VS魔神獣ダイ
三人称視点になります
どれくらい経っただろうか…ココ達は、息をひそめて、洞窟内の広間で揺れが収まるのを待っていたが、一向に収まる気配はなかった。
ドォーン。ドォーン。と遠くで、何かが壁にぶつかるような音が聞こえ続ける。
私たちだけならこのまま進んでもいい。しかし…彼ら彼女たちを危険にさらすわけにはいかない。この場所にいる人はみんな、女性か幼い子供だ。この人達を守りながら、こんな危険な状態の場所を移動するのは……
そうして息を潜めていると、サーニャの耳がピクッ!と動く。
「ふフふふふフふ…あぁ…ココ…お前の甘イ香りがすル…」
そんな言葉と共に、人影が洞窟内に入ってくる。先ほどココが捕らえたはずの、虎族のダイだった。
「メチャクチャにして…グチャグチャにして…貪りたイ…」
「キモいです…」とココはやはり苦い顔をする。
「想われ…てるわ‥ね?」とあきれ顔をするリリア。
「ココは渡さない」グルルと犬歯をむき出しにするサーニャ。
「様子がおかしいよ~?」とルルが警戒する。
男の皮膚は黒くなっており、口からよだれをだらだら流し、目は赤く輝き、明らかに正気とは思えない。
4人は警戒し、各々戦闘状態に入る。
フラフラとこちらに向かって歩いてき…ふと目の前から消える。
「!?」
気づけば、ココの目の前にいて、裏拳を彼女のこめかみに打つ。
ココはとっさにガードするが…余りの威力に、そのまま洞窟の壁まで吹き飛ばされる。
「ココ!」とルルが叫ぶ。
サーニャは右側からダイの首に向かって2本のナイフを斬りつける様に振り、リリアは左からこめかみに向けて拳を振るう。
しかしその攻撃が当たることなく、いつの間に移動したのか、少し離れた位置に、ダイが立っていた。
ルルはここに駆け寄っており、光魔法でココを回復させている。
じりじりとダイを正面に、サーニャとリリアがココの前まで移動する。二人の頬に冷や汗が流れる…
「お前ラが…邪魔だナ…」
するとまた姿を消す。リリアの目に前に現れ、その顔に向けて拳を振るう。リリアは動きを筋肉の動きを見て、先読みしていたのか、すぐ顔を後ろに反らし、避ける。次々と振るわれる拳を、少し掠りながらも、避けていく。
横からサーニャが飛びかかり、ナイフを振るうが、スッと避けられ、体に蹴りを受けて、吹き飛んでしまう。
リリアが避けきれなくなってきて、後ろに飛びのくが、すぐに懐に入られ、拳を振るわれる。リリアはガードするが、サーニャと同じく吹き飛ばされ、壁に激突する。
「ツバサさんのように、身体能力が異常なようですね」
ルルのヒールが終わり、すくっと立つココ。
「…流石に…あれは…きついわ…ね…」フラフラと立ち上がり、ココの横に立つリリア。
「私が、首輪をとれば、戦えると思うけど」それほどダメージはないのか、サーニャはトンッとココの横に飛んでくる。
「いえ‥分析は終わりましたので…指示通りにお願いします。サーニャの首輪を外すと、連携が取れなくなりますからね」
首輪じゃなくてチョーカーなのだが…シンがいたらそう突っ込むだろう。
そうしてココは、事前に決めていたハンドサインで指示を出す。
「来ますよ」
そうしてまた、身にもとまらぬ速度で、ココの眼前に迫る。
ココはスッと頭を下げ、そこにダイの拳が通過していく。それと同時に、サーニャがダイの首元にナイフを斬りつける。体を後ろに反らし、避けようとするが、ダイの後頭部で爆発が起きる。その爆破の衝撃で、ダイの首が元の位置に跳ね、サーニャのナイフが当たるが、キィンと何か金属を切ったかのような音がする。そしてダイが目線をサーニャに向けた瞬間、リリアが正面から拳を振るい、ココは回し蹴りでダイを吹き飛ばす。
ダイの首筋にツゥっと赤い血が流れる。シンがイメージを付与したナイフでも、皮膚を少し切る程度が、精一杯だったようだ。
「どうやら皮膚が硬質化してるようですね。蹴った感じ…中はそれほど硬い感じはなかったですね」
「あんまり火魔法は得意じゃないんだけどね~」
「すこし位置をずらす程度で十分です。次で仕留めます」
勝利を確信したココだが…ダイの様子が変わる。
「ココヲ…貪り殺ス…コロスウゥゥゥゥ!!!」
ダイがその姿を徐々に変えていき…少しすると一匹の大きな黒い虎になった。
すでに理性はないのか、グルルゥと唸り声をあげ、ココ達の様子をうかがっている。
「あれはサーニャの…」とココが少し驚く。
「……」
サーニャは黙って、自分のチョーカに手をかける…しかし…
「サーニャ…これを取って…いいのは…シンの前だけって…約束したよ…ね?」
サーニャの手に、リリアが手を重ね、止められる。
「でも…」
目の前の虎が、ここに向かって目にもとまらぬ速さで飛びかかる。
リリアは即座に横に蹴りを入れるが、ぎりぎりで躱される。そして一度下がる虎。
「見えないわね…私でさえ…動きが捕らえられないわ…ね」
飛びかかる予備動作を見て、かなり早めにタイミングを合わせたはずなのだが、それですら当たらない。
動きを先読みするリリアですら、捕らえられない。まるで生きている時間軸が違うかのように、こちらの攻撃が当たらない。
ココが全員に無言で指示を出す…が
「ココ!それなら私が…」
チョーカーを外そうとするサーニャ…しかし…
「サーニャ。それではこいつを殺せません。ならば確実に殺せる策を練るまでです。それに今はルルもいますし…」
サーニャは泣きそうな顔で、しかし俯かず、眼前の虎を見据える。
ルルは気づいていた、それは気休めだと…しかし…彼女の意志は固かった。
「来ます。あとは指示通りに」
虎がやはり目には見えない速度で、ココに飛びかかり、その首筋あたりに噛みつく。
ガブッ!と牙が刺さり、ココの体から鮮血が飛び散る。
「まったく…想ってくれるのは嬉しいですが…私にはすでに大好きな人がいるので…応えてあげられません…」
ココはそう言い、自分を食い破らんとする虎の首筋に抱き着き…
まるで合気道のようにクルンと虎をひっくり返す。自分が喰われながら…
そしてまるで、後ろから頭を抱きかかえるように、虎の体を固定したかと思うと…
「ウオオォォ!!」
飛び上がっていたサーニャが、渾身の力で、首筋を切り裂く。皮膚が切り裂かれ、鮮血が飛び散るが、やはり皮1枚切り裂くのが精いっぱいだった。しかし…
「さっさと死んでよね!!」
横からルルが、ココに渡されていた刀を、今、皮膚が引き裂かれた箇所に向かって振り下ろす。
ザクッ!と刃は首に刺さるが、まだ浅い。殺すにはまだ足りない…しかし…
「これ…で!」
天井を蹴って、勢いをつけたリリアが、ルルの持っていた刀に、上から勢いのままに蹴りを入れる。
途中で止まっていた刃は、そのまま地面に達し、虎の首が断ち斬られ、血が飛び散る。
ココはそのまま、虎の頭を抱いて倒れ…ココの手から虎の頭部が横に転がった。
(シンはいつもこんな感じだったんでしょうかね…自分を喰われながら敵を倒すなんて…ふふ…出来れば死しても…私の魂は……シンの……もと…に…)
そしてココは意識を失い、パタンッと倒れる。
「ルル!!」
「ヒール!」
ルルはすぐ回復に取り掛かるが…彼女の魔力は…それほど多くない。すでに今までの戦闘で、ほぼ使い果たし、魔力を絞り出し、丁寧に紡いでいくが、血を止める程度が精いっぱいだ…
そしてココの体から完全に力が抜けきり、腕はだらんと下がり切って…
「駄目!ココはシンと幸せに生きるんでしょ!!駄目だよ…そんな…ココ!!」
彼女の魂は…体から抜け…そしてきっと、彼の元に向かったのだろう…
彼女たちは必死にココを呼び戻そうと懸命に声をかけ続ける、それしかもうできることがないのだった…
「死んでまで、俺の元に来るなんて…俺は神様でもなんでもないんだぞ?」
こんなところにいるはずのない…そんな人物の声が聞こえる。
サーニャとリリアは恐る恐る振り返ると…
彼女たちの想い人…シンがそこにいた。
「シ…ン…ココが…ココが!!」
サーニャは何かに縋るように、シンの服を引っ張る。
「任せとけ。この自分の命を顧みないバカを、ちゃんと連れ戻してやるから、起きたら叱ってやれ…セシル。ココの治療を」そう言いながら、サーニャの頭を優しく撫で、指示を出す。
「はーい!でも体しか治せないよ?」
二人ほどシンに付いて来ていた天人族の2人の内の一人が返事をする。
「それでいい。あとは俺がやる」
セシルはココの体の所に行くと、手を翳し、光魔法を唱える。するとココの体が、何もなかったかのように、傷1つない状態に戻る。
シンはまるで自分にしか見えないような何かを、手のひらで捕まえ、目を閉じる。
少しすると、手のひらの上に光の玉のようなものが、輝きだす…それをココの胸に押し込むように入れていく…
「ちゃんと生きて待ってろよ?もしくは誰かと、ちゃんと幸せになれ」
そう言って彼は、ココの胸に、光の玉を入れ込む。光の玉がココの胸に収まると、ココの口に自分の口を当て、人工呼吸し、心臓マッサージを開始する。心臓マッサージと人工呼吸を繰り返していると…
「カハッ!…ケホッ…ケホッ……スゥ…」
「ココ!?……良かった…」サーニャは泣きながらココを抱きしめる。
ココの心臓は動き出し、安らかな寝息をたてる。
「よし…あとは大丈夫だろう…セシル、この場にいる全員で撤退しろ。俺は用事を済ませに行く」
「はーい!頑張ってね!ゆーしゃさま!」
「シン…ちゃんと帰ってきて…ね?待ってる…から…」
ココをサーニャと抱きしめているリリアが不安そうに言う。
「保証はできないな」と苦笑いするシン
そしてシンは入ってきた入り口に消えて行った…




