シンは天人族の国を興す
天人族の島に着いた俺は、いろいろと試行錯誤する。
まず米だ。
おんなじように見えるが、小粒な物、少し長細いものなど、粒が全然違う。まずは選別からだ。
しかし完全に一つの草に、ランダムで出来ているようで、機械で選別することにした…そのあと一回炊いてみて、試食する。用途別に分別し、倉庫に収納していく。酒も作れればいいが…それは時間がかかるので同時進行で進める。
その後は、魚の毒見だ。死なない体をフルに使い、舌が痺れる感じのする魚は、どこに毒があるのかを調べて、捌きながら、食べられる魚と、無理な魚を図鑑のように記していく。
塩は海水を煮沸させ、乾燥させていく。一応にがりも回収する。
次に住居だ。
一軒づつ建ててもいいが…めんどくさいのででっかいのを、廃墟をベースに使い建てる。あとは生活に必要な道具を作っていく。
ここを国として興すつもりだが、別に観光客なんざ招く必要はない。米、魚、チョコでほかの国と貿易して、天人族たちが豊かに暮らせればいい。
その為にも、全て俺がやるわけにはいかない。俺はきっかけを与えるだけだ。あとはこいつらがそれをベースに、生活していけばいい。
この宮殿の最奥には、天人族が生まれ、そして死んでいくという、光の柱がある。そこからたまに天人族が生まれてきていた。そいつらに説明し、仕事を与える。
今のところ、この光に入って死んでいく天人族はいない。最終的に100人になり、仕事を振っている。
今はひたすら、在庫を抱え、来るべき日に、売る物を溜めておく。
調理担当に、料理を教え込む。魚、チョコ、米を管理する者にも、加工処理ラインを新設する。電気は基本、風力発電と、落ちてくる海を利用した水力発電だ。それほど電気は作れないが、この程度の機械を動かす電気なら賄えるだろう。
しかし食材が足りない…創意工夫でうまい飯は作れるが…やはり満足はいかない。
出来れば、酪農と大豆と小麦、この辺は欲しい所だな…
「ゆーしゃさま!あそぼー?」
俺が思考していると、数名の天人族が、俺の手を引く。
「そう言えば娯楽も与えないとな…」
休みの日にやることがないのか、お昼過ぎはいつも天人族と遊んでやっている。
最初は鬼ごっこや、かくれんぼなど、体を動かすお遊びをしていたが、最近はもっぱらボードゲームだ。
元の世界では、苦手であんまり得意ではなかったが…狐族の分析予測を経験した俺は、先を読むことが、少しは出来るようになってきた。
「チェックメイトだな……ん?そっちはもうすぐ詰んじまうぞ?よく考えろよ?……だからもっと先を読め終わっちまうぞ?」
「かてない…なんで~?」
「ん~…ここがこうで…こうくる?そうだと‥」
「さっきまで勝ってたのに!なんでなんで~?」
リバーシと将棋とチェスを三面差しで相手をしている。まだ俺の相手になるほどの域には達してないようだ。
「まだまだ俺の相手は早いようだな。精進しろよ」
「「「「「「むぅ…ぜったい倒す!」」」」」」
「その意気だ…」
そうして俺は、順調に天人族の国、ディスピアードの基盤を作っていった。
なぜユートピアでなく、ディストピアの方をもじったのか?どこぞのクソが作った理想郷なんぞ。反吐が出る。
この世は地獄であり、一寸先も闇だ。理想だけで出来た幸せな世界なんぞない。
苦しめ、足掻け、怖くても前に進め。理不尽に抗え、この世はきっと辛いことだらけだろう。
だが…その辛く苦しい出来事があるからこそ…人は幸せを感じることが出来るだろう。
光の中で、淡い光は輝けない…ならば、この世界は闇で満ちてるといいさ。そうすれば、弱弱しい光であっても、それはこの世界できっと何より輝くだろ?
そんな光が、真っ暗闇で、いくつも光る、そんな綺麗な光景に、こいつらの国もなるように…ってな。
さて…大まか落ち着いて、かなり近代化したディスピアードに来客が訪れる。
「何やってんだあんたはッ!!!!!」
そんな盛大なツッコミと共に、ツバサとシャルが現れる。
「お?この国に客とは珍しいな?ようこそ天人族の国ディスピアードへ。歓迎するぞ?ツバサ、シャル」
ちょうどいい、こいつらに、下の世界での下地でも作ってもらうか。
その後ツバサとシャルに、昼飯をご馳走する。チャーハンもどきを食べながら、涙を流すツバサに若干引いたが…
この国の貿易品を、ツバサに渡す。チョコの方に関しては、レシピを弟子たちに、うまく商品になるなら、売り出してもいいとも書いてある。
これでこの国が、貿易する際、特に忌避感もなく始められるだろう。
サンプルみたいなものだから、別に代金なんていらないんだが…
そうだな…ココ達を任せておこう。あいつらは危なっかしいからな…ココとミーコがいるから大丈夫だとは思うが…割と厄介ごとに、巻き込まれがちだ。俺に巻き込まれたのがいい例だ。
俺の所に、ツバサたちの方が先に着いたのだ。なら今その厄介ごとの最中だろうな…
そう言うのが得意な、ツバサに任せておこう。
あいつらがツバサに惚れるなら、俺としては安心して、ここで待ってられるわけだ。
しばらくして、俺がいなくても、生産や食事が回るようになってきた。
後は待つだけなんだが…どれだけ待つのかは、見当がつかないんだよな…
最近は島の端の方で、寝転んでいることが多い。この島で出来ることは大体終わってしまったので暇だ…
まるで、かつての天人族みたいに、水のような味の実をかじりながら、ぼーっとしている。
「ゆーしゃ様…まるで私たちみたいだね~」
「ね~」
俺が仰向けで寝ている横に、添い寝するように横に寝ころぶ天人族の二人。
「セシルとソミアか…今日は休みか?」
顔でまったく見分けがつかないので、各々何かしらの目印をつけることにしている。
100種類の髪飾りを作り、それを前髪に着けるようにさせている。リボンだったり、ピン止めだったり、ヘアゴムだったり、いろいろだ。
「やすみだよ?ゆーしゃさまが最近、ボーとしてるって聞いて心配になったんだよ?」
「元気ない?だいじょうぶ?」
「大丈夫だ。少し考え事をな…」
「私たちがなにかできない?」
「ゆーしゃさまの力になるよ?」
「来るべき日が来たら、その時は頼むな?」
「「うん!!」」
さっさと来いよな…まだ足りないのか?しかし…俺にはこれ以上出来ることはない。
光の柱とやらに入ってみたが、俺じゃ意味がないようだった…あれは天人族専用の物だった。
左右の天人族が、そのまま昼寝に入り、俺もつられて…眠ってしまった…
昼寝から目が覚めると、俺は宮殿のベットの上で、5人くらいの天人族たちと寝ていた。
わざわざ運んだのか?
「んっ…一人目ちゃん?…おは…よ‥う…」
「ああ‥おはようティア…ん?一人目?」
一人目…?一瞬で意識が覚醒する。
「あっ…ゆーしゃさま…おはよう…」
気のせいだと言わんばかりに、目をコシコシさせながらそう言うティア。
「お前…まさか…管理者か…何時からいたんだ…?」
てめえ…いたのか…
「てへっ」
やっちゃった。と言わんばかりに可愛らしく舌を出す。
確かティアは…俺が来たあとから生まれた、天人族だ。俺の予測では、天人族の体を借りて、こちらとコンタクトをとると思っていたが…
「その体はティアの物なのか?」
「いやー?ちゃんと私が作った物さ!一人目ちゃんの作戦は成功さ。つい楽しそうで遊びに来ちゃった」
「で?俺のこの体をどうにか出来んのか?」
「むりだね~この世界で私は、ただの天人族さ。ちゃんと私の所に来てくれないとね?」
「なぜすぐに俺にコンタクトを取らなかった…?」
俺がお前を探しているのは知ってただろ?
「ん~?私はただの、生まれたての天人族だよ?それに私が生まれた時に言ったじゃないか」
自由にしろってね?と笑顔でそう言う管理者。こいつは…
「最初は小言を言うつもりだったけどさ。楽しそうにしているこの子たちを見ると、それもありなのかなってね~私も楽しませてもらったよ!」
「それは重畳だ。で?俺の質問には答えてもらえるのか?」
「ん~この世界だと一人目ちゃんの心が読めないから不便だけど…まあいいよー。楽しませてもらってるお礼さ!」
「俺がお前の所に行くことは可能か?」
「んー…一応可能ではあるね」
「一応?」
「私がちゃんとセッティングしたらね?条件があるけどね?」
「条件を教えろ。俺の小言は全部お前の本体?のところで愚痴ってやる」
「ははは…お手柔らかにね?世界の危機を脱したらね、天人族はみんな、光の柱に帰る。その時に細工してあげるよ。一人目ちゃんだけが入れるようにね?チャンスはその時だけさ」
「…条件ってのは俺に世界を救えってことか?」
「まあそうだねー。一応最後までは見届けるよ?世界が終わったら、この子たちだけ回収して、私は世界を去るからね」
俺の予測通りだが…世界の危機ってのがな‥大体予測できてはいるが…。
「世界の危機はもうすぐ訪れる?」
「そうだねー。間違いなく起こるね。私がここに来る前に見てきたからね」
「そうか…。わかった」
「物分かりがいいね~ある程度予測はついてるんだ?」
「まあな…その為に、この島の権限を寄越せ」
「え!?一人目ちゃんに?それはちょっと…」
「簡単な操作を、天人族ができるようにするだけだ。俺じゃなく、天人族にな」
「なるほどね…この島で遊んでた私としては、意図は理解したよ…でも君に彼女たちを守れるかい?襲われたらどうする?」
この島をたまに地上に降ろして、貿易させようと思っている。
「そうならないように、考えているさ‥」
そうして俺の案を、管理者に伝える。まあ最初は俺とマオとツバサが基軸になる、その後はこの世界の住人に任せるが…
「わかったよ…天人族にしか使えないようにしてね?」
「もちろんだ。で?お前はこれからどうする?」
「見つかっちゃったし…帰ろっかな~。私がこのまま天人族だと、一人目ちゃんに惚れちゃうところだしね」
「冗談でもやめとけよ…心臓に悪い」
「私が誰とでも寝る女だと思われてるなら、心外だね!」
「お前性別ないだろうが…」
ちゃんとツバサとマオからいろいろ聞いてあるぞ?
「今は天人族で女だからね?まあでも私は一旦帰るよ。頑張ってね~」
そう言って、管理者は光の柱がある部屋に入っていった。
「んじゃあ許可は得たし、仕事するか…」
俺はこの島の操作を可能にするために、また少し働くことにし、島の中心部に向かうのだった。




