呪文は厨二臭いが魔法は役に立つ
MPが回復したのを確認すると、静かにレイネちゃんを起こす。
「ん・・・お兄ちゃん?」
「ひとまずここから出ようか。大きな声は出さない様にね」
「うん」
レイネちゃんと手を繋ぎ、呪文を紡ぐ。
「『闇よ。我らの姿を消し、全ての光を欺き隠せ。隠密』」
自分ではわからないが、MPは減っているので発動しているはず。これで看破の魔法を使われない限り大丈夫。
「これで相手から見えないから、俺から離れないでね。魔法が消えちゃうから」
「はい!」
装返事すると、レイネちゃんは俺の手をギュッと握り、腕にしがみついて来る。
「それじゃあ・・・『我と彼の地を隔てる理を壊し、彼の地と此の地を繋げ、転移』」
すると景色が変わり、牢屋の中から牢屋の外に転移した。
「すごい・・・かっこいい・・・」
「恥ずかしいんだけどねこれ・・・」
厨二臭い・・・魔法職が人気のない理由の一つだ。何のことかはわからないが、曰く古傷が開くそうだ。
見張り番の前を素通りし、階段を上る。階段を上り切ると、倉庫のような物が乱雑に置かれている場所に出る。何人かの人とすれ違いつつ、建物を出る。これで脱出成功だ。
「あれ?この建物って・・・」
でかでかと荷馬車のシンボルがあるこの大きな建物は、確か・・・。
「商業ギルドですね。お兄ちゃん知らなかったの?」
「いや・・・確かに考えればわかるか・・・普通に衛兵の兵舎とかだと思ってたから・・・」
つまりここの長を締め上げればいいわけだ。
「とりあえず、レイネちゃんは家に帰ろうか。事が終わるまで隠れてくれればいいから」
「・・・着いて行っちゃだめですか?」
「ええ!?」
「私だって怒ってます。お父さんとお母さんが毎日仕事を休めないのも、商業ギルドのせいですし。こんなこと許せません!」
「それじゃあこのまま見に行ってみようか・・・危険そうなら撤退という事で・・・」
「はい!」
ギュッと腕を掴まれる。
そのままレイネちゃんと共に来た道を戻る。
今度は二階に上る。広い商業ギルド内を歩いていると、趣味の悪い金ピカのドアが見える。
ギルド長室とこれまた金ピカのプレートが掲げられていた。
「中に誰かいるね・・・聞き耳を立ててみようか」
「はい」
「奴隷商はいつ来るんだ!?」
「もうじきに来ます。落ち着いてください」
「落ち着いていられるか!まったく、儂を待たせるとはいい度胸だ」
「はぁ・・・可愛い少女のほうは使い潰した後でもいい値段で売れるでしょうが、あの少年は価値があるのでしょうか」
「ふん!一日であれだけの売り上げをあげれられるなら、それだけでも利用価値はあるだろう。無くなってもそう言うのが好きな奴もいる。無駄にはならん。
そもそも儂の奴隷ビジネスは、元手は奴隷契約料だけ。どんな使えないゴミでも利益は出るわ」
「それで不当な理由で捕らえるわけですか・・・」
「そうだ。因みに・・・今回はお前も奴隷になってもらうぞ?」
「は?私がそんなことさせるわけが・・・ッ!?」
ボムッッと小さな爆発音が聞こえる。
「ふははは!特製の睡眠爆弾だ。まったく、何が本部からの視察官だ。金を与えるだけで平気で裏切る女狐の分際で・・・。しかしこれで、無駄金を払わずに済む。儂の地位は安泰というわけだ。
・・・・儂だ。今すぐ儂の部屋に来い。奴隷一人追加だ。牢屋に入れておけ」
俺はそれを聞いた瞬間チャンスだと思い、即座に扉を開く。
「!?誰だ!」
突然扉が開きこちらを睨むが、俺たちの姿は見えていないはず。
「『彼の者の体の自由を奪え、麻痺』」
「ガッ!?なに・・が・・・」
「『光よ、あまねく物を欺き、偽装せよ、変装』」
「失礼します。デネブ様。えっと・・・こいつらは・・・」
魔法をかけ終えた瞬間に、手下だと思われる人が数人入ってくる。
「連れていけ」
「へい!しかし・・・デネブ様とジェシー様はそんなに仲良かったでしたっけか?」
「詮索は無用だ」
「へ・・へい!お前ら!さっさと連れて行くぞ!」
傍から見れば、でっぷり太ったデネブに美人のジェシーが腕を組んでいるように見えたのだろう。
「ふぇ?どういうことです?」
「そこに鏡があるから見てごらん」
魔法をかけられた本人には何ら変わらず見えるが、鏡やほかの人から見れば、俺はデネブに見え、レイネちゃんはジェシーとかいう寝っ転がっていた女性に見える。
「わぁ!すごい!これが私・・・!」
「あんまり大声を出さない様に・・・声までは変えられないからね」
そして逆に、デネブは俺に見える様に、ジェシーはレイネちゃんに見える様にした。
あとは・・・奴隷商が来たら終わりだな。
「デネブ様!奴隷商がお見えになっております!」
タイミングが良すぎる。部下に短い返事で指示を出し、地下牢まで向かうことにした。
「おい離せ!!こんなことをして貴様らどうなるかわかっているのか!!」
複数人に抑えられるデネブ。麻痺の魔法は切れたようだが、変装の魔法は魔力が枯渇しない限り切れない。
「へっ!どうなるって言うんだよ。若造風情が」
「で?どういう契約をするんで?」
黒い外套に、フードを被った痩せた男がそう言う。彼が奴隷商だ。
「儂に絶対服従。逆らえば死だ」
「分かりました。かなり縛っちゃいますので、契約金は金貨5枚になります。二人で10枚です」
イベントリから金貨を取り出し、奴隷商に手渡す。
結構するんだな・・・持っててよかった・・・。
「貴様らは騙されている!!儂がングッ!」
「うるさいですねー。んじゃあちょっと痛みますんで。なにせ注文が注文ですんで」
二人とも口轡を付けられ、心臓のあたりをはだけさせられる。
「そんじゃあここに血を少しもらえますか?」
「ああ」
親指の先を少し切り、差し出された小皿に垂らす。
渡した血に、何か謎の液体を混ぜ、魔力を込めている。その液体を筆に乗せ、心臓がある位置に文様を書いていく。
筆が皮膚を撫でるたびに、苦痛の表情を浮かべ、叫び出す。
しばらくすると、契約が終わる。奴隷商は立ち去り、部下たちも下がらせた。
「さて・・・お話と行こうか。哀れな奴隷ども」
「貴様・・・魔術師だったのか・・・」
「わ・・・私は悪くないの!悪事は全部こいつが!!」
「裏切るのか!!お前も共犯だろう!!」
口轡を解いた瞬間ギャーギャーと言い合いをする二人。
「黙れ。聞かれたことだけに応えろ」
「「・・・・」」
「毎回こんなことをしてるのか?あっ嘘をついたら死ぬから」
「・・・」
「答えろ」
「やってた」
「なんでそんなことを?商業ギルドの長ともなれば、そんなことをしなくても金はあるだろう」
「いい女を抱きたい。金はあればあるほどいい。ならばその為に自らの力を使うことの何が悪い」
「そうか。その為なら他人の命なぞどうでもいいと」
「はっ!当たり前だろう。儂にかかればその他の愚民など」
「黙れ」
なるほどね。そう言うことがまかり通ってしまう世界なわけだ。
「んじゃあ次はそっちの女。お前はわかってたのか?こいつの悪行を」
「はい。知ってました」
「なぜ止めない。結果お前も奴隷になったんだぞ?」
「えっとその・・・黙っているだけで、多量の金貨をもらえたからです」
「金の為なら他人などどうでもいいと。自業自得だな。じゃあ俺も金の為ならお前らなんぞどうでもいいわけだ」
「「ひぃ・・・」」
「えっと・・・お兄ちゃん。この人達殺すんですか?」
「ん?まさか。殺さないよ」
「「ほっ・・・」」
「まずは私財を全て寄付してもらう。この町の為にな。買い戻せる奴隷は全て買い戻せ。給料は最低限だけ、この町の為に死ぬまで尽くせ。これは命令だ」
「なっ!?」
「その程度でしたら・・・」
「俺がもし改心したと認めたら、普通の暮らしに戻してやる。精々身を粉にして働け」
これで少しはましになるだろう。俺も当分この町で稼がないといけないしな・・・。
「お兄ちゃんカッコいい・・・」
「はっはっはっ・・・惚れるなよー俺にはすでに嫁がいるからな」
「あっ、ついでに俺の商業権もくれ。炉のある店舗もな。もちろん無償で。もちろん材料とか道具揃えといてくれよ。あとさっき俺が払った金貨10枚を返せ。はい!さっさと動け!奴隷ども!」
「「はい!!」」
金貨を俺に支払い、どたばたと動き出す二人。
「お兄ちゃんかっこ悪い・・・」
「いやいや・・・ここまでしたんだから、ちょっとくらいもらってもいいだろ?俺は慈善事業で動いてたわけではないし・・・」
「ええーもっとこう。俺はこの町の為にやっただけだ。見返りなんて求めてない。とかいう所じゃないの?」
「この町に来て数日の俺が、愛着も何もないしな・・・」
不満そうな顔をするレイネちゃん。その割に抱き着いた腕は未だに離してくれない。
どうなる事かと思ったが、これで俺はこの町で拠点を得たわけだ。いずれ去ることになるが、ある程度地盤とお金を稼ぐために頑張らせてもらおう。
これが俺の・・・星野商会設立の第一歩になった。




