第二話
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学校の帰り道。晴れ晴れとした空から、急に雨が降りだした。涙を隠すように……
ふと、空を見る。僕と同じような気持ちなのか? 黒鳥は雨に打たれながら空を飛び続ける。全身に釘を打たれたような痛みを感じながらも、誇り高き彼は飛び続ける。
(そんなに飛び続けて何になるんだい?)
彼に問いをかける。勿論、返事はない。
彼が見えなくなるくらいまで、遠くに消えるのを確認して、僕は家に帰る。
父親が死んでから義母の百合さんが、僕の面倒を見てくれている。
仕事、家事を両立。血が繋がらなくても、深い愛情をくれる。僕にとっては、聖母マリアよりも有難い存在だ。
びしょびしょになった僕は、申し訳なさそうにドアノブを回す。
「きゃやぁあ。破黒くんっ! 」
出迎えたのは、百合さんの悲鳴。急いで僕にタオルを持ってきて拭いてくれる百合さん。
「風邪ひいちゃうわよ」
「大丈夫だよ。これくらい、子供じゃないんだから」
僕が冷たくしても百合さんは、いつも優しく笑顔で接してくれる。
百合さんは、若くて綺麗で、どちらかと言うと母親より、お姉さんと言った感じだ。だから、『お母さん』と、呼ぶのには抵抗がある。
お風呂で濡れた体を暖め、百合さんの作った夕飯を食べに席に着く。
「破黒くん、利亜ちゃんの事、覚えてる?」
「は……誰それ?」
「なら良かった。私の姉の子なんだけど、身寄りがなくて、一緒に暮らしたいんだけど……大丈夫?」
不安そうな目で僕を見る百合さん。NOが言えるはずもない僕は微笑んでみせる。
いつの日か、輝きを失った学校という名の檻。ショーに飽きた監督に何をしろと言うのか?
「バカな事したなぁ、お前も」
僕が机に顔を引っ付けてうなだれていると、中学校以来の友人(聡)が声をかけてくる。
「バカな事?」
僕が不機嫌そうに顔を歪める。周りのクラスメイト達が凍りついた表情で、聡を見つめる。中学校の頃に色々やっていた為、僕の機嫌を損ねまいとクラスメイト達は日々、奮闘していた。なのに、聡は一瞬にして、その努力を崩壊させた。
「だってぇ、あんな可愛い娘を逃がすなんてぇ」
「別に」
聡は毎回、毎回、イライラする事を言う。天然なのか、彼は全くイライラさせている事に気付いてない。
「俺、前から狙ってたんだよねぇ」
「あっそ、勝手にすれば」
『狙ってる』の聡の言葉に、僕は彼女を諦めるより他なかった。聡はチャラ男だが、ジャニーズ系の顔立ちで、かなりモテる。口説きも上手いから、男に免疫のない彼女なら、すぐ落ちてしまうに決まってる。
僕が暗そうな顔でいると、頭を撫でられる。
聡の手だ。
「冗談だよ。意地張ってないで、寄りもどしな」
聡は微笑む。
僕は不機嫌そうに顔を歪めるしかなかった。
実を言うと、かなり安心したのだが。
毎度、毎度のつまらない授業を終えて、いつものように帰り道を歩いていると、夕立が降りそぞぐ。傘なんて、勿論無い。
(走るか)
僕は土手の上を走る。走る。息が上がり、苦しくなる。最近、あまり運動もしてないせいか、身体中がきしむ。
「ぐわっ」
足が絡まり、ぼくは見事に水溜まりの中にこける。文章なんて出来ないくらいに悲惨な状態になる。下着までびしょびしょ。
『防水効果があるんですよ』
制服を買いに行った時の店員さんの言葉を思い出す。
(防水効果ねぇ……)
僕は水溜まりの中で苦笑する。
「――でさぁっ」
「へぇ」
嫌な声が後方から聞こえてくる。
「あっれぇ? コイツ、一年の元カレ?」
「えっ」
「だせぇ――」
「そっそうね、早く行こう」
何かが横切る。
僕はソレが何かを分析する機能を停止させた。
小一時間ほど機能全般が停止してしまったのか、動けなかった。僕はやっとのことで膝を立てる。目の前に、優しく笑ってくれる誰かなんて居ない。
「大丈夫? 破黒くんだよね」
「へ」
僕が失望していると、左の手前に傘を差して立っている少女が、こわばった顔で話しかけてきた。『破黒くん』なんて言われたけれど、僕は彼女に全く覚えは無い。
「一緒に帰ろう」
「わ……悪いんだけど、俺、君に覚えないんだ」
少女は僕の言葉を聞いて、安心したかのように微笑む。
「私、甘闇 利亜破黒くんの家で暫くお世話になる事になりました」
利亜は、そう言って一礼。笑顔で続ける。
「宜しくお願いします」
肩まで伸ばした柔らかそうな髪、大きな瞳、小柄な身体、ちょっと高めの可愛いらしい声。まるで、天使のようだ。バカみたいな事を、僕は本気で思った。