ルイの秘密
マオのメイド、ルイさんの視点でのお話です。
最近の仕事は大体、この騎士達の訓練に付き合うか、騎士団長との手合わせがほとんどだ。
それなりに報酬はいいので、文句はない。私たち自身の鍛錬にもちょうどいい。
世界は平和になったが、だからと言って緩んでいてはいけない。いつどこに、危険が潜んでいるかはわからないからだ。
「一人づつ行くな!必ず3人以上同時で当たれ!」
私とルイとニーアを、十数名の騎士たちが囲むように立ち、刃の付いていない剣を構える。
彼らの練度もかなり上がってきた。その辺の獰猛な獣程度なら、もう負けることはないだろう。
しかしまだ甘い。気合を入れるために大声を出し、三名の騎士が正面と左右から同時に接近してくる。
「私たちは、後ろまで見えることを、まだわかってないんですか?」
後ろから斬りかかろうとしていた騎士の剣を、後ろ蹴りで弾き飛ばす。前にいた騎士の剣を躱し、蹴りあがり、騎士の後ろに飛び越え、包囲網を脱出する。
着地と同時に、後ろにいる騎士の胴を後ろ向きのまま突き刺す様に叩き、すぐ回転して、右側にいた騎士の胴体を叩く。
左側にいた騎士と相対し…振り下ろされる剣を半身で避け、剣を首に突き付けて、戦闘が終了する。
「「「「ありがとうございました!!」」」」
「こちらこそ。もっと流れる様に連携が取れるといいと思うわ」
「「「「はい!精進します!!」」」」
「ルイ姉の戦い方は、ホント綺麗だよね~」
普通に力技で、包囲網を叩きつぶしていたルルが、そういう。
「ルルやニーアのように、私は力がない。なら…極限まで無駄をなくすだけよ」
「…ルイ姉…最近張り切りすぎてない?大丈夫?」
「そうかしら?別にいつも通りよ?」
まあ確かに…私には負けたくない人がいるけど…だからと言って…鍛錬を張り切るとかありえないわよね?
「ならいいんだけど…怪我しないでよね~?ルイ姉はすぐ無茶したがるんだから…」
「大丈夫よ。まあ…ちゃんと気を付ける様にするわ」
「ルイはたまにいなくなるけど…どこに行ってるの?」
「……内緒よ?私だって、たまには一人になりたい時だってあるのよ」
「あまり詮索はしないけど、ルルが心配してるのもちゃんと気にしてあげてね」
「分かってるわニーア。大丈夫、危ないことをしてる訳じゃないの。安心していいわ」
そして私たちは、騎士の訓練場を後にする。
このクエストは、午前中に終わる。三人でお昼ご飯を食べ、午後はクエストをこなしたり、自由時間にしたりする。
今日の午後は自由時間にする。ルルはミカヅキ卿の屋敷で、子供と遊んでくると言って走って行った。ニーアはそれに付き添うらしい。最初ルルは、シツルちゃんを恐る恐る抱っこしていたけど…今や彼女にぞっこんだ。暇があったらシツルちゃんや、その妹のミサちゃん、ミヤちゃんと遊んでいる。
私はというと‥とある場所に向かう。首都から出て少し歩いたところに…
「…お前も毎回毎回懲りないなぁ…ルイ…」
森を開拓している男が、こちらに気付き、苦い顔をする。
「今日こそあなたに勝ちます!」
「俺がマオを娶ったのが、そんなに気に食わないのか?」
マオの夫のシンが、後頭部をポリポリと搔き、苦笑いする。
「いえ‥マオが幸せそうなので、そのことに関しては、とやかく言うつもりはありません」
ルルとニーアも最初は挑んだが、一度負けて納得したのか、それ以来何も言わなくなった。
「まあ…お前が満足するまでは付き合ってやるが…負けてやる気は全くないぞ?」
「手加減などしたら…許しませんからね?」
彼が木で出来た剣を、投げて寄越す。彼もそれを右手に持ち、腰を落とす。
「レディーファーストだ。初手はくれてやるよ」
「では…」
剣を両手で持ち、下段に構え突っ込む。風魔法と火魔法で加速し、一瞬で間を詰めると、下から斬り上げる。
「甘いっ!…っと‥…あぶねっ!」
斬り上げた剣を、彼は弾き、頭上から降ってくる氷の矢をバックステップで避け、後ろからくる爆発の衝撃を、しゃがんで避ける。
「毎回なぜ普通に避けれるのか…疑問ですね…」
そうして私の剣は弾かれ、避けられ、魔法を放ってもすべて避けられる。彼はまだ、彼だけが使えるあの魔法を一切使っていない。
それなのに…私が全力で攻撃しても…彼に届かない…
「なぜここまで差が…」
「ん~?動きに無駄がありすぎるんじゃないのか?」
とニヤニヤと、かつて私が彼に言った言葉を彼が私に言う。
「あなたの怖い所は……かつての死なない体でも、何でも作れてしまうその魔法でもなく……恐るべき成長速度…いや…技術の吸収?模倣?…なんでそんなすぐ…なんでも簡単にできるのですか…」
これを才能というなら…私の努力は一体何だったのか……
「……俺は何をやってもさ、一流……つまり誰にも負けない、というくらいまではいかないんだよ。だから俺は、全てにおいて二流…普通の人よりは出来る程度になろうと思ってな。そうすれば、一流の人間にも並べるんじゃないかってな」
「なにを言ってるんですか…現にあなたは…私より、いえきっと戦闘では、この世界でも超一流でしょう」
「んや。戦闘技術だけなら、俺はお前に勝てないよ。俺は戦闘に策や俺の手品に使う視線誘導、心理学、後は獣人特有の第六感だな。全てを駆使して、お前にギリギリ勝ててる状況だ」
だから…と彼は自虐的に笑いつつ…
「もしお前が、策を弄し、俺の心理の裏を突くような戦いをすれば、俺如きには余裕で勝てるだろう」
「……それだけで…?」
「お前はこの世界で一番強いよ。ツバサはただの馬鹿力なだけだし、ガルドとかいうやつも、もうお前には勝てないだろう。あとは敵の心を見るんじゃない、先を読め。そしてそれに対して策を講じろ。それだけでお前に敵はいなくなるんじゃないのか?‥多分な?」
多分とか…最後に締まらない人だ……なら私は彼の裏をかいてやろう。もう何戦も戦っているのだ、この一度だけなら…
「んじゃあ俺から行くぜ~また次がんばれよ…なっ!」
彼が目にもとまらぬ速さで懐に入ってくる。一瞬反応が遅れ…
「くっ‥!」
力なく彼の剣に合わせるだけで精一杯…これでは剣が弾かれて終わる…ならば逆に…
カァン!と剣が私の手から離れる。
「俺の勝…」
と言い終わる前に、私は彼の腰に抱き着くようにタックルする。
私は手から力を抜いて、わざと剣を弾かせた…そしてすぐに肉弾戦へと切り替えたのだ。
そして、彼が倒れるとともに、すぐに膝で彼の両手を抑え、氷魔法で作ったナイフを彼の眼前に付きつけ、ニヤリと笑う。
「油断しましたね。私の勝ちです」
彼は不服そうな顔をし……しかし諦めたのか、ため息をつき…
「まいった…俺の負けだ…」
ついに私は、ずっと負け続けた彼に……勝利したのだった。
「で?ルイが勝ったら、俺に何かしてほしいことがあったんじゃないのか?」
そう言えばそうだった…私が勝ったら、言う事を1つ聞くという約束だった…
あの時はルルとニーアが、マオから離れさそうとしていた頃だ…
「なんだ?忘れてたのか?じゃあ無しってことで…」
「だめです!」
「えぇ……」
早く言わないと…忘れていたことがバレてしまう…っ!
「たまにでいいので…私の鍛錬に付き合ってください」
「それはもうしてるんだが…それでいいのか?」
「じゃ…じゃあ!その…耳をモフらせて!!」
「は…?」
「いえ‥その…すいません…忘れてください…」
「まあそれくらいならいいが…」
そう言うと彼は、地面にマットを出し、そこに座る。
「ほれ。好きなだけ触ればいいだろ」
「え…?いいのですか…その…獣人の耳は…」
「親愛の証だっけ?俺にそんな概念はないが…まあ誰よりも剣を交わした仲だ、ルイならいいぞ。それにお前らにはちゃんと感謝してるんだ。大抵のお願いなら聞いてやるつもりだしな」
彼はマオを娶って数日後には、私たちに挨拶に来た。そして…マオを守ってくれて、ありがとうと…そう頭を下げていた。
そこで私たち三人と戦うわけだが…まあ彼の圧勝でその場は終わってしまったわけだが…
私は彼の後ろに座り、耳を恐る恐る触る…サラサラした毛並みが気持ちいい…とても癒される…今まで私は…常に神経を張り巡らせて生きてきたが…これは緩んでしまうなぁ…ましてや彼の傍にいるのだ、何も警戒する必要がない。
私は時間も忘れて、彼の耳を撫で続けた。彼は途中で私の膝に倒れ、寝てしまったが、それでも…彼が起きるまで撫で続けた。
そうして私は、たまに彼の耳を触らせてもらう事が、一番自分が心安らぐ時となったのだった…
いつもお読みいただき有難うございます。
次回は土曜日の21;00に投稿します。




