ツバサの結婚式 前編
更新おくれて申し訳ありません。
「ツバサ。これが明日の結婚式の進行表だが……別に適当なもんだからお前の好きなようにするといいぞ。丸一日使ってもいい。お前の結婚式だからな。いい思い出にしろよ?」
「……なんでシンさんはそんなに決死の表情を?」
今から死地に向かうかのような覚悟を決めた顔をしているシンさん。
「明日俺がいなかったら察してくれ…じゃあまた明日な」
気のせいか何か変なオーラが見えた気がした。…まあシンさんの事だから大丈夫だろう。
僕は明日の事に集中しなければならない。もらった進行表を見る。
「へぇ~結婚式ってこういう感じなんだ……でも…」
なんか違うんだよなぁ~…それが何かはわからないけど……。
小一時間ほど進行表を見ながら唸っていると……。
「どうしたのツバサ?眉間にしわを寄せちゃって…怖い顔になってるわよ?」
「ん?ミーシャか…いやね?明日の僕たちの結婚式なんだけど…どうもなんか引っかかっちゃってね…」
「どれどれ~?」
風呂上がりなのか、石鹸のいい匂いのするミーシャが僕の後ろから進行表を覗き込む。
「別に特に変わったところはないけど……しかし…ツバサの世界ってこんなに豪華な結婚式を挙げるのね~」
「この世界ではそんなに…というか僕は一応貴族だよ?スピカは王族だし、これって逆に貧相じゃないの?」
「王族でもこんなことしないわよ?昔は街をあげてやってたみたいだけど、それも報告的なものだし…今は妻と夫だけで、愛を誓う小さな儀式をするだけね」
「小さな儀式?」
「うん。そこは変わらないと思うけど…お互いの薬指に指輪を付ける。それだけね」
「へぇ~…ってもうそれシャルとやった気がするな…」
「じゃあシャルが正妻なのかしらね~?多数の妻を持つ夫は正妻に指輪を付けてもらうわけだし?」
「ええ!?僕はそう言うのはこだわらないんだけど!?みんな大事な僕の妻だよ?」
「知ってるわよ。シャルにもそんな気はないみたいだし?その辺はちゃんと考えてあるわよ」
「…僕の世界とこの世界…」
「どうしたのツバサ?」
……別に僕はもう元の世界に帰りたいわけではない。この世界で生きていく。そう言う覚悟は終わっている。
確かに元の世界はいろいろ便利だ。この世界のなん百年先の技術を持っているからだ。この旅行はとても楽しいし懐かしい。妻達に僕がいた世界を体験させてあげられてよかったと思うし、そう言う場を提供してくれたシンさんにはとても感謝している。
しかし……。
「うん。僕たちは僕たちの結婚式をやろう。ミーシャ、今夜皆で出かけよう。明日のやつは…披露宴にしよう。みんなの家族との親睦会みたいな感じでさ!」
「ツバサが言うならいいけど…みんなドレスで出かけるの?大変よ?」
「いやいや。この世界風にさ、質素にでも神聖にやろう。出来る?ミーシャ」
「出来るも何も…やるんでしょ?なら夫の為に動くのが妻よね」
「ありがとうミーシャ」
「お安い御用よ」
そして僕たちはその夜、満天の星空の下誓いを交わした。ホントに質素で、まるで子供のころにやったごっこ遊びの様なものだったけど……。
僕はもうあの世界には帰らない。そう言う誓いも彼女たちとした。僕が死んで魂になったとしても、必ずこの世界で生まれ変わって、もう一度彼女たちと会う。その為に……僕はもっとこの世界に馴染まないといけない。
元の世界と決別する意味でも、この旅行はいい機会だったのかもしれない。
「どうしたのツバサ?ぼーっとして」
「ん?何でもないよシャル。明日に備えて今日は寝よう」
「うん!…ありがとうねツバサ」
「…こちらこそ。これからもよろしく頼むよ」
シャルと優しくキスを交わし、その夜はそのまま眠りに落ちた…。
そして翌日。
「それでは!新郎新婦の入場でーす!」
天人族の声が、会場内に響き渡る。
それと同時に大きな扉が開き、僕とその妻たちが赤いカーペットの上を歩く。
大きな歓声と拍手に手をあげて応えながら、ゆっくりと進んでいく。
そしてそのまま壇上に上がり、全員で振り返りお辞儀をして、全員壇上にある席に座る。
「それではこれより、ツバサ達の結婚披露宴を開催しまーす!みんな来てくれてありがとうございます。司会進行は私セシルが努めます!ではツバサ。開会の挨拶を!」
僕の前に置かれているマイクを持ち、昨日から考えていた挨拶を始める。
「本日は大変お忙しい中、私たちの為にお越しいただき誠にありがとうございま…」
「典型的なテンプレ挨拶ならやめますよ~ツバサ?」と司会のセシルがこちらを牽制してくる。
「ええ!?せっかく考えてきたのに!」
「みんなツバサの言葉を聞きたいんだよ?どこのだれかが考えた挨拶なんて別に聞きたくないかも?」
「シャルまで……」
別に言う事なんて…ただただ感謝しか……。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。僕たちは昨夜、夫婦の誓いを交わしました。ささやかで、とても豪華とは言えないけど……それは僕の覚悟でもあります。どんなに貧乏で質素な生活でも、彼女たちといれば僕は幸せだ。そしてもちろん…僕もどんな困難が立ちはだかっても…彼女たちを幸せに導いてみせると…そう自分の心に誓いました。そして彼女たちの両親、家族に多大な感謝を。彼女たちを育てて下さってありがとうございました!」
僕は深々とお辞儀をする。すると大きな拍手が起こる。
「それでは皆様!しばし歓談と食事をお楽しみください!」
「あれ?僕たちの紹介とかがあったんじゃ?」
「そんなことしてたら日が暮れるわよ。さて…私はお母さんの所でちょっとおしゃべりしてくるわね」
「ご主人様…私たちも…」
「うん。行ったげて。久しぶりに会うんだもんね」
僕以外はみんなさっさとあいさつ回りに行ってしまった。本来は夫婦で回るものだとは思うけど……。
なにせ8年ぶりくらいの再会の妻だっている。野暮なことは言いたくない。
「んじゃあ僕も…あいさつ回りにでも行こうかな…」
椅子から立ち上がり、一番感謝するべき人物の元に向かう事にした。
「あれ?ツバサさん。お嫁さん達と回らなくていいの?」
「まあ…僕は昨日挨拶は済ませてるからね。家族との時間に横入りするほど、僕も空気が読めない訳じゃないさ。それより…シンさんはどこに?」
シンさん達がいる円卓に向かうと、いの一番にマオが僕に気付いた。僕の魔力でも感知しているのだろうか?
「ん?お兄さんならそこにいるじゃない」
マオの指さす方を見ると、そこには何か黒い影のようなものが見えた…まさかあれが?
真眼で確認すると、確かにシンさんだった。そしてちゃんと生きているようだった。
「あれがシンさん?気配がなさ過ぎて気付かなかった…。大丈夫なのか?」
近づいてみると、まるで生気が抜けた目をしたシンさんが机に伏せていた。心なしか頬がこけてやつれて見える。
「おう…いい挨拶だったぞ…ツバサ…」
「シンさん。いったい何が…」
「…搾り取られただけだ…気にすんな…直に慣れる…は…ず?」
…なるほど。確かにシンさんの奥さんたちを見ると、なんかつやつやしてる気がする。
「シンさんがいろいろ段取りを考えてくれてたのに、結婚式を勝手にやっちゃってすいません。そしてこういう場を設けてくれてありがとうございました…」
「気にすんな…お前の好きなようにやればいいって言っただろ……それにお前らの挙式は…俺たちの結婚式のついでだ…別に苦労はしてないぞ」
「ははは…自分たちの結婚式より豪華なのについでだとか…まぁそう言う事にしておきますよ…本当にありがとうございました」
「おう」
フラフラと手だけをあげて僕に応えるシンさん。何か精力のつくものでもあればいいんだけど……。
「ミカヅキ卿に少しお願いがあるんですけど…」
そう言ってきたのはシンさんの妻の一人のミーコだった。
「ん?僕ができる範囲だったら聞いてあげてもいいけど…」
「この間フーコちゃんと作った精力剤があれば…先生も元気になるんだけど…材料がなくってね…調達できませんかね?」
「ミーコ…あれはすごく貴重だから…さすがに無理じゃない?」とフーコが言う。
「その材料ってのは?」
「魔力濃度の濃い森にだけ生えるマンドラゴラっていう植物の根っこなんですけど……」
「…抜いたときの叫び声を聞いたら死んだりしないよね?」
「??植物が叫び声なんか上げるわけないじゃないですか。まあ魔力を吸って育つので、根っこはその魔力に応じた姿をしてるらしいですが…人型をしていても叫ぶことはありませんし…私たちが使ったのは猫のような形をしていましたね」
「……相変わらずファンタジーしてない気もするけど…どの辺にあるとかは?」
「ツバサさんツバサさん。魔力濃度の濃い森だったよね?」
話を聞いていたマオが横から会話に参加してくる。
「今この島の真下に、漂っている魔力を感じるよ?もしかしたらそこかも?」
「え!?今から行くの!?僕タキシードなんだけど……」
「ひとまず私を連れて言ってくれたら、今後空間を繋げるようになるからさ!ティアがいればよかったんだけど…」
ティアは僕の披露宴には来ていない。ティシーちゃんへの引継ぎいとか管理が少し忙しくなるので帰ったらしい?僕は良くわかっていない。
「着いたらすぐここに帰るからさ。お願いツバサさん!」
「お願いしますミカヅキ卿」
「おまえら…披露宴中に何をお願いしてんだ……やめとけ…俺なら大丈夫…だ…」
途切れ途切れに話すシンさんを見てると痛々しくって……。
「わかった。そうと決まればすぐに出よう。……僕にもその精力剤作ってね?」
「材料があればいくらでも作りますよ」
そうと決まれば善は急げだ。走って外に出て、先にワープしていたマオを抱え、島を飛び降りた。
目的地は真下。到着後すぐ離脱。簡単なミッションだ。
………僕のトラブル体質がなければね………。
いつもお読みいただき有難うございます。




