ストーカー聖騎士
聖騎士アリスさんの視点です
昔読んだ英雄譚を読み、私は聖騎士という職に憧れを抱いた。
いわく、この世の全ての悪しきものを払う聖なる者。
いわく、全ての仲間を守り、癒す存在である。
いわく、その盾は全てを守り、その剣は全ての邪悪を斬り伏せるだろう。
聖騎士という職になるための努力は惜しまなかった。何度死にかけたか、冒険者に護衛を頼んでレベルアップをしたこともある。なりふり構わず無職のまま、とうとうレベル40に至った。そして私は、迷うことなく聖騎士の職を得た。その日以降、ステータス画面を見てはニヤニヤしていた自覚はある。私はとうとう、夢にまで見た聖騎士になったのだ・・・・。
しかし、聖騎士になったというのに、特に変わったことはなかった。聖騎士という職の珍しさにパーティーに誘われることもしばしばあった。しかし、取得した【ホーリースラッシュ】のスキルを発動しても、剣士職の【スラッシュ】と特に変わらない。【聖騎士の誓い】というスキルに至っては、どういうスキルかもわからない。名前的にかっこいいからとったのに・・・。
冒険者ギルドでは、鉄の女と揶揄されるようになった。棒立ちで、火力もなく、敵の気を引けるわけでもない。しかし攻撃を受けたとしても、ほぼダメージを受けない。そんな硬いだけが取り柄の女が、何の役に立つというのか。
意志消沈しているときに、ふと見たギルドでのクエスト。ダンジョン産の子鬼が発見されたという。場所はレーブンヘイム。あの近辺の魔物はそう強くない。強くなっていたとしても、レベル20程度であろう。
ちょうどこの町を離れたかった。なので私はこのクエストを受注し、逃げるようにその子鬼の討伐に向かった。
亜種呼ばれる魔物。それは私の想像をはるかに上回っていた。これは子鬼などではない。その圧倒的な膂力、剣を扱う技量が明らかに子鬼などという枠を超えていた。
どうしてこの平原にこれだけの魔物が生まれたのか、剣を盾で受け止めるたびにこちらの体力がごっそり削られる。こちらの攻撃は当たっても微々たるもの。
あぁ・・・私はここで死ぬようだ。どうあがいても勝てるビジョンが見えない。私は負けた。いままでは聖騎士になる為と、己を奮い立たせてきていた心も折れた。
最後にまるで生娘のような悲鳴を上げ、私の意識はここで途絶えた。
ふと意識が覚醒する。暗がりの中、木目のある木の天井がふと目に入る。生きているのか私は・・・。
7割ほど減っていたHPは全快していた。起き上がり、辺りを見回す。昔泊まったことがある、宿屋の部屋だった。
対面のベットを見ると誰かが寝ている。ベットから出て、対面のベットに近づく。
月明かりがぼんやりと部屋を照らす中、そのベットにいる人物の顔を凝視した。
少しだけ尖った耳、ということはハーフエルフなのだろう。しかし、目の前にいるのに、その存在をまるで感じない様な、少し触ると壊れてしまいそうな、そんな儚げで、とても美しい少女。
彼女に救われたのだろうか・・・。少しためらいながらも、彼女の体をゆすって起こしてみる。状況を知りたかった。
しかし結果から言うと、起きてはくれなかった・・・。
仕方ないので、日課の剣の素振りをするために、宿の外に出る。
素振りをしたからと言って、レベルが上がるわけでもなく、ステータスが上がるわけでもない。朝日がさす前に、こうして素振りをするのは、見られると馬鹿にされるからだ。意味のない事だと・・・。
それでも私は、イベントリに入っていた木剣を振る。意味は多分ない。しかし強くなるためにすべて試したい。剣を振ったり、その辺を走ったり・・・。しかし、今回の件で諦めはついた。
もう冒険者などやめて、どこかの殿方に嫁いで、主婦になったほうが幸せだと思う。生憎私の容姿は優れているらしいし・・・。実家に帰って、お見合いの話を受けてみようかな・・・。
そう落胆し、宿に戻る。受付の前で宿のおばちゃんに声をかけられた。
「お、元気になったんだね!朝食どうする?」
「え・・・。あぁ・・・部屋でいただきます。あの人の分ももらえますか?」
「あいよ。準備するから食堂で待ってな」
どうやら昨日食事付きで宿を借りてくれたらしい。もうそろそろ起きるだろうと思い、彼女の分の食事も受け取り、部屋に戻った。
足手まといの役立たずやん
この言葉は私の胸の奥に刺さった。確かにその通りだった。カッとなってしまい、私がその後、何を言ったかわからないが、少女はどこか蔑んだ顔で私に何か言って立ち去った。
自分より明らかに低レベルの人に馬鹿にされたのだ。頭に来ない方がおかしい。それに・・・レベル100?そんな高レベルに至るのはほんの一握りだ。レベル60~80代でトップクラスの冒険者だと言えるだろう。
彼女にあの亜種子鬼を倒せるだけの腕があるのか?運よく私を担いで逃げれただけではないのか?
とにかく私は彼女に興味を持った。すぐ自分の装備をイベントリにしまい、宿を出る。彼女の後を追いかけることにした。
彼女は冒険者ギルドを出ると、そのままの足取りで北側の外門に向かって行った。
レベル15なら、東のオーク系を倒す方が安全なはずだが・・・。北の方はギリードという木の怪物とオオトカゲという全長6メートルほどの大型モンスターが跋扈している。ギリードはレベル18ほどだが、オオトカゲは21で、普通ならばパーティーを組んで討伐するべき魔物だった。
「・・・すご・・・い・・・」
それを彼女は、5体同時に相手をしている。ギリードを含めると10体ほどだろうか。
今の私でもオオトカゲは1対1でちょうどいい相手だと思う。レベル経験値的にはやりたくないが・・・。
オオトカゲが、その大きな手を彼女に振るおうとした時には、彼女はそこにはすでにいない。あれは予測なんて生易しいものではない。すでに知っているのだろう。あれらの魔物の攻撃パターンを・・・。どれだけ倒したらそこまで熟知できるのだろう。彼女はまだレベル15の駆け出しのはずなのに・・・。
日が真上を通り過ぎる頃、彼女は突然上に向かってナイフを投げた。そして姿が消える。
ナイフを投げたほうを見ると、木の枝の上に彼女はいた。そこに座ってイベントリから取り出したサンドイッチをもそもそと食べている。
木の上なら魔物も襲ってこない。なるほど・・・。
それにならって私も木にカサカサと上り、昼食にすることにした。彼女が買っていたものと同じものだ。
そうして私は夕方になるまで、彼女の戦闘を目に焼き付けた。端的に言うと美しかった。攻撃をぎりぎりで回避するため、見てるこっちは冷や冷やするが、それでもただの一撃も攻撃は食らっていない。まるで舞うように戦う彼女は、ただただ綺麗だと思った。
彼女はレベルによるステータス差で戦うというよりは技術力、経験で戦っていると思う。この世界でそんなことをしている人はいないだろう。自分よりレベルの低い敵を倒し、レベルを上げ、おんなじレベルの敵を倒す。これの繰り返しでレベル、ステータスをあげる。
そうでもしないと死んでしまう。命を大事に考えるなら、そんなことは当たり前だ。
彼女は言った、レベル100でもないと必要なスキルが手に入らない。逆に言えば、レベル100に至れば・・・。
どういうわけか、熟練した腕と、知識を持つ彼女に師事するなら・・・私の理想とする聖騎士、全てを守る、憧れたあの聖騎士に至れるのでは・・・。
そう思いいたるや否や、私は彼女の泊まる宿に向かって行った。
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