シンの結婚前夜
若干胸糞悪いお話があります。
あんまり書きたくはないのですけどね…書いてて嫌な気持ちになります…。
「ったく…わざわざ俺を締め出さなくてもいいんじゃないか?」
俺の嫁達の晴れ姿を一足先に見ようとしたら、なぜか締め出されてしまった。いいじゃないか別に…どうせ明日見ることになるんだからな…。
暇になってしまった俺はフラフラと、自分とティアで作った世界を歩く。
「ん~…何しようか…」
何かやってないと落ち着かない俺は、ついつい仕事でも遊びでも何か探してしまう。
何故か今日は天人族もみんないない。もちろんティアも。なので久々に完全に一人だ。
「待ち望んでた一人の時間なのに…割とみんなといる方が楽しいもんなんだな……」
何かないかなぁ……。
そういえば…ルイは前のビーチバレーで俺の嫁になったわけだが……。
フーコはいつの間に?夜何食わぬ顔でマオ達と一緒にベットに来た。そして結局流されるように一緒に寝てしまったわけだが…。
「そうだ…これを使えばわかるんじゃねえか?」
この旅行が始まってからずっと、胸元のポケットに忍ばせているカメラを取り出す。小型でペンに偽装してあるカメラだ
「えっと…適当な家に入って見るとするか…」
映像を記憶しているデータはパソコンで見ることが出来るはずだ。確か何処の家にも設置していたはず……。
目の前にある家に入り、適当な部屋に置いてあったパソコンを起動させる。
「フーコが嫁になったのは……多分遊園地に行った時だな。あの日の夜からフーコが俺の所に来るようになったし…」
遊園地の日の朝まで動画を進める。そして……
「げ…お化け屋敷……そう言えば入った記憶が少しだけあるな……」
あんまり見たくないが…嫁との馴れ初めくらいは自分でちゃんと覚えておきたいしな……。
覚悟を決め、動画を見ることにした。
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『お…おい‥…絶対俺から離れるなよ…危ないからな…』
情けなくも少し震えた声でシンが呟く。
『はーい!先生から離れませんよ!』とミーコは元気良くシンの腕に絡みつく。
『うん…』少し俯いてミーコとは逆側の腕を抱くように抱えるフーコ。
チカチカと点灯する、頼りない電灯だけが真っ暗な空間でぼんやりと光っている。
『なんか少しさむ…ヒッ!?今首元に何か!?』
『ん?なにもありませんよ?』
恐る恐る震える足を前に出し、少しづつ前に進む。そして気付く。
『ここは…病院か…?趣味が悪すぎる…』
ボロボロでただの廃墟かと思いきや、よく見ると病室っぽいものが見て取れる。
患者服なども床に散乱している。薄汚れた注射器や尿瓶なども、割れていたり、粉々になってたりして放置されている。
バンッ!!と大きな音がいきなり前方の方から聞こえる。
『ヒィ!?なんだなんだ!?!?』
『何かいるんでしょうかね~?ちょっと見てきますね!』とミーコがシンの元から離れ走っていく。
『待て待て待て待て!!』
シンの制止を聞くことなく、ミーコは暗闇の中に消えて行ってしまった。そしてミーコは数分してもそのまま帰ってこなくなってしまった。
帰りたい…今すぐ引き返して現実に帰りたい…そう思うが……。
『嫁を見捨てて逃げるわけには……待ってろミーコ…今助け…る…』
決死の覚悟を決め、逃げたいという本能に抗い、震える足を叩き叱咤する。
そして少しづつだが前に進んでいき……。
手術室と書かれた部屋に到着する。
ゴクリと生唾を飲み込むシン。一度深呼吸をし……。そぉっとドアを開ける。
手術室に入ると、その中央にある手術台にミーコがうつぶせで寝ていた。
『ミーコ!?大丈夫か!?』と小声でミーコに呼びかけるが返事がない。
恐る恐る近づき、ミーコの体をゆするが、反応がない。
『まさか…魂を…?』
とその瞬間、手術台の周りに有る器具や道具が宙に浮き暴れはじめる。ドガッバキッと時折ぶつかりながらグチャグチャに空間を飛び回る。
『ひぃ……いや…怖がってる場合じゃねえ…ミーコを返せよ…っ!』
バシャッ!と壁に血がぶちまけられたかと思うと、血文字でこう書いてあった。
まじんぞくふーこをおまえのよめにくわえろ
『…フーコはいま関係ないだろ……そう言えばさっきから反応が…フーコ?』
フーコが抱いている方の腕がギチギチと締め付けられる。どうしたのかと見てみると……。
顔のないフーコだったものがシンの腕を締め上げていた。
『ひぇっ…』
一瞬であとずさり、腰が砕け動けなくなる。
『わたしを…およめさんにしてくれる?』
ギギギッと腕を抱く力が強くなっていく。後ずさった衝撃でフーコが手術台の上からずり落ち……。
ズズッと体を引きづるようシンの方に向かってくる。
『フーコちゃんを…お嫁さんにしてあげますか?』とミーコが顔を上げると……。
目が六つくらいついており、口は頬まで切り裂かれ、鼻が削げ落ちた顔で、シンの方に這いずってくる。
『ひいいいいぃぃ……わかった!わかった!フーコを俺の嫁に迎え入れる!だから許してくれー!!』
そして部屋がバンッという音と共に暗転すると同時に…シンは気を失っていた。
『ふふふ…!大成功ー!』
『いえーい』
明るくなった部屋でハイタッチをするミーコとフーコ。顔は既に元に戻っている。
『本家の魔法はすごいですねー。ここまで演出できるなんて…これでフーコちゃんも先生のお嫁さんですね!』
『ありがとうミーコ。ミーコも…糸だけであそこまで操作できるなんてすごいね』
『ん?私は何もしてませんよ?血文字だけは私の仕業ですけど…あと何かあったんですか?』
『……シンを連れてさっさと出よ?』
『なにがあったんです?ちょっとフーコちゃん!?』
フーコはシンを抱え、ミーコの手を引きお化け屋敷を後にするのだった。
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「やられた…けどまぁ…別にいいか…」
動画を見終わり、ため息をつく。
嫌われるならともかく、慕われるのはそんなに悪い事じゃない。昔の俺なら何か裏があるんじゃないかと疑ってかかるところだが……。
俺は今の現状がすごく気に入っている。多分これが幸せってやつなのかもしれない。幸せだったかなんて、死ぬときにしかわからないものだと思っていたが……。
「ふふっ…はぁ…毎日が楽しくてしょうがねえよなぁ~」
彼女たちといた時間を想うだけで笑みがこぼれる。きっと今この状況が、この環境にに居れる事が、最高に幸せだって、そう言いきってしまえるかもな。
バタッと部屋に有ったベットに倒れ込む。どうせもうやることはないのだ。ならば夕方くらいまで一休みしよう…。
そうして俺は目を閉じ、夢に中に旅立っていった。
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(お前が御門慎二か)
(どちら様ですか?)
(どちら様とはご挨拶だなぁ…。お前人から金を借りておいて知らんぷりかよ)
(はい?俺はまだお金を借りれる歳じゃないんですけど…)
(うるせぇ!ここに契約書も、お前の拇印もあるんだよ!!)
(そんな……)
(お前ら!ここに有るもん全部持っていけ!)
(へい!!)
(俺は明日からどうやって、生きて行けば……)
(あぁん?そんなの俺が知るかよ。回収したら行くぞ!御門慎二。この程度で返済できていると思うんじゃねえぞ?また来るからなぁ)
(よお御門慎二)
(なんですか…?毎月15万は払ってるでしょ…。おかげで俺は宿なし飯無しですよ。持っていけるもんがあったら勝手に持ってってください)
(なんだ逆切れか?あんなの利子の返済にも足らねえよ。そこでだ‥いい仕事を紹介してやるよ。なーに半年くらい漁師をやるだけだ)
(はぁ…それであなた方が満足なら…それで俺の借金は無くなりますか?)
(元金は減るだろうな。まあお前に行かないって選択肢はないがな)
生きるって何だろうな…。こんな地獄生きてて価値があるのか?
(なんですか…まだ俺に用事ですか…)
(つれねぇこと言うなよ御門慎二。まだまだ借金返済にはほど遠いんだからよ)
(そもそも俺の借金っていくらあるんですか?)
(あ?そんなの自分で把握しとけ。次の仕事だが…)
誰かのために生きるってこう言う事か?誰かの養分として生きるってことなのか?
(御門慎二君ですか?)
(…警察が俺に何の用ですか…)
(捜索依頼が出ていてね。君のお父さんが心配しているんだよ)
(…そんなわけないですよ。ねえ警察官さん。俺そこに帰ったら奴隷のように働かされて、死ぬまでそのままなんですよ…見逃してくれませんかね…)
(そうはいかないんだ。君が抵抗するなら…すまんが手錠をかけさせてもらうよ)
(………)
悲観してても助けはこない。この世界に俺の味方は一人もいない。
(てめぇ慎二!手間かけさせんじゃねえよボケが!!)
(ごめんなさぃ…でも…俺借金なんて…)
(お前に覚えはなくても事実はあるんだから仕方ねえだろ!!ちゃんと借りたもんは返せ!…すいませんお待たせして、慎二をお願いします)
(おう。御門慎二。お前顔はいいんだからよ…体売るか?)
尊厳も、人権も、自由も、生まれた時から何一つ与えられなかった。
(よう御門慎二。いい感じで夜稼いでるみたいだが…。お前昼間暇だろ?仕事見つけてきてやったぞ)
(……はい…)
こんな世界で必死に生きてどうするんだ…。きっと前世でとんでもないことをやらかしたのだろう…。
死にたい…でも…自殺なんかしたらまた来世でこんな目に合うかもしれない……。
(手が器用でいい人材をありがとうよ!でもほんとに年間100万程度でいいのか?)
(ああ。そのうちの80はうちに回せよ。20はあいつを生かすために使えよ?あんなにいい金づるはなかなかいねぇんだからな)
(生かさず殺さずってか…ひどいやつだ)
(お前に言われたかねえよ…。あいつの親もひでぇもんだ。たかだか1000万程度であいつを売ったんだからな。良い買い物したぜ全く…)
俺にとってこの世界は地獄だ。出来る限り早く死にたい…誰か俺を殺してくれないか……。
俺はただ普通に…生きていたいだけなのに……。
(シン…シン…)
また誰かが俺を呼ぶ声がする…。もうほっといてくれ…。この暗闇で…永遠に過ごしていたい…。
そうしていれば…ひどい目にも合わないし、辛いこともしなくていい…。
俺はもう生きたくない……死ぬことこそが…俺に与えられた唯一の安らぎだから……。
(シン……シンっ!)
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「シン!!起きてください!!」
ふと目を開けると、金髪の狐耳の付いたきれいな女性が俺の目の前にいた。誰だろう?
「嫌な夢でも見たんですか?…どうしたんです?変なものを見る目をして…」
違う…。この世界は俺がいた地獄とは違う。
「ココ…ちょっとすまん」
彼女の華奢な体を抱きしめる。暖かい体温が、俺の冷めた体を温めてくれる。
「どうしたんですかシン……震えてる?」
「ちょっとだけ我慢してくれ…」
「我慢だなんて…シンから抱き着いて来るなんて初めてですね。嬉しいです」
そう言って俺の背中に手を回し、背中をさするココ。
彼女の体温が、俺の凍った心まで溶かしてくれるようで…少しすると体の震えは止まった。
ココを体から離し、一度深呼吸をする。
あの頃の悪夢を見るのはこれで2度目だ…。すっかり忘れたもんだと思ってたのにな…。
「もしもし?マオですか?シンを見つけましたよ~。場所は……」
この世界にはないはずのタブレット型の電話を持ってマオと話すココ。なんで当たり前のように使いこなしてんだよ…。
「シン。マオから聞いてましたよ。学校でも寝ている時そんな感じだったらしいですね…。大丈夫なのですか?」
とても心配そうに俺を見つめるココ。
「…俺はふとたまに思うんだよ。これが夢で、俺はまだあっちの世界で生かされてるんじゃないかってな…そう考えると…怖いんだよ」
手が少し震える。
俺の震えた手を、両手で包み込むように握り、ココは自分の胸元に持っていく。
「ちゃんと現実ですよ。私の手暖かいですよね?私の魂の半分はシンの魂なんですよ。感じますよね?」
「ああ…。そうだな。馬鹿な事を言って悪かった」
「お兄さん~ドレス選び終ったよ~!ってあれ?なんでココといい感じになってんの!?ズルイよ!」とマオが空間に穴をあけてやってくる。
「ココにやったことを私達にもやるべき」とサーニャもその穴から出てきて…。
いつの間にか俺の周りには、俺を慕ってくれる嫁達がワイワイと騒ぎ出す。
俺には今慕ってくれる人がいる。語り合える仲間がいる。あの世界とは違う、俺は自分の意志で、自由に生きている。
ならばきっとこの幸せな時間が…いつか俺の嫌な思い出を塗りつぶしてくれるだろう……。
「うるせぇ!今日は結婚前夜だろ?たっぷり可愛がってやるから覚悟しろ!!」
そして翌日、俺と彼女たちの結婚式が始まる。
いつもお読みいただき有難うございます。
たまに夢と現実がごっちゃになりますよね。たまにというか…僕の場合はしょっちゅうなんですけどね…。




