マオは日常に帰る
正直私は…もう立ち上がれそうにないかもしれない…そう思った…
ボロボロのお兄さんを見て…どれだけ心が痛いか…そして私には何もできない…歯がゆいことだが…彼に回復魔法は全く意味がなかった…
でも…そんなボロボロなのに…お兄さんはどこか満足そうな顔をして…意気揚々と光の中に消えて行った…
もう会えないのかな…そんなことを考え…天人族の島の端っこで、三角座りして嗚咽を漏らす…
誰かが私の背中をさする。誰だろう…そう思い顔を上げる。
「マオ…大丈夫ですよ?シンは…必ず帰ってきます…」
目を真っ赤に腫らしているココがそこにいた…彼女が一番つらいに決まってる…それなのに…私を気遣うんだね…
「ココ…そうだね……うん!きっと帰ってくるよね!クヨクヨしてる場合じゃないね!」
「そうですよ…さあ…みんなの所に…戻りましょう…」
ココが一番無理してるよね…そんなココに手を引かれ、みんなの元に帰ると、何やら天人族の一人がツバサさん達に説明していた。
「お?やあやあ狐ちゃんに二人目ちゃん!やっと来たか~。んじゃあ一人目ちゃんの説明始めるよ~」
パンパンと手を叩く。注目するように!とそんな意味を込めて…
私とココは目を見合わせ、彼女の元へ駆けて行った。
「さて…一人目ちゃんはこれから私が修復を行います。以上!だけど質問を受け付けるよ?」
ええ…それだけ!?
「シンはちゃんとこの世界に…私たちの元に…帰ってくるのですか?」
ココは恐る恐る聞く。
「ん~いずれは帰るとは思うけど…君たちの元に…ていうのはないかな?なにせ彼は、全てを失う。記憶も、容姿も、ただ一欠けらの、ほんの小さな魂だけを継承して、この世界には帰ってくる。それは保証しよう」
果たして…それは私の知ってるお兄さんなのだろうか…別人と言っても過言ではないのだろうか?
「それを見つけるのは私たちの仕事です。帰ってくるなら構いません。それはいつ頃になるのですか?」
ココは…迷いなく、一欠けらでもお兄さんの魂が残ってるなら、それは彼だと、断言する。
強いなあ…彼女は…私も負けてはいられないね!
「それは明日になるかもしれないし、100年後になるかもしれない。なにせ前例がないからね。それでも待つかい?彼は別に待っててほしいわけじゃないよ?君たちの幸せを…ただ願ってるだけさ」
「そうですね…もしシン以上の方に出会えば、彼の言う通り、私はその方と幸せに生きましょう」
まああり得ませんがね?とココは決意を宿した目を、天人族の彼女に向ける。
「まあ…その辺の裁量は、君たちに任せるとしよう…ほかに聞きたいことがあったら受け付けるよ?二人目ちゃんとか、あんまり説明できなかったしね?」
「私は別にないかなぁ…そう言えば私たちの世界の技術を広めないでって言ってたけど…魔法を使えばあり?」
「ん~…まあこの世界の資源を浪費して、走る乗り物だったり、作る加工物だったり、人の手に余る兵器とかじゃなかったら…まあ大丈夫かな?」
「その辺に気を使ってたから…うん!わかったよ管理者さん!」
「今の私はティアだからね?んじゃあ私はそろそろ戻るけど…大丈夫かい?一人目ちゃんがこの世界に戻るとしたら、どこに戻るとか聞かないのかい?」
そういえば…それを聞いとけば見つけやすい?でも…
「それはいいです。私は信じます。また彼と惹かれ合うことを、もし彼が別人だったとしても、また好きになることを…」
そうだね…きっとそれがいい…
「ふふふ…まあ私としても、少しはお節介させてもらうさ…この広い世界で、また彼と出会えるといいね」
そうして管理者さん。今はティアかな?は最後に一言だけ言って、光の柱に帰って行く。
「それではみなさん!私の世界で精一杯!幸せに生きてね~!」
ココ達は、一度パーティーを解散するんだって。各々一度やりたいように生きようという事で…
お兄さんの為に動いてきた彼女たちも、一度旅を終えた、という事だろうか。
シユとリリアとココはこのまま天人族の国に残り、獣人国に帰るそうだ。ついでにココは、シンのやり残したこの国の貿易を、円滑に始めるために動いていた。
サーニャは人種族の国で、ツバサさん達のお世話になるそうだ。シャルのお腹に赤ちゃんがいるらしい、サーニャはそれを見たいからと…
ミーコは私の故郷、リトルサンタウンに行くそうだ。実は…あの町にいた狐族の獣人さん。あれがシユのお母さんだったらしい。しばらくは、お母さんと過ごしたいそうだ。
私は人種族の首都に帰る。ルイさん達と一緒に、まだ研究途中の物がたくさんあるからね。
カインさん達も、箱舟からいっしょに降りて、馬車で元の屋敷に帰るのだそうだ。
「カインさん!また気が向いたら帰るから!それまでちゃんとよろしくね?」
「ええ…もちろんですとも。それではマオ様達も、お元気で」
そうして彼らとは別れた。まあまたすぐ帰れるように、私は一つ魔法を創ってある。ちょくちょく帰っても大丈夫だよね?
そうして私は日常に帰る。フーコちゃんと魔道具を作り、セフィーが売り子をする。そんな日常に。
そう言えばセフィーは、完全に人への殺意が消えたそうだ。泣いて喜んでいた。
ルイさん達は冒険者家業を、私たちは魔道具店を、アリサさんは家の事を、そしてたまにリトルサンタウンに帰り、のんびり休んだりして、月日は経っていく…
「マオー!お客さん!」
「はーい!フーコちゃんちょっと行ってくるよ!」
「うん…」
私は研究室を出て、受付に向かう。受付にはツバサさんとその娘シツルちゃんがいた。
「まおー!こんにちわ!」
「こんにちわーシツルちゃん!また少し大きくなった?」
確か今年で5歳のシツルちゃん。シャルとツバサさんの子供だ。ちなみにツバサさんの所にはあと三人子供がいる。嫁は今や12人だっけ?もうちょっといるんだっけ?どこのハーレムだ。
シツルちゃんを胸に抱きかかえる。可愛いなぁ~私も子供が欲しくなっちゃうよね。
「で?ツバサさん今日何かな?また家を増築でもするの?嫁増えた?」
「人をスケコマシみたいに…いや…否定はできないのかな…?いや…今回はそうじゃないんだ」
「否定できるとでも?そうじゃないなら‥なんだろう?また子供増えた?でもあと50人ほどは、生まれても丈夫だよね」
ツバサさんの家は今は大豪邸だ。隣の家を買い取って、大増築をした。今やこの国で知らない人がいないほどの人物だ。なにせ嫁のスピカ王女は、この国のトップに君臨しているからだ。
「マオ」
と短く私の名前だけを呼ぶ彼女。サーニャだ。
「ん?サーニャ?今日はミヤちゃんに付いてなくていいの?」
サーニャはツバサさんの所の、ボディーガードだ。ツバサさんが基本見守っているらしいが…彼の子供を守るために動いてるそうだ。ミヤちゃんはミーシャさんとツバサさんの娘だ。まだ1歳で屋敷からはあんまりでない。サーニャはひたすら、ツバサさんの子供にデレデレしていたはずだが…
「ん。今日でボディーガードは一旦終わり。ココから手紙」
「ココから?」
そう言えば世界の危機以来、ココには会っていない。ミーコとサーニャは、たまに会う機会があったが…
「6年ぶりだよねーもっと連絡くれてもいいのに…」
私はココからの手紙を開く、そこには…ありえないような内容が書かれている。
「え…これホントなの…?」
「あのココが間違うはずない」
「そっか…でも私にはこの魔道具店があるからな…」
私の魔道具店は連日大忙しだ。人を雇えばいいと思うかもしれないが、企業秘密の完全保持の為、外部の人は雇わないことにしている。
私のこの技術は、悪用しようと思えばいくらでもできるからだ。
「マオ。何のために僕が来たと思ってるんだ?」
「ツバサさん?」
「僕も家でニートしてると、子供たちの目線が痛くてね…一応一番稼いでるのは僕なのに…」
「パパはしごとしないのが、しごとなのー!スピカママがいちばんがんばってるの!」
「イクメンはつらいね…それで…うちで働いてくれるの?」
「ああ‥よろしく頼むよ。たまには良い所を見せてあげないとね!」
「パパはかっこいいし、やさしいし、だいすきだよ?」
「ありがとうシツル。パパはすごいんだぞってところを、見せてやるよ!」
「わーい!」
私はシツルちゃんをツバサさんに渡し、仕事の間はアリサさんにお願いするといいよ、と言っておいた。まあナギもお昼から来るんだけどね。
「んじゃあ。マオ。行こう」
「うん!ココの頼みなら断れないしね~」
ココの手紙には短く一文だけ。
『彼を見つけました。あなた達の力が必要です。助けてください』




