第1話 嵐の前の静けさ
「美月ぃ!!まだ用意できてないのぉ〜!?」
「・・美香、どうした?今日ってなんかあったっけ?」
「なに言ってるの!今日は入学式なんだから、新クラス早くチェックしないと!」
「あー・・あたしいいや。美香、先行ってて。」
「えーなんでよ。早く見たいでしょ?気になるでしょ?!」
「ならないならない・・」
「もう。美月ったら・・それでも今年16のピチピチした若者!?覇気がなさすぎる!そんなんじゃ、今年こそ美月と同じクラスになって、猫っかぶりの毎日見て・・」
「美香、今なんか言った?」
「えーだからー」
「ってか、ピチピチしたって・・・」
「若いじゃん。うちら。」
「おやじじゃないんだから・・」
「でもさ、新しい編入生にカッコイイ子いるかもしれないし?」
「・・美香・・あんた彼氏いるでしょうが。」
「それはそれ。」
「なにそれ・・」
「日常の目の潤いは必要だと思うのよね〜。」
「・・」ズズ・・
「とにかく、めぼしい子をいかに早く見つけるか・・は時間の勝負だからね!他の子になんて負けてられない!」
「・・・」ズズ・・
「だから美月!」
「・・・・」ズズ・・
「こら。さっきからお茶なんて飲んでないで話聞きなよ!」
「聞いてる聞いてる。」
「だからー」
「うんうん」
「もー・・美月?」ニコっ
「えっ・・・ナニ・・?」ビクっ
「この3年、いろいろあったよね〜。」ニコニコ
「えっと・・それは・・つまり・・?」ヒクヒク
「だから〜その、実は2.0のかなり目がいいのにメガネをかけてるとことか〜実は全然大人しくなくて、むしろ勝気で喧嘩っぱやいとことか〜」
「美香!わかった。行くよ。行くから、そんな愚痴愚痴言わないでよ・・」
「なにそれ。さり気なーく、寮長とか他のルームメイトからの魔の手に対して、愛の手を差し伸べてるのは誰だと思ってるのよ!」
「もちろん美香サマサマですとも・・」
「でしょ?」ウフ
「・・」
「ね?」
「そうですね・・・」
「じゃあーその湯呑はあとで片付ければいいから・・早く鞄持つ!」
「・・」はあ・・・
「なーに?美月ってば重い溜息吐いちゃって。幸せが逃げるわよ?」
「はは・・そうだね・・」
「さーいざ行くわよー!」
「・・|(戦にでるわけでもなし・・)・・うん・・」
「あー楽しみねー」
かくして、K大付属高校入学式当日の朝は、いつもどおりに迎えられた。
そう。美月のルームメイト、須藤 美香とともに。
先に待つ、騒動の渦の気配を感じることもなく。
時の迷路に投げ入れられる20分前のことであった。