バットエンド?
壁に据え付けられた時計を見ると、もう5時を過ぎていた。
窓から外を覗くと、既に空は白み始めている。
「結局、完成しなかったな」
自嘲めいた言葉が口から漏れた。
目の前には真っ白な原稿用紙。
原稿用紙に書かれるべきだった物は、物語の結末。
作家である僕は、知り合いの伝で、とあるドラマの小説を執筆していた。
他人の書いた物を、さらに自分で手を通すと言う事は、自分ひとりで物語を書く以上に緊張感があり、同時に、多くの人と作品を作り上げる事には喜びがあった。
苦戦しつつもなんとか予定から大幅に遅れずに進み、今、ラストシーンの執筆に取り掛かっている。
だが、そこで躓いた。
「これ、本当にいいのかな」
躓いたのは、この物語の結末。
主人公とヒロインが紆余曲折を経て、越えるべき壁を越えたところ。しかし、主人公は今まで苦境を乗り越えてきた事で無理がたたり、体は既にボロボロであり、倒れてしまう。
そう、この物語は主人公の死をもって完結を迎える。
それが、どうしても受け入れがたく、手が進まなかった。
数時間後には、締め切りが迫っている。
焦る僕は、いっそのことこのまま未完で出してしまおうとも考えた。
だが、それこそ間違いであると思う。
物語の中で主人公達は苦労し、この結末を選んだ、それを書き手である僕のエゴで未完にしてはならない。
その考えに至った時、一つの線に繋がった。
そうだ、この物語は僕ひとりで書いている訳ではない。多くの人が関わり、僕と同じ疑問を持った事だろう。それでも、この結末を選んだ。
それと同時に、主人公達は、こうなる事も予想した上で苦難の道を選んだ。
それを僕の手で変える事は、傲慢なのだろう。
だから、僕はこの物語を変えるのではなく、新しく付け加えることにした。
最愛の人を失ったヒロインが、それでも前に進む覚悟。その描写を書き加える事にした。
そう決めて、書き始めてたら、筆はスラスラと進んだ。
そして、最後のシーンを書き上げた直後、後ろから声がした。
「よ、頑張ってるね」
「え、ええ」
気づけば、同僚が後ろに立っていた。
「いいシーンじゃないか、これならいけるね」
そう、ねぎらいの言葉をかけてくれて時、力が抜けて、僕は床にへたり込んだ。