第9話 Who are you?
Obsidianのライブから数日が経った。
真樹と翔は仕事。有希は高校に、日向は大学へと出かけている。
医大生であるという昌だけが、家に残っていた。
正確に言えば、管理人である萌奈美も居る。
そんな中、昌は、自分の疑問を解決すべく、萌奈美の部屋の扉を叩いた。
「どうぞ」
短く聞こえた返事に、昌は扉を開く。
「どうかされましたか?」
画面に顔を向けたまま、萌奈美が尋ねる。
「ああ、お前に確かめたいことがある。」
扉のところで立ち尽くしている昌に、萌奈美が視線を向ける。
「座ってください。」
自分の手前にある椅子を指す。
「それで、確かめたいこととは何でしょう」
いつも通り、淡々と用件だけを問う。
「お前に誘導なんざ通用しねえだろうから、単刀直入に聞く。」
昌がかけている眼鏡をぐっと上げ、萌奈美を見つめる。
「お前────ミラ、だろう」
萌奈美の表情が、少し揺らぐ。
「そうですけど。よくわかりましたね」
それも一瞬。
「もう4ヶ月も顔見てんだ。変装したくらいでわからないわけがない」
昌がフッと笑う。
「変装、ねぇ……」
萌奈美がニヤッとした。いや、した気がする。
「あ?なんだ、今のほうが変装だとでも言いてえのか?」
昌が凄む。鼻で笑われたような感じがして、気に食わなかった。
「まあ、私がミラだったらなんだというのですか。バラしたいのならどうぞバラしてくださいよ。─────────『陽蘭』の元総長さん」
昌がビクッとする。
「手前ェ……どっから情報仕入れた」
萌奈美が微笑む。今日は、表情がある。
「どこからって、ここから」
愛用のPCをポンポンと叩く。
「管理人ですから、ね。皆さんのことはある程度分かりますよ」
だからと言って、と萌奈美は続ける。
「別に、それをどうこうするつもりはありませんから。」
「面白い奴だな、お前」
昌が肩の力を抜いた。陽蘭とは、何だろうか?
「お前じゃありません、萌奈美です。昌さん?」
挑発するように萌奈美が言う。
「わかった、萌奈美」
さん付けとかやめろよ、昌が足を組む。
「おま、萌奈美さ、何でいつもと性格違うんだよ」
「何でって、面倒だから?」
萌奈美が首を傾げる。
「昌には自分作ってもバレるみたいだし、諦めた」
悪戯っ子のように萌奈美が笑う。
「知ってたか?日向と翔の奴、Obsidian?のファンらしいぞ」
それを聞いて、萌奈美が困ったといった顔をする。
「そりゃあ、バレたらまずいな。黙っといてくれ」
口の悪い奴だ、と昌が思う。
「お前次第、だな」
「は?」
萌奈美が眉間に皺を寄せる。
「俺の前では性格作るなよ。」
条件だ、と付け足す。
萌奈美がああ、と言う。
────────人間らしいところもあるんじゃねえか。
何だか満足したような気分に陥り、昌は自室へ戻った。
「こんなところに、後輩がいるなんてな…」
作られた黒髪の彼女の呟きは、聞こえない。
2人の過去が繋がっていることは、まだ昌は気づかない………