Lesson 5 流し目美女に贈る行進曲 後日談
コスメティック・パワーを使い果たして、眠たいながら私は一生懸命授業を受けていた。
『やばいわ。授業の内容がまったく分からない……。たぶん私、初等部からやり直さなければダメな子なんじゃない?』
私は先生の話を聞き、そして黒板に書かれることを理解しようと頑張るが、まったく訳が分からない。
「見てくださいな。これは、サンダーランドに生息する虎の毛皮で作られた鞄ですわ。おほほほほ」と貴族女子達は授業中にも関わらずおしゃべりをしている。というか、教室の後ろに集まって井戸端会議みたいなことをしている。いや、そういうのは、せめて廊下でやろうよ……。
「授業中は私語を慎みましょう」
当然、そんな声が教室に響いた。声の主は、副委員長だ。席を立ち、教室の後ろに集まっていた貴族女子達を睨み付けている。
「へ、平民風情が! 身分を弁えなさい!!」と貴族女子達も負けてはいない。
副委員長と貴族女子達のにらみ合いが続く……。
え? 何? この突然の修羅場? と私は、その場の成り行きを見守る。ガン付け合戦は、均衡しているように見えるが、副委員長の方が若干優勢だ。
『それは当然よね! 目力が違うのよ! 先ほど、副委員長のまつ毛をあげたばっかり!! 私のコスメティック・パワーを見くびらないで欲しいわ!!!』
「おっ、憶えてなさいよ!!!」と言って、温和しく席に着き始める貴族女子。
「先生、失礼しました。授業を再開してください」と威風堂々と宣言する副委員長。どうやら、まつ毛をあげたことによって自分自身への自信も得ることが出来たようだ。
私は事の成り行きを見ていて思う。フッ。私のコスメによって、流し目美少女から目力美女にランクアップしたようね。さすが、スーパー・コスメティシャン・道家翔子! 私のコスメティック・テクニックにかかれば、目力アップで、スッピン美女のガン付けになんて負けないわっ!
さすがわ私、M・U・Aね。高級な化粧品を使わなくても、綺麗になれる。手頃な価格で、至上の美を。それが私の動画サイトの売りなのよ。今回は、白湯を買ったたったの0.1銅貨で美しくなれる!!! オホホホホ』
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次の日の放課後だった。副委員長が誰もいなくなった教室で私に話しかけてきた。
「あの、昨日のやつ、またしていただけませんか?」と副委員長は言った。
「またコスメして欲しいね?」と私は問い返す。
「はい」と恥ずかしそうに答える副委員長。
『まぁ、一日たったら戻ってしまうわね。ビューラーがあるのだったら、もっと手軽に出来るのだろうけど……』
「お願いです。ローズマリー様が、いや、ローゼですね……。あの時、ローゼがやってくれた…… あの、ちょっぴり熱くて、くすぐったいアレを! 昨日してくださったことが忘れられないんです! あの時の私、とっても幸せでした! アレをもう1度して欲しいんです。もう、アレなしの自分なんて考えられません」と、目に涙を浮かべて訴えてくる副委員長。
どうやら、私の化粧技術によって、美の虜となってしまったようだ……・
「わかったわ。明日、いつもより早く教室にいらっしゃい」
「ありがとうございます」とお礼を言って教室から出て行く副委員長。そういえば、結局、彼女の名前はなんだったのかしら??
しかし、どうやら、この世界でも、M・U・A、凄腕メイク・アップ・アーティスト、道家翔子の実力が認められたようね。そして、この世界でも、化粧の需要があることが分かったわ!
これは、本格的に、この世界をコスメティック・ワールドにする必要がありそうね。オホホホホホ!!
次回予告:
転生した世界でも化粧の需要があると分かった道家翔子は、本格的に化粧を行うための道具・材料作りに乗り出す。そんな時、弟であるレオの悩みを知る。「え? 大人になりたいの? それならお姉様に任せなさい!」と威勢良く答えるローズマリー。化粧の歴史が、また1ページ……。