第4話 一緒に出かけよう
──────────ある週末。
「モナミーン、起きてる?」
管理人部屋とか書かれた戸を叩く、日向の姿がある。
「何か?」
眠そうにドアを開き、管理人が顔をひょこっと出す。
「あれ?もしかして起こしちゃった?」
現在、午前10時。7月の太陽が、ジリジリと地面を焼き付ける。
「…仕事をしていたので。仮眠は取ってありますから。」
「そっか!じゃあさ、今日、俺とデートしようよ!」
萌奈美が真っ青になる。次の瞬間。
バタン!勢いよく、萌奈美が扉を閉ざす。こんなにも反応を示すのは珍しい。
「モナミーン?デートは嫌だったかな?それじゃあ、買物にいくだけだから。今日だけ付き合ってよー。」
諦めずに戸を叩く日向。
ゆっくりと戸が開く。
「今日だけ…ですよ。」
────────────────────15分後
「お待たせしました。」
玄関で待っていた日向のところに、準備を終えた萌奈美がやってくる。
「じゃあ、行こっか…って、え?モナミ…ン?」
日向の口があんぐり開いている。
その視線が捉えるのは、神谷萌奈美。
「どうかされましたか?」
いつもと変わらない彼女の表情。
「いや、その格好……。」
いつもと変わった彼女の服装。
いつも、黒いタートルネックの長袖に黒いスラックスというスタイルをキープしている彼女の服装が、フリルのついたタンクトップにカーディガン。そりて、丈の短いクリーム色のスカートへと変わっていた。
「ああ。この前、おじ様に押し付けられたんです。一回で良いから着ろとうるさいので。……変でしたか?」
日向が、萌奈美に問いかけられてやっと動く。
「いやいやいや!すっごく似合ってる。よし!行こっか。」
赤面した日向が、神谷荘の扉を開く。
「……紫田さん。どうして私なんかを誘ったんですか?」
目的地までの沈黙を先に破ったのは、萌奈美だった。
キョトンとする日向。
「モナミンが他人に興味持つなんて、珍しいね。なんか、嬉しいや。」
そういって、恥ずかしそうに頭をかく。
「あ!でも、その《紫田さん》はやめて?日向でいいから。敬語もだーめ。」
コクンと萌奈美が頷く。
「もう一度聞くけど、日向は、何で私なんかを誘ったの?」
「んー。だって、モナミンとデートしたかったんだもん。」
そういって、悪戯っ子のように笑う。
「それに、私なんかなんて言わないで?俺はモナミンだから誘ったの!」
ビシッと萌奈美に人差し指を向ける。
不思議そうな萌奈美。表情は変わらないが、雰囲気がふわっと動いた。
「でも、その服装が見れただけで満足しちゃった。欲を言えば、眼鏡も外して欲しいけどね。」
日向が、萌奈美の眼鏡に向かって手をのばす。
「嫌!」
萌奈美が日向の手を払った。珍しく、感情が表に出る。
「あ、ごめん…。眼鏡、取りたくなかった?」
青白い顔をして頷く萌奈美に、申し訳なさそうに日向が言う。
朝、デートと言った時と同じ様な反応だった。
「モナミンさ、デートとか、眼鏡外すとか、なんでそんなに嫌がるの?」
気になったのか、日向が萌奈美の顔を覗き込んで聞いた。
「怒られるから…。」
「怒られるって、誰に?」
日向の頭上には、たくさんの疑問符が飛ぶ。
一つだけ感じ取ったのは、恐らく、その相手が男であると言うこと。
「こ…パートナーに。」
こ、と言いかけ、言葉を変える。
「パートナー?恋人じゃなくて?」
何がそんなに気になるのか、日向の追求は止まらない。
「う…ん。多分。でも、私にとって一番必要な人。眼鏡は俺以外の前では取るなって。」
少し表情に変化があり、彼女が相手をどれだけ大切に思っているかが痛いほど伝わってきた。
日向は、その相手と萌奈美が恋愛関係ではなくても、互いに恋愛感情を抱いているのだろうと思い、なんだか胸の辺りにもやがかかった様な感覚に陥った。
────────────────────独占欲の強い奴なんだな。
その日、日向が買物に集中出来なかったのは言うまでもない。