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私の世界にようこそ  作者: てけと
終幕『私の世界で幸せに』
111/189

VS魔神獣ダイ

三人称視点になります

 どれくらい経っただろうか…ココ達は、息をひそめて、洞窟内の広間で揺れが収まるのを待っていたが、一向に収まる気配はなかった。

 ドォーン。ドォーン。と遠くで、何かが壁にぶつかるような音が聞こえ続ける。

 私たちだけならこのまま進んでもいい。しかし…彼ら彼女たちを危険にさらすわけにはいかない。この場所にいる人はみんな、女性か幼い子供だ。この人達を守りながら、こんな危険な状態の場所を移動するのは……


 そうして息を潜めていると、サーニャの耳がピクッ!と動く。


「ふフふふふフふ…あぁ…ココ…お前の甘イ香りがすル…」


 そんな言葉と共に、人影が洞窟内に入ってくる。先ほどココが捕らえたはずの、虎族のダイだった。


「メチャクチャにして…グチャグチャにして…貪りたイ…」

「キモいです…」とココはやはり苦い顔をする。

「想われ…てるわ‥ね?」とあきれ顔をするリリア。

「ココは渡さない」グルルと犬歯をむき出しにするサーニャ。

「様子がおかしいよ~?」とルルが警戒する。


 男の皮膚は黒くなっており、口からよだれをだらだら流し、目は赤く輝き、明らかに正気とは思えない。

 4人は警戒し、各々戦闘状態に入る。

 フラフラとこちらに向かって歩いてき…ふと目の前から消える。


「!?」


 気づけば、ココの目の前にいて、裏拳を彼女のこめかみに打つ。

 ココはとっさにガードするが…余りの威力に、そのまま洞窟の壁まで吹き飛ばされる。


「ココ!」とルルが叫ぶ。


 サーニャは右側からダイの首に向かって2本のナイフを斬りつける様に振り、リリアは左からこめかみに向けて拳を振るう。

 しかしその攻撃が当たることなく、いつの間に移動したのか、少し離れた位置に、ダイが立っていた。

 ルルはここに駆け寄っており、光魔法でココを回復させている。

 じりじりとダイを正面に、サーニャとリリアがココの前まで移動する。二人の頬に冷や汗が流れる…


「お前ラが…邪魔だナ…」


 するとまた姿を消す。リリアの目に前に現れ、その顔に向けて拳を振るう。リリアは動きを筋肉の動きを見て、先読みしていたのか、すぐ顔を後ろに反らし、避ける。次々と振るわれる拳を、少し掠りながらも、避けていく。

 横からサーニャが飛びかかり、ナイフを振るうが、スッと避けられ、体に蹴りを受けて、吹き飛んでしまう。

 リリアが避けきれなくなってきて、後ろに飛びのくが、すぐに懐に入られ、拳を振るわれる。リリアはガードするが、サーニャと同じく吹き飛ばされ、壁に激突する。


「ツバサさんのように、身体能力が異常なようですね」


 ルルのヒールが終わり、すくっと立つココ。


「…流石に…あれは…きついわ…ね…」フラフラと立ち上がり、ココの横に立つリリア。

「私が、首輪をとれば、戦えると思うけど」それほどダメージはないのか、サーニャはトンッとココの横に飛んでくる。

「いえ‥分析は終わりましたので…指示通りにお願いします。サーニャの首輪を外すと、連携が取れなくなりますからね」


 首輪じゃなくてチョーカーなのだが…シンがいたらそう突っ込むだろう。

 そうしてココは、事前に決めていたハンドサインで指示を出す。


「来ますよ」


 そうしてまた、身にもとまらぬ速度で、ココの眼前に迫る。

 ココはスッと頭を下げ、そこにダイの拳が通過していく。それと同時に、サーニャがダイの首元にナイフを斬りつける。体を後ろに反らし、避けようとするが、ダイの後頭部で爆発が起きる。その爆破の衝撃で、ダイの首が元の位置に跳ね、サーニャのナイフが当たるが、キィンと何か金属を切ったかのような音がする。そしてダイが目線をサーニャに向けた瞬間、リリアが正面から拳を振るい、ココは回し蹴りでダイを吹き飛ばす。

 ダイの首筋にツゥっと赤い血が流れる。シンがイメージを付与したナイフでも、皮膚を少し切る程度が、精一杯だったようだ。


「どうやら皮膚が硬質化してるようですね。蹴った感じ…中はそれほど硬い感じはなかったですね」

「あんまり火魔法は得意じゃないんだけどね~」

「すこし位置をずらす程度で十分です。次で仕留めます」


 勝利を確信したココだが…ダイの様子が変わる。


「ココヲ…貪り殺ス…コロスウゥゥゥゥ!!!」


 ダイがその姿を徐々に変えていき…少しすると一匹の大きな黒い虎になった。

 すでに理性はないのか、グルルゥと唸り声をあげ、ココ達の様子をうかがっている。


「あれはサーニャの…」とココが少し驚く。

「……」


 サーニャは黙って、自分のチョーカに手をかける…しかし…


「サーニャ…これを取って…いいのは…シンの前だけって…約束したよ…ね?」


 サーニャの手に、リリアが手を重ね、止められる。


「でも…」


 目の前の虎が、ここに向かって目にもとまらぬ速さで飛びかかる。

 リリアは即座に横に蹴りを入れるが、ぎりぎりで躱される。そして一度下がる虎。


「見えないわね…私でさえ…動きが捕らえられないわ…ね」


 飛びかかる予備動作を見て、かなり早めにタイミングを合わせたはずなのだが、それですら当たらない。

 動きを先読みするリリアですら、捕らえられない。まるで生きている時間軸が違うかのように、こちらの攻撃が当たらない。



 ココが全員に無言で指示を出す…が


「ココ!それなら私が…」


 チョーカーを外そうとするサーニャ…しかし…


「サーニャ。それではこいつを殺せません。ならば確実に殺せる策を練るまでです。それに今はルルもいますし…」


 サーニャは泣きそうな顔で、しかし俯かず、眼前の虎を見据える。

 ルルは気づいていた、それは気休めだと…しかし…彼女の意志は固かった。


「来ます。あとは指示通りに」


 虎がやはり目には見えない速度で、ココに飛びかかり、その首筋あたりに噛みつく。

 ガブッ!と牙が刺さり、ココの体から鮮血が飛び散る。

 

「まったく…想ってくれるのは嬉しいですが…私にはすでに大好きな人がいるので…応えてあげられません…」


 ココはそう言い、自分を食い破らんとする虎の首筋に抱き着き…

 まるで合気道のようにクルンと虎をひっくり返す。自分が喰われながら…

 そしてまるで、後ろから頭を抱きかかえるように、虎の体を固定したかと思うと…


「ウオオォォ!!」 


 飛び上がっていたサーニャが、渾身の力で、首筋を切り裂く。皮膚が切り裂かれ、鮮血が飛び散るが、やはり皮1枚切り裂くのが精いっぱいだった。しかし…


「さっさと死んでよね!!」


 横からルルが、ココに渡されていた刀を、今、皮膚が引き裂かれた箇所に向かって振り下ろす。

 ザクッ!と刃は首に刺さるが、まだ浅い。殺すにはまだ足りない…しかし…


「これ…で!」


 天井を蹴って、勢いをつけたリリアが、ルルの持っていた刀に、上から勢いのままに蹴りを入れる。

 途中で止まっていた刃は、そのまま地面に達し、虎の首が断ち斬られ、血が飛び散る。

 ココはそのまま、虎の頭を抱いて倒れ…ココの手から虎の頭部が横に転がった。


(シンはいつもこんな感じだったんでしょうかね…自分を喰われながら敵を倒すなんて…ふふ…出来れば死しても…私の魂は……シンの……もと…に…)


 そしてココは意識を失い、パタンッと倒れる。


「ルル!!」

「ヒール!」


 ルルはすぐ回復に取り掛かるが…彼女の魔力は…それほど多くない。すでに今までの戦闘で、ほぼ使い果たし、魔力を絞り出し、丁寧に紡いでいくが、血を止める程度が精いっぱいだ…


 そしてココの体から完全に力が抜けきり、腕はだらんと下がり切って…


「駄目!ココはシンと幸せに生きるんでしょ!!駄目だよ…そんな…ココ!!」


 彼女の魂は…体から抜け…そしてきっと、彼の元に向かったのだろう…

 彼女たちは必死にココを呼び戻そうと懸命に声をかけ続ける、それしかもうできることがないのだった…





















「死んでまで、俺の元に来るなんて…俺は神様でもなんでもないんだぞ?」


 こんなところにいるはずのない…そんな人物の声が聞こえる。

 サーニャとリリアは恐る恐る振り返ると…


 彼女たちの想い人…シンがそこにいた。


「シ…ン…ココが…ココが!!」

 

 サーニャは何かに縋るように、シンの服を引っ張る。


「任せとけ。この自分の命を顧みないバカを、ちゃんと連れ戻してやるから、起きたら叱ってやれ…セシル。ココの治療を」そう言いながら、サーニャの頭を優しく撫で、指示を出す。

「はーい!でも体しか治せないよ?」


 二人ほどシンに付いて来ていた天人族の2人の内の一人が返事をする。


「それでいい。あとは俺がやる」


 セシルはココの体の所に行くと、手を翳し、光魔法を唱える。するとココの体が、何もなかったかのように、傷1つない状態に戻る。

 シンはまるで自分にしか見えないような何かを、手のひらで捕まえ、目を閉じる。

 少しすると、手のひらの上に光の玉のようなものが、輝きだす…それをココの胸に押し込むように入れていく…


「ちゃんと生きて待ってろよ?もしくは誰かと、ちゃんと幸せになれ」


 そう言って彼は、ココの胸に、光の玉を入れ込む。光の玉がココの胸に収まると、ココの口に自分の口を当て、人工呼吸し、心臓マッサージを開始する。心臓マッサージと人工呼吸を繰り返していると…


「カハッ!…ケホッ…ケホッ……スゥ…」

「ココ!?……良かった…」サーニャは泣きながらココを抱きしめる。


 ココの心臓は動き出し、安らかな寝息をたてる。


「よし…あとは大丈夫だろう…セシル、この場にいる全員で撤退しろ。俺は用事を済ませに行く」

「はーい!頑張ってね!ゆーしゃさま!」

「シン…ちゃんと帰ってきて…ね?待ってる…から…」


 ココをサーニャと抱きしめているリリアが不安そうに言う。


「保証はできないな」と苦笑いするシン 


 そしてシンは入ってきた入り口に消えて行った…

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