シンの唐突な提案
少しだけ長めのお話が始まります。
皆さんは10連休どうだったでしょうか?楽しみましたか?僕の10連休という幻想はぶち殺されてしまいましたが…
俺の嫁達が全員集まる夕食の時間。俺はある提案をする。
「明後日から長期休暇に入るぞ。各々準備するように!」
「「「「「「は?」」」」」」
まったく…マヌケな顔でこっちを見やがって…休みだぞ?ワクワクが止まらないだろ?
「いきなりすぎるよ…魔道具店どうしよ…」
マオが狼狽える。俺が何も考えずにそんなことを提案すると思ったのか?
「すでに手配済みだ。人種族首都にはチラシを配ってある。明日から10日ほど休業するとな。注文は全て止まってるし、納品日に近い商品は、フーコの協力と俺の力技で終わっている」
「そんな勝手に!?」
「嫁の物は俺の物だ。もちろん俺の物もお前らの物だけどな」
だらだらと毎日仕事するものじゃない。パッと終わらせてさっさと休むに限る。それが俺の流儀だ。時間でお金をもらう仕事は好きじゃない。平等に見えるが…それは会社がちゃんと、各従業員の得意不得意を完璧に把握し、仕事を割り振っている時だけだ。
そんな有能な会社は有り得ない、だから能力が高い者が損し、低いものが得する。それが時間でお金をもらうシステムだ。
まぁ…物を作ることに関しては、俺の能力がチートすぎるからな…今回だけは手を出させてもらった。
「シンの好きにすればいいですが…そんなに休みを取って何をするのですか?」
「一種の親睦会だな。社員旅行みたいなもんだ。ここにいる全員と天人族、マオの家のメンツに、ツバサ達もだな」
「そんな…大人数で…どこに行く…の?」
「ツバサは子育てで忙しい。来るかな?」
「ツバサの説得には俺が行くから心配すんなよサーニャ。どこに行くかは決めてある。プランはもう決まってる」
「はい!何を持っていけばいいですか」
「いい質問だミーコ。戦闘装備一式。あとは…着たい服とか、食べたいものとか、そう言うのをまとめて明日の昼までに俺に提出しろ」
「戦いに行くの?」と首を傾げるシユ。
「戦う気はないが…万が一のためだな。基本俺とマオが何とかする」
「私は戦うの好きじゃないんですけど…」マオが嫌そうな顔をする。
「マオが転生者三人の中で一番強い癖に、何言ってやがる…まあ最悪俺が守るから安心しろ」
「それならいいんだけど…この世界にいちいち旅行してまで見るところもないと思うけどなぁ…」
「ないなら創るまでだろ?俺を誰だと思ってやがる。と言うわけで明日はツバサの屋敷に行く」
「私も行っていい?」
「いいぞ。サーニャなら、ツバサの家のメンツと面識もあるだろうしな。ココ達はマオの家でいろいろ相談してろ。すぐにシャルたちも向かわせる」
「はい…危ない所じゃないですよね?」
「……よし!風呂入って寝るか!明日に備えて早めにな!」
「シン!?」
そっと目を逸らし、俺は食器を片付ける。この家の家事は基本全て俺がやっている。
一応ノルマを決めて、少しは仕事もしているが…基本主夫だ。断じてヒモではないとだけ言っておこう。
そうして風呂から出ると、嫁達が待つベットに向かい、いつものように愛し合う。
少しづつ手強くなってきている嫁達との夜の戦いを終え、眠るのだった。
翌日、俺はマオと共に人種族の首都に赴く。サーニャと共にツバサの屋敷に向かう。
「デカすぎだろ…学校でも作る気か…?これが個人の家?」
「ツバサが張り切って建てた家」
「張り切った程度でこんな家ができるなら、みんな張り切るよな…」
500人ほどは収容できそうな大きな建物が、俺の目の前にあった。こんなに広い家だと、逆に落ち着かないな…
サーニャの後に続き、庭の門扉を開け、玄関の前まで歩く。
「庭は自由に入ってもいいのか?なんか立派な畑や果樹園があるように見えるが…?」
町の住人なのか、いろんな人が、畑や果樹園で収穫し、花畑を散歩していたりする。
「どうせ食べきれないし、庭は自由に開放してる。一応この屋敷の庭師がちゃんと見てるから大丈夫。問題が起きたら、すぐツバサが飛んでくるし」
「ほー。後でちょっとだけ見ていくかな」
サーニャが玄関の横に置いてあるベルをチリンチリンと鳴らす。
少しすると玄関が開き…
「師匠!?なんでここに!」
「ナギか、ツバサはいるか?遊びに来たぞ?」
「少々お待ちを!」
何故か俺の顔を見るや否や、屋敷の玄関を閉め、ドタドタと駆けて行く音が聞こえる。
「普通とりあえず入れてくれるんじゃねえの?」
「シンは要注意人物だから…」
「は?俺は人畜無害の善人だぞ?なにを警戒する必要がある」
邪魔するぞーと玄関の扉を開けようとするが…
「鍵まで閉めてやがる…俺が何をしたって言うんだ」
少しイラつき、ガチャガチャとドアノブを乱暴に回していると…
「あなたは借金取りか何かですか!?ドアを壊そうとしないでくださいよ!」
バンッ!とドアが開き、ツバサが玄関から現れる。
「何をもったいぶってるんだ。さっさと入れろよ。俺たち親友だろ?」
「ある意味敵でもあるんですけどね…どうぞ」
ツバサに招かれ、客室に案内されるが、無視し、奥のリビングへ向かう。
「シンさん?こっちですよ?」
「ん?お前の嫁達にも話があるからな、こっちでいいんだよ」
そう言って奥に行こうとするが、ツバサが立ちはだかる。
「こっちの部屋で待っててくださいよ。呼んできますから」
「いいよ。俺が行けばいいだろ?手間が省けるしな」
「ダメです」
「なんだよ…俺に隠し事でもしてるのか?見られるとまずい物でも…?」
なんだ?俺にばれるとまずいもの?
チラッとサーニャの方を見ると、目線をわざとらしく逸らされた。
「なんだ?サーニャの子供でもいるのか?ツバサの子を産んだくらいで俺は怒らないぞ?一夫多妻があるなら一妻多夫も容認すべきだろ?」
「ん!?そんなわけない!」
「それくらいしか思いつかないが…」
「とにかくここは通しません…命に代えてもっ!」
そこまで拒否されると…気になるじゃないか…
「わかった。じゃあ待たせてもらうとしようか」
「ではこのロープで縛らせてもらいますね。サーニャ手伝って」
「ん」
「そこまでするのかよ…」
俺は仕方なく、鋼鉄製のロープで手足を縛られ、客室のソファーに座る。
「ではすぐ準備してきますので…」
そう言ってサーニャと共に、部屋から出て行った。
俺はすぐに縄抜けを開始し、数分で完全に縄を解く。こんなのマジックの初歩だ。縛り方が甘すぎるんだよな。素人が…
「さてと…部屋の扉は完全に閉まってるな…」
ドアノブを回しても開かないし、引き戸でもスライドドアでもない。
まあ…ドアがないなら創るまでだが…
部屋の横の壁にドアを作り、そこから出るとドアを壁に戻す。そうして部屋伝いに移動していき、廊下に出る。
「んーと‥人の気配が一番多いのはこっちだな」
猫族の第六感と聴覚で音を拾い、その方向に向かっていく。
大き目の扉がある部屋に辿り着くと、そのドアを開ける。
「誰この人ー?」
この間俺の店に来たシツルとミサ、それにあと二人の子供と、生後間もない赤ちゃんもいた。
サーニャとミサが子守りをしているようだった。
「シン…どうしてここに…」
「ナギの師匠さん…」
なんで悲しそうな顔をするんだ?マジで俺がなにをした?
「俺はお前らのパパの友達のシンだ」
「シツル!5歳」
「みしゃ!ふたつ!」
「おぉー自己紹介できるのか~えらいな~」
「へへへ~!シツルはかしこいんだよ!」
「みしゃも!!」
「そうかそうか~お人形さん遊びか?おじさんも混ぜてくれよ」
「いいよ!」
「いいお~」
俺は猫のぬいぐるみを出し、人形遊びに参加することにした。
「僕はにゃん太郎!シンさんのお供のぬいぐるみさ。一緒に遊んでくれてうれしいなぁ!」
「「!?」」
腹話術で完全に声を変えて、ぬいぐるみを動かす。
「シツルちゃんとミサちゃんのぬいぐるみさんは、お名前なんて言うのかな?」
「ピョンコだよ!」
「ぴょんた!」
「そっか!仲良くしてね!」
そうして楽しくツバサの子供たちと遊び、泣き出す赤ちゃんたちを抱っこしてあやしていたり、子守りをしていると…
「シンさん!?なにをしてるんですか!?」
と血相を抱えて部屋に入ってくるツバサ。なにって…子守りだが…?
「パパこわい!」
とシツルが俺のズボンを握り、後ろに隠れる。
「おいおい。子供の前で大きな声を出すなよ。びっくりするだろ?」
シツルを抱き上げ、頭を撫でて、安心させてやる。
「シンさん…?何してるんですか…?」
「子守りだが?可愛い子供たちじゃないか。ちゃんと育ててやれよ?」
「いくらシンさんでも、僕の娘はあげませんからね…」
「別にそんなつもりは全くねえよ…俺は俺の子供を可愛がるしな…」
「そう言う事じゃないんですけどね…」
少し拗ねた顔をするツバサ。どういう意味なんだ?たまにこいつがよくわからないんだよな…
「で?今日は何しに来たんですかシンさん。まさかうちの子供と遊びに来たわけじゃないでしょうに」
「おっと…そうだったな。親睦会でもやろうぜ。俺んとこと、マオのとこと、お前のとこで。世界を救った打ち上げとかやってないだろ?」
「まあそれくらいならいいですけど…いつやるんですか?」
「明日から10日ほどかけて慰安旅行だ。手ぶらで来ていいぞ。全て俺が準備しているからな」
「え?夕食を一緒にしようとかじゃなくて?」
「子育てとかでお前らも忙しいだろ?たまには大自然に触れて、のんびり癒されに行こうぜ」
「屋敷の管理とかは…」
「王城の騎士団に依頼を出した。お前の義理の姉と兄だろ?快く了承してくれたぞ。引継ぎに今晩辺りに来るだろう」
「ぐっ…そんな勝手に…しかし…子供もまだ小さいですし…ナギの子供、ナツキに至ってはこの間生まれたところで…」
「生後2か月ほどだろ?もう外出させても大丈夫だ。それに俺がいるんだぞ?この屋敷以上に快適な空間にしてやるよ。シツルは旅行行きたいよな~?」
「りょこうってなーに~?」
「みんなで遠くに遊びに行くんだよ。楽しいぞ~」
「いく!パパつれてって!!」
「だそうだぞツバサ?」
「すでに…篭絡されてる…」
俺に抱っこされて嬉しそうなシツルを見て。ガクッと膝をつくツバサ。いちいち大げさな奴だ。
「んじゃあ決まりだな。明日の昼くらいに迎えに来るから。特に荷物はいらないが…お前の家族全員で来るんだぞ?この屋敷で働いてるメイドもだぞ?」
「待ってください…あなたはどこまで知ってるんですか…?」
「ハーレム王のツバサなんだから。この屋敷の女性は全部嫁だろ?あ‥そういえば…」
俺はツバサの耳元に口を持っていき…
「なにサボってやがる。マオの所のメイドもさっさと全員嫁にしやがれ…俺はこれ以上嫁を抱える甲斐性はないんだぞ?」
「何を言ってるんですか…シンさんに惹かれてるならそれでいいじゃないですか…」
「俺はお前と違って夜、魔法でごまかせないんだよ…これ以上増えたらさすがの俺も…」
「ほんと何処まで知ってるんですかねぇ!?」
その後サーニャを置いて、俺はツバサの屋敷を後にした。
子供たちは遊んでやってるうちに、ウトウトし出したので、そのまま寝かせてきた。
「さて…次は魔人国だな。ティアは多分俺を見てると思うし。お前らも行くからな~ティア。明日そっちに向かうから、天人族たちにも伝えといてくれよ…っとこれでいいだろう」
(私をパシリ扱いしないでほしいな!?)
そんな声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
マオとフーコの魔道具店は休みなので、普通に家の正面から入る。
「師匠?もうミカヅキ卿は説得できたのですか?」
「アリサか。終わったぞ。次はマオの城に行ってくる」
「彼らも呼ぶんですね。ホント大人数になりますね」
「当たり前だろ?あいつらだってマオの身内だ」
「そうですね…ふふっマオを呼んできますね」
「ああ、頼む」
何故か嬉しそうに、アリサは走ってマオを呼びに行った。
マオの空間魔法で、魔人国辺境の町リトルサンタウンに向かう。
「なんでお前も来るんだよマオ」
「そりゃ私の故郷だしね。私がいたほうが融通が聞くんじゃない?」
「まあそう言う事にしておいてやろうか…」
俺の腕に抱き着き、町に入る。城の前に繋げられるはずなのにな…なんで町の入り口なんだよ…
「おぉ!シンの旦那じゃねえか。馬車乗ってくか?」
「頼むわ。あの城までよろしく」
「ちょうど通りかかりだ。任せとけ!」
そうして俺は馬車に乗る。
「え?お兄さん知り合いなの?」
「シンの旦那を知らない奴は、この町にいないよお嬢さん。新しく来たやつくらいだろう」
「だそうだぞ?元魔女王様?」
「ええ…私の作った町なのに…」
何故か不満そうな顔をしているマオの手を引き、馬車に乗せる。
「例の件はいけそうか?」
御者をしている男に尋ねる。
「ばっちりだ!いい臨時収入になりますし、大喜びでやらせてもらうぜ」
「頼んだ。事務作業は明日この町に来る奴に頼んであるからな」
「あいよ~」
「お兄さん何を画策してるの?」とマオが聞いてくる。
「ん?休みってのは後顧の憂いなく休めないと気持ち悪いだろ?その準備だよ」
数分くらいで城の前に到着し、御者の男にお礼を言い馬車を降りる。
城に入ると、メイド達が迎えてくれる。
「マオ様お久しぶりです」
「割と帰ってきてるんだけどねー?カインさんいる?」
「ただいま町の会議中でして…少々お待ちください。お茶でも入れてきますね」
「懐かしいなぁ~商人ギルドさんとかとの会議だよね~」
「待つ必要はねえよ。その日を狙ってきたんだからな」
「「は?」」
俺は城の会議室に歩いて行く。この城の内部構造はある程度把握してある。会議をするのはあの場所だろう。
大き目の扉をバンッと開き…
「おう。待たせたか?」
「「「はい?」」」
「お待ちしておりましたよシン様」
商人ギルドの獣人以外は呆気に取られて、呆然とこちらを見ている。
「今やってる会議は終わりだ。さっさと書類を片付けろ。どうせまた意味のない会議をやってたんだろ?」
「まあほぼ報告だけなので良いですけど…今日はどうなされましたか?シン様」
カインが会議の書類を一纏めにし、俺の方を見る。
「明日から、この屋敷のメイド執事全員と、そこの商人ギルドの獣人数名。全員休みにするぞ。10日ほど旅行に行く」
「いえ…気持ちは有り難いのですが…この屋敷の管理と、この町の事務作業がありますので…そんなにこの場所を離れられませんよ。私だけでもそうなのに、全員とか…無理でございます」
「屋敷の管理は町の住人を雇っている。もちろん俺のポケットマネーでな。夜には引き継ぎに来るだろう。事務作業については、明日の朝に俺が頼んだ奴が数人来る。そいつに引き継げ。旅行の準備は何もいらないが…メイド服と執事服はやめろ。普段着で来いよ?以上だ」
「さすがに…」
「反論は認めてないぞ。ちゃんとお前らが安心して休める様に手回ししてある。明日の昼に迎えに来るから諦めろ。ちゃんと点呼をとるからな。こっそりこの城に残ってもわかるぞ?」
「……はぁ…わかりました。ではそのように…」
なんでこの世界の人間は、働いてばっかなんだ?それしか生きがいがないからなのか?
まあそれも一つの生き方だが…もっと楽しいことを自分で見つけろよな…人生は一回しかないんだぞ?
商人ギルドだけは、今行商に言ってる連中もいるし、規模がでかすぎる。数日前に休めるメンツを厳選させた。
まあいわゆる…じゃんけんしてもらったわけだが…もちろんそいつらが、後腐れなく休める様にいろいろ手伝ったりもさせてもらった。
さて…これで招待客は全てだが…俺は主催としてこれから少し仕事がある。
城を後にし、マオと町を歩く。
「マオ。俺をディスピアードに飛ばしたら、後は帰っていいぞ。ホントは箱舟を待つ予定だったが…ついでだし、良いだろ?」
「いいけど…お兄さん今日は帰ってこないの?」
「…すまないな…後でまた着たい服とか食事の案を届けてくれ」
「任されたよ。また後でね!」
マオの魔法で天人族の島に着き、俺は準備を始める。
天人族たちを集め、設計していた建物の図面を見せ、場所を相談したり、素材をかき集めてもらう。
そして俺は、一人で夜通し、旅行の準備をする。
途中マオがやってきて、全員分の衣服を作るのにちょっと手間取った。おんなじ服だと味気がないしな…記憶を掘り起こし、マオを相談しながら作っていった。
そしてそれをマオに渡して、俺はまた作業場に戻る。
「流石に全部は間に合わないか…」
そうぼそりと口にし、彼はまた創り始めたのだった。
いつもお読みいただき有難うございます。
ショートストーリーと言いながら長めのお話が始まります。飽きずに読んでくれるとうれしいです。




