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私の世界にようこそ  作者: てけと
続・私の世界にようこそ
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失ってしまったものと、得たもの

5話一気に投稿します。

 勉強と少しの息抜き。ひたすらそのルーティーンで日々を過ごし、とうとう進路を決める節目の年を迎えた。入試を受け、合格すると受けられる大学教育のカリキュラム参加。専門技術を学ぶための専門学校。そして就職。大まかに分けるならこの三つだろう。

 大体の人は自分の適職に見合った進路を選ぶ。職人職の適性があった人はもうすでに就職している。知識よりも経験の方に重きを置くからだ。


 俺はもちろんあいつと同じ大学への進学希望だ。模擬試験ではぎりぎりA判定に届かないB判定。入試までにもっと突き詰めればなんとか合格ラインには入るだろう。


「ふぅ・・・そう言えば最近あいつと会ってないな・・・」


 ふとそんなこと思う。半年ほどだろうか、いつも凛が何かあるたびに俺の所に来てくれていた。俺は必死で努力しないとあいつに置いて行かれるので、あまり余裕がなくて、小さい頃の時のように、あいつの家に行く事がいつの間にか無くなっていた。


「やっとひとつの目標に届きそうだし・・・久々に凜の家に行ってみるかな」


そんな軽い思い付きですぐ家を出て、隣の家の碓氷家に向かう。

 とはいえ何を話すべきか。最近どうよ?的な?なんとかお前と、凜と同じ所に行けそうだとか?まぁ会えば自然と会話になるだろう。


 そんなことを考えていると昔から見慣れた家の前に着く。チャイムを鳴らそうとしたが・・・表札の名前が違った。碓氷ではない。


「あれ・・?久々すぎて家の場所間違えたか?」


 そう思い辺りを見回す。いや、ここで間違いない。

 

「あら?確か隣の家の息子さんよね?こんにちわ」

「あ・・はい。こんにちわです」

「引っ越しの挨拶に伺った時は見かけなかったから。これからよろしくお願いね」

「こちらこそ・・・よろしくお願いします」


 何がなんだからわかなくて、俺は頭の中が真っ白になっていた。









 


 

「そうねぇ・・・確か今から・・・五か月くらい前だったかしら?引っ越しするって聞いたわ。確か都内の方に」

「なんで教えてくれなかったんだよ」

「だってあなた凜ちゃんとあんなに仲良かったから、知ってると思ってたわ」

「・・・。そっか。捨てられか・・・」

「そんなことないと思うけど・・・聖!」


 母さんの呼び止める声を無視し、俺は部屋に戻った。




 その日の夜、真っ暗な部屋で座り込む俺の元に父親がやってくる。


「聖・・・晩飯食わんのか?」

「食欲ない」

「そうか・・・その、あれだ。すまんかったな・・・言うべきだったよな」

「父さんは悪くないよ」

「・・・一つだけ言わせてくれ。凜ちゃんが何も言わずにお前の前から消えたのは、何か理由があったと思うんだ。そう悪い方向ばっかりに考えるものじゃないぞ」

「・・・・」

「まあ飯は食っとけ。心配はするだろ?」

「わかった・・・」



 その夜、眠れずにいろいろ考えた。なんで一言もなく消えたのか。理由があったんだろうけど・・・でも、あいつと俺はそもそもの才能が違いすぎる。ならば見限られても・・・いや、でも、なんで。

 そんなふうに考えがひたすら堂々巡りして、頭がおかしくなりそうだった・・・。


 翌日の朝、突然やってきた父さんに担がれて、車に乗せられた。どこに連れていかれるんだろう・・・。


 一時間ほどすると、車が止まる。着いたのだろうか?


「聖。部屋で籠ってても何も解決しない。どうせだから俺の仕事でも手伝え。体を動かせば少しは気持ちが軽くなる」

「はい?」

「ほら。道具を降ろせ。さっさと動く!」


 言われたとおりに車の後部座席に積んである道具を降ろす。

 父親の仕事は大工だ。今の時代、工場で作られた建築素材を番号通りに組み立てるだけの家が多い。多少の手直しはいるが、大体一月ほどで一軒建ってしまう。

 しかし父さんは昔ながらというか・・・建材一つ一つすべて自分で発注して建てる。ガスや電気はさすがに外部業者だが・・・。

 正直儲かってはいないだろう。しかし父さん曰く、この仕事は生き甲斐だそうだ。

 信頼は高いのだろう。この先何件も予約は入っているそうだ。


「お?聖坊じゃねか!なんだよ棟梁~結局継がせるのか?」

「継がせねぇよ!せっかく何でもできるとか言われてんのに、俺の跡継ぎなんてもったいなくて仕方ねえよ」

「そうか?こんなやりがいのある仕事なんて・・・はぁ・・・職人の時代ももうすぐ終わるのかぁ」

「寂しくはあるがな・・・。時代は変わっていくんだよ」


 そう言う父さんの背中は少し寂しそうに見えた。






 小さい頃に少し仕事を手伝っていたこともあり、ある程度の仕事はわかっていた。職人さん達の仕事を手伝い、汗まみれになりながら必死働いた。


 まるで憑りつかれた何かを振り払うように・・・。


 


 疲労困憊で帰りの車に乗り込む。必死で勉強ばっかりしていたツケだろう。体中のあちこちが痛い。


「聖。お前は何でもできる。そういう結果だったよな」


 何でもそつなくこなせる。要は器用貧乏。そんなものより何か一点に尖った才能が欲しかった。そうすれば何も迷うことはなかっただろう。


「確かに迷うだろう。父さんは選べるような立場じゃなかった。親父が頑固だったしな・・・。まあ今の仕事は楽しいし、親父には感謝してるんだけどな」

「そっか・・・。俺も父さんのようにもう一度生きがいを見つけられるかな・・・」

「俺の後継にはせんぞ?だが・・・いろんな仕事を見るというのもいいだろう」


 そう言って父さんは俺にスマホを放り投げる。


「俺のツテで紹介できる現場だ。職人ばっかだけどな!そういう横の広がりはあるんだよ。明日からいろいろ回ってみろ。連絡はしてある」


 スマホを操作すると、スケジュール表にびっしりと予定が入っており、場所、名前、連絡先等々が入っていた。

 機械音痴の癖に頑張ったのだろう。所々誤字が目立つ。


 俺のためにここまでしてくれているこの父親に・・・報いないとな・・・。

 俺は渡されたスマホをギュッと握り、父さんにかすれた声でお礼を言った。


 新たな決意と覚悟を胸に俺は前を向く。頬を伝う汗はとても熱く感じた。

読んでくださっている方に多大なる感謝を。

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