第三話
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家に帰ると、百合さんがニヤニヤとした顔で、出迎えた。多分、百合さんが利亜を迎えに行かせたのだろう。色恋沙汰に発展するのを期待している表情の百合さんを無視して、僕は早速、シャワーを浴びに向かう。
換えの制服が無い中の大惨事に、一際大きな溜め息がもれる。
蛇口を捻ると、シャワーから溢れ出る蒸気と共に、僕の過去が精算されて行くような気がした。
けれど、現実は甘くはなく、屍は足を引っ張りながら僕を見つめている。
「へぇ、百合さんって、綺麗、なんですね」
「うふ。ありがとう」
僕が浴室を出ると、一枚の写真をリビングで見つめている二人が見えた。
多分、百合さんがキャバクラに昔、務めてた頃の写真だろう。常に一番人気だったらしく、いつも自慢していた。
「双子、なんですか? 似てる……」
「そうよ……まぁ、深く考えないでよ。これからは、楽しい事ばかりが待っているんだから」
利亜が尋ねると、百合さんは苦笑いしながら答える。
百合さんが、双子の姉と仲が悪かった事を思い出す。僕は二人の間に割って入る。
「百合さん。過去の自慢はいいけど、夕飯は?」
「あっ、忘れてたぁ」
「やっぱり」
僕がヤレヤレとテーブルに手をついた先には、写真があった。
不機嫌な顔をした瓜二つの美女が、ドレスに身を包み並んでいる、奇妙な写真。
何で、わざわざ来て早々、利亜に見せたんだ?
僕まで写真と一緒に不機嫌な顔になる。
「難しい事は、考えない事、ですよ?」
顔を急に利亜に覗きこまれる。一瞬、息が止まる。
「あ……あぁ」
覗きこんだ利亜の顔に恐怖を感じたからだ。
可愛い笑顔の奥に潜む何かがある。僕は警戒心を強めるが、甘えたような表情を見て、それはすぐに消える。
「前は、どこに住んでたん?」
「あ、病院、かな……」
僕が質問すると、利亜はたどたどしく答える。
「病気だったんだ。大変だったろ」
「う、うん。でも、そんなにツラく、はないよ」
ガラスのようにすぐ壊れてしまいそうな、笑顔と共に返される。
「出来た。ご飯だよ」
後ろの方から、楽しそうな百合さんの声が聞こえた。
「まず……」
「美味しいです」
賛否両論。焦って作ったのか、百合さんの料理は不味かった。なのに、利亜は誉める。社交辞令という事か? 僕が利亜の言葉に喜ぶ百合さんを鼻で笑うと、すぐに睨み返される。
ピンポーン
玄関から、チャイムの音がする。
「あら、どなたかしら」
百合さんが玄関へ向かうと、急に利亜は顔を青くして震え始めた。
「えっ、風邪? 大丈夫?」
「うん、大丈夫」
そう返した利亜は、全然大丈夫じゃない表情だ。
「くっはっ」
「え」
急に苦しそうに、胸を抑える利亜。僕は目の前で起こる事を理解できずに立ち尽くした。
遠くから聞こえるのは、百合さんの声と、しわがれた声。何と言っているのだろう。叫びあっている。
我に戻り、利亜に必死に声をかける。このまま眠ってしまったら、二度と帰って来ないような気がしたからだ。
「利亜っ!? どうした」
「……グ」
「大丈夫か?」
「……グロバ……」
「おいっ」
目覚めた利亜は急に愛しそうな顔で見つめてきて、僕に抱きついた。
「寝ぼけてるのか?」
「……あ……ごめんなさい。間違えました」
利亜は困った表情になった。僕は思わず、溜め息をもらす。病院に入院してたから、発作かと心配したけど、何もなくて良かった。
冷静になって、改めてて玄関先の声に耳を傾けると、今度ははっきりと聞こえた。
「人殺し! わたしの息子を返せぇっ!」
非日常的な言葉に、僕は耳を疑う。その言葉と共に、利亜は再び震える。僕は、利亜が自分と同じように屍に足をつかまれている事に気がつく。
震える肩。
今度は僕が利亜を抱きしめる。強く。悲しいけど、これが現実で、変えがたい事実だ。