懐かしき世界
ちゃんと話の起承転結はつけるつもりなので…最後までお付き合いくださると幸いです…
お昼を少し過ぎたあたりに、マオが僕たちの屋敷にやってくる。僕たちは準備を終え、庭で待っていた。
「待たせちゃったかな~?」
短めのフリルスカートに、可愛らしいパーカーを着たマオが、手を振りながら屋敷の門扉から歩いてくる。
「「マオかわいー!」」とシャルとシツルが走っていく。
「シャルも綺麗だよ~!シツルちゃんも可愛いね!!」
シャルは真っ白なワンピースに、つばの広い白の女優帽を被っている。シツルは花の刺繍がしてある、薄いピンク色のレースワンピースだ。
「お?ツバサさんも決まってるね~カッコいいね~」
「「ね~!」」とシャルとシツルが声を合わせる。
僕の服装は…少しダメージの入った黒のジーパンに、白いシャツと黒いのパーカー。それとリングとついた長めのネックレス。
「少し恥ずかしいね…元の世界だと基本スエットだったし…」
全員が僕たちが元にいた世界の衣服を着て、ネックレスや時計、ブレスレットなどをしている。
まるで…
「もうみんな集まってるからね!あとはツバサさん達と、お兄さんだけだよ~!さあ行くよ!」
マオはそう言うと、空間に穴をあけ、入るように促す。
シャルとシツルが小走りで入っていき。初めて見る魔法に戸惑いながら、嫁達が一人一人入っていく。最後に僕が入り…
「これはやっぱり…まるで元の世界に戻ってきたみたいだね…」
総勢100名くらいの人が、各々現代風の衣服を着て、歓談している。背景の城が、まるでどこかのアミューズメントパークみたいに見える。
「そうだね~…懐かしいよね…」
少し悲しそうにマオが言う。僕やシンさんのように、元の世界で不運な人生を送ってきたわけではないんだよねマオは…
「まあ僕も…家族の事は少し気になってるけどね」
僕にはもったいない両親と妹だった。もう会えないと考えると…少し悲しい気分にはなる…
「おいおい。これから楽しい楽しい旅行に行くのに。落ち込んでんじゃねえよ」
後ろから頭にチョップされる。マオもチョップされていた。
割と強めに叩かれ、頭を押さえて振り返ると…
シンさんが、とび職の人とかが着ているような作業着姿で現れる。肩には天人族が乗っている。
「あれ?お兄さん?どうやって?」
「ティアに頼んだ。割と準備に時間かかってな…箱舟だと間に合わなかったんだよ…」
とても眠そうにシンさんが答える。肩車されている天人族が胸を張る。
「ふふふ~!二人目ちゃんが使える魔法くらい、私だって使えるんだよ!」
「まあ管理者さんだしね…」マオがジト目でティアを見る。
「世界には降りれないんじゃなかったの?」
確かそう言ってたはずだけど…?
「降りてないよ?一人目ちゃんの肩に乗ってるからね!」
ドヤ顔でそんな屁理屈を言う…子供か!
「シン!」とココがシンさんの胸に飛び込んでくるが…数瞬のやり取りの後、シンさんに躱される。
「今はちょっと泥だらけだからな…また後でな?」
今の一瞬でどんな攻防があったのか…目線のやり取りと、数回のフェイントが少しだけ見えた。
「むぅ…私は別にそれでもいいのに…」
「せっかく綺麗に着飾ってるのに汚れたらダメだろ?それよりさっさと行くぞ。ティア」
「はいはーい!んじゃあ皆様を、私たちの国、ディスピアードにご案内~!」
ティアが手を翳すと、豪華な両開きの扉が現れる。
そしてシンさんがメガホンを持ち、いつの間に作ったのか、台座に立つ。
「ハイ注目~!これから楽しい旅行の始まりだが…あんまり羽目を外しすぎるなよ~。あとこれから向かうところは、お前らにとっては異世界だ。この旅行先にある物を、絶対に持ち帰ったり、再現したりしないようにな?俺からは以上だ。存分に楽しめ。今回の旅行のコンセプトは…『俺たちの世界にようこそ』だ」
言いたいことを言うと、さっさと扉を開け、シンさんはそこに入っていった。
「まさか元の世界に帰れるの?」とマオが戸惑っているが…
「残念だけどマオ…僕たちはもう向こうの世界では死んでるんだよ?魂だけなら帰れるらしいけど…肉体を持ったままだと帰れないらしいよ…それにティアが言ってたしね。ディスピアードにご案内ってね」
「そっか…まあでも、お兄さんの考えた旅行ならきっと楽しいよね!」
「だろうね~」
そして僕たちもシンさんに続いて扉をくぐる。すると…
そこにはコンクリートで舗装された道路があり、ガードレールや、標識もある。脇には桜の木が植えられていて…まるで僕たちの世界の風景を切り取ったかのような景色がそこにはあった。
「「え?」」
とマオと二人で固まる。
辺り一面、まさに僕たちの世界そのものだ。住宅街なのか、一軒建ての家がそこらへんに建っている。
「何ボーっとしてやがる。さっさとバスに乗れ。目的地はここじゃないからな」
「「バス!?」」
「わぁ~なにここ!きれいなはながさいてるよ~?」とシャルと手を繋いで入ってきたシツル
「これが…シンのいた世界ですか…」とココが目を見開いている。
「ほほう…これは興味深いですね…こんなに地面が平らに…」とカインが地面に触れている。
「後でゆっくり見て回る時間はあるから、とりあえずバス…そこの金属の箱に全員乗り込め」
するとまたメガホンを持ったシンさんが、みんなにバスに乗るように促す。
5台ほどあるバスに、各々乗り込む。
シンさんとティア以外が乗り込むと、ゆっくりと前のバスが動き出す。
「あれ?シンさんはどうするんです!」
窓を開け、シンさんに叫ぶ。
「俺はまだ作業があるからな。夜にまた会おう」
そう言ってティアと二人で消えて行った。何をやってるんだろう…というか…
「このバスはだれが運転してるの?」
発進したバスに揺られながら、ふと疑問に思った。
僕の周りに座っている嫁達は、しきりに窓の外を見て感動している。
「てんじょういんのセシルだよ~!あんぜん運転致しますのは、運転手のソミアになりまーす!みなさん短い間ですが、よろしくね~!」
ひょこっと前の席から現れた天人族が自己紹介をしている…ご丁寧にバスガイドさんの服を着ている。
もしかして天人族が運転してるの!?足届くの!?
「窓から見える花は、サクラと言います。ほんものではありませんが…ツバサの世界ではとても有名で、愛されていた花だそうです!」
「確かに綺麗よね~なんていうか…可愛い花よね」とミーシャがミサを抱いて、サクラに見惚れる。
「そして右側に見えますのが、明日皆さんが行く遊園地になりまーす!」
「すごーい!あれなに!?」とシツルが目を輝かせ…
「なんだろうね!楽しみだね~」シャルも同じように目を輝かせている。
「まだまだありますが…そろそろ目的地にとうちゃくするみたいですね!」
数分程度走ると目的地に着いたようだ。別に歩いてもいい距離だった。
「前に見えますのが、みなさんのたいざいする旅館。『天の里』になりまーす!」
そしてバスが止まり、僕たちは降りる。
目の前には4階建ての古風な旅館があった。コの字に建てられた大きな建物だ。
和風な旅館の周りには松の木や竹がぽつぽつと生えていた。
前を走っていたバスに乗車した人達はもう中に入っているようだ。なので僕たちもその旅館に向かう。
カラカラカラと入口の引き戸を開くと、和服を着た天人族5名が、丁寧にお辞儀をして迎えてくれる。
「天の里にようこそ~!ミカヅキきょうご一行のお部屋に、ごあんないしますね!!」
天人族たちの後に付いて行く。
「あ~!シャル!ここでくつは脱いでね!」と案内役の天人族。
「え?」
「あぁ…そう言えばそうだったね。みんなもここで靴を脱いで、僕も世界の家は全部そうなんだよ」
「足とか怪我しないのかしら?」とミーシャ。
「そうならないようにきれいに掃除しているよ!安心して!」
普通に靴を脱いでいた僕。染みついた習慣は抜けないものなんだね…
玄関から上がり、フローリングの床を少し歩くと、エレベーターの前に着く。
「エレベーターまであるんだね…」
「なんでしょうかこれ…?」とミカが首を傾げている。
チンッと音を立て、扉が開く。30人ほどは余裕で乗れる、大きなエレベータだった。
「さあ入ってください!」
「ええ…なんか怖いのですが…」とナギが恐る恐る足を踏み入れる。
「シンさん…ナギの師匠が作った物だから、安心していいと思うよ?」
そうして僕たちが乗り込むと、扉が閉まり、変な浮遊感と共に、エレベーターは上に上がっていく。
4Fの表示の所にランプが光り、扉が開く。
天人族を先頭に、エレベーターから出ると…
「はい!このフロア全てが、ミカヅキ卿ご一行のお部屋だよー!」
「「「「「「はい?」」」」」」
「三階がマオ達ご一行のフロア、2階がゆーしゃさまご一行の部屋と、えんかいじょうがあります!一階には温泉、げーむせんたー、おみやげやさん。などなど遊ぶところがあります!」
メモ取り出し、それを読む天人族。
「ごはんは、えんかいじょうで食べます!お風呂は各部屋に付いてます、もちろん、ろてん風呂です。一階は大浴場となっているので、是非お暇な際はお越しください!それではこのフロアの各施設について、ごせつめいしますね!」
とりあえず…フラフラと天人族に付いて行く僕達。シツルは走り回らない様に、シャルが抱きかかえている。
「まずこちらが、いしょう部屋ですね!いろんな服が置いてあるので、好きに着替えてください!もし着たい服がない場合は、私たちに教えてね!」
「こちらが完全ぼうおん部屋になります!中で何をしても音がもれることはありません!中にはベットが置いてあるそうです!ゆーしゃさまから一言『これなら子供がいても思いっきりできるだろ?』だそうです!」
「この部屋は、子供部屋です!こそだてに必要なオムツ、知育玩具、あやす道具、哺乳瓶、おしゃぶり、粉ミルクなどなどすべてが揃ってます!もちろん大人が一緒に寝れるよう広めのお部屋になっております!」
「こちらが普通の部屋ですね!外の景色が絶景となっておりますので、それを見ながら温泉に浸かるもよし、酒を飲むもよし、ちちくりあうのもよし!だそうです」
「ここはトイレですね!ちゃいるどしーとももちろん完備してます!」
「この部屋は大広間です!みなさんで集まって喋ったり遊んだりできる様になってます!食事終了時に私たちがお布団を引いておきますので、その時は寝床になりますね!」
そうして一通り案内が終わると、天人族たちはお辞儀して、エレベーターで下に降りて行った…
「たまに変な気を回すよね…シンさんは…」
「ぱぱー!早く早く!!」
シツルが僕の手を引き、普通の部屋と言っていたところにいく。
ひとまず自由行動という事で、各々好きに動き回る事にした。晩御飯の時は知らせに来てくれるらしい。
普通の部屋とやらに入ると…ホテルのロイヤルクラスの大きな部屋があった。ふかふかのソファーにテレビ、オーディオ、キングサイズのベット、そしてガラスで囲われた、大きな浴槽があった。
そしてベランダに出ると…
「ふわぁ~!!すごい!あれはなに?いっぱいお水があるよ?」
「なんだろう…滝?湖?」
とても大きな滝が落ちてきて、その下に湖のようなものができている。
「潮の匂い…ってことは…海か!」
「うみ?」
ベランダの囲いは、透明なガラス張りになっていて、小さい子が落ちないように工夫されていた。なので目をキラキラさせて、滝を見ているシツル。
「ぱぱ!あそこに行きたい!」
「んー…そうだなぁ…よし!んじゃあ行ってみようか!」
「わーい!」
シツルを抱きかかえ、シャルと一緒に外へ向かう…が
「あれ?ツバサさんどこに行くの?」
とマオとルルとルイが外から帰ってくるところだった。どこかに行ってたのだろうか?
「あそこにある海にシツルが行きたいいて言うからね。行こうかと…」
「あぁ~ツバサ。あそこはまだいけないよ~?今マオの夫に止められちゃって…」ルルが残念そうな顔をしながら言う。
「そうなの?」
「後で楽しめるようにしてやるから…今は危険だから立ち入り禁止!だってさ。お兄さんは何をしてるんだろう…」
「ええー!ぱぱ!シツルは行きたいよー!」
出来れば叶えてあげたいが…シンさんが危険と言ったら、それは本当なのだろう。
「シツル~?一階で面白そうなものを見つけたんだ。お姉さんとあそぼ?」とルルが言ってくれる。
「ほんと?」
「うん~。ほらおいで~?」
僕はルルにシツルを渡す。
「ルルおねえちゃんと遊んでくる―!」
「いってらっしゃい。ルルごめんね」
「シツルちゃんと遊ぶのが楽しーからいいよ!」
「私とルイさんもそっちに付いて行くね!ツバサさんまた後でねー」
シツルを連れて、マオ達が去ってしまった。さて…どうするか…
「ツバサ。どうする?」
とシャルが僕に聞いてくる。
僕は旅館で泊まったことなんてないけど…しかし旅館に来たならやることは一つだろう。
「とりあえず…温泉に入って、のんびりしよう!」
旅館に来て何か焦ってやるのは愚の骨頂だ。のんびり温泉にでも浸かって、ぼーっとするのも一つの楽しみ方だろう。
暇そうにしている嫁を誘い、温泉に行く。入り口で男女別れていたので、誘ったのにすぐに分かれた。
中は割と簡素なもので、温泉と言うより、銭湯のような感じだった。
お湯は少ししょっぱかったので、海から水をひいてきてるのだろうか?
「そういえば…シャルが子供を授かってから…こんなにのんびりとお風呂に入るのは、久々かもしれないなぁ…」
頭にタオルを乗せ、肩までお湯につかる。はふぅ…と吐息がもれる…
ぼーっとしていると、カラカラカラと扉が開く音がする。
少し戸惑いながら、体を洗いこちらに向かってくる。
「失礼します。ミカヅキ卿」
そう言いつつ湯船に入ってきたのは、カインさんだった。
がっしりした肉体に、生々しい傷跡が刻まれている。
「ふぅ…これはいいですなぁ~いろいろ緩んでしまいますな…」
「ですねぇ~…」
「ミカヅキ卿。あの部屋はなんでしょうか?」
「ん?…ああ‥サウナだと思いますよ。行ってみますか?」
「ええ、是非ご教授ください」
カインさんと、数名の執事とサウナに入る。むわっとした空気に顔を顰めるが…
「むむっ…これは…」
「あっつい…ここで汗をかいて、隣の水風呂に浸かるのが気持ちいいらしいですよ…あと…この石に置いてある水をかけると、部屋の温度が上がるみたいですね」
ご丁寧に、サウナの楽しみ方指南書が書かれたプレートがつけられたいた。
滝のように汗をかき、10分ほどすると外に出て、冷たい水を浴び、水風呂に浸かる。
「これは気持ちいいですな~!!」
「僕はあんまり得意じゃないですかね…」
フラフラになりながら、またお風呂に浸かる。
「私共はもうちょっとサウナを楽しんできます」
「僕はそろそろ上がりますよ。また夕食で」
脱衣所に向かい体を拭き、服を着替えようとすると…服がいつの間にか無くなり、浴衣になっていた。
「いつのまに…でもまぁ‥旅館と言えば浴衣だよね」
浴衣に着替え、脱衣所を後にする。嫁達をソファーに座って待っていると…
「ぎゅうにゅうはいらんかね~?コーヒーもフルーツもあるよ~?」
と天人族がうろうろしだす。
「牛乳をください」と僕が言うと天人族は目を輝かせて…
「毎度あり!ここにサインください!」
と首から下げている、ごほーしかーどと書かれた、スタンプカードみたいなものを取り出す。
「これはなんなの?」と天人族に聞く。
「んー…内緒!!別にお金とかとるわけじゃないから気にしないでね!」
まあ特に気にしても仕方ないか…左上の一マス目にサインをしてあげる。
「あ!あたしも牛乳欲しい!」とマオが現れる。
「シツルも―!!」
「自分はコーヒー牛乳とやらを…」とナギ。
ぞろぞろと、女湯の方からみんなが出てくる。
「はいはーい!」と嬉しそうに天人族が駆けて行く。
嫁達が全員温泉に入ってたようで、全員が牛乳瓶を持ち、ふたを開け、牛乳を飲み干す。
「ぷはぁ~!温泉と言えばこれだよね!」とマオがおっさん臭いことを言う。
「ぷは~!!」とシツルも真似をする。
「シツル…はしたないよでしょ…って言うか…子供たちはどうしたの?」
「サーニャ達とその…シン様がいらしてですね…『子守りは任せて風呂でも入って来い』といわれまして…」とミカが僕から目を逸らして言う。
「…そっか。まぁシンさんに任せるなら安心かな…いや…安全の間違いだね…」
安心はできないな!
「まあまあ!温泉と言えば…この後卓球でしょ?さあ皆行くよー!」
「えぇ…」
「はーい!」とシツルがマオに付いて行き、ぞろぞろとみんな移動していく。
戸惑う僕をよそに、卓球場に向かう嫁とマオ達。子供たちの元に向かいたい衝動を抑え…
僕も卓球会場に向かう。
そして…この後、戦闘厨の所為で修羅場と化した卓球場で、僕はここに来たことを後悔するのだった…
いつもお読みいただき有難うございます。
まだまだこの章は続きますよ~




