そして彼の物語は…また始まる…
ここまでお読みいただき本当に感謝しかありません。
「んっ……?ここは…?」
深い森の中で彼は目覚める。
「あれ?俺は…なんでこんなところに?…記憶がない……」
(俺は獣人種猫族のシン。これだけはわかる…知識は覚えている。しかし…何も思い出せない…俺はどこで生まれて、どこで育った?)
ふと彼は、首から下げている、皮のネックレスについている、木でできた指輪を見る。
「なんだろう…とても大事なことを忘れている気がする…」
彼は立ち上がり、周りを警戒する。彼の五感が敵を察知した。
すると森の奥から、シルバーベアが姿を現す。3mほどの大きな熊だ。
彼は右手に、白鞘の刀を具現化し、握る。
「なんだ…懐かしい気がする…しかし今は…こいつを倒さないと…逃げてはくれないよなぁ…」
グアアアアァァ!!と雄たけびをあげ、彼に突進していく。
「っと!う…らぁぁ!!」
さっと身軽に避け、横にあった木を駆けあがり、体ごとクルンと回り、シルバーベアの首を、一刀両断する。
ドサッ!とシルバーベアは倒れる。
「戦い方は忘れてない?体が自然に動いた気もする…なんだろう…冒険者か何かだったのか?でも身分証はないな…」
彼は器用に熊を捌き、具現化した皮袋に肉や毛皮などの素材を詰めていく。
途中食べられそうな野草や、木の実を採取しながら、適当に進んでいく。
途中ほぼ動物に会わず、夜になったら木の上で寝床を作り眠る。
そうして彼は、何日も歩き続けた。特に行先もなく。ただ目的は決めていた。
「俺の記憶を探す旅だな…とにかく町に行きてぇ…」
数日歩き続け、ようやく森を抜け、遠目に町が見える。
「やっと町に着いた…街道から歩いて行った方がいいよな?」
山に囲まれて、その窪地に、田畑と、藁でできたような家が、ぽつぽつとある。中心の方には、煉瓦で作ったような家が密集していた。町は石の塀に囲まれその塀の外側に田畑とわらの家のようなものがありその大外を木の柵が囲ってある。
彼は森を迂回し、街道に出て、そこから町に向かって歩き続ける。
町の入り口に着くと、衛兵が話しかけてくる。
「何か身分を証明するものはありますか?」
「ないなぁ…」
「では銅貨50枚、通行料が必要となりますが…」
「森で狩った動物の素材はあるんだが…これでどうにかならないか?」
彼は皮袋ごと衛兵に渡す。
「素材屋を呼んできましょう。しばらくお待ちいただけますか?」
「分かった」
肉は途中で調理して食べたていたが…毛皮や爪などは残っている。
少しすると、衛兵と、素材屋の女性が一緒にやってくる。
彼は皮袋を渡す。
「いい腕してるのね。これなら全部で金貨1枚と銀貨50枚で買い取るわ。冒険者なら、もうちょっと高く買い取ってもいいのだけどね?」
「んじゃあそれで。銀貨一枚は衛兵に渡してやってくれ」
彼は皮袋に、お金を入れ、町に入る。
「身分証は欲しいし…冒険者ギルドで登録はしておこうかな…」
その後、彼は冒険者ギルドに寄り、冒険者の試験を受けるために手続きをしに行った。
筆記試験は3日後。実力試験の方は、また素材を取りに行かないといけなかった。
「素材は明日でいいか…ひとまず宿をとって、今日は休もう…」
宿を探してブラブラしていると、髪がぼさぼさの、冴えない狐族の少女がいた。
俯いて歩き、ちらっと見えた目は死んでいた。肩を落とし、明日死ぬのではないか?そう思わせるほどに、彼女は落胆しているように見えた。
(今にも死にそうな顔しやがって…その死に顔を変えてやろうか?)
彼は話しかけることにする。彼は人を楽しくさせるのは得意だった。なぜだかはわからないが…
彼は知識の通りに話しかける。お嬢さんっと
しかし…
「お前は生きていたいのか?すぐ死にたいのか?」
そんな言葉が口から出る。狐族の女の子は、目を見開き驚く。
「っと‥すまん…なんで初対面の子にこんなこと言ってるんだ?」
気まずくなって、彼は踵を返す。
しかし、服をその子に掴まれ、足を止める。
「…見つけました…っうぅ…うわああああぁぁぁぁん」
「えぇ!?ちょ…落ち着けよ…泣き止め~」
彼は彼女が泣き止むまで、頭を撫で続けた。なんだかちょっと懐かしい気がした。
しばらくすると彼女は泣き止み、恥ずかしそうに俯く。
「すいません…失礼しました…」
「いや…んじゃあ俺は宿を探すから。ちゃんと生きろよ」
「ええ…ありがとうございます。シン…」
そうして彼は、宿を探す。適当な宿を見つけたので、そこに入り、5日分宿を頼んだ。
久々の宿で、体を拭き、のんびり体を伸ばす。
「ん~久々にベットで横になれるな…今日はもうこのまま寝るか…」
(そう言えば…俺は彼女に名乗ったっけ?…まあいいか…もう会うこともないだろう…)
そうして彼は、眠りに落ちて行った。
次の日、彼は朝早く宿を出て、森に出かける。
町に出る前に、彼は一人の少女にぶつかってしまう。
「っと‥悪い…大丈夫か?」
「…うっう……」
何故か泣きそうになる彼女。後ろ髪をポリポリ搔き困った顔をするシン。
「あ~お嬢さん。このコインを見てごらん?」
「…う…ん」
ピンっと銅貨を弾き、彼は右手にコインを握る。
「さあ…コインはどこにあるでしょう」
「右手?」
彼は右手を開く。
「残念でした」
「じゃあ左手!」
彼は左手も開く。
「じゃあコインはどこに?」
「ふふふ~お嬢さん。好きな方の手を握ってごらん」
「え!?こう?」
彼女は右手を握る。そして彼はその右手を両手で包む。
「しっかり握ってろよ~…はい!んじゃあ開いてごらん」
開いた彼女の手に、銅貨があった。
「ええ!?なんで?」
「お兄さんは魔法使いだからね。それくらいは造作もないさ」
「もう一回!!」
「だめだよー?ちょっと俺は用事があるからね…また今度ね?」
そう言って彼女の頭を撫でるシン。気持ちよさそうに目を細める、犬族の少女。
「おいおい!こんなの出るなんて聞いてないぞ~!!」
彼は猫族の脚力をフルに使い、森の中を駆ける。
追ってくるのは、真っ白な狼。素材を集め終わって、帰ろうとしたら、突然目の前に現れた。
ありえないほどの速度で、森の中を縦横無尽に飛び回る狼。
「チッ!逃げられないならやってやるよ…」
彼は覚悟を決め、素材を下に落とし構える。
しかし狼の速さは尋常じゃなく…
「うおッ!!…つっう!!」
一瞬で組み伏せられる。シンは仰向けに寝かされ、狼の咢が彼の顔に…
目を閉じ、生をあきらめるシンだが…
「クゥゥン…」
ペロペロとシンの顔を舐める狼。
「え?…ただの人懐っこい狼なのか?」
シンは狼の頭を撫で、背中を撫でてやる。するとお腹を向けて撫でろ撫でろと催促されるので撫でる。
「なんだ…可愛いやつじゃないか…脅かすなよなぁ…」
彼はひとしきり撫でると満足して、今狩った動物の肉を白い狼にあげて、町に帰るのだった。
「なんか疲れたな…試験は明後日だし…宿に引きこもるかな…」
そういいシンは、宿の部屋に帰る。しかし…
「待って…たわ…シン?」
「あぁ…すいません部屋を間違えました」
パタンと扉を閉める。なぜか部屋の中に、妖艶にほほ笑む、蝙蝠族の女性がいた。
「なんなんだろうなぁ…ひとまず街をブラブラするか…厄日なのか?何かしらトラブルが待ち構えてる気がする…」
彼は町を散策することにした…しかしそれは…愚策だったことに彼は気づかなかった…
「いったい何なんだ!?」
シンは町の中を走る。見つからないように隠れながら。時折匂いのダミーなどを設置しながら。
彼が街をふらついてると、なぜか突然捕まえられそうになった。狐族の少女に…
そして彼が逃げていると、犬族、蝙蝠族、狼族、狐族2名、人種族の少女たちが合流し、彼を捕まえようとする。
「俺は実はとんでもない悪党で…それを摑まえるため?だから記憶がないのか?っと‥この場所も先回りされているのか…」
彼が路地裏から出ようとすると、その先に、人種族の少女が待っていた。
少しづつ、包囲網が狭まっていることに、彼は気づいている。
「さてどうするか…こことここが封鎖されている。ならこっち?いや…読まれてそうだな…ならば逆をついて?」
彼は小さな小屋で、町の地図を書き、小石を置き布陣を確認する。
彼はとても楽しそうな笑みを浮かべ、思考する。
「っと‥楽しんでる場合じゃないな…しかし…追い込まれて楽しいとか…マゾなのか俺は…」
彼は策を練り、小屋を出る。そして見つかるが…これも彼の策の内だ。
「見つけましたよ!先生!」
「先生になった覚えはないが…俺が簡単に捕まると思うなよ?」
彼は走り出す、さっき練った策の通りに…
「くっ!速い…流石猫族になってるだけありますね…しかし!」
「知ってるさ!」
待ち伏せされていることを知ってるシンは、建物の壁に足をかけ急転回。今走ってた方向に走る。
「な!?」
「じゃあな!」
虚を突かれた彼女は、易々と俺を通してしまう。
「甘いですね!」
彼の行く先に、もう一人の狐族の少女が立ちふさがる。
「こちらのセリフだ!」
シンは宙に飛び、建物の壁を蹴り、屋根に上る。そして屋根をつたって、包囲網を突破する。
つもりだったのだが…
「捕まえたよお兄さん?」
突如目の前に現れた、人種族の少女に抱き着かれる。そして…
「がっ!?」
雷魔法を食らい、麻痺するシン。
「「「「「つかまえた!!」」」」」
と彼を追っていた5人にも抱き着かれる。
そして…パキンと何かが割れる音がした…
「ぐっ…あ‥マオ…麻痺を…」
「うん!」とマオは光魔法をシンに当てる。
「ったく…やってくれたな…俺の負けだ…」
「シン!記憶は戻りましたか!?」
「ああ‥どうやら管理者が仕込んでたようだな…」
そう言って彼は、いつの間にか胸元にある、壊れたナイフを取り出す。
「よりによって…魔力の少ない獣人にしやがって…はぁまあいいか‥」
ため息をつき、自分に抱き着いている6人の頭を順番に撫でる。
「ただいま。ココ、シユ、ミーコ、サーニャ、リリア、マオ…待たせたか?」
そう笑顔で六人に言うシン。
「「「「「「おかえりなさい!!」」」」」」
と涙を流しながら、笑顔でシンを各々に抱きしめる六人。
「なんかみんな大きくなったな…どんくらい時間がたったんだ?」
グスッと鼻をすすりながら、ココが答える。
「シンが光の柱に入ってから…6年と122日です…どれだけ待たせるんですか…」
「まさか獣人になってるなってね~…耳と尻尾触っていい?」
と目を輝かせるマオ。
「あ‥あとでな…?」
「シン…血を…」と首筋を舐めるリリア。
「あんま吸うなよ…俺はもう割と簡単に死ぬからな?」
カプッと首筋に牙をたてるリリア。
「まあとりあえず…どこか落ち着ける場所に行こうぜ?ここじゃ目立つしな…あ‥そういえば…」
シンが首から下げていた、皮のネックレスを、ココに返す。
「返しとくぞココ…」
「はい…ありがとうございます…」
「んじゃあ…ココ達の家でいいかな?」
「ん。私たちの愛の巣」
「久々ですね!」
「懐かしいね~!」
「ん?獣人国の首都じゃないのか?ここからだと遠いだろ…」
マオが何か魔法を紡ぎ、空間に黒いもやのようなものが現れる。
「さあ入って入って!」
シンはココ達に手を引かれ…もやの中に入ると…首都にあった、あの大きな家が目の前に現れた。
動揺するシンを引っ張り、家の中に入っていく…その後、シンが消えてからの事を、いろいろ聞いたりい話したりしていると‥あっという間に日が暮れて行ったのだった。
その夜、シンが風呂から上がり、リビングに出ると、神妙な面持ちの六人が待っていた。
「6年もの間、俺以外にいい男はいなかったのか?」
彼はそう聞いた。シンは察しが悪い方ではない。
「いませんでしたね」と断言するココ。
「そもそも探してなかった」とサーニャ
「だねー…別に先生がいないなら、そう言うのはいいかなって?」とミーコ
「うんうん!お父さんとお母さんも許してくれたし!」とシユ
「私が生きてるのは…シンのおかげ…だし…ね?」とリリア
「仕事が忙しくてそれどころじゃなかったよ!」とマオ
シンは諦めたようにため息をつく。
「そうか…んじゃあ今度はちゃんと…応えてやるよ…」
そう言って彼は左手を差し出す。ココが一歩前に出て、木でできた、白い指輪を取り出し…
「私たちは…生涯…いや…もし生まれ変わっても…シンと共にあることを…誓います…」
そう言って彼女は、涙ながらに、シンの左手の薬指に、指輪を通す。
そしてシンは、折れていたナイフを、素材に、6つの指輪を作る。
「ココ…お前に出会わなかったら…俺はまだ森を彷徨ってたんだろうな…ありがとうな。俺を助けてくれて。今後はお前と一緒に生きる。また助けてくれよな?」
そう言ってココの指に指輪を通す。
「シユ…この世界に来て…初めて、楽しいって感情を思い出させてくれてありがとう。今後は俺と一緒に楽しく生きて行こうぜ」
シユの指に指輪を通す。
「ミーコ…ホントは運動するのが嫌いなのに、無理させて悪かったな…頑張ったな。たまにはミーコの好きな事に、俺を誘ってくれてもいいんだぞ?」
ミーコの指に指輪を通す。
「サーニャ…お前の中の獣も含めて、これから面倒見てやるからな?たまには変わってやれよ?」
サーニャの指に指輪を通す。
「マオ…すまなかったな…俺の所為で元の世界で死なせちまって…ちゃんと責任は取るよ…今後俺を頼れよ。なんでもいう事を聞いてやる」
マオの指に指輪を通す。
「俺みたいな偏屈な獣人を愛したことを、後悔しても遅いからな?お前らを…俺の生涯をかけて…愛することを誓う」
少し照れくさそうにしながら、シンは笑って、そう言った。
「「「「「「は…い!!」」」」」」
そして全員で抱き合い。しばらく彼女たちは、涙を流し続けるのであった…
かくして…シンの旅も、ココ達の旅も終わりを告げた。シンは、これまでの不幸な人生を取り戻すかのように、のんびりこの世界で生きていくのだった。
ここで一部は終了となります!こんな拙い小説を、ここまで読んでいただき有難うございました。
広げた風呂敷はちゃんと閉じられたとは思います…多分…
この後は、執筆するかもわからない、二部の予告と、後日談やショートストーリーを書いていきたい為、連載中のままにさせていただきます。
もし、この話をもっと掘り下げてほしいとかありましたら、コメントいただければ…書くかもしれません。
お付き合いいただき有難うございました!出来れば評価してくださると、泣いて喜びます!
ではまた次話でお会いできればと思います!




