第5話 トップシークレット
萌奈美と日向が出かけた次の日の朝。
日曜日であったため、住人全員が揃って朝食をとっていた。
「萌奈美ちゃん、今日も美味しいよ。」
にっこり微笑んで翔が褒める。
「それはどうも。」
萌奈美が越してきてから、食事は萌奈美が担当している。
彼女の様々なことへの無関心ぶりから、食事も簡単なものではないかと思っていた皆の予想は外れていた。
もし、神谷荘の住人以外が萌奈美の作る料理をレストランで出されても、プロの作る料理だと思うであろう。
────────────────────ピンポーン
来客を知らせるチャイムが鳴る。
「あ、いいよ。僕が出る。」
立ち上がった萌奈美を制し、翔が玄関へと向かった。
「はい。」
ドアを開いた先には、一人の男。
落ち着いた服装をしていて、全体的に知性が滲み出ている。
「すみません、神谷萌奈美、います?」
「萌奈美ちゃん、お客さんだよ。」
翔は、萌奈美の知り合いであるわかり、リビングまで男を誘導してきた。
「誰ですか?」
萌奈美が顔をあげ、男を見る。
「モナミ、きちゃった。」
「えっ?遼?なんでいんの?」
ニカっと笑う男──────────遼。
口を開け、驚いた萌奈美。
萌奈美驚くという反応と、砕けた言葉に驚いている住人達。
「萌奈美、知り合い?」
真樹が聞く。
「そうだよ。俺はモナミのパートナー。」
答えたのは遼だった。
「てか、モナミンがいつものモナミンじゃない……。」
それもそのはず。無表情で何事にも無関心な機械みたいな萌奈美が、人間らしい反応をしているのだ。
「パートナーって?仕事とか?」
続けて有希が聞いた。
「ああ、まふぃ…ウグッ!」
萌奈美が遼の口を塞ぎ、
「トップシークレット…」
囁く。
萌奈美の殺気に、遼がガクガク頷く。
「し、仕事上のパートナーだよ。私生活でのパートナーでもあるけどね?」
落ち着きを取り戻した遼が、そう言って後ろから萌奈美を抱きしめる。
「遼、あたしにフラれたのによくそう言うこといえるよね。」
怒った口調で言う萌奈美は、とても可愛らしく見えた。
「萌奈美じゃねえ……」
昌までもが目を点にしている。
「フったとか言うなよぉ。俺、モナミじゃなきゃやだもん。」
遼と萌奈美が2人の世界に入ってじゃれ始める。
「あ、皆さん。今日、ちょっとモナミ借りてくんで。」
ふと、遼が住人達の方を向いた。
「モナミ、仕事だ。」
「ん。着替えてくる。」
着替え終わり、2階から降りてきた萌奈美は、いつもの服装に黒いコートを着ていた。
コートについたフードを被っているため、顔は見られなかった。
「行ってきます。」
ペコっと頭を下げて出て行った萌奈美を、住人達は呆然と見送った。
この日、萌奈美は神谷荘へ帰って来なかった。