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マ剣のあるじ様!  作者: 葉玖ルト
前章 同胞集め
5/13

五:ウシとネコの大喧嘩

 ――様

 ――フィル様!


「ん……」


 女性の声に導かれて、目をこする。

 ゆっくりと上体を起こしだらしなくあくびを一つ、ぼうっとした頭を目覚めさせる。

 ふとガラス越しの大きな窓と目が合った。

 そこには今が朝なのか、夜なのかもわからない黒い大地が広がっていた。

 ……そうだった、と昨日の出来事を思い出す。

 僕は、本当に魔界に――。


「おはようございます、フィル様」


 僕の隣で、リナさんがにっこりと微笑んだ。

 その綺麗な笑顔は、眠っていた僕の体をしゃきんと起こす。

 「おはようございます」目覚めた体を伸ばして、彼女に挨拶を返す。すると、朝から口の悪い声が飛んできた。


『おはようじゃねえよ、この寝坊助。今、何時だと思ってんだよ』

「ええ……っ」


 僕ってそんなに寝過ごしたのかな。た、確かに昨日は色々とあって疲れていたけれど!


「ご、ご、ごめんなさい!」


 咄嗟にそう謝った。しかしリナさんは目を丸くして、首を振る。


「デュベル様、まだ朝の七時ではありませんか」

「えぇ……」

『今日のターゲットは夜型と、筋肉大好き筋肉野郎なんだ。朝を逃せば捕まえるのが大変だろうが!』


 デュベルは怒鳴った。

 リナさんに聞くと……今日、説得に行く相手は、そういうことらしい。

 一人は夜型ゆえに、朝と昼は基本的に寝ているそうだ。

 もう一人は、斧を片手に寝る間もなくずうっと斧を振っているような暑苦しい魔族らしい。

 しかし朝は魔王城の傍にやってくるのが日課だそうで、これを逃すと次の朝になってしまうのだ。


「魔王様は……起こさないであげてくださいね」


 リナさんに促され、エクスに目をやる。

 彼はまだ眠っているようだ。


「誠意を見せるために、魔王様を連れていきたいのは山々なのですが……。かえって刺激させてはいけませんので」


 そういうことなら、仕方ない。

 僕はデュベルを抱え、彼らのもとへと向かった。

 ちなみにリナさんは魔王城の清掃があるらしいので、デュベルに案内を頼むように言いつけた。




 ――黒い大地にも、こんな大木があるのか。

 僕は口を開けて、驚いていた。

 一体、いつから生えていたのだろうか。そう思わせる威厳を放つ、大木。何重にも枝分かれした木、しかし葉っぱがついていない。

 傍には小さな池があり水が透き通っていた。けれど底が見えないくらい深い。


『……みろ。いたぞ』

「え? どこ?」

『上だ、上』


 デュベルに言われて、じいっと目を凝らす。

 何重に分かれた枝の一部分に、何者かが寝息を立てて丸まっていた。

 さらに目を凝らしていくと、その容姿が明らかになった。

 赤い布を首元に巻いて、小さな刀を腰元にこしらえている……あれはクロネコだ。

 クロネコの尻尾の先は白く、木と同調するように尾の先端が避けていた。


『あれがツイン・ティーキャットのクロエ。メスだと思って油断するなかれ、な』


 ――ツイン・ティーキャット。

 本で読んだ知識だと、素早い身のこなしで人間を翻弄する、ネコと表記されていた。

 後ろを振り返った時には前へ、前を向きなおした暁には天井へ。すばしっこいネコは、人間の動体視力で追いつかせることを許さないのだという。

 デュベルがスゥッと息を吸い込んだ気がした。瞬間、僕の鼓膜を揺るがすほどの声を張り上げた。


『クロエ!!』

「うわ……っ!!」

「ぎにやああ!!」


 耳を塞いで衝撃に耐える。

 デュベルの声量はすさまじく、まさに刃の如くクロエを貫いたようだ。

 クロネコのクロエは、四肢をバタバタさせて木の上から落っこちてきた。猫又でバランスを取り、木の幹を滑るように転がり込んでくる。

 最後にはストンと二足歩行で着地した。


「にー……耳がキィンって、キィンって……」


 耳の先を持ちながら丸め、涙目で震えていた。なんだか悪いことをした気分だ。


「デュベルどの、せっしゃの耳を壊す気かにゃぁ」

『命令だ。魔王の配下に戻れ』


 単刀直入すぎる!?

 いくらなんでも、もう少し訳を話してから……。

 それは相手も同じ気持ちのようで、ネコ目を向けて僕に訊ねる。


「デュベルどの。こちらのお方は人間と見た。なぜ、魔界に人間がおられるか?」

『こいつが新しいオレの主っつーわけだ。んなことはどうでもよくて』

「あんな魔王の下につくなんてごめんだに!」


 フシャーッと声を上げ、鬼の形相で威嚇した。腰を丸め、刀の持ち手を握り、尾っぽをゆっくりした動作で地面に激しく叩きつける。

 いつこちらに攻撃を加えられてもおかしくない状態だ。


『おい、テメ……』

「待って! クロエ。どうして魔王のことが嫌いなんだよ?」


 今に暴言を吐きそうなデュベルを押え、僕はクロエとの対話を試みた。

 目を見開き牙を向けていたクロエも一度、冷静を取り戻して僕の話を聞いてくれるみたいだ。


「せっしゃ、今の魔王が心底好かんに」

「どうして、そう思うの?」

「父上どのの栄光に縋って、自分とはなんたるかを考えないからだにゃ」

「自分とはなんたるか……」


 確かに、彼はお父さんの話が大好きだ。

 クロエの言いたいこともわかる。


「もう少し自分にできることを考えてもいいんじゃないかって」

「そうなんだにゃ! いやあ、人間どのは話がわかるにー」

「でも、魔王様がそう考えたくなるように、お傍で仕えるのも配下の務めじゃない?」

「うぐに……確かにぃ」


 クロエがしょぼんとうなだれる。どうやら、この子は素直でいい子らしい。

 一通り流れを見送ったあと、デュベルがイラ立ちを隠すように告げた。


『……まあいい。配下に戻るかどうかは後で決めてもらう。クロエ、今から筋肉野郎を探す。手伝え』

「き、筋肉野郎……せっしゃ、できればカウオーズどのに関わりたくないにゃあ」


 しょぼん。クロエは再びうなだれた。

 耳の裏を持って丸め「やだにい、やだにい」とぼやきながら、僕たちの後ろをついてきた。






 ――やがてだだっ広い場所にやってきた。

 黒い大地の上には、木っ端微塵に砕け散った大岩の姿が無残に転がっている。

 そのもう少し先の場所では、謎の雄たけびが聞こえた。

 ――ブモオオ……。

 黒雲の空に、唸り声が響いた。

 一体、何者なんだ。耳の奥に残ってしまいそうな不快感がまとわりついた。


『行くぞ、筋肉野郎がいるかもしれねえ』

「いやだにい……」


 デュベルの案内で、僕たちは「筋肉野郎のカウオーズ」たる人物を目指して歩を進めた。





『いたぞ、筋肉野郎だ。やつがミノタウロスのカウオーズ』


 バリ、バリ、とても耳にしたくはない下品な音がこびりついた。

 何かを、食べている?

 辺りには銀色の……ウロコのような欠片が散らばっていた。


 その人物は、二メートル弱の大きい背中を向けていた。

 威圧感がすごく、その紅色の人物がバリバリという音を出しているに違いなかった。

 頭には曲がった立派な角が生えており、木の幹のように太い腕には重そうな鉄の腕輪がはめてある。

 あぐらを掻く「カウオーズ」たる人物の隣には、大きな斧が置かれてあった。

 やがてその人物が、そのつり上がった目で振り向いた。

 骨格は頭から口に行くほど尻すぼみに小さくなっており、彼の口には銀色の魚が銜えられていた。


 刹那、クロエが「あ、ああ」と声を零す。

 わなわなとした様子で、口をパクパクさせ……ついに発狂した。


「ぎにやあああ!! せっしゃの貴重なご飯があああ!!」

「ぶも……?」


 手に抱えた魚を、見せびらかすように咀嚼し飲み込んだ。

 ごくんと生々しい音が聞こえる。

 そうしてゆっくりと立ち上がり、僕たちを見下ろすように斧を構えた。


「ちょうど、食後の運動がしたかったのだ。ブモオオ、ブモオオオ!!」


 カウオーズたる人物が雄たけびを上げると、辺りの小石を巻き上げた。ぐっと足を踏ん張っていなければ、いとも簡単に飛ばされてしまうだろう。


「ブモオオ、やんのか、やらないのか。ブモー、ブモー」


 鼻息を荒くさせ、ゴツゴツとした拳を胸の前で突き合わせる。確かにデュベルが筋肉野郎と罵るだけある。大地が割れんばかりに揺れていた。


「聞いてください、カウオーズさん! 僕はただ、魔王の……」

「やるんだなああ、ブオモオオ!!」


 だめだ、全然聞いていない!?


『チッ……一度興奮しだすと止まらねえんだよ。フィル、絞めるぞ』

「何を言ってんだよ、僕は剣を握ったことなんて……」

『オレが支援する! 剣を抜けッ!』

「わわ、わかったよ!」


 抱えていた剣の鞘を、地面に放り投げるようにして刃先と顔を合わせた。

 昨日もデュベルの全身を見たけれど……その剣は黒い宝石のようで、何度見ても美しい。持つ者を魅了する何かがあった。


「デュベルどの! 人間どの! せっしゃも助太刀いたす! 食べ物の恨みは怖いにいい!」


 クロエも奮起し、こしらえていた剣を取り出した。


 不自然な静寂が包む中、僕たちは巨大な敵と対峙していた。

 互いに黒い大地を踏みしめ、にらみ合う。


「ブモオオ――」


 荒い鳴き声を聞くたびに、デュベルを支える腕が震えた。

 余裕な表情で大きな斧を構えるカウオーズに対し、冷や汗でベタベタの両手で魔剣を支える。下手をすれば致命傷を与えられてしまうかもしれないのに、怖くて腰が引けてしまう。なんて僕は軟弱なのだろう。

 心強いデュベルの言葉すら、半信半疑になってしまう。


 勝負の合図はカウオーズの足音で始まった。

 のっそりと、その歩みこそ遅いが――。


「ブモオオオ!! 塵となれええい!」


 カウオーズが大きな斧を振り上げた。『避けろ!』デュベルの声が、遠くに聞こえた気がした。

 今までこういう状況に置かれたことがないせいで、怖いという感情が駆け抜けた。動かない、動けない。

斧の刃先が僕の目の前に見えた。


「人間どの!!」


 ドゴオオオ。土煙が辺りを包んでいく。僕の体は地面にこすりつけるようにして転がった。かろうじてデュベルは手の中だったが、体が動くのを拒否していた。

凄まじい腕力と、斧が振り下ろされるスピードに成すすべなく倒れこんだ。

 僕は、どうなったのだろうか。


「カウオーズどの! いくらなんでも……相手は戦闘経験もない人間だに!」

「ブモモモ……魔界に軟弱はいらん! 我が従うは真の強者のみよ!」


 「我をひれ伏したくば我を屈服させよ」――。


 カウオーズの大声ですら、僕の耳には聞こえなかった。

 やがて土煙が晴れると、クロエが駆けつけてくる。


「人間どの! ごめんにゃ、魔族同士の争いに巻き込ん……にゃ?」

『なあにボサっとしてんだよ』


 デュベルの声は、不思議とハッキリ聞こえてきた。


『寝てんじゃねえ。このデカブツを黙らせるまでな』

「……っ! デュベル、僕は」


 やっと頭が正常に働いてきた。


「にー。デュベルどのが咄嗟に体を回避させたんだに。さすがデュベルどの!」


 緩やかに尻尾を振った。デュベルも『まあな』と自慢げに告げた。

 そうか、デュベルが僕を。支援するって言葉は、真実だったんだ。


『オレぁ主の体のサポートしかできねえ。剣だかんな』

「……ありがとう」

『本当に敵を斬りつけるのは、主の仕事だ。ほら、寝ている暇があったら』

「ブモオオ!!」


 話を裂くようにして、カウオーズの斧が僕の腹部を目掛けて振り下ろされた。

 ガキンッ!! なんとか起き上がり、デュベルの力を借りて斧を防ぐ。剣と斧の衝突に、火花が飛び散った。


「ブムム……人間の、くせに小癪なああ」

「うっ……くうっ!」


 ひょろひょろの腕での抵抗は、限界だった。

 痛い。腕が痺れる。逃げ出したい。戦闘って、こんなに……。


 ――情けないな。

 こんな自分が嫌いだ。デュベルも、リナさんも……クロエだって、励ましてくれているのに。

 こんなんじゃあエクスに言う資格なんてないし、魔剣の主としても失格だ。

 人魔戦争に生きていたら、きっといとも簡単に死んでしまうんだろう。

 僕は……。


「ふにゃああ! にぃッ!」

「ブモモ!!」


 ヒュッ、細い刀が空を切る。クロエが宙を舞い、素早い剣技でカウオーズの腕を切り裂いた。

 クロエの攻撃を受けたにもかかわらずやつの腕には傷一つ、ついていない。しかし瞬間、僕への攻撃が緩んだ。


「人間どの!」


 クロエの言葉に合わせ、地面を蹴り上げた。カウオーズがバランスを崩し、片足で支えている状態。チャンスは、今だ。

 デュベルを構え、やつの肩を目掛けて跳躍した。


「ぶ……もおお!!」


 しかし素人などに負けぬ、といったカウオーズの意地が、僕を吹き飛ばした。

 体を激しく打ちつけ、僕の体は転がってしまう。


「認めん。こんな剣もロクに振ったことがないやつに負けるわけない、ブモオオオ!!」


 転がされた体を庇うように、地面を転がって斧を回避する。

 メキッ、斧が地面にめり込んだ。力一杯に振り上げた斧は、黒き大地にヒビを入れる。

 刹那、やつの背後に回り込んでいたクロエの流れる剣戟が再び足を奪った。

 目には見えないスピードで振るわれた剣は、やつのふとももに細かい傷がついていることで幾重の攻撃が当たったのだと証明されていた。


「人間どの、今に!」


 クロエが巨体の背後から飛びのいた。クロエの掛け声に合わせ、再び僕は起き上がった。カウオーズの表情が、徐々に強張っていく。目じり、口元を歪め、巨体の態勢を戻そうとするが――。


 ――足が浮いて、倒れていく体は止まらない。


「はああっ!」


 デュベルの力を借り、地面を蹴り上げて宙へ飛びあがった。飛び跳ねた体はやつの背丈を超え、絶望する顔と目が合った。


「ブモフォォっ!」


 ――ズシャアッ!!

 制裁の一太刀がやつの肩を抉った。巨体が倒れるのと同時に地響きが辺りを揺らす。僕の手に握られたデュベルに鮮血が滴った。

 カウオーズは深い傷を負い、その場で倒れて動かない。

 もしかして、僕……。

 荒れた息を整えながら、僕は息を呑んだ。血の気が引いていく。殺してない、僕は、僕は!


『落ち着け』

「え……?」


 冷静なデュベルの声は、鳴り響く僕の心臓を整えた。


『脆い人間と一緒にするな。心臓や弱点さえ護れりゃ、やすやすは死なないさ』


 ズドン。巨体がゆっくりと起き上がり、僕の肩に手をやった。今に潰されそうな状態だったが、突然とカウオーズから笑みが零れた。


「ブモモモ……人間のくせにやりおる! クロエの支援があったとはいえ我、完敗なり!」

「あの、カウオーズ。肩……」

「ん? ああ、しばらくすれば直るぞ。なんたって、我は魔剣デュベルに頑丈だけが取り柄だとお墨付きをもらったのだ。褒められるのはいつの時代も嬉しきことよ!」


 「ブモモモモ」カウオーズは喜ばしいことのように口を開いた。

 皮肉だと気づいていないのかなあ……。

 確かに傷口を見ると既に止血しており、かさぶたが覆っていた。

 なんて治癒力なんだ。


「そういえば、我に用事か、魔王よ」

「カウオーズ! 人間どのは魔王じゃないに!」

「なぬ? 魔王じゃないのに、どうして魔剣を」

「そ、それは知らないけど。今の魔王の顔くらい把握するに、この筋肉バカ!」


 クロエが筋肉バカと罵っても「うむ、我の筋肉は凄いぞ!」怒るどころか、嬉々として語っていた。

 なんというか、お花畑だなあ。


「カウオーズ、頼みがあるんだ。魔王のもとに戻ってくれないかな」

「……どうしてだ?」


 なぜ戻らなければならないんだ、と本当に意味あわかっていない様子で太い首を傾げた。


『魔界を復興させるには、まずはお前らから魔王に協力してもらう必要があるんだよ』

「ぶむう、デュベルどのの頼みであればついていきたいが、今の魔王は強いのか?」

『強い弱いでいやあ、そりゃ……』

「魔剣も人間の手にあるようだし、デュベルを扱えない魔王を主と認めるわけにはいかないもー」


 やはり、こちらも魔王についていきたくない理由があるらしい。

 だから僕は首を振って、カウオーズに告げた。


「カウオーズ。魔剣を使える僕の命令ならどう?」

「ぶも……?」

「魔王ではないけど、デュベルのことなら聞くんでしょ?」

「うむ。我は強者に屈服したいからな。今もお主に屈服させられたぞ」


 「未熟ながらあっぱれ! これからも精進するもー!」耳が痛くなるほどの大声で笑い返すカウオーズ。だったら、と告げると、カウオーズは激しく頷いて魔王の配下にもどることを約束してくれた。


「ふみー、逃げ足、差し足、忍びー」

「クロエ、次はキミの番だよ」

「ふみい!」


 赤い布を口元で覆いながら逃げようとするクロエに、声を掛けた。

 まだ、クロエの口からは聞いてない。

 それをクロエに伝えると、もじもじとした様子でこちらを見る。


「むぎー、確かに人間どのはいいやつに。だからって魔王が更生するなんて」

「更生させる」

「に……?」


 僕はデュベルを握りしめ、天高く掲げた。

 黒雲が覆う、この魔界へと誓った。


「更生させるよ! この魔剣デュベルに誓って!」

「ふみー……」


 か細い声でしばらく考えたあと、クロエはこくんと頷いた。


「みい! デュベルどのに誓われたら、否定できないに! せっしゃも魔王の配下につくに!」

「本当……?」

「でも、約束するに!」


 約束……?

 僕が訊ねると、クロエはぶんぶんと頷いて返した。


「カウオーズどのの時もそうだけど、一人で背負わないでほしいに。怖いなら怖いって、逃げ出してもいいに。痛いなら痛いって休んでもいいに! その分、周りが頑張るに! 人間どのはもう一人じゃないに!」

「クロエ――うんっ! ありがとう!」

『これで一件落着、だな』


 こうして、配下を説得することに成功した。

 嬉しそうに笑う二人を見て、僕の心は熱くなった。

 もちろん、人間の敵にはなるつもりはないけど……。魔界の復興は手伝ってあげたい。

 心から、そう思えた一日だった。






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