第3話 嵐の瞬間
「美香ちゃん、またあとでね。」
麻衣は睨むようにC組を見つめる美香に、いつもの微笑みを見せ、言った。
「さ。美月ちゃん行こう?」
麻衣に腕を引かれ、美香の様子が気になるも、時間も時間と思い、新クラスへと美月は向かった。
ざっと見る限り、平穏な1年を過ごせそうなメンバーであることに美月はほっとした。
座席も桜井と新堂という苗字から窓側2列目の1番後ろ前後の席に着くこととなった。
麻衣が教卓から、クラス名簿の紙と今日明日明後日3日間のスケジュールが書かれた用紙を持って座席に戻ってきた。
「はい、美月ちゃんの分」
「ありがとう。」
「ふーん。B組は編入生4人みたいだね。」
麻衣は取ってきた手元の名簿をざっと見てつぶやいた。
美月はもう1度クラスを見渡すも、半分少ししか顔がわからず
「そ?あたしは半分くらいしかわかんないや。」
と答えるしかなかった。
そして
「美月ちゃんは3年間だけど、麻衣は9年もいるんだもん。それに美月ちゃん、あまり人に関心ないもんね。」
と麻衣に言われると、グーの音もなかった。
「まあそうかな?」
美月は苦笑しながら麻衣に答えた。
「そうだよ。わかってるくせに。もー。」
麻衣は頬を膨らませ、怒っているようだったが、少しも怖くなかった。
なんせ、この子は可愛らしすぎるのだ。
可愛いと怒っても可愛いんだよな、とぼんやり考えていると
「美月ちゃん?」
麻衣が美月の腕を揺すり、視線を窓側少し上に向けた。
なんだろうと思い見やると、付属の制服ブレザーに身を包む、女の子と形容するに相応しい風貌の少年がじっとこちらを見つめていた。
「?」
その視線の意味がわからず、思わず麻衣を見やるも、麻衣にもわからないようで、首を傾げられた。
思わず美月も首を傾げそうになるのを堪え、少年にもう一度視線を向けた。
「・・・」
「あの?」
少年の無言の視線に耐えられず思わず声をかけると
「桜井 美月?」
とぶっきらぼうに声をかけられた。
その麻衣と同類な可愛らしい風貌に違い、見上げる高い身長、低い声、そして無表情ともいえる顔と視線の不躾さから、少年に呆気にとられながらも、ムっとして
「どちらさま?」
と声を低くして聞いた。
「美月だよな?」
次は名前の呼び捨てで呼ばれた。コレに益々苛立ちを感じるも、こちらの押さえた声と無表情に気づいているのかないのか。
「美月だよな?」
もう一度愛想のない顔と声で問いかけられ
「そうだけど?」
と苛立ちを抑え、渋々是と答えた。
すると、
少年はニヤっと笑い
「俺、岡本 悠希。久し振り。」
と宣った。
・・・・
ハッ・・
見覚えのない声、体つき
でも・・
記憶にあるあの強い眼、視線、表情
そして・・
忘れたつもりであった名前が告げられたのであった。
岡本 悠希 と。
そして
平穏な時は終焉を迎え、過去との決着を告げるときがやってきたのであった。