衝動買い
もうすぐ夕方になる頃、僕たち三人は町に到着した。
冒険者ギルドに寄り、実力テストのクエストを完了させる。僕にしては珍しくとくに絡まれることなくギルドを後にできた。
筆記テストの審査が終わるまで、あと1日ほどかかるそうなので、それ以降にお越しくださいとのことだ。
「そういえばミーシャはどこで寝泊まりしてるの?できれば僕のところの宿に来てほしいんだけど…」
「でもわたしお金ないよ…」
「そこはもちろん僕はが払うけど…ミーシャの宿の方がいいなら僕らもそっちに移動するけど?」
「宿じゃないの…」
「ん?知り合いの家とか?」
ホームステイ的な?
「うぅ…私みたいな低ランクの冒険者でしかもパーティーからあぶれてる子は…馬小屋よ…」
馬小屋?
「ミーシャちゃんはおうまさんだった?」
「やめて…シャルちゃん…」
「そんなに稼げないの…?ってか馬小屋って…憧れの職業だよね?冒険者って」
「そんなことないのよ?駆け出しっていうくらいだからもちろんクエストはあるし、ちゃんとお金もそこそこ出るけど…パーティーを組めないと討伐系はいけないし…雑用系は取り合いなんだけど、結構需要があって数はいっぱいあるの、でも私は力がないのよ…荷物運びや…土木工事をするにも体力もないの…だから案内役やギルド職員さんの手伝い、薬草採取…楽な仕事はそれほどお金にならなくってね…」
苦労人である…もう僕が養ってあげたい…
「毎日ご飯を食べるだけで精一杯で…幻滅した…?」
「馬小屋生活に若干興味はあるね…」
「詮索はしないで…」
「ミーシャ可愛いんだからだれかに襲われたりしないの?」
「ミーシャちゃんかわいー!」
「シャルちゃんには負けるよ…でもまあ…そうならないように寝るときはわらで埋まって寝てるの…見つからないようにね」
なんで僕の周りには不憫な子しかいないんだろう…
「とりあえず…ミーシャはうちの宿に来る事決定ね」
「さすがにいきなり一緒の部屋で寝泊まりは覚悟がいるわ…」
「部屋はもう一部屋取ります。そっちにシャルとミーシャが泊まってくれ…」
もう限界なんだよ…僕の中の悪魔が優勢なんだ…もう勝てそうにない…
「ミーシャちゃんといっしょー!」
「シャルちゃん…いいの?」
「ツバサはシャルの事が大好きだからだいじょうぶー!」
意外とすんなりシャルは別の部屋で寝ることを承諾してくれた。…さみしくないんだからね!
「まあとりあえず宿に部屋をとっておこう。ミーシャ荷物は?」
「持ってるけど…?」
「え?その皮袋一個だけ…?」
横三十センチ長さが1mもない小さな革袋一個だけだという…
「ええ…普段着と装備のワンセットよ?毎日井戸水で洗ってるから汚くはないよ?」
あの冷たい井戸水で…ミーシャの生活用品を買いにいかないとな…
「宿に帰ろう…」
宿で一部屋を5日分頼んで銀貨4枚支払う。ミーシャにシャルの荷物と自分の荷物を借りた部屋に運ばせて、それがすんだら宿をでる。
そろそろお金が無くなるころか?と思って革袋を見ると、まだ金貨が7枚残っている。
割と使ったように思えるが…贅沢でもしない限り1年は過ごせるだろう…
なのでまた金貨1枚をミーシャに渡し
「ミーシャの生活用品とか必要なもの買っておいでよ。僕はブラブラと散歩してるから。夕食の時間になったら宿に集合で」
「ほいほいと金貨渡さないでよ…わかったわ…ありがたくもらっておくね…」
「ミーシャもツバサをゆーわく!」
「こら!シャル!」
仲良さげに町に繰り出していくミーシャとシャル
「さてと…異世界と言ったらやっぱりあれだよね…」
そう思い歩き出す。…奴隷館へと…
外せないじゃない?奴隷っ子!まあ今回は買うつもりはないけどね。みるだけ…
因みに、奴隷は悪だ!やめるんだそんなひどいことを!とかいうつもりは全くない。元の世界だって名前は違えど奴隷いるじゃん?社畜とかその最たる例だよね。要は人材なのだ。特に機械というものがないこの世界において、人材はとても大事だと思う。犯罪奴隷であったり、村の口減らしだったりいろんな理由はあれど、この世界に根付いてる制度なら僕は口出しするつもりは全くない。
ともあれ、奴隷館に着く…大き目のテントで建てられてる建物だった。サーカスののようなといえばわかるだろうか…でも若干躊躇するよね…やめよっかな…
「お兄さん、奴隷見ていきますか?」
ニヤリと気味の悪い顔で笑う男。横幅が広く恰幅のいい男性が話しかけてくる。
なめられてはいけないと思ったので毅然とした態度で話す
「そうだな。ではちょっと見せてもらおうか」
「ではこちらへ…」
中に招き入れられソファーに座るように促される。
「どのような奴隷をお求めでしょうか?」
「そうだな…珍しい奴隷を見せてくれ、できれば♀のほうでな」
なぜそういったかというと…特に要望がなかったのだ…ただの興味本位で来ただけだから…
なんでもいいので見せてください。というのは、冷やかしに来たぞ!と同意義である…
「かしこまりました…どれくらいの予算でお考えですか?」
「そうだな…金貨3枚までだ」
そう言って金貨三枚を見せる。これで冷やかしじゃないのがわかっただろう。いや、冷やかしなんだけどね?
「金貨三枚…かしこまりました…少々お待ちください」
「わかった」
内心ドキドキする…それを悟られないように、腕を組んで憮然とした態度で構える。
「お待たせしました…では入れ!」
5名の奴隷が順番に紹介される。まずは一人目が肩のあたりで切りそろえられている茶髪で胸は控えめな20代くらいの女性だ。貫頭衣を着ている。
「こいつの何が珍しいんだ?」
「この奴隷は元ギルド職員でして、愚かにもギルドで不正を働いたとして、死刑になるところ私めが買い取らせていただきました」
「ほほう」
「あいさつしろ」
「私が不正をしたわけではないんです…仕方なく上の命令で…どうか…何でもしますのでお情けを…」
確かに使えそうではある、これから冒険者としてやっていく僕としては利用価値はある。しかし
「犯罪奴隷などいらん。次だ」
「かしこまりました…いけ!」
彼女は俯いて部屋を後にした。
2人目は60歳くらいの人族のおばあちゃんだった、剣の達人でかつては金の冒険者として名を上げたそうだが、力もなくなり、ボケも始まって、村の貧困で口減らしとして売られたらしい。でも剣の腕だけは鈍ってないとか。誰が買うんだ…蓼食う虫も好き好きというやつか?
逆に三人目は赤ちゃんだった、生後一歳の赤ちゃんが女性に抱かれて出てきた。ちなみにその母親もセットでついてくるそうだ。借金を抱えた貴族が妻ごと子供を借金の足しに売ったそうだ。ちなみに魔人族。さすがに…親子丼だとしても…ないな…
珍しいというか…在庫処分セールじゃねえか…こいつ…奴隷商を睨んでおく
「つ…次が最後になります…」
「4人目はあの母親ってことか」
「はい」
「まあいい…」
「入れ!」
最後に出てきたのは、獣人の少女だった。ぼさぼさの肩ぐらいまで伸びた灰色の髪と白色の髪混ざりあった頭の上の方に、灰色の耳がついている。シベリアンハスキーのような耳が。肌の色は小麦色で、胸はほぼなくスレンダーな体型をしている。顔は幼い。身長は150㎝ほどと小さい。
そしてこちらをなぜか睨んでいる。
「なぜ獣人が?家族愛の深い種族だと聞いてるが?」
「はい、その通りでございます、こちらは獣人の国で奴隷となりこちらで買い取ったものになります。犯罪奴隷ではないですが、どうやら掟?を破ったとかで売られたようですね。初物ですので性奴隷としてもどうぞ」
「ほほう?こちらでも獣人は人気があるのか?」
「いえ…実はこの国のとある町で獣人がとても人気があるのです…ですので流行りに乗ろうと思いましたが…ここで売れなければそちらの町に移動させる予定になっております。あいさつを」
「……」
「命令だ。教えた通りに挨拶しろ」
首輪が締まっていってるようだ
「ぐっ……サーニャです…どうかお買い上げ…くださいませ…」
首輪が緩み、呼吸が乱れている。
「お気に召しましたでしょうか?」
「サーニャはいくらだ」
「金貨三枚でございます」
「調教できてない奴隷がそんなにするのか?しかも獣人だぞ?」
「…しかし…」
「なら今回はなしだな…」
「金貨2枚と銀貨50枚でどうでしょう?」
「契約料込だな。それならいいぞ」
「お兄さんには負けました…ではそのように」
内心ドキドキしながら…交渉を終える…真眼でみるとこの子を僕のパーティーに入れたくなったのだ。
サーニャ
獣人種族♀
16歳
体力 320/320
筋力 250/250
魔力 10/10
スキル≪策敵≫≪神獣化(封印)≫
神獣になるの!?すげぇワクワクする…衝動買いしてしまったけど後悔はない…
「ではこちらに血を一滴落としてください」
ナイフを借り親指を切り血をたらす。簡単に血をくれっていうけど…指切るのも痛いんですけど…
「ではこちらが契約書になります。奴隷の説明はいりますか?」
「頼む」
そしていろいろ奴隷の説明を受け、サーニャと一緒に奴隷館を出る。
「ふぅ~緊張したなぁ~サーニャこれからよろしくね?」
「……」
ふいっと横に視線を振られる。
まあ最初から好感度マックスなチョロ奴隷とかいないよね。
とりあえず宿に戻ってからいろいろ考えよう……
あっ…マジで何も考えてなかった…部屋どうすんの?衣服や生活品は?シャルとミーシャにどう説明するの?
「後先考えずに…やっちまったなぁ…」
まあ宿を引き払うまでに順番に消化していこう…冒険者の身分証も明日もらえるし…
とりあえず下着と服くらいは今日買っておいてあげよう…部屋は一緒でもいっか…奴隷だし…
『命令』が聞くのはいいことだ。
「っと…ここかな?」
店に入るが…サーニャはついてこない
「サーニャどうしたの?こっちきて?」
疑問符が見えるかのような顔をして立ち止まっているサーニャ
「しゃべってくれないと…なんではいらないの?」
「え?こんなきれいな、店に奴隷は入れない…」
そうなの?
店員を呼ぶことにした。
「そうですね…奴隷は大体外でお待ちいただくことになっております…」
「そうですか…じゃあこの子に合いそうな服と下着を適当にください」
「…おいくらくらいで見繕いましょうか?」
冷やかしと思われてるのか…奴隷に服を着せるのがおかしいんだろうか…ずっと貫頭衣とか…
ツバサは知らないがこの世界の奴隷は、とても扱いがひどい。
性奴隷として買われた奴隷はその主の家から出ない。ずっと下着か貫頭衣のままなのだ。ただの自慰の道具として扱われる。また肉体労働させる場合も貫頭衣でさせる。その際は労働させる場所に奴隷専用の小屋を建ててそこで寝泊まりさせる。
この世界の奴隷はとても値段が安い。なので裕福な家庭だと使い潰して問題ない。
奴隷館の段階で衰弱している場合が多く、そう長持ちしないのも理由の一つだ。
まれに妾として迎えられる場合もあるが、それは奇跡的という出会いでもない限りありえない。
こんな常識が根付いているので、奴隷を連れて町をうろうろしたりする人はいない。
屋敷に運ばせたり、労働場所に直接行くことが多い。なのであんまり町で奴隷は見かけない。
「そうですねー…銀貨50枚までなら出せます」
僕は銀貨50枚を先に手渡す事にした。これで仕事してくれるだろう。
してくれないなら違うところに行けばいい。
「かしこまりました…少々お待ちください」
そう言って店員さんは店の中に入っていった。
この後どうするかなーと考えていると、店員さんが籠をもって渡してくれる。
「籠はサービスさせていただきます。下着を数枚と服を5着、ズボンとスカートを2着ほど見繕いましたので…」
「ありがとうございます」
「今後もご贔屓に…」
「ええ…気が向いたら来ますよ」
とりあえず…今日はサーニャの事は隠すことにしよう…夕食食べたら部屋に帰って寝るし…
明日シャルとミーシャに説明しよう…
という事で…まだ日が暮れるまで時間もあるし…まずサーニャを着替えさそうか…いや…食堂にも入れないかなこれは…先に軽食屋さんでご飯でも買って帰るか…
そしていつものお気に入りの軽食屋さんに入り
「サンドイッチ二つと、果実水を1つ、あとは…燻製肉と野菜を別々で売ってもらえませんか?持って帰って食べたいので…」
ちょっと多いかな?とおもいつつ包んでもたっら食事をもって宿に帰る。
「おにいさん奴隷を部屋に入れるのかい?」
「まずいですか?」
「まあ…あんまりうるさくはしないでおくれよ…」
「はぁ…あっ…お湯もらっていいですか?」
「いいよ。すぐできるからあとで取りにおいで」
「ありがとうございます」
奴隷を部屋に入れたらうるさくなるんだろうか…?なぜ?
部屋に入り、サーニャをとりあえず椅子に座らせる。
「僕の仲間には明日君のことを説明するから…今日はここでおとなしくしててくれる?」
首を縦に振ってくれる
「かたくなに嫌われてるな…まあいいんだけど…とりあえずご飯食べてて。お湯もらってくるから」
僕は包んでもらってたサンドイッチとかをぜんぶ渡す。
「食べていい…?」
「もちろん。じゃあちょっとお湯もらってってくるね」
部屋を出てお湯をもらいに行く。
お湯を取りに行くと宿屋のおかみさんに話しかけられる。
「おにいさんはあの銀髪の可愛らしい子じゃ物足りないのかい?」
「なにがですか?」
「なにがって…あれ性奴隷だろ…?別に好きに夜乱れてもいいけど…修羅場はごめんだよ…」
「あぁ…静かにってそういう…あの子は戦闘奴隷として買いましたので…」
「女の子をかい?特殊な趣味?」
「ちがいます…うちのパーティーは前衛が少ないので…獣人の子がほしかったんですよ」
「へぇ~そういうもんなのかねぇ…まぁほどほどにしなよ?」
言い訳と思ってやがる…まぁそれでもいいや…どうせ5日後にはここの町から出るしな…
お湯をもらい部屋に戻る。
ガツガツッガツッムシャムシャ…
おおぅ…よっぽどおなかすいてたんだな…
「むぐっ!?ん~~」
果実水を渡してやる。
「ゴクゴクっ…ぷはぁ~っあ…ありがとう…」
「そのご飯は逃げないんだから…ゆっくり食べなさい…」
「んっ」
落ち着いて食べ終わったのを見計らって、お湯を渡し
「とりあえず体をふいて、ここに服が入ってるから好きなのを着て自由にしといて。ただ…部屋からでないことね。明日になったらいろいろ説明してあげるから」
「わかった…ご主人様…」
宿の前で二人を待つことにした、先に食べるのも悪いしね。
ほどなくして二人が宿に帰ってきた。たのしそうに喋りながら歩いている。
二人は仲がいいな~まあいいことだよね。
僕を見つけると…二人で顔を合わせて…
「ツバサ!」といつも通りシャルが抱き着いてくる。
「ツ…ツバサ!」となぜかミーシャも抱き着いてくる・
「どうしたの…?シャルはいつものことだけど…ミーシャ?」
「ツバサをゆーわく!だよ?」
「ゆーわく…だよ?」
かわいいけど…
「あんまり、無理させちゃだめだよ…シャル」
「むぅ~無理はさせてないよ?それより…」
「ん?」
「ツバサ…ちがう女の子といた?」
「え?なんでかな?」
「ツバサのにおいにちょっと混じってるの…たぶん?」
「ハハハ…シャルにそんなに想われて僕は幸せ者だな~!」
焦ってはない…決してだ…やましい事があるわけでもない
「むぅ…あやしい…」
「それよりご飯食べよ!」
「そうね…今日はいろいろ疲れちゃった…誰かさんの所為で…」
「ごめんって…」
「まあ…いろいろもらっちゃったし…私としても助かるしね」
「これからいろいろ期待してるよ。ミーシャ」
「期待に応えられるように頑張るね」
三人で夕食を取り、明日の予定をはなしておく。
「明日なんだけど…」
「確かシャルちゃんとツバサの冒険者の合否発表だっけ?」
「合格してるよ~?」
「まあそうだろうけどね…それでギルド行くんでしょ?」
「うん…ただその前にちょっと用事があって…朝起きたら僕の部屋に来てくれる?」
「じゃあシャルがツバサをおこしに行くね!」
「うん。おねがいするよ。シャル。んじゃあもう夜も遅いし…ミーシャ、お湯はおばさんに言ったらもらえるからシャルのことお願いね?」
「任せて」
「んじゃあまた明日ね」
そう言って二人と別れ部屋に戻る。
部屋に帰るとサーニャは椅子に座ったまま机に顔を伏せて寝ていた。ちゃんと黒色のワンピースに着替えていた。
いきなり環境が変わったから疲れるよね。
サーニャをベットに寝かせて布団をかけてやる。僕は椅子に座り、魔力操作の練習をする。
コップに入った水に魔力を溶かそうとする…しかし…
「ん~水ってなんか相性悪いよな…なじまないというか…それ以前に魔力が動いてるのかもわかんないな…」
とりあえず魔力を体内で動かす…まずはイメージで、魔力の動きを感じられるようになるところからだった…




