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マ剣のあるじ様!  作者: 葉玖ルト
前章 同胞集め
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十三:明日への活路

「そう、なんだ……」


 僕は皆から、不在の時に起こった出来事を全て聞いた。

 そこで知った、人間たちの間で進められている不可解な行動。村長と、それに従う人間たち。王がなんらかの形で魔界に対して憎悪を抱いていること。

 ……僕が、疑われていること。


「嘘に! 嘘だと言ってくれにぃぃ!」


 腰元でわんわんと泣き叫ぶクロエに目を置いた。皆が不安がる気持ちもわかる。

 例えば僕だって、人間側にポッと出の魔族が紛れ込んできて……疑わないかと言えば、そうじゃない。

 そう、彼らにとって僕はポッと出の人間なんだ。なぜか魔剣を扱えて、なぜか魔界の空気に馴染める、謎が多い人間だ。

 僕だって僕自身のことをわかっていないのに。


「皆、聞いてくれ」


 僕はある決意を抱いて、皆に目を配った。それぞれの(いぶか)しむ目が心に穴をあける。心がズキズキと痛んで、今にきゅっと縮こまってしまいそうだ。

 だけどここで引いたら、なおさら逃げたと思われるだけだ。なら……。


「信じてくれなくてもいい。けど、僕は外とは関係ない。それは断言するよ」

『テメェら、見損なったぜ。こいつを疑うということは、オレをも――』


 言いかけたデュベルを腕の中でぎゅっときつく抱きしめ、言葉を遮った。

 今は僕に任せてほしいと心の中で唱える。その気持ちがデュベルにも伝わったようで、黙してくれた。


「でも。少しでも疑わしい行動をしてしまったのなら、僕は」


 しっかりと、頭を下げていく。僕の視界は黒い大地を映した。デュベルを抱いたまま、心のままに叫んだ。


「ごめんなさい」


 一言に、周りがざわつく。クロエがどんな表情をしているのかはわからないが、僕から身を退けて鼻をすすっているのがわかる。


「僕は、皆の力になりたいんだ。人間は傷つけたくないけど、皆のことも傷つけたくない。あと少しだけ行動を見守っていてください。それで判断してください。信じて、ください――」


 これが僕の、精一杯の気持ちだった。「もう少し、ここにいさせてください。お願いします」必死の懇願だった。

 見苦しいまでの行動だった。けど僕は後悔なんてしていない。

 だって、彼らにとって僕は異質だから。


 ――パチパチ。

 手を叩く音が、わずかに聞こえる。僕は下げていた頭をゆっくりと上げる。

 パチパチ。手を叩いていたのは、近くにいたジェミ、そしてさっきまで泣きじゃくっていたクロエだった。


「主様。ぼくは何があっても主様の味方ですから」

「にい! せっしゃもだに! ずびび……誰が疑うものかー!」


 二人の声に奮起させられたのか、その場にいた全員が頷いた。先ほどまでの陰りに、太陽が差し込んだ。

 明るくなっていく空気を、僕は熱くなる目頭を堪えながら満面の笑みを浮かべた。

 伝わって、よかった。


「ほら、だから言いましたやん。ぼくは最初からわかってたんよ。誰や、主様を疑ういい始めたやつはー」

「ふふっ。本当に、ステルス様は調子がいいんですから」


 ステルスが笑い、リナさんも上品に手を口元に当てて柔らかい表情を見せた。

 皆が、僕を信頼してくれた証だった。

 心の奥が震えて、僕は改めてお辞儀した。


「けどぉ、問題はこれからよねえ? 人間の異常な復興スピードと異常な繁殖力には驚くわあーきゃふふふ」

「あらー、いじょーはんって、なにー?」

「エミーはまだ知らなくていいのよーきゃふふふ」


 いつのまに仲良くなったのだろうか? エミーがアラクネの背中に乗って背中をペシペシ叩いている。ちょっと前までは、あんなに怖がっていたのに。


「ぶももも、どこかのやる気がない王のせいで、我々も少し前まではやる気がでなかったのではないかもー!」


 カウオーズがちらりとエクスを見る。どこかの誰かさんが、と言いたげだ。


「その誰かって誰だよ! フィルのせいか?」


 こういう時だけ責任転嫁できるエクスがうらやましい。って、僕は王魔王じゃないし!

 何はともあれ、いつもの魔界に戻ってくれたのは嬉しいのだけど……。それぞれが一斉に喋りだしたせいで収集がつかなくなっていた。

 一体、どうすれば……。人間に対抗する術を、僕も真剣に考える。


「せーしゅくう!!」

「そうそう、インの言う通りだよー。静粛にーっ」


 サキとインが、一斉に視線を集めた。

 足を組みながら浮遊するサキは、あどけなく笑う。

 一方のインも、谷間の間から全員に向けて放った。


「にんげん、たいさく。わな、はる! いちもうだじん! げいげき、する!」

「数で押されるなら、罠を逆張り? むしろ来てください、みたいな感じしかないでしょ! そのためにはリナとアラクネが必要かもー」


 どうやらサキは、ただ可愛く振舞っているだけではないらしい。

 皆が集中して聞き入れる中、サキは言葉を続ける。


「アラクネ、できるだけ細く。人間の視覚じゃあ見えないほど細い糸を、洞窟の入口を塞ぐくらい張り巡らせて?」

「はぁい、承知しましたーサキお嬢様っ! きゃふふー」

「リナ。アラクネの糸の前に業火が噴き出る陣を引いておいて。できるだけ薄く、大地と同化するくらいの薄さで描いて。あと、この広大な黒い大地にも! できる?」

「承知致しました、サキ様」


 テキパキと指示を与えるサキの顔つきは、あどけなさが残りつつも、一網打尽作戦を本気で考えていた。まるで軍師のように見えた。

 ハレンチな恰好を除いたら、カッコイイのに……。


「ステルス。万が一、抜けられた時のためにデーッカイ、岩石を用意しててね。人間をペシャンコにするから!」

「ちょ、ちょっと待ってや! なんか流れ的にぼくも協力する前提で進められているけど、偵察はあくまでもアラクネに脅されたから仕方なく……」


 「誰が誰を脅したですって?」

 鋭い目つきがステルスを捕らえると、ひええと情けない声を上げながら頭を抱えた。

 サキは細い指を顎に添え、うーんと零す。


「大丈夫だよ。もうここにはキミを批判する者はいないからー」

「……! 気づいとったんか」

「魔界の存続を揺るがすこの事態、手伝ってほしいなぁ」


 サキの言葉にしばらく黙り込んだ。

 その末に、ステルスは答えを絞り出す。


「……よっしゃ。ぼくの力でどれくらい役に立てるかはわからんけど、力にならせてもらいますわ」

「うん。ありがと!」


 次いでサキはクロエに視線を合わせた。


「クロエはリナがたあくさん張り巡らせた細かい罠を、速い足を活かして全力で回避! 誘発を狙って!」

「サキどの! まかせるにー!」


 サキの一言が皆を一つにまとめあげていく。

 もしかして、人魔戦争の時もこうして仕切っていたのだろうか?


「カウオーズは罠を運と実力で掻い潜った余りの人間を処理。強靭な肉体に、期待しちゃうからね!」

「ぶもー! サキに言われたらやる気が百倍に跳ね上がるもおお!」

「ジェミニは傷ついた仲間の治療に当たって!」


 双子が思い切り頷いた。


「そして大魔王のエクスくん!」


 ビシッ。エクスに指を差した瞬間、たわわな胸が揺れた。


「キミは使えないからお留守ばーん」

「ひどい!」

「デュベちゃんとフィルくんは、ボスの迎撃ね。ソンチョー? って人!」

「無視かよっ!」


 エクスを無視してこちらに振ってきた。

 村長さんの……迎撃? 言われた瞬間に、表情が強張った。仮にも良くしてくれた人を、僕は……僕の手で傷つけなければならないの?

 僕は、どうすればいいのだろう。


「皆、戦う気満々なのはいいことなんだけど。僕は……」

「あのねえ、フィルくん。それ、インが言ってたけどー、きれーごとって言うんだよ」


 ――綺麗事。

 サキの一言は、僕の胸を貫いた。

 確かにこのままでは、人間に襲撃を受けて、魔界が滅びるのも時間の問題だ。でも、僕はお世話になった村長さんと戦いたくない。

 避けられない、のかな。


「見てよ。皆のやる気に満ちた顔を」


 サキに言われた通り、皆に目を配らせた。

 互いに奮起しあい、全員が人間を迎撃するんだと気合を入れていた。

 熱いのが嫌いだと言っていたステルスだって目を輝かせているし、あんなに小さなジェミニだって声を張り上げる。

 いつも冷静におしとやかなリナさんもここぞとばかりに張り切って、クロエもアラクネも、力一杯にジャンプして見せた。


「ここまで輝いたことってー、ないんだあ。人魔戦争があってからみんな、仲間や友達を失って絶望していたからねー」

「……でも」

「じゃあ、もしもソンチョーが悪いやつだったら?」

「村長が悪いわけない!!」


 突拍子もない発言に思わず声を荒らげた。僕の村に生きた人たちを悪く言わないで。きっと王様が悪いんだ。人間を(そそのか)して……。

 言おうと思ったけれど、サキは僕の両肩に手を置いて、真剣な瞳を送った。


「うん。フィルくんが言う、フィルくんに優しいソンチョーなら、フィルくんがしたいようにしてもいいよ。フィルくんを傷つけようとはしない、優しいソンチョーなら」

「……サキ」

「その時は傷つける相手じゃないって、フィルくんが望むなら和解の方法も考えようね。デュベちゃんも、それでいいー?」


 サキの言葉に、デュベルも『好きにしろ』とだけ答えた。

 彼女は僕のことも含めて、考えてくれた。なのに、僕は自分勝手な言い分を通そうとしている。

 戦いたくない、戦いたくない、人間を傷つけないんだ。

 僕は……村長たちを傷つけることで、自分の胸を痛めたくないだけ、なのかな。

 もしも王の命令で仕方なく刃を振るっているのだとしたら、僕が悪者になるだろうから。

 僕は……僕が悪者になりたくない、だけ?

 頭の中がグチャグチャになっていく。サキがこんなに優しく接してくれているのに、僕はためらうことしかできない。

 もし村長さんが躊躇なく刃を向けてきたとしたら……その時、僕はどんな行動を取ればいいのだろう。どう対応するのが、正解なのだろう。

 どんな顔して、剣を抜けばいいのだろう。


「フィルくん」

「……っ」

「それとも、フィルくんもお留守番がいい?」

「それは」

「見たくない物は蓋をするのが一番だよ。心に負担が掛かっちゃうと、しんどいもの。本当に後悔せず、心が楽な方法を選べばいいの。あたしはそう思うなー」


 あどけない顔は変えず、けれど言葉は真剣そのものだった。サキは僕のことを考えてくれている。こんなところで、うじうじ悩んでいるのは僕だけだ。

 情けないな。そう自身を叱責する。

 ――僕は。


「……ます」

「フィルくん?」

「やって、みせます。こんな僕でも、皆の役に立てるのなら……僕だけが見ているだけなんて、そんなの嫌だから」

「えへへ。フィルくんなら決断してくれると思った。デュベちゃんの持ち主として、魔族の皆の気持ちを……壊してしまうことだけはやめてね?」

「うん。できるだけね」


 サキの言葉に促され、気づけば僕にも笑顔が宿っていた。

 さっきまでどんな表情をしていたのか思い出せないくらい、心が晴れやかな気分だ。


「サキは凄いね。人魔戦争の時も……こうして指示していたの?」

 

 そうサキに問う。

 なんだかそれだけ、慣れているように見えた。


「軍師でもしていたのかなって」

「違うよー。人魔戦争の指示はリナが担当して、状況判断から全体への命令は先代の魔王様が行ってたの! あたしが中心となって命令するのはこれが初めて!」


 見よう見真似だよ、サキの言葉に思わず感嘆の声が漏れた。

 初めてで、これだけテキパキと指示できるのは凄いことだから。


「うん、凄い才能だよ」


 僕の言葉に、サキも「えへへ」と嬉しそうに答えた。


 


「ぶー。留守番かよお」

『……まあ、なんだ。ボスが倒れると、それこそ魔界は壊滅する。戦えないボスは配下に任せて、素直に見守ってりゃいいんだよ。誰も坊ちゃんを責めはしないさ』

「……わかった」


 そんなエクスとデュベルの会話が聞こえてきた。

 僕は腕の中でエクスに語り掛けるデュベルに耳を向けながら、静かに息を吸い込んだ。

 ――今日の空気はちょっと澄んでいる気がした。

 



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