優しいマスター
「まだ遅いで。コンマ5秒以内に発動するんや」
そう言い盾に攻撃を加える。傍から見ると、構えられた盾にひたすら攻撃をしているだけのようにも見える。
「そう言われても・・・」
「攻撃を受けてからじゃ間に合わんで!相手の攻撃を見極めて、当たる瞬間に発動するイメージや」
安物のタガーを大きく振りかぶり、盾に向かって振り下ろす。
カァンと金属が打ち合う音が響く。
「んー・・・スキルをずっと発動するイメージというか、連打するイメージでやってみよか。それでワイがアリスに連撃し続けるから」
「はい!」
連撃を始めると、ちょくちょく【シールドカウンター】が発動する。本来は攻撃に対して盾で受け、カウンターを行い、敵の頭に盾で殴りつける。稀に気絶状態を付与する。
来るとわかってる攻撃を食らうほど馬鹿じゃないので、発動の度に頭部を後ろに下げて躱す。
「大体感覚はわかって来たか?」
「はい!少しだけ・・・引き続きお願い!」
「ええで。感覚さえつかめば、後は慣れやしな」
しばらく攻撃を続けていると、スキルの発動回数が増えていく。きちんとタイミングを合わせてスキルを使っている証拠だろう。
「んじゃあ実戦やな。そこら辺のゴブリン相手に・・・」
「ん?どうかした?」
「ちょっと用事が出来たわ。あとは一人でいけるな」
「ええまぁ・・・ってもういないし・・・」
平原を駆け、町に入るや否や、壁を蹴り、屋根の上に上がる。そのまま屋根の上を駆け、目的地に向かう。
奴隷紋を繋いだ奴隷と主人には、微弱ながら魔力のパスが繋がる。もともとは従魔士のスキルだからだろうか。大きくHPが減ると魔力によるパスが薄くなる。
そしてパスが繋がっている限り、居場所がわかる。
今回はツァリーのパスが消えかけた。その為に彼女のいる場所に向かって駆ける。
人気のない裏路地で彼女たちを見つける。
ツァリーはうつぶせで倒れており、ジーナとミナが倒れているツァリーを庇うように立っている。
そしてそれを囲むようにガタイのいい男たちが4人。
屋根から飛び降り、ジーナとミナの横に着地する。
「どういう状況や?ミナ」
「マスター!?ラクが攫われて!それでツァリーが暴走して・・・」
「落ち着くっすよミナ。マスター。ラクが拉致されたんっすよ。そんでツァリーがラクの残留魔力を辿るとか言って、たどり着いたのがここなんっすけど、見ての通りっす」
鑑定で見る限り、ツァリーは死ぬほどのダメージを追っているわけではなかった。
「お?こいつが例のハイエルフか・・・確かにいい女だな」
「さっさと捕まえるぞ。奴隷も処分しないとだしな・・・」
そう言って剣を構える男達。
「確かにこの先にラクは居るな。ツァリーを連れて先に宿に帰っとき。あとはワイが何とかする」
「ぬかせ!死なない程度にいたぶってやれ!」
そう言う目の前の男の手首を切り落とす。
「な!?てめぇ!!」
後ろから斬りかかってくる男の剣を半身で躱し、同じく手首を切り飛ばす。
剣を振り上げた男は肘から先が無くなり、剣と共に腕が飛んでいく。
「ひぃ!?ば・・化け物!?」
唯一攻撃をしてこなかった男は、剣を捨てて逃走。
ミナとジーナは唖然としていた。
「いつ剣を振ったのか・・・全く見えないんっすけど・・・」
「ツァリー!!大丈夫?立てる?」
ミナがツァリーにを抱き起す。
「ツァリーは任せたで」
そう言ってポーションを数個ジーナに手渡し、ラクがいるだろう建物に向かって歩いていく。
ワイのギルメンに手ぇだして、五体満足でおれると思うなよ・・・。
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~ラク視点~
僕の声さえ出れば、こんなに簡単に拉致されることもなかったんだろうか・・・。
体を縄できつく縛られ、床に投げ捨てられていた。周りを見渡すと、十数名の人が見える。
「こいつを囮にして、本当にくるんだろうな?」
「さぁ?来なかったら来なかったで別の手段を使うさ。なにせあと3体も餌があるわけだしな」
「めんどいなぁ・・・直接攫えばいいんじゃないのか?」
「あのハイエルフは強いんだよ。どんな職を持ってるかは知らんが、銀の冒険者の腕を一瞬で斬り飛ばしてたからな・・・」
「ふーん。それでこの人数と、人質ってわけか。まあ報酬さえもらえれば文句はねえよ。それより、用積済みになった奴隷はどうすんだ?」
「まぁ主人のいなくなった奴隷は処分だろ」
「それだったらこいつは俺がもらっていいか?どうせ殺すならいいよな?」
「え?おまえ・・・そんな趣味が・・・でもそれなら俺はあのエルフでももらうかな~」
「もらえるわけないだろ・・・精々まわしてポイがいいところだろ」
がやがやと話す男達。
あぁ・・・やっぱり夢ですよね・・・僕みたいな欠陥奴隷の行きつく先は決まっている。
皆と一緒に楽しく仕事して、おいしいものを食べて、ふかふかのベットで寝る。
そんな幸せを、僕ごときが願う事すら烏滸がましいというのに・・・。つい勘違いしてしまった。
優しいマスターに、声の出ない僕にも分け隔てなく接してくれる皆。たった一日だけど、僕には十分だった。
そう・・・十分なはずだった。でも、そんなことを考えるだけで、涙が止まらなくって・・・。死んでもいいと思える日々が、生きたいと思えるようになってしまって・・・・。
助けてマスター・・・。
バンッ!!と扉が開く。部屋の中にいた男たちに緊張が走る。
「来やがったか。獲物が釣れたぞ!」
「・・・ホンマは皆殺しの方が楽やねんけどな・・・」
マスターの声が聞こえる。それと同時に男たちの怒号が聞こえる。
「来い!」
髪を引っ張られ、立たされる。首元に金属の冷たさを感じる。
「こいつがどうなってもいいのか!」
マスターの顔を見る。まるで感情のない人形の様に無表情だった。
僕は首を横に振る。
いいんですマスター・・・僕なんて見捨てても・・・来てくれただけで十分で・・・。
カッ!と足元にナイフが刺さる。これは確か・・・。
ナイフが刺さった瞬間、目の前にマスターが現れて、スパンッと言う音と共に僕を捕らえていた男の両腕が吹き飛ぶ。
「なっ・・・があああぁぁぁ!?」
腕を斬り飛ばした男を即座に蹴り飛ばし、両手に剣を持ったまま、倒れる僕を抱きとめ、ゆっくりと座らせる。
「ちょい待っててなラク。すぐ終わらせるわ」
ポンポンッと僕の頭を軽く叩き、男たちに向き直る。
「てめぇ・・・この人数に勝てると思って・・・」
「うっさいわ。ゲームやったら延々とPKして心折るところやけどな。ワイは優しいから、命だけは助けたるわ」
「げえむ?ぴーけー?はっ!俺たちも優しいからな、命だけは助けてやるよ。死んだほうがマシかもしれないがなっ!真空斬!!」
男が剣を横に振るう。剣自体が発光し、光の刃の様なものがマスターに向かって飛んでいく。
カァン!という音と共に、飛んできた刃は天井に当たる。
「そんな見え見えの攻撃で何する気やったんや?」
剣を上に振り上げ、飛んできた刃を上方向にいとも容易く弾くマスター。あれって弾けるんですね・・・。
「てめぇ・・・お前ら!やるぞ!!」
「アックススラッシュ!!」
「ソードスラッシュ!」
「影切り」
「スピアラッシュ!!」
斧が振り下ろされ、剣が横薙ぎされ、後ろから短刀が迫り、槍が多段突きされる。しかしマスターは・・・。
振り下ろされる斧を半身で避け、横薙ぎされた剣は体に到達する前に手首を切り落とし、背後に迫る短刀をまるで後ろが見えているかのように避け、槍は穂先をいつの間にか切り飛ばしていた。
そしてマスターが一瞬消えたかと思うと、周りの男達の四肢が切り飛んでいた。
「俺の足が・・・!?」
「ぐああああああああっ!」
「ほらほら。すぐ繋いでポーションかけたら戻るで?拾わんでええんか?」
「俺の腕・・・っ!」
男が腕を拾った瞬間、腕が木っ端みじんになる。まるで切り刻んだかのように・・・。
「あ~あ。欠損治すには大聖職のスキルか、最高級ポーションがいるなぁ~」
「うわあぁぁぁぁぁ!!!!!」
ここからマスターの顔は見えない。でもなんか・・・このままだと取り返しのつかないことになる気がして・・・。
僕は立ち上がり、マスターに後ろから抱き着く。ギュッと、僕の感じる何かを逃がさない様に。
するとマスターは、体の力が抜けたかのように、ダランと両腕を降ろす。
「はぁ・・・あほらし。ほな帰ろかラク。ツァリーがめっちゃ心配しとったで・・・ってなんやその顔は。安心せぇ、ワイは何処にも行かん。なんせラクたちのギルドマスターやからな」
そう言って僕をギュッと抱きしめる。そのままマスターに抱きかかえられ、その場を後にした。
僕はマスターにお礼が言いたくて、伝わるかわからないけど、マスターの手の甲に文字を書く。
「ん?おう!いつでも頼り、ワイは身内には甘々やからな」
そう笑顔で僕に言ってくれた。笑ったマスターはとても美しくって、僕は恥ずかしくなって目を逸らしてしまった。




