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8話 ルーちゃんと呼んでください


 陽翔はルテラと名乗る女に出会った。彼女はクラスメートに『力』や『手引書』を与えた人物だ。ルテラは陽翔に地球に帰ることはできないと伝えた。

そのことを受け止めることができない陽翔。今後のことはクラスメートに会ってから考えることにした。





「昨日、妖魔に襲われたがそいつは地球や日本のことを知ってるみたいだった。日本から来たと言った奴らに襲われたらしい」

「あなたのクラスメートか或いは妖魔を倒しに行った召喚者から聞き出したのでしょう」

「誰から聞き出したか分かるか?」

 天界はアーカイスの様子が分かるらしい。陽翔は誰から日本や地球のことを聞いたか知りたかった。

「妖魔が住む大陸は天界から観測できないので分かりません」

「そうか……」

 妖魔が地球や日本のことを誰から聞いたのか知ることができなかった。しかし、日本から召喚された人が妖魔と戦ったことは事実だろう。陽翔はその人達が無事に逃げられた可能性を諦めている。

「その妖魔が生きていたということはおそらく……。生きているとしても、いい待遇を受けていないでしょうね」

「そうだろうな……」

 召喚された人達が生きているとしても今の陽翔は敵陣に突っ込むつもりはない。

 今は雄志達に会うことを優先にしている。




「そろそろ、あの子と合流しましょう。……そうそう、あの子とはどういう関係ですか?」

「あいつは幽霊だ。この世界のことを聞けるから契約した。お前に手引書を貰えなかったからな」

「そうですか。早く依頼仲介所に行きましょう。あの子が待っています」

 ルテラは手引書の件を無視した。

 今さら追及する気もないので陽翔は何も言わなかった。



「そうそう」

「まだ何かあるのかよ」

「レグニ族は名字を持たないのでアーカイスではテンジェルという名字を使っていますが、あの子の前ではルーちゃん、と呼んでください」

「……早く行くぞ」








 陽翔は依頼仲介所にいるレイカと合流した。

「待たせたな」

「話は終わったんだね。少しは自分のことを思い出せた?」

「いや……」

 そう言って陽翔は首を横に振った。

「でも、こい……ルテラのことは少し思い出せた」

 陽翔はルテラのことを「こいつ」と言おうとして言い直した。

「ルーちゃんと呼んでくださいと言ったじゃないですか」

「……イレースト、この人はルテラ・テンジェル。俺の友達だ」

「ルテラ・テンジェルです。ハル君から聞きました。あなた、幽霊だそうですね」

「はい」

「私は勇者をやっています。ハル君と一緒に行動することになったので、よろしくお願いしますね」

 ルテラはにっこり笑って自己紹介をした。

「レイカ・イレーストです」

 そう言いながらレイカは頭を下げた。





「自己紹介も済んだことですし……依頼を受けましょう」

 陽翔達は掲示板を見に行った。






「何にしましょうか……」

 ルテラは勇者階級1~3向けの依頼を見ている。

「テンジェルさん、もしかして勇者を始めたばかりですか?」

「そうですよ。魔物と戦うのは怖いですが、ハル君が守ってくれるので大丈夫です」

 そう言いながらルテラは両手で陽翔の腕を掴んだ。

 うぜぇと心の中で思う陽翔。しかし、レイカの前で感情を顔に出すわけにはいかない。

「安心しろ。俺が守ってやる」

 陽翔はぎこちない笑顔で言った。



「頼もしいですね! では私はワヨブリン退治にします。ハル君は何にしますか?」

「俺はマクベアとミドブリンとボスネーク、後はドリザーン退治にするよ」

 マクベアは熊に似た魔物。ボスネークは蛇に似た魔物。

 陽翔達は掲示板に張られた紙を取って受付で手続きをした。




「そういえばテンジェルさんは武器を持ってるんですか? 今は持ってないみていですけど……」

「持っていますよ」

 そう言ってルテラは杖を出現させた。先端に楕円体の青い物体がついており、反対の端は鋭く尖っている。

「へぇ~、イサブキと同じように武器を出すんですね。どうやったらそんな魔法が使えるんですか?」

「魔法ではありません。これはハル君が古代遺跡で手に入れた武器です」

 ルテラは平然と嘘をついた。

「古代遺跡……?」

「あなたも知っているでしょう? 古代遺跡には遺物が眠っているという噂を」

「はい」

「そこで手に入れたみたいです」

「噂は本当だったんだ。じゃあ、イサブキも古代遺跡で手に入れたんですかねぇ」

「そうみたいですよ。昔、本人が言っていました」

 ルテラのおかげで陽翔の聖剣と盾については誤魔化すことができた。

「この武器、武器自体に魔力があるようで、しかも全属性の魔法が使えるので便利ですよ」

「へぇ~」

 レイカは物欲しそうに杖を見た。








 陽翔達はワヨブリン達がいる森に行くため平原を歩いている。

「イサブキって何をやってたんですか?」

 道中、レイカは陽翔の過去についてルテラに聞いてみた。

「ユーオイケンで兵士をやっていました」

「やっぱり兵士だったんですね。でも、なんで兵士を辞めて勇者を始めたんでしょうか?」

 アーカイスの兵士は副業が禁止されている。他の仕事に就くときは兵士を辞める必要がある。

「ハル君、実力はあったのですが協調性がなくて周りの兵士と上手くやっていけなかったみたいです。それが原因なのか分かりませんが、1年前にやめちゃいました」

「へぇ~」

 ルテラの嘘をレイカは信じてしまった。




「その後、私に何も言わずにどこかへ行ってしまったので詳しいことは分かりませんが、兵士の経験を生かして勇者を始めたのでしょう」

「でも、イサブキが勇者の登録をしたのって最近なんですよね」

「そうなんですか!」

 ルテラはわざと驚いた。

「まぁ、ハル君はぐーたらなところがありますからね。貯金が尽きそうになったので働くことにしたのでしょう」

「へぇ~、イサブキって意外といい加減な人だったんですね」

「この女……」

 陽翔は突っ込みたいのを我慢した。




「ねぇ、イサブキ。ユーオイケンに行けばイサブキのことを知ってる人がいるんじゃない?」

「うっ」

 ユーオイケンという町に陽翔のことを知っている人物がいるはずがない。どう言い訳しようか考えている最中、ルテラが口を挟む。

「当分、あの町には戻れません」

「何でですか?」




「恥ずかしながら私は引きこもりというか……親のお金で生活をしていました。ですが、仕事を見つけて安定するまで帰ってくるなと言われて家を追い出されてしまったんです」

 またしてもルテラは何食わぬ顔で嘘をついた。

「その話とイサブキが関係があるんですか?」

「まぁまぁ、話は最後まで聞いてください」

 そう言ってルテラは嘘の過去話を語り始めた。




「家を追い出された後はトッシュに行きましたが、条件に合う仕事がなかなか見つかりませんでした」

「次から次によく出るなぁ」

 レイカに聞こえないように呟いた陽翔。次から次に嘘が出てくるルテラに関心した。

「へぇ……」

 相槌を打つレイカ。その顔はどことなく困惑している。

 何か言いたそうだが言えないのだろう。




「ようやく就職できても長く続かず、これまで3回もクビになりました。」

「3回も!? あ、すみません……」

 レイカは口に手を当てて驚いた。

「気にしないでください」

 そう言ってルテラは話を続けた。

 



「心が折れた私は仕方なく勇者登録をしました。稼ぎが少なくても一応、働いていることになるでしょう?」

「そ、そうですね……」

 レイカはぎこちない笑顔を作った。




「勇者としてやっていけるか不安でしたが、ハル君に戦い方を教えてもらって一人前の勇者になります。それまではユーオイケンに帰れません」

「そういうことですか……」

 ルテラの嘘の言い訳をレイカは納得してしまった。









「ボスネークは気配を消して近づいてきます。上から襲ってくることがあるので気をつけてください」

 森に着いた陽翔はルテラに忠告された。

「引きこもりだったのに魔物のことを知ってるんですね」

「ハル君と一緒に町の外に出たことがありますからね。その時に魔物のことを教えてもらったんです」

「へぇー」

 そう言いながらレイカは武器を構えた。陽翔も武器を構える。後ろに魔物がいるからだ。

 蛇に似た魔物だが手が生えており、剣を持っている。体長は170センチメートル程だ。




「ひぃ!」 

 気配を消すのが得意らしいボスネークはルテラに向かったが陽翔に倒された。

 しかし、大きい蜘蛛が近づいてきた。




「いやぁぁぁ、クモォォォ!」

「クモウドだね」

「ただのデカいクモじゃねーか」

 クモウドは人間のひざ下くらいの大きさだ。陽翔も何度か倒したことがあるが、クモウドは素手で倒せるくらい弱い。


「人間を襲いますけどワヨブリンより弱いので大丈夫ですよ

「む、虫は苦手です。ハル君、倒してください」

 ルテラは陽翔の後ろに隠れた。

「……これも経験だ。勇者をやるなら倒せ」

「嫌です」

「倒せ」

「うう……」

 ルテラは陽翔の後ろに隠れたまま杖から黄色に輝くビームを出してクモウドを倒した。



「昔は守ってくれたのに……」

「昔は昔だ。勇者をやるなら甘えるな」

「確かにそうだけど、魔物との戦闘経験は少ないみたいだから無理させちゃだめだよ」

「分かってるよ。俺がしっかりと守る」

 レイカが知らないことを知っていそうなので陽翔はルテラに死なれては困る。

陽翔はルテラを守ろうと思った。






 その後、ルテラは魔法を使わず杖でワヨブリンを撲殺したり刺し殺したりした。ミドブリンは倒せなかったが、

ワヨブリンなら2体まで同時に戦うことができた。




「ルテラ、魔法を使わないのか?」

 地球ならともかくアーカイスでは魔法を使える。ルテラもクモウドを倒した時に魔法を使った。

 武器と魔法を組み合わせた戦い方もできるが、ルテラはワヨブリンを倒すときに魔法を使っていない。

 陽翔は何となく聞いてみた。



「魔力量が少ないので、なるべく使わないようにしているんです」

 魔力とは魔法を使うのに必要なエネルギーのこと。

「マジかよ」

 ルテラは天界に住むレグニ族だ。レグニ族はアーカイスにいる人間よりも身体能力や魔力が高いらしいが、アーカイスに行くと魔力や身体能力が落ちるらしい。

 それが本当ならルテラも天界にいた頃より弱くなっているだろう。

 どのくらい能力が下がっているか分からないが、陽翔は事情を察した。



「心配しなくても魔力量は鍛えれば増えますし、ワヨブリン程度なら魔法を使わなくても倒せるので問題ありません」

「そうか……」

 鍛えれば魔力量は増えるらしいので陽翔は少し安心した。

「さぁ、一通り依頼が片付いたので一度、トッシュに戻りましょう。日没まで時間があります。どんどん依頼を受けましょう」

陽翔達は日が沈むまで活動した。










 夕食を終えて一息ついた夜、ルテラは一人、宿の部屋にいる。青い石を取り出すと、その石から声が出た。


「ようやく、あの男と接触できたようだな」

「はい」

「装置の不具合でお前がトッシュに転移した時はどうなるかと思ったが、無事に会えてよかった。余計なことは言っていないだろうな?」

「言っていません。妖魔を倒さなくても日本に帰る方法があると言ったら食いついてきました」

「そうかそうか、それはよかった。明日から例の場所に案内しろ」

「そうしたいところですが、彼はトッシュでクラスメートを待つと言っていました」

「なんだと? ……仕方ない。クラスメートに会うまでは奴の好きにさせろ」

「分かりました」


少しだけ路線を変更しました。

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