだ…どんだけ腹減ってたんだよ…
「ハァハァ…ごちそうさま…でした…」と上目遣いでこちらを見ている…
「お粗末さま‥とでもいえばいいのか‥?立てるか?」
俺は立ち上がり、手を取ってやる。
彼女は立ち上がる。身長は俺よりちょっと低いくらいだ170cmくらいか…漆黒の髪の毛が足首まで伸び、服はボロボロに汚れた白いワンピースを着ていた。前が見えなさそうなので、髪を分けてやると金色の瞳と目が合った。たれ目で可愛い顔立ちをしている。
手を引いて森の奥に歩いていく。枯れていた木と枯れてない木の境界線まで来る。
「ここまで来て枯れてないなら…ちょっと向こう側に行ってみろ」と彼女を促す。
「え…?」
彼女は背中を押され境目を超える…しかし
「んー木は枯れないが草は枯れるか…腹いっぱい血は吸ったんだよな?」
「うん…おいしく…て…夢中になった…」と頬を染めながら言う。
ドレイン系の力か?しかも自動発動、見境なし、まったく…俺を見てるようだ…
「ちょっと待ってろ…」
具現化能力を使う。倦怠感が無くなったので全力でイメージする。こいつの見境ない力を殺すイメージで…拘束する…奴隷の首輪…無骨かな‥?チョーカにするか…
丁寧に…力を込めて…時間をかける…
ここまで集中するのは、ココたちの刀を作った以来だな…と額に汗をかき、できたチョーカーを見る。
「ほら…首出せ」
「ん…」目をつむり顎を上に向ける。
赤色のバックルの付いたチョーカだ。それほど目立たないように細めに作っている。
それを彼女につけてやり…
「それでもう一回、横の草むらに入ってみろ」
「うん…」
スッと横に移動する。草は枯れない。成功したみたいだな…
「…もう…私がいても…誰も…死なない…?」
「腹が減ったらまだわからんが…今のところは大丈夫そうだな」
「うっ‥よがった‥」
彼女は俯いて泣いてしまった…さて…どうするべきなんだ…
でもこの力は…俺が死ぬために使えるのかもしれないな…持っていくか?
まあ…この子の能力を殺した、助けた責任は負うべきか…はぁ…俺が死ねるのはいつなんだ…
「どうする?一緒にくるか?」
「いい‥の?」
「いいぞ…まだ死にたいなら勝手に死んでもいいぞ」
「私を…連れてって…」
「そうか。そういえば自己紹介がまだだったな‥俺は人種族のシン。ある事情で死ぬために旅をしている」
「獣人種…蝙蝠族…リリア…私を…殺してくれて…ありがとう…」
とりあえず身だしなみを整えてもらうことにした。ホラーは苦手なんだよ…どこの髪が伸び続ける人形だよ…
髪の毛を切ってやる。どのくらいがいいか聞いたら、シンの好きにして、だそうだ…
肩にかかるくらいで切ってやる。前髪も眉毛にちょっとかかるくらいだ。
散髪が終わると、風呂に入るように指示し、その間服を作ってやる。
膝の下くらいまでスカートが伸びてる黒いワンピースにした。
「シンは…死ぬための…旅をしてる…の?」
風呂から出て黒いワンピースを着たリリアが聞いてくる。
「まあな…リリアならわかるだろ…近づいても、俺が死ななかったんだから」
「うん…でも…死ななくても…いいんじゃない?」
「俺はもう生きてるのがしんどいんだよ…楽になりたい…何もしたくない…めんどくさい…」
「そっか…でも…すぐ死ななくても…いいんじゃない?」
「できれば俺はすぐに安らかに眠りたいな…」
「そっか…でも…それは…もう死んでるんじゃ…ない?」
「俺はもう死んでる?」
「死ぬって…なに?…私は…シンに…救われた…けど…あそこで…ずっと死んでた…の」
「そうだな…俺も…ずっと…心は死んでる」
「ふふ…その割に…私は…救うのね…ほかにも…いるんじゃない…おんなじ子が…」
「……」
死を願う自分が死ねないのに…俺より簡単に死ぬんじゃねえよ…生きたいなら尚更だ…
俺はそう思っていた。
「死んだ心…では…誰も…救えない…よ?…だって‥何にも…考え無く…なるもの…動くことすら…忘れる…くらいに」
「でも、俺は動かなきゃ死ねない。なら死ぬために動かなきゃいけなかったんだ」
「最初は…そうだったの…ね…でも…今は…違うよね…シンは…迷わず…私を助け…たわ」
「リリアを見てるとまるで自分を見てるようでな‥」
「自分を…見てる…ようで?…救っちゃうんだ…ね」
殺さずに?とリリアがほほ笑む。
「……」
俺は何がしたいんだろうな…わからない…ただこのまま生き続けるのは嫌だ。
一人死なない体を持って生きるのが嫌だ。なぜ?
わからない…
「シンは…優しすぎるよ…だから…何でも…背負っちゃうんだ…ね」
「何のことかわからないが…結局目的は変わらない…だが…死ぬ方法が見つかったら、考えてみる」
「うん…」
ベットを二つだし今日はこのまま寝ることにした。一応周りに外壁を作っている。
この周辺に魔物はいないらしい。リリアの所為なのかはわからんが…
寝ようとしたら俺のベットにリリアが入り込んでくる。
「リリア…向こうで寝ろ…」
「いや…シン…私を…救った責任を…とってね…」
「なんだそれ…」
「私は…引いてあげない…よ?」
そういうとギュッと離れられないように全身で抱き着いてくる。
「はぁ…失敗したかもしれないな…」
リリアの件は諦めることにした…好きにしてくれ…
俺はどうしたいんだろうな…死にたい…これは変わらない…でも現状もう試せることもない…
諦めてのんびり生きるのか?ずっと?一人で?無理だな…
死ねる方法が見つかったら…ちゃんと向き合おう…生と死について…
あっさり死んだりしてな
朝目覚めると上半身裸になった俺と全裸になったリリアがいた…何してんだこいつ…
「おい!リリア!」
「昨晩は…激しかった…ね?」
とウルウルした目で見つめるリリア
「何もしてねえよ…俺は一回寝たら起きないしな…」
「いけず…ごちそうさま…でした」
こいつ…俺の血啜ってやがったな…
「きもち…よかった…」
「一人で盛り上がってんじゃねえ…さっさと服着ろ…」
森を下り、町の衛兵に解決した旨を伝えておく。後々確認に行くそうだ。
俺は何も食べなくてもいいし、リリアは俺の血を啜ってればいいから食料はいらない。なら特に必要なものはないので歩いて帰ることにした。
「んじゃあまず首都に帰らないといけないから、帰るぞ」
「ん…」
「遠いが…歩きでも大丈夫か?」
「シンが…いればなんでも‥いい‥」
「自分の身は自分で守れよ…じゃないとおいてくからな」
「余裕…蝙蝠族は…強いから…」
「そうなのか?」
「やって…みる…?」
模擬線をしてみる。蝙蝠族の戦闘能力が気になったのだ。
俺もリリアも素手で森の中で戦う。
俺はまっすぐ突っ込んで鳩尾見向かって掌底を叩きこむ。当たったように思ったが感触がない。俺が突いた分引いているのだ。
ローキックで太ももを狙う。ジャンプで避けられる。そのまま回って後ろ蹴りを放つが横に避けられている。今空中にいたよな?移動できるのか?
リリアが手刀を首筋に振り下ろす、俺は無視してこぶしを握りまっすぐ胴をつくように殴る。するとリリアがくるっと頭を視点に前方宙返りのように回り俺の後ろに着地し、手刀を打つ。
首筋に衝撃が来るが無視し、裏拳でこめかみを殴るように振る。リリアはしゃがんで避ける。
「リリア…お前空を飛べるのか?」
明らかにおかしい。空中を自在に動きすぎる。それに攻撃が全部読まれてる。これは勝てん…身を盾にしても…
「ちょっと…だけ飛べる…ずっとは無理…」
「俺の攻撃を全部読み切ってるのは?」
「振動…見えるから…筋肉の動きで…わかる…うしろも…みえてる」
「そっか…」
この子なら俺の旅に同行してもいいかもな…
「んじゃあ行くか。これからよろしくな」
「ん…死ぬまで…いっしょ」
「そうだな」と苦笑いする
そしてまた俺は首都に戻る。2か月ほどかけて…首都についたらまた情報を集めて、次に向かおう。
ちょっとだけ前を向いてこの世界で生きるのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。




