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雄志編1話 勇吹君がいない


 勇吹陽翔と彼のクラスメートの一部はドギマという異世界の神によってアーカイスに召喚された。その際、現れた銀髪の女に『妖魔と戦ってもらうため』と説明されてアーカイスを生きるための『力』と『手引書』を貰う。




「これより、あなた方を別の場所に転移させます。詳しくは『手引書』を見てください」

 そう言いながら銀髪の女は幾何学模様が描かれた円を出現させた。

「……ご武運を祈ります」

 円が消えるのと同時に生徒達も消えた。

陽翔は森に飛ばされたが、他の生徒はカサフという町の近くに転移した。







「全員いる?」

 そう言ったのは陽翔の友人、雄志。イケメンだ。

 生徒全員が周りをキョロキョロ見て確認する。

「勇吹君がいない」

 眼鏡が似合う美人な女子生徒が陽翔がいないことに気づく。

「本当だ。おーい、勇吹! いるかー?」

 雄志が友の名を呼ぶが返事がない。




「ったく、どこにいるんだ?」

「どっかに行ったんじゃねーの。独りの方が気楽とか思ってるんだろ」

「茂手君、勇吹君はそんな人じゃないよ」

眼鏡をかけた女子生徒が、ガタイがいい生徒の推測を否定した。

「そうか? じゃあ、何でいないんだ?」

「それは……」

 陽翔以外の生徒は全員いるため陽翔は勝手に独りで行動した可能性が高い。女子生徒は陽翔を庇うことができなくなってしまった。

「待て。今はここにいない奴のことを考えても仕方ない。陽翔以外は……いるな」

 雄志は周囲を見回して、陽翔以外のクラスメートがいることを確認する。

「とりあえず手引書を確認しよう」

 生徒達は銀髪の女から貰った『手引書』を取り出した。

 手引書は一枚のカードだが、触れるとスクリーンが浮かび上がる。







 そこには、自分達は妖魔と戦うために召喚されたことや戦いが終われば元の世界に帰れることが書かれていた。

 それだけではなく魔法の使い方や魔物の生態、霊魔との戦い方、勇者として依頼を受ける方法、宿や飯屋の利用方法などアーカイスで生活するために必要なことが書いてある。




 さらに、手引書に『武器を出す』と書いてあったので触れてみると、ひとりひとり種類の異なる武器が目の前に現れた。手引書によると、この武器は壊れにくく、壊れても直るらしい。さらに、武器自体に魔力が備わっており、特殊な攻撃ができるようになっているらしい。

 雄志達は各々の相性やバランスを考慮してグループ分けを行い、4つのパーティを作った。








 雄志のパーティは茂手大知(もて だいち)桜木美春(さくらぎ みはる)青山椎菜(あおやま しいな)

 まずは男女別に宿の部屋を確保。1人用の部屋に2人まで泊まることができる。2人泊まっても料金は一人用と同じなので、宿代を抑えるために一人用の部屋を借りた。






「結局、勇吹はいなかったな。協調性のない奴だ」

 ベッドが一つだけある部屋にいるのは雄志と大知。大知はこの場にいない陽翔をたしなめる。

「青山さんも言ってたけど、アイツはそんな奴じゃない」

「じゃあ、なんでいないんだよ」

「あの人が陽翔の転移を失敗したとか?」

「あの青い空間にいた奴は勇吹を除いて全員揃ってたんだぞ? ありえるか?」

「あの人は、トッシュとかいう町に転移させたかったんじゃないか? 手引書にも目の前の町はトッシュですと書いてあるだろう。だが、ここはカサトだ。失敗したんだろう。だから、陽翔の転移を失敗するのは、ありないことではない」

「そうか……」

 大知は納得する。


「まぁ、いい。今はアイツのことより飯だ。腹減ってないか?」

「そういえば、まだ飯を食ってなかった。今から食いに行くか」

 陽翔が姿を見せない以上、議論をしても仕方ない。

 昼休みが始まった直後に召喚されたため雄志は昼食を食べていないことを思い出したので、食べることにした。









 ベッドが1つだけある部屋に椎菜と美春がいるが、2人とも暗い表情で沈黙が続いている。今後のことを考えて憂鬱になっている。


「部屋、狭いね」

 口を開いたのはショートヘアの少女、桜木美春。

「うん……」

「ベッドも狭いね」

「うん……」

 眼鏡をかけた女子生徒、青山椎菜は上の空だ。

「ゲームできないね」

「うん……」

 椎菜はゲーマーだ。好きなジャンルはRPGとアクション。しかし異世界では大好きなゲームができない。

「ここにいるのは私じゃなくて勇吹君のほうがよかった?」

「うん……ハッ!」

 うん、と答えた椎菜を美春がニヤニヤと見ている。

「今のは違うから。流れで言っちゃっただけだから。ていうか、こんな時にからかわないでよ」

「ンフフフ、ごめーん。でも、こうでもしないと、おかしくなりそうなんだよー。椎菜は平気なの?」

「平気に見える?」

「見えない」

 即答する美春。

分かっているなら聞くなと言いたげな椎菜。

「私だって他のことを考えてないと恐怖で押し潰されそうだよ……」

「他のことって勇吹君のこととか?」

 再びからかわれた椎菜は美春を睨む。

「ははは、ごめーん」

 美春は軽い口調で謝る。反省していないようだ。



「それはそれとして……魔法が使える世界ってゲームやアニメの中だけと思ってたけど本当にあるんだねぇ」

「うん……。ちょっとだけ感動しちゃった」

 生徒達は町に入る前に試しに魔法を使ってみた。

 椎菜はゲームの登場人物が使っていたような魔法が実際に使えたので少し感動している。彼女は肘を伸ばし、手の甲を自分に向ける動作をした。すると、目の前に小さい石が落ちて、その後スーッと消えた。椎菜は再び、魔法で石を出す。

「フフ」

 少し笑顔になる椎菜。ゲームの登場人物が使ってたような魔法が実際に使えたので少し嬉しいのだろう。

再度、小石を出した時、彼女のお腹が何度もなった。

「あ……」

「私もお腹すいちゃった。何か食べようか」

 美春がそう言った時、誰かがドアをノックした。

「俺だ。雄志だ。腹減ってないか? 飯を食いにいこうぜ」

「いくー」

 4人は飲食店に行った。









 飲食店に言った雄志達。4人はそれぞれ別の料理を注文した。しばらくして料理が運ばれてきた。



「うっ、おいしくない」

「見た目は美味しそうなのに……。この料理だけかな?」

 飲食店で出された料理を食べた4人。大知と美春は出された料理を美味しくなさそうに食べた。

「この料理が美味しくないわけではないと思うけど……」

「異世界の料理だから仕方ないか」

 椎菜と雄志も料理をおいしくなさそうに食べている。日本の料理ではなく異世界の料理なので口に合わないのだろう。

 しかし、食べなければ生きていけない。4人は我慢して料理を食べた。





「ねぇ、これからどうする? やっぱり勇者をやるしかないのかな?」

 美春が3人に質問する。

「そうだな」

そう言って雄志は徐に勇者証を取り出した。

「この世界で暮らすにも金が必要だ。とりあえず勇者をやって金を稼ごう。今の俺達は力だけなら勇者階級20程度らしい」

「やっぱり、そうするしかないかな? 妖魔のことは後回しにするとして、日本に帰らないといけないから」

 そう提案した雄志と美春に大知が口を開く。

「勇者って町の外での仕事が多いらしいが、魔物がいるぞ?」

「殺されたらどうしよう」

 椎菜は怖気ついている。



「そうならないために戦い方を学んで力をつける。この世界は異世界の存在が認知されてないらしい。妖魔と戦わずに日本に帰る方法を見つけるとしてもアーカイスの町を巡る必要があると思う。町から町には魔物がいるから、どのみち戦いは避けられないんじゃないか?」

 雄志達が最初にいた場所は天界。そして今いる場所はアーカイスと呼ばれる世界。天界はアーカイスにあるが、アーカイスの人は天界や異世界の存在を知らない。そして天界に行く手段もなければ、地上から日本に行く手段もない。妖魔との戦いが終われば元の世界に帰す。手引書には、そう書いてあった。




 日本に帰るという目的がある以上、アーカイスで一生暮らすというわけにはいかない。

 手引書には召喚時の時間に帰れると書いてあったが、体は成長する。時間が経てば経つほど帰りづらくなるので、なるべく早く日本に帰りたいはずだ。



「そうだが……いきなり依頼を受けるのか?」

「そんなわけないだろ。今日は武器と魔法の使い方を確認しよう。どうだ?」

「そうね、そうしよう」

 美春が同意する。




「はぁ~、やっぱりそうするしかないのか」

「このままアーカイスで暮らすという選択肢もあるが?」

 雄志は大知に提案する。

「嫌に決まってるだろ。日本に帰る」

 大知は雄志の提案を即座に否定した。



「椎菜はどうする?」

「怖いけど私も勇者をやるよ。戦いを終わらせて日本に帰りたい」

 妖魔との戦いが終われば日本に帰れる。妖魔がどれほどの強さか分からないが、戦いを終わらせる以外に日本に帰る方法がないかもしれない。


「決まりね。じゃあ、訓練所って所に行きましょう」



 料理を食べ終わった雄志達は訓練所に行った。











 雄志達は訓練所で武器や使える魔法を確認した。

 銀髪の女に魔法を使えるようにしてもらったが、全ての属性の魔法は使えなかった。

 雄志の武器は剣、使える魔法は地、火、風、光、闇。

大知の武器はハンマー、魔法は水、火、風、光。

美春の武器は魔力を使う弓、魔法は火、氷、電、光。

椎菜は先がひし形になっている槍、魔法は地、水、電、光。

光属性は傷を癒したり一時的に身体能力をあげたりする魔法、闇属性は身体能力を下げる魔法などが使えた。また、火や氷、電の魔法は武器に属性を付加することができた。



「なんで国広だけ5つも魔法が使えるの? ずるーい」

 美春が使える魔法は4つ。彼女は5つも魔法が使える雄志を羨んだ。

「知るか。一つくらい多くてもいいだろ」

「う~、まぁいいや。その分、働いてね」

「……お前も働けよ」

「分かってるよ」

 そんなやり取りをした雄志と美春。

 大知はハンマーで素振りをしているが、椎菜は何か考え事をしているのか上の空だ。




「青山さん、どうしたの?」

 雄志が椎菜に話しかける。

「勇吹君大丈夫かな? あの女の人から手引書を貰えなかったってことは丸腰だよね。魔法を使えないみたいだし魔物に襲われたら……」

 椎菜が陽翔のことを心配する。

 雄志達は銀髪の女から魔力―魔法が使える力―と手引書を貰った。しかし陽翔は魔力も手引書も貰えなかったので、椎菜は陽翔のことを心配している。




「陽翔は前にも異世界に召喚されたらしいじゃん。魔法を使えるって言ってなかったか?」

 雄志が答える。

「それ、本当なのかな?」

 力を貰えなかった陽翔が強がっただけかもしれない。椎菜は、そう思っている。



「アイツ、3日くらい前から急に老けたというか雰囲気が変わっただろ」

「あ……」

 陽翔は異世界で3年分の歳月を過ごした。当然、体も3年分成長している。しかし、陽翔が帰還した時、地球では3時間しか経っていなかった。

 そんな陽翔はいつも通り登校してきた。雄志や椎菜からすれば、未来から陽翔が来たような感覚にとらわれる。

 事実、雄志や椎菜達は陽翔の変わり様に驚いた。



「確かにちょっと老けて雰囲気が変わったよね」

「あの時、アイツは何も言わなかったけど異世界で何年か過ごしたんじゃないか? だとしたら武器や魔法を使えるのも本当だろう」

「そうかもね。そう考えるとちょっと安心かな」

「アイツがいれば俺らのことを守ってくれただろうな」

「そうだね」

 異世界から帰ってきた。自分達が実際に異世界に召喚されるまではそんなことを言われても信じなかっただろう。だが、今なら信じる。

 しかし、異世界に召喚されたことがあるといっても安心はできない。椎菜と雄志は、陽翔の無事を祈った。




「よし! 魔法の使い方は大体、分かったし明日は勇者として依頼を受けてみよう」

「うん」

 勇者として依頼を受けるのは明日。今日は宿で体を休めることにした。









「勇吹君、どこにいるのかな……」

 夜、ベッドに横たわっている美春が口を開く。

「トッシュっていう町にいるか、向かってると思う」

「何でそう思うの?」

「あの女の人は転移を失敗したと思う」

 椎菜は推測する。

「根拠は?」

「手引書に、目の前の町はトッシュですって書いてあるでしょ? 勇者証の発行場所もトッシュになってる。あの女の人は私達をそこに転移させたかったんじゃないかな? でも、失敗してこの町に転移させちゃった。だから、勇吹君の転移を失敗したっていうのもありえる」

「なるほど……」

 美春は納得する。




「じゃあ、トッシュに行ってみる?」

「行きたい。勇吹君のことだから勇者証の発行場所を見てトッシュに留まるか来てくれるよ」

「それなら、まずは力をつけないとね。トッシュに行く途中で魔物に殺されるのは嫌よ」

「うん。トッシュに行くのは魔物との戦いに慣れてからだね」

 トッシュに行く途中で魔物に殺されたら目も当てられない。魔物との戦闘経験を積んでからトッシュに行くことにした。



「あー、早く日本に帰りたいなぁ。老けた女子高生なんて嫌だ」

「ハハ……そうだね」

 椎菜も同意する。



「はぁ~。朝、起きたら夢でしたってことはないかな」

 そう願いつつ2人は寝た。


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