プロローグ 十二回目の告白
「ケイゴー。今日ずっと腰が痛いよ。なんかの状態異常かなぁ」
「さっき食べた空創獣の肉、火が通ってなかったんじゃないか? まずい、おいスバル、ゴブリンそっちに行ったぞ!」
スバルは腰のズキズキとした痛みに耐えつつ、視線を上げる。彼方からはゴブリンと呼ばれる醜い子鬼がこちらに向かってきている。
「スバル姫ッ! 敵が来てますぞッ!」
今日初めて知り合い、パーティを組んだ恰幅の良い召喚師が注意を呼びかけてくる。初対面から『姫』呼ばわりで少し鬱陶しいが、そこを除けば概ねいい性格の男性だった。
「なんでケイゴの方へ行かずにこっちへ来るかなぁ」
スバルは予定外の事にイライラしながら、手にしていた大鎌を構える。どうせなら覚えたてのスキルを試してみよう。そう思いつき、スキル名を唱える。
「〈摩擦凶刃〉!」
スバルが手にした大鎌の刃が小刻みに振動し始める。ギギギギギギ――大鎌の刃と柄の接合部品が、暴れる刃を繋ぎとめようと、高く耳障りな悲鳴を上げる。スバルは向かってくる子鬼を向かい打つために大鎌を構えた。
「ゴブゴブーッ!」
子鬼は跳ね、棍棒をスバルめがけて振り下ろす。すかさずスバルは大鎌の刃で攻撃を遮る。攻撃が勢い良く大鎌に当たると、ズルリと棍棒が斬れた。棍棒の切断面はノコギリで切断した後のようにささくれ立ち、熱を帯びている。超高速振動による摩擦が、庸劣な刃を恐るべき斬れ味に変えていた。
「ゴブ!?」
切れ味に驚き、着地するゴブリン。その隙にスバルは大鎌を横に薙ぐ。ギュリイイ。ゴブリンの身体は上半身がずり落ち、支えるべき上半身を無くした下半身が遅れて倒れた。スバルが敵の死体を見やると、切断面はモザイクがかったようにぼやけて見えない。しかし、少し浴びた返り血はほのかに暖かく、ここがゲームの世界ではなく、現実かのように錯覚させた。
「うわっ気持ち悪いなぁ。このゲーム、もっと年齢制限引き上げたほうがいいよ」
「スバル! わるい、無事だったか? お前、LPとか言うの、もう少なかったろう? 当たってたら死んでたぞ」
前衛で敵を引きつけていた護衛士のケイゴが走って駆けつける。その顔は堀が深く、力強い切れ長の目をしていた。背は高く、細身ながら筋肉質な体躯を鎧が覆っている。誰が見ても眉目秀麗と評される好青年だった。その幼馴染であるスバルは対照的に身体が小さい。肩まで伸びた髪は黒く艶やかな輝きを放ち、小さい顔にはつぶらな瞳、小ぶりな唇はぷっくりとして柔らかそうだった。黒いブラウスの上に胴衣を腰の部分で絞ることで、魅惑的なくびれをより一層引き立たせており、スカートとニーソックスから覗く脚は白く眩しい。そんな絵になる二人が気兼ねなく会話する様子を、同じパーティの召喚師はじっと見つめている。
「へーきへーき。死んでも最寄りの転移門で復活出来るじゃん」
「そうだけどさ、なんか、気味が悪いじゃないか。目の前が真っ暗になる感覚、俺はあまり感じたくない」
「珍しいね。ケイゴがそんな怖がるなんて。ゲームをやり慣れてないからじゃないかな? 大丈夫だって。怖がらずに気楽にやろうよ」
「……そうだな」
不意に召喚師が話しかける。
「あの、もしもし。お二人はやっぱり、付き合っているのでござるか?」
「ああ、もちろんそうだ」
「ちょっとケイゴ! 何さらりと嘘ついてんだよ! あのですね、僕はこんな奴と付き合ってませんから!」
「え、そうなんでありますか? では、拙者にもチャンスはあるとみた!」
「チャンス?」
「スバル姫ッ! 拙者とッ! お付き合いしてくだされッッッ!!」
召喚師の唐突な交際の申し込みに空気が凍る。ケイゴは手で顔を覆い、漏れ出そうな笑いをこらえた。
「……あのさぁ」
「はっ、ひゃい!」
「キミとパーティを組む時、言ったよね?」
「……何をでござるか?」
「僕は、最初に、何度も、何度も! 僕は男だって言ってるだろぉおおお!
ゲーム内で男から告白されて十二回目。スバルはその侮辱に怒り、今日も吠える。