生をあきらめる少女
早速森に入り、ワイルドウルフを討伐しに行く。
幸いそんなに深くまで戻る必要もなく、町からほどなく歩いたところで出くわした。
「グルルゥ!」
といつもどおり噛みつかれ…
ドスッ!
「キュゥ…」
いつも通り刺し殺す。毛皮をはぎ取るため仰向けに置き、腹部からナイフを入れていく、解体の仕方は詳しくはわからないが、腹部からまっすぐ切り目を入れて剥げばいいだろう。
そう簡単に思ってた時期が、俺にもありました…意外とてこずり、穴だらけになった毛皮を苦笑いで捨てると、犬歯だけ抜いて捨てておくことにした。
そんな感じで犬歯を抜きつつ5体狩り終わり、町に帰ることにした。まだ日は落ちていないが、元の世界の時間でいえば、15時ぐらいだろうか?
帰り道、町の外に広がっている畑で人を見かけた。
人というか…頭に獣耳がついていたので、あれは獣人だろうか?そういえば町には人種族しかいなかった。まあ人種族の国なのだから当然なのだろうか?
そう考えながら見ていると、その獣人の少女が、人種族の男に怒鳴られ殴られていた。
「この無駄飯ぐらいがっ!!畑一つの収穫もできないとはっ!!なんのために、お前を買ったと思っているんだ!ほかの奴隷を見習えよ役立たずめっ!」
「す…いま…せ…ん」
「このままじゃ大赤字だっ!!性奴隷にするにも、この町じゃ獣人なんざ抱くやつはいない!!」
この町では、人種族以外は差別されるようだ。正直どうでもいいが…気にいらんな…
「お前は明日処分する。朝早く森に連れていく。そこで勝手に死ね」
その獣人族の少女は、特に何の感情も持たず、明日死ぬと宣言されても表情一つ変えないのだ。
気にいらない…明日死ねる、俺なら安堵の表情をするだろう。逆なら死ぬことに恐怖し泣き叫ぶだろう。何にも感じず意味なく、死ぬことも生きることも何にも感じない。なんだそれは?
正直嫉妬だ。何簡単に死のうとしてんだ?俺は死ねないのに…死にたくて、もう何もしたくなくて、でも死ねないから死ぬために頑張ってる、という謎な状態の俺を差し置いて、簡単に死のうとしてる、しかも状況に流されて…
もちろん助けるつもりはないが…簡単に死なせてたまるか…死の絶望と恐怖と生への希望をちょっとだけ教えてやろう。生きる、死ぬという事はどういうことなのか…。
「そいつ俺が買ってやろうか?」
その獣人の主人の男に話しかける。
「誰だお前は?まぁどうせ処分する予定だ。買いたいなら構わんが…」
「俺はシン。冒険者見習いといったところか。値段はどんくらいだ?」
「冒険者見習いね、タダでもいいくらいだが、奴隷契約の手続きの手数料で銀貨60枚でどうだ?」
「奴隷契約とかできるのか?」
「これでも奴隷商でな、売れてない奴隷をタダで維持するのももったいないからな。ここで農作業させて維持費を賄ってるのさ」
「なるほどな…」
それで町の外にこんだけ広大な畑があるわけか…奴隷も維持費がばかにならないというわけか、死なれると大損だしな。
「奴隷にも一時借りるのと身柄自体を買い取るのがあるが…処分前の奴隷だし買い取りでいいな?」
「ああ、もちろんそれでいい」
俺は金貨一枚手渡す。
「釣りはいらない」
「えらく羽振りがいいんだな。では血を一滴この契約書に垂らしてくれ」
俺はナイフで親指を浅く切り血を垂らす。
「これで契約は成立したが奴隷に関していろいろ説明はいるか?」
「ああ…一応頼む」
奴隷契約とは首輪がはめてあり、[命令]の権限を使用すると、奴隷はそれに逆らうと首が閉まっていくようだ。その主人には危害を加えることはできない、主人が死ぬと奴隷も首が締まって死ぬからだ。奴隷解放は契約書を破り捨てれば首輪が取れるらしい。
要約するとこんな感じだ。
衝動的な感情で奴隷を手に入れたが、ちょっと後悔している…旅に荷物は持たない主義なのだ。
まあこの奴隷が生き延びられたらの話である。
「さて…俺はお前を買ったわけだが…お前は生きていたいか?すぐ死にたいか?」
「…ご…しゅ…人様…の…望…む…まま…に…」
目が死んだままそう答える。さてどうするか…
「ちなみにだが…俺はさっさと死にたい、この世界にも、おれ自身の生にも、すでに興味はない、訳あって死ねないが…」
こいつが生きたい理由を探って揺さぶることにしようか
「だがお前は違うはずだ。お前には多分親がいる、しかも売られたわけではなく、誘拐されたんじゃないのか?」
そう言うとわずかだが瞳が揺れる
根拠は、人種族以外が差別されるこの町で、なぜ獣人種の奴隷がいるのか。ここから西に行くと獣人種の国がある。奴隷に落ちるなんて、食い扶持がなくて身売りするか、犯罪を犯すかだろう。売れるわけのない奴隷を奴隷商が買うわけもなく、ならばどこかで拾って奴隷にしたのではないか?例えば西の方の森とかから…
穴だらけの推測ではあるが、吹っ掛ける程度の根拠になっているはず?
「お前が頑張れば、国に帰って両親に会えるかもしれんぞ?別に俺は奴隷がほしいわけでもない。お前が何もかもあきらめて、死のうとしてるのが気に食わないだけだったからな」
そういうと彼女の目に若干の光が灯ったように見えた。
「お…母…さん…お…父…さ…んに会…え…る?」
「お前次第だな」
「生き…た…い…しに…たく…な…い…くにに…かえ…り…た…いっ!」
意志のある目に戻ったようだ。ふむ…しかし俺は別に偽善者ではない。こいつが死んだところで、俺には関係ないのだ。数ある色んな物語の一つのバットエンドなのだから。
「んじゃあ…ついてこい」
そういって俺は森に踵を返す。もうすぐ日が落ちる。筆記試験まであと二日ある。それまでどうせ暇だったしな。
死の恐怖と絶望に、彼女の生きる希望が勝てるのか?もし彼女が生き残れるなら…最後まで面倒は見てやろうとは思う。
8割くらいで死ぬとは思うが。
お読みいただき有難うございます。




