星野商店は順調
「お兄さん10個追加で!」
「はいよ~レイネちゃん3つ出来たよ」
「はーい。こちらハンバーガー3つになりまーす」
数日後に働きに来たのはレイネちゃんとクルルだった。顔見知りだし、二人とも勝手がわかってるから説明もあんまりいらなかった。
忙しい朝の時間帯を越えると、俺は工房に籠る。その間の接客が二人に任せる。暇な時は自由にしていいと言ってある。
クルルはたまに工房で俺の仕事をずーッと見てる。見てて面白い物なんてないんだけどな・・・。
お昼は三人で食事をし、夕方に店を閉める頃に、二人は俺の家の風呂に入って帰る。この町で風呂なんて俺の家にしかないし、どうやら石鹸とかシャンプーがお気に召したようだ。
公衆浴場とかも手掛けたいなぁ・・・。いろんな店を星野の名前で運営したい。それこそ俺の名が世界に広がる第一歩となるだろう。
その為には資本・・・つまりは金が要る。何処かに借りるという手もあるが、その見返りに何を求められるかわからない。
なにせ商業ギルドがあの様だ。金の匂いのするところには、だいたい糞みたいな人が絡んでくる。
しかしこのまま薄利多売で稼いだところで、いつまで経っても目標とする金額には届かないだろう。
この町だけではあまり金が回らないからな・・・。
だからこその行商人である。行商人を数人招き、俺の商品・・・なるべく高利益の出る物を帝国首都で売ってきてもらおうというわけだ。
高めの手数料を払い、商品をプレゼンしてなんとか結構な数を買い取ってもらった。
この商売はまだそれほど利益は出ないが、首都の方で人気になれば、今後大きな収入源になるはず。
やることはやった、後は準備して待つだけだ。ゆくゆくは首都で本部を構えて、全国展開だ!
「お兄ちゃんは何者なの?お父さんは?お母さんはいないの?なんでそんな突拍子もないアイディア思いつくの?」
とある日、突然レイネちゃんがそんな事を聞いて来る。
「そうだよねー。お兄さん鍛冶もできるのに魔術師だし」
「美味しい料理も作れるし」
「縫物も、木彫りも大工も出来るもんね」
「だよねー。なんで?」
「なんでって言われてもなぁ・・・出来るからとしか・・・」
俺は実は異世界人で、チートスキルもちです。なんて言ってもいいんだろうか?
「まぁお母さんは料理人の職を持ってるけど、服を縫い直したり包丁を研いだりは出来るけど・・・」
「だろ?職が全てではないんだよ。職業とかは所詮少しだけ手助けしてくれる程度のもんなんだよ」
まぁそんなわけないんだけど・・・。スキルの恩恵は正直でかい。駆け出し程度の俺が、いっぱしの職人の仕事を出来る程度には。
「じゃあお兄ちゃんの職業は魔術師なの?」
「ん?・・・まあそう言う事だな」
「ふーん。お兄さんは魔術師なのにお母さんやお父さんより料理が上手だと?」
「それを言うならお兄ちゃんは私のお父さんより鍛冶が出来るわけだよね?」
「「おかしくない?」」
「あ・・あはは・・・なんでだろうなー。まあ昔から器用貧乏だったしな~」
別に言ってもいいんだけどな。なんか面倒ごとになりそうで・・・。せめて自衛できるまでレベルを上げてからにしよう。
「怪しい・・・」
「まあお兄ちゃんが言いたくないならいいですけどね~」
「まあいずれな」
チリンチリンと扉が開く音がする。お客様だ。
「あっ私が出るよ!お兄さんはゆっくりしてて」
クルルが受付に向かって歩いて行く。最近は接客をほぼしていない。クルルとレイネちゃんが有能なのでとても助かってる。
「お兄さんにお客さんだよーグレイさんっていう人ー」
「あぁ・・・割と早かったんだな」
グレイさんとは行商を生業としている商人のおじさんだ。この間包丁を中心に売り込みに行ってもらった人だ。
「すいませんお待たせしちゃいまして」
「いえいえ。いい商売をさせていただきましたので、少し待つくらいなんてことないですよ」
「それは良かった。で?どうでした?売れ行きとは反応は」
「いやー良かったですよ!瞬く間に売れちゃいましてね。今日は仕入れに来たわけですよ」
「おお!それは良かったです。どれくらい仕入れますか?前ほどお安くは出来ませんが・・・」
「そうですね・・・このお金で買えるだけで」
ドサリと金貨のいっぱい詰まった袋を三つも出すグレイさん。
「へ?まじですか?」
「ええ。他の行商に目を付けられる前に稼ぐだけ稼ぎたいので、どのくらい買えますか?」
「えっと・・・一般家庭向けと料理人用がありますけど・・・」
「んー・・・一般家庭用を8割、料理人用に2割と言ったとこでしょうか」
「わかりました。準備をしますのでお待ちを」
まじか。早速大口の顧客だ。準備しておいてよかった・・・。
金貨300枚分の包丁。8:2だと・・・何とか足りるかな。
「えっと・・・こんな所ですかね。商品の説明いります?」
「ええ。是非お願いします」
「わかりました。ええと・・・」
長々と商品を説明し、そのすべてをメモしていくグレイさん。商品を説明できないと売れる訳もないしな。
「うちの他の商品ってどうなってるかわかります?」
商品の説明を終え、イベントリに商品を丁寧に確認しながら収納しているグレイさんに聞く。
食料、雑貨、刃物で三人の行商人にお願いしたのだ。
「あ~・・・売れ行きは良かったですよ。多分とっくに売りきってるはずです。ですが・・・」
「え?何か問題でもあったんです?」
「あはは・・・幻滅しないでもらいたいんですが、我々も商人ですので、売れる商品があれば自分で作ればもっと儲かると考えるわけですよ」
「ああ・・・なるほど」
「多分躍起になって作り方を考えているんじゃないでしょうか。私としてはそんな事をするより買い取って売りさばく方が儲かると思いましたので・・・」
「まあ簡単に盗めるような技術で作ってませんので・・・首都に広まったのであればそれで俺としては十分な成果ですね」
「そう言っていただけるとありがたいですね。どうせなら雑貨の方も少しだけ買い取ってもいいですか?」
「それは願ってもない事ですよ。是非お願いします」
ひとまずグレイさんのイベントリが許す限り買い取ってはもらえたが、この世界の商人ってイベントリの容量あんまりないのか。
流石にイベントリ最大にするほどの課金はしていないが、ある程度広げておいてよかったな・・・。
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グレイさんに品物を売ってからは特になにごともない日々を過ごしていた。
日々少しづつお金は貯まっていく。正直そろそろ首都に拠点を作ってもいいくらいには貯まってる。
後はレベルだ・・・。一応日々制作でレベルをコツコツと上げ続けている。一応25までは上がっている。35もあれば、俺でもこの辺の魔物と戦えるだろう。あと数か月あれば・・・。
そう思っていた。とある人が来客するまでは・・・。
その人は突然やってきた。ぼさぼさの黒い髪、猫耳のついたを頭を搔きながら、死んだような目でこちらをじっと見つめる。パッと見年は30代前半くらい、種族は・・・ビースト?ボロボロの茶色いマントを羽織り、腰には白鞘の刀を佩いている。
LWに刀は実装されているし、実際白鞘の刀もあった。あんまり強くないから人気はなかったんだけど。
「ここがこの包丁作ってるっていう鍛冶屋であってるか?」
そう言って俺作の柳葉包丁を取り出す。
「ええ。俺が打ちました」
「へぇ~若いのになかなかやるもんだな・・・特注で注文をしたいんだよ包丁を」
「はい。どんなのをお望みです?」
男性はイベントリからアタッシュケースを取り出し、中から一つの包丁を取り出す。
「なるべくこれに似せてくれ、尚且つ・・・これより切れ味を3割くらい減らしてくれ」
「え?切れなくしろと?」
「ああ。娘が料理がしたいって言ってるんだが・・・俺の包丁を欲しがるんだよな・・・危ないっつってんのに・・・」
「なるほど。娘さんにプレゼントと言うわけですか・・・しかしこれだけの業物が作れる人なら、それくらいできるのでは?」
渡された包丁をまじまじと見る。俺が打った包丁が稚拙に見えるほど見事なものだ。きっと有名な鍛冶師が打ったものに違いないだろう。
「あ~・・・それを作ったやつは偏屈でな、力加減が出来ないんだよ。どうやっても切れすぎる包丁が出来ちまう。何が悪いのかもわかんねぇ・・・だから頼むわ」
「まぁ構いませんが・・・」
「悪いな。金はこれで足りるか?」
ドサっと金貨袋が三つカウンターに置かれる。金貨300枚である。
「ひぇ!包丁一個でこんなに・・・!」
「お金持ちなんだねーおじさん!」
横から見ていたレイネちゃんとクルルが反応する。
「いやいや多すぎますって!?精々金貨2枚も頂ければ・・・」
「足りるんだな?それが手持ち全部だから足りるならよかった。いつくらいにできる?」
「ええ!?手持ち全部って・・・三日もあればできると思いますが・・・」
「そうか。じゃあまた三日後に」
「ちょっとお客さん!?お金!お金忘れてる!宿にも泊まれないでしょ!」
「ん?金なんてなくなったら稼げばいいし、宿はいらない体質なんでな」
そういうと颯爽と店を出て行く。すぐさま追おうと店を出るが、すでに周りにその人はいなかった。
「どうするのお兄さん」
「そりゃあ・・・やるしかないだろ。きっちり仕上げるしかないよな」
「お金貰っちゃったしねー」
ひとまず見本にと渡された包丁をイベントリにしまい、カウンターに置かれた金貨を片付ける。
もしかしてとんでもない依頼を受けてしまった?と少し冷や汗を流した。




