同郷の先輩との邂逅
「こっちの世界にも?それってどういうことなんです?」
「ん?ああ気にすんな。戯言だ」
気にするんですけど・・・。ひとまず俺はシンさんに事情を話した。
向こうで死んだこと、女神に会って転生したこと、そして・・・この世界に俺の元の世界の嫁がいるっていうこと。それを探していること。今までやってきたことも全て。
シンさんは静かに話を聞いていた。そして口を開く。
「ティシーが言うなら間違いなく、このLWの世界にお前の元嫁さんはいるだろう」
「本当ですか!?」
「ああ。すぐに会えなくしたってことは、お前の元嫁側に何か理由があるんだろうな。すぐには会えない理由、会ってはいけない理由が」
「え?そんな感じじゃなかったですよ?なんて言うか適当な感じで放り出されたというか・・・」
「まがいにもこの世界の管理者だからなティシーは。すべてお見通しだし、何なら今もこの会話を聞いている」
「・・・」
「俺にもいろいろ推測は出来るが、情報が少し足りないからな・・・協力すればいいのか?」
「え?いいんですか?」
「ああ。それに・・・あんまり悠長にしててもな。お前の作戦はいいと思う。人一人を見つけるにはこの世界は広すぎるからな。見つけてもらうのいい作戦だ。しかし・・・冒険者みたいな野蛮な職業が幅を利かせている世界だぞ?元の世界みたいに平和じゃないんだ。お前の元嫁がいい人たちに囲まれておとなしく待っていられる環境にあるとは思えない」
「っ!・・・でも仕方ないじゃないですか・・・俺が死んだから元も子もないんです。これしか方法がなかったんです!」
そりゃあ俺だってすぐ動きたかった!でも・・・こんな低レベルでどうしろとっ!
「いや・・・ある意味正解だったのかもな。お前は結果俺を引き寄せたわけだし・・・」
「え?」
「なるほどティシーめ・・・仕方ねぇな・・・協力してやる。元嫁の情報は何があるんだ?種族とか性別とか名前とか特徴とか」
「ええっと・・・わかってるのは・・・名前はウスイ リン、女性です。あとは・・・めちゃめちゃ頭がいいです。それくらいしか・・・」
「充分だな。ちょっと待ってろ」
するとシンさんはイベントリから黒い板状のものを・・・ってスマホ?
「あーもしもし。ツバサか?・・・ああ悪かったって。イベントリが便利すぎんだよ。はいはい定期連絡ね。それより人探しをしてほしいんだよ。・・・・・ああ。ついででいい。名前はウスイ リンで頭がいい女性だ。・・・それだけだ。・・・・・大丈夫だろ。お前に知らせた時点で勝手に向こうから寄ってくるだろ。そういう能力じゃん・・・はいはい。分かってるって、ちゃんと仕事はこなすから・・・はいはい。それじゃあ任せた」
シンさんはスマホをポケットにしまう。
「これで大陸半分はカバーできるな」
「ええ!?何者なんですかツバサさん・・・というかスマホとか、他に異世界人がいるんですねとか情報量が多すぎるんですけど・・・」
「細かい事を気にしてると禿げるぞ?とは言え、俺・・・いや、俺たちについて軽くは話しておかないとな」
「軽く・・・詳しく聞きたいですが・・・」
「そうだなー・・・ここがLWの世界だっていうのは知ってるな?」
「ええ。実際そうですし、若干違う所もありますが・・・」
「厳密に言うとLWって言うゲームは、この世界を模して造られたものだ。ティシーによってな。そもそもスキルとかレベルとか職業システムとかを無理やりつけたせいで、この世界が少し不安定なんだよ。だから、俺たちはこの世界に調査に来た」
「まあもとの世界の化学の観点から見るとありえない話ですよね」
いろんな法則をぶっ壊している。これだと元の世界から来た人はゲームだと勘違いしかねないほどには。
「というのは建前で、LWにハマってる身内が騒ぎ出したから、安全か見に来ただけなんだけどな。ツバサなんてテンションマックスでこっちに来たしな」
「ええ・・・」
「なんか知っときたいことはあるか?」
「え?いっぱいありますけど・・・」
「詳しくは第一部参照だな。それより今後お前がどうするかだ」
「どうするか・・・」
「こんな辺境でコツコツ店を大きくして、大陸中に知れ渡る大商会になるのにどれくらいかかかるやら」
「どうしろというんです?」
「俺が手伝ってやるから、さっさと帝都に行け。辺境でちまちま稼いでんじゃねえよ」
「へ?いいんですか?」
シンさんに手伝ってもらえれば、店を大きくするのに時間はかからない。なにより・・・この町を脱出できる。
ここを脱出できれば、討伐でレベル上げもできるし、行商でも稼げるし、あっという間にやりたいことの全てをこなせる。
「シンさんの職とレベルを聞いてもいいですか?」
安全にこのフィールドダンジョンから出たい。冒険者を雇って出るという手もあるが、信頼のできない人に護衛を頼むのもな・・・襲われるかもしれないし・・・そう考えて、自分のレベルが上がるまで出ないようにしていた。
しかし、シンさんなら多少信頼できる。あとは安全に移動できるかである。
「職は精霊魔導士、レベルは84だな」
「精霊魔導士・・・えらくマニアックな職ですね」
精霊魔導士、精霊を使役し、精霊の力を借りることによって魔法を発動する魔術師か。
メリットは魔法に自分の魔力を使わない、呪文がいらない、自動発動できる。
デメリットは、魔法の強さや属性は使役する精霊に左右される、精霊が弱ければ弱い。精霊が自分に懐いてくれないと使役出来ない、そもそも精霊という存在が超レアである。
「使役はしてるんですか?」
「おう。今は2人かな」
「今は?というか複数使役できるんでしたっけ?」
「まあな。あと3人いるが、偵察任務中だな。戦力として、お気に召したか?」
「え・・・ええ。規格外ですね・・・」
精霊ってLWの設定だと、気難しくて、ちっとやそっとでは懐かないし、そもそも人前に姿を現さないはずじゃ・・・。それを5匹も使役してるの?
「とは言えすぐには出て行けませんね・・・。このお店を引き継がないとですし、割とこの町に愛着もありますし、出来ればこの町を発展させたいですし・・・」
「今いる二人の嫁の事もあるしな。ゆっくり考えろとは言わないが、3日で何とかしろ。俺も一応仕事をしないといけないし、無理ならまぁ・・・諦めろ。
元嫁が寝とられないことを祈りながら、必死で頑張るんだな」
そういうとシンさんは店から出て行った。
三日・・・か。
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「おじさん追加20!!」
「はいよー先注文の50あがったぞー」
「合わせて金貨2枚になります!押さないでくださーい数はありますのでー!」
「期間限定!今だけいろんな食べ物がちゅうもんできるよー!いらっしゃいいらっしゃーい!」
「シンさん!せめてお客さんがある程度はけてから精霊さんに呼び込みさせてください!!」
「なんだよ。捌けてんだから大丈夫だろ?商売舐めんな。シル、エンビと一緒にもっと客をよんで来い」
「いいの!?いってくるー!」
「「「ひぃ!!」」」
シンさんが一人で調理を行い、俺とクルルとレイネちゃんでお客様に応対する。
店の前では手のひらサイズの緑と赤の可愛い精霊が客引きをしている。精霊というだけで珍しいのに、その精霊が客引きをしているのだ、いやでも興味がわく。
さばいてもさばいても行列が途切れない。この町の全ての人が集まってるんじゃないのかこれ・・・。
幸いお昼を越えたころに仕込んでいたストックが消えたので、店じまいとなった。
これ以上働いたら死んでしまう・・・。なんでこの人は平然としてんだよ・・・。
「あははー!楽しかったー!」「ねー!」
「ありがとなシル、エンビ。休んでてくれ」
シンさんの頭上をくるくる回っていた精霊は、まるでシンさんの体に溶けるように消えて行った。
精霊とは体内に宿すもの。よほど彼の中が居心地良いんだろう。
シンさんいわく、自分にはほぼ魔力・・・MPがないらしく、空っぽだから居心地がいいんじゃね?とのことだ。
「そんじゃあ俺は帰るわ。例の件やっとけよーもちろん包丁もな。また明日―」
「はいはい。って明日もこの地獄が・・・」
「例の件?」
「お兄ちゃん隠し事ー?」
「二人にも話しておかないとだね。片付けが終わったら話すよ」
片づけとは言っても、調理場はシンさんが完璧に終わらせている。あとは店回りとカウンターに積まれたお金を片付けるだけだ。
シンさんに頼まれていた包丁の刃付けも終わり、後は渡すだけとなっている。
三日で済まさないといけない事。一つ店を任せる店長と店員の委任。二つ商品の安定供給のための仕入れ先。それくらいか?
レイネちゃんとクルルに三日後に俺が街を出ることと、その経緯を話した。その話を静かに聞いてくれた二人が、話が終わったとたん口を開く。
「私は付いて行くからね」
「私も・・・お父さんから許可があれば?」
「出来ればこの店を任せたいんだけどなぁ・・・」
店長にクルル、その補佐にレイネちゃんがいれば万全だろう。そう思っていたんだけど・・・。
「出来ればこの店を・・・」
「やだ!お兄さんに付いて行くから!」
「私もそっちの方が楽しそーだからついてくー!!」
「まじかー・・・この店どうしよ・・・」
せっかく手に入れて、尚且つかなり改造したのに・・・。売るにはもったいなすぎる。
「両親にお願いしてくる!!」
「へ?」
「なら私もー!」
「え?」
そう言うや否や、二人は颯爽と店を出て行った。
とは言え二人がそういうなら、俺も準備しないとな・・・。そう思い、商業ギルドへと足を向けた。
翌日・・・。
「こうでいいのか?」
「まあいいだろう。数焼いて慣れてくれ」
「お待ちのお客様。こちらでお伺いします」
「はい金貨1枚のお預かりだね。・・・お返しはいくらだっけ?」
「お母さん!ここに表を作ってるから見て!」
「お待たせしましたー!チーズバーガ5個です!」
「シンさーん!ノーマル10個とチーズ8個追加ですー!」
「はいよー」「お・・・おう!!」
「「いらっしゃいいらっしゃーい!新メニューがおすすめだよー!!」」
シンさん、俺、レイネちゃん、クルル、クルルの両親に、ジェシー。呼び込みにシンさんの精霊さん二人。なんとも賑やかメンツで店を回す。
この店の店長に、俺の奴隷であるジェシー。朝から昼まではクルルの両親に、昼から夕方まではレイネちゃんの両親に回してもらうことになったのだ。
ジェシーはこの店に住み込みで働く。商業ギルドからしっかりと引き抜かせてもらった。
デネブ?仕事に殺されそうになってるよ。まあ部下をちゃんと育てれば何とかなるだろう。
ジェシーには、今後俺がこの町でやろうとしていたことを引き継いだ。レイネちゃんとクルルの両親の給料に関しては、最低賃金を設定してからの、売れた数に応じてボーナスが支払われる仕組みにした。
あと一日で引き継げるかは問題ではあるが、誰でもできる様に作業を簡略化はしてある。
これで一応店の方は何とかなるかな。もちろん帝都に本店を構えた後、商品を卸す約束もしてある。
あとは・・・クルルとレイネちゃんの件だな・・・。
「どうしたのお兄さん?」
店が閉まった後、いつもなら家に帰るレイネちゃんとクルルを引き留めた。
「えっと・・・。言ってなかったんだが、俺にはすでに愛する人が・・・妻がいるんだよ」
「へー!どんな人なのー?」
「それは知りたいわねー。可愛い系?綺麗系?性格はどんな人なの?」
「え?・・あれ?」
おかしいな・・・二人とも俺に好意を持ってくれているかと思ったんだけど・・・。
「どっちかというと綺麗系なのかな?頭がよくて、俺が追い付こうとした人だよ・・・って嫉妬とか残念とかない・・・のかな?」
「んー?別に?」
「そうね。仲良くできそうな人ならいいのだけど」
あ・・・俺の勘違いか・・・安心したような、残念なような・・・。
「どうして突然そんな事を?」「変なお兄ちゃん!」
「いやぁ・・・二人の両親から、娘を頼むって言われてさ・・・なんだ。勘違いならいいや。従業員として頼んでただけか~」
あんな鬼気迫る顔で言われたらそりゃー勘違いもするよ!
会社を経営する身としては、従業員の安全は俺の責任だもんな。ちゃんと責任をもって管理しないと。
「ん?妻が一人しかいないのよね?それが増えたら何か問題があるの?」
「ねー。もう私達お兄ちゃんなしでは生きていけない体にされたし・・・ね?」
「はい?」
「ん?」「どうしたのお兄ちゃん?」
「ははは・・・おかしいなぁ・・・俺が三股してる糞野郎に聞こえまして・・・耳悪いのかな?」
「三股?男の人が養えるだけの女性を囲うのが何が悪いのかしら?」
「え?もしかして私・・・お兄ちゃんに捨てられるの?・・・ひどい・・・あんなことまでしておいて・・・」
えーーー!?身に覚えがなさすぎるんですが!!
「そっか・・・やるだけやって私たちは捨てられるのね・・・ひどい男ね。おいでレイネちゃん」
「うわああああん!!」
レイネちゃんがクルルに抱き着き泣き叫ぶ。お互いに小さいから、俺がマジで幼女を泣かせてる鬼畜に見える。
「捨てない!捨てないから!!泣かないでレイネちゃん」
「じゃあ・・・お嫁さんにしてくれる?」
「いや・・・それは・・・」
「やっぱり捨てるんだー!!うわあぁぁぁん!!」
「大丈夫よ。捨てられても二人で頑張っていこ。ね?」
「うわあああぁん!」
ええーーーー!?どどどどどうすれば・・・・。
レイネちゃんがチラッチラッとこちらを見ているような気もするが・・・。ええいままよ!!
「わかった!わかったから。そんなことは俺の一存じゃ決められないからな・・・。凜に会って話してみてくれ・・・あいつが許すならいいよ・・・」
「「ほんと?」」
「お・・・男に二言はない!!」
「「いえーい!」」
あれ?レイネちゃんが即泣き止んでクルルとハイタッチしてる・・・。
「これで二番目と三番目に滑り込んだわね」
「予定通りクルルおねえちゃんが二番目でいいよ~」
「お主も悪よなぁ」
「クルル様には及びませんで。へへへ」
茶番かよ!?あーどうすんだこれ。・・・いや、凜が嫌だと言ってくれたらそれで終わる話だし、まあいっか。
この問題に関しては、先送りにさせてもらおう・・・。ひとまず準備は整った。あとは・・・旅をするための日用品の買い出しくらいだな!




