商店開店準備
翌日、俺は街をブラブラと歩いていた。
ひょんなことから拠点を手に入れたが、昨日今日で準備できるはずもなく、ひとまず明日以降に最低限は出来てるそうなので、拠点での活動は明日以降になる。
「お?次はここに入ろうかな」
そう呟き、目の前にあった酒場に入る。
「いらっしゃい!」
と短く切りそろえられた赤い髪のドワーフの女の子が元気な声を出す。ドワーフ女性は子供も大人も身長が低く、見分けがつきにくいが、腰周りの太さで大体わかる。
だいたいドワーフの平均身長は140㎝ほどであるが、彼女はそれより低い腰回りも細いので、多分だが、12~17歳くらいだろうか。
「お?ここの看板娘さんはえらく可愛い子なんだな」
「はっはっは!おだてても何も出ないよお兄さん!」
席に座り、板に彫られたメニューを見る。
「このロックフロッグの野菜炒めを」
「はいよ!お父さーんフロッグ炒め!お兄さんお酒はどうする?」
LWではお酒に年齢制限はないが、今日の目的は料理レベルの調査と、包丁のセールスなので、アルコールを摂取するわけにはいかない。
「今日はやめとくよ。こんな真昼間から仕事もせずに酒を飲むなんて、なんか悪い気もするしな」
「確かにね。料理ができるまで待ってね~」
水をちびちび飲みながら、料理が出るのを待つ。
店内は全てテーブル席。客は俺のみ。店の清掃は行き届いているが、あんまりはやってないようだ。
「ハイお待ち!ロックフロッグの野菜炒めね!」
見た目は普通の野菜炒めだが・・・。
「いただきます」
手を合わせ、口に入れる。うん。美味しくない。ロックフロッグは鳥の胸肉みたいな感じだ。
調味料は塩だけ、酒に合わせる為か塩辛く、野菜も肉も不均一に切られており、火の通りがまばら。
荒々しい男の料理で、自炊で作るなら十分だけど、金を払って食うもんではないな。
しかし出された料理は全部食べる。元の世界からの俺の矜持である。
ふっと顔をあげると、ドワーフのウエイトレスさんと目が合う。
「ん?・・・なんか顔についてる?」
「いえいえ。どう?その料理美味しい?」
「まあ美味しくないけど?」
「そっかそっか・・・っておいしくないんかい!美味しいみたいなトーンでまずいとか言わないでくれるかな!?」
「ええ・・・」
ここは嘘をいう所じゃないと思うしなぁ・・・。
「せっかく商業ギルドへの納税が減っても、客が来ないんじゃそろそろうちの店も終わりかなぁ・・・」
「酒場なんだから、酒とつまみがあればいいんじゃないの?」
正直ある程度酒場を回ったけど、どこもお世辞にもおいしいと思える料理はなかった。
「お兄さん。同じような店がいっぱいある中で、なんで客が多い店と少ない店があると思う?」
「んー・・・サービスの違いとか、値段?」
「どこも同じ値段だよ。サービス内容もどこも変わらない」
「あとあるのは・・・場所かな」
確かにこの店は、住宅地にある。仕事終わりに一杯飲むなら、帰り道で一番早いとこで飲むだろう。
家で作った物と変わらない様な飯をわざわざ金を払って食うわけもないし。
「そうなんだ・・・場所が悪いからさ、だからいろんな料理を試行錯誤で作ってたんだけどね・・・」
「単純に料理人の腕が悪いよ」
「ああ?儂の料理に文句があるって言うのか!」
いつの間にか横にいた、髭もじゃのドワーフのおっさんが怒鳴り散らす。
「お父さん・・・」
「儂は料理人でレベル40だぞ!それで腕が悪いだと・・・!この町で一番腕がいいのは儂だ!」
「まじで?このレベルの料理で?」
「なんだとぉぉぉ!!」
バァンと机をたたくおっさん。その衝撃で皿が机から落ちて割れる。
「やめてお父さん!!」
「クルル止めるな!!」
「あんたよりうまいもんを作ればいいんだろ?」
クルルと呼ばれは少女がおっさんを羽交い絞めにして止めている。俺は立ち上がり、厨房に向かう。
「勝手に厨房に入んじゃねえ!!」
「なんだ。やる前に負けを認めるのか?」
「いいじゃないお父さん!・・・このままじゃ・・私もお母さんのように・・・」
「言うんじゃねえ!・・・わかってるよ・・・」
厨房に入るとやはり清掃は行き届いている。まな板も、鍋も綺麗にしているし、調理ナイフも綺麗に研がれている。
「これがロックフロッグか・・・野菜は・・・」
料理人専用の解析を使い、食材の特徴を見る。
イベントリから、先日作っていた包丁セットを取り出し、肉を捌き、野菜を切っていく。
「わあ!手際がいいわね」
「ふん!あれくらいなら儂でもできらぁ!」
「まぁこれは道具の差だと思う」
食材によって包丁を使い分ける。それだけで何が変わるのか、そう思うだろう。
しかし、そういう細かいところが、素人料理とプロの料理との圧倒的な差を生むのだ。
スキルによるアシストで、まだ見習い程度だった俺の料理スキルは、いっぱしの料理人。下の中程度の腕にはなっているようだった。
ちょくちょく味を見ながら、火を通していく。
「ほい!さっきのやつよりはましだと思うけど・・・」
恐る恐るフォークでフロッグの野菜炒めを食べる二人。
「美味しい!」
「くっ・・・しかし塩が足りなくねぇか?」
「酒につまみには足りないかもだな・・・それは別に作ろう」
「どんなの作るの?」
ワクワクした様子で、クルルが聞く。
「んー・・・ジャーキーとか・・・を作るには香辛料がねぇか。待てよ・・・フロッグ・・・カエルがあるという事は・・・おっさん。イカ・・・スクイードはあるのか?」
「ないことはないが・・・あんな気持ち悪いもん食う奴なんていねぇぞ?」
「うえ・・・あんなヌメヌメで触手だらけの魔物・・・一応食べ物らしいけど、あんなので作るの?」
「塩だけで作る、最高の酒のつまみだよ」
翌日、俺は案内された工房を自分の使いやすいようにいじくっていた。
棚を整理するとか、道具の置き場所を変えるとかそういうのではなく、間取りごとぶっ壊していた。
鍛冶仕事だけをする気はないので、仕事場を広くする為に、武器防具屋にありがちな展示スペースをぶち抜く。
最低限のカウンターだけ残し、体裁的には店っぽくなった。
居住スペースは二階に、風呂は魔法でお湯を張るので一回に作る必要もない。トイレだけは一階にあった物をそのまま置いておく。
水洗にしたいが、そもそも鉱山内の街なので、下水路はない。ないものは諦めて・・・出来ることからやっていこう。
イベントリのおかげで倉庫もいらないし、冷蔵庫もいらない。
本格的な調理場を一階に・・・・。ああ・・・やりたいことが多すぎる。
改装するのに当分かかりそうだな。何なら土地だけもらって一から建てたほうがいいのか?しかしそうなると半年はかかるだろうしな・・・。
ひとまずぶち抜いた壁の片づけと、二階の掃除で今日は終わりそうだな・・・。
壁の解体なんて時間がかかるのにどうやって?魔法でドカーンですよ。
仕事を始めるまで一週間ほどはかかりそうだな・・・。
広さ的には車のガレージ3つ分の広さの工房。店頭は申し訳程度のカウンター。クリーニング屋さんみたいなのを想像してもらえればいいだろう。
二階は居住スペース。正直一人で住むには少し広めだが、半分は試作品とかを置くスペースにして、後は寝るところと客室の二部屋くらい。最低限の暮らしは出来るだろう。
裏庭で廃材を魔法で焼却し、二階を掃除して、家具を設置して1日目が終了。
2日目。間取りをぶっ壊したのはいいけど、間仕切りするための木材がない。
この町は10数年鎖国状態らしく、坑道内の魔物で自給自足、建物は全て石造り、燃料は石炭、どうりて鍛冶屋ばっかりになるわけだ。
武器防具を求めてくる冒険者は来れど、行商人がわざわざ来ることは少ないという。
なので早速奴隷2人を呼び出す。商業ギルドが代金を支払い、冒険者を護衛につけ、行商人を手配するように言う。
金がない?まだまだため込んでんだろ?最低でも20年は馬馬車の如く働いてもらうぞ。
仕方ないので、しばらくは商品開発と、俺の仕事道具の作成に勤しんだ。
数日後、行商人がこぞってこの町に来たらしいので、商業ギルドに向かう。
行商人の持ってきた商品を、今回だけは全て商業ギルドで買い取ることにさせた。
相場の2割増しで買うと約束させてあるので、少々の危険を冒してでも、この町に来たいと言う人が多かったそうな。
商業ギルドに到着すると、少しガラの悪い受付のおっさんに、ギルド長の部屋に通される、
「頼んでた分買うわ」
「はい。建材と食材ですね。こちらになります」
ジェシーがイベントリから机の上に出す。出されたものを解析スキルで確認してからイベントリにしまう。
「残りはわかってるよな?」
「はい。全て相場の半額で町に売り出します。デネブが販売所の設営等を行っております」
「ならいい。奴隷の買戻しは?」
「すでに8割は・・・残りは行方が分かっていないのと、すでに亡くなっている者です」
「そうか・・・まぁちゃんとやってるならいい。引き続きこの町のために働け」
「ご主人様の心のままに」
こんな忠誠心高かったっけ?俺を見る目が無駄にキラキラしてる気がするんだが・・・。
普通に気持ち悪いので、そそくさと商業ギルドを後にする。
帰りに自由市の横を通ると、大掛かりなテントが出来ており、そこに人が群がっている。あれが販売所かな?
まぁ必要なものはもう買い取ったので、用事はないのでスルーする。
自分の店(準備中)に帰ってくると、まだ開店していないのに、店の前に二人の人物がいた。
「あっ!お兄ちゃん!」「お兄さん!」
「あれ?レイネちゃんとクルル?どうしたの?お店は大丈夫なの?」
レイネちゃんはまだしも、クルルはお店の看板娘として忙しいはずだ。
「聞いて聞いてお兄さん!お母さんが返ってきたの!!なんでかわからないけど!」
「へぇー!良かったな」
「お兄さんに教えてもらったシオカラも人気だし、うちの店はもう安泰だよ!ありがとう!」
「そっかそっか。二人とも俺に何か用事か?」
お礼を言いたかったのもあるだろうが、わざわざ俺の元に訪れるには理由があるはずだよな?
「「あのね!」」
二人の声が重なる。お互い顔を見合わせる。
「レイネちゃんからどうぞ!私はとりあえずお礼は言えたし・・・」
「うん。ありがとうクルルちゃん!」
俺を上目遣いで見つめ、その瞳は涙で濡れていた。この空気、まさか・・・告白か!?
「お兄ちゃん・・・あのね?」
「おおお・・おう」
妻はいるが、正直凛以外の女性と関わったことはないし、告白なんてされたこともない。
胸が高鳴る。こんな可愛い女の子に迫られたら・・・俺は断れるのかっ!?
「包丁の作り方を教えてください!!」
「いや・・オレには妻が・・・ってはい?」
「つま?」
「・・・いや、何でもない。どうして包丁なんだ?武器を造ってりゃいいじゃないか」
「この町にはいっぱい同じようなお店があるから、さべつか?を図りたいんだって」
「あ~ね。俺の狙いもそこだったわけだし・・・」
「お父さんも頑張って作ってはいるんだけど・・・どうもお兄ちゃんの包丁ほどじゃなくって・・・」
多分だが、この世界は職業と言うステータスと、スキルに依存して製作が行われている。既存の物を作るのは簡単だろう。しかし・・・スキルにない、新しいものを作ることが難しい。
「うーん・・・。あっ!それじゃあ。星野商会(仮)が外注する形で作ってくれるならいいぞ!」
「がいちゅう?」
「俺はこれから大商人になって、星野商会(仮)をこの世界で一番大きな店にする。その大企業(予定)予定の俺の店の商品として作ってくれるならいいぞ」
「それってどういうこと?」
「端的に言うと、作った商品は全部俺が買い取るから、その代わり俺以外に売らないでくれってこと」
競合して、その技術が発展するのはいいが、そんなのは俺がたんまり儲けた後でもいいだろう。
「買ってくれるんならいいのかな?うーん・・・お父さんに聞いてみる!」
「おう。で?クルルの用事ってのは?」
「え!?えっとその・・・」
クルルは俯いてもじもじとする。その様子はまるでこれから告白する乙女のようだ。
はいはい。どうせ新しいレシピを教えて欲しいとかだろ?わかってるっての。
まったく、可愛い子を使って俺にお願いするとか、効果覿面だよこんちくしょう。
「お母さんが帰ってきてね、自由な時間がもらえたんだ・・・だからね?」
なるほど。その自由な時間に新しい料理でも研究したいと。まあ設備は整えたけど、図面書いて、明日からは内装を作るからなぁ・・・。しばらくはうちで作業するのは無理だろうな・・・。
「私が休みの日はお兄さんと一緒に居てもいい?」
「あぁ・・・すまんな。まだちょっと・・・ってはい?」
「うぅ・・・だめだよね・・・お兄さん忙しいもんね・・・」
「いや。それくらいならいいけど・・・せっかくの休みを俺なんかの所でつぶしていいのか?」
「いいの?」
「まあ何も面白いことはないと思うけど・・・」
「やった!ありがとうお兄さん!」
なんなんだろう?まぁ料理の試作もいろいろするから、それを見る為とか?
「まあせっかく来たんだし、あがっていけよ。ちょうどいい食材が入ったから試作でもしようと思ってさ」
「いいの!?」
「わーい!!」
このあとめちゃめちゃシショクした。




